『緑の乙女亭』の主人は、絵にかけより、のぞきこんだ。
以前スケッチした絵とは違う、新しい絵だった。
絵の中のエームは、暗い色をした壁を背景にして、
椅子に座ってた。
表情は冷たく、つんとしている。
しかし、まっすぐ正面を見つめる茶色い目には、
にじみ出てくるような優しさがあった。
見つめていると、その目の優しさが胸に染み込んでくる。
(そうだ。確かにそうだ。
エームは時々こんな表情をする事がある。
しかし、なんて綺麗なんだろう。女王様みたいだ)
うっとりと絵を見つめる『緑の乙女亭』の主人の後ろには、
なんとか絵を見ようと首をのばした客たち押し寄せていた。
イチはいつの間にかその人の塊からはじき出されていた。
絵筆を持ったまま、所在なさげに立っていると、
「イチ」
エームが側にやってきて、イチの腕をそっとつかんだ。
←前のページ 目次 登場人物 次のページ→