3月のライオン　前編／後編

英題：March comes in like a lion(前編)／March goes out like a lamb(後編)
監督：大友啓史
ｷｬｽﾄ：神木隆之介／有村架純／倉科カナ
配給：東宝／アスミック・エース
公開：2017年3月(前編)／2017年4月(後編)
時間：139分(前編)／140分(後編)

【くた★むび】について

2016年に史上最年少となる14歳２ヶ月でプロ入りを果たすと，あれよあれよという間に勝ち進み，昨年秋にはついに史上初の八冠独占という偉業を成し遂げた藤井聡太。そんな藤井くんの登場を予見したかのような，人気漫画家・羽海野チカの『3月のライオン』の実写作品を今夜は紹介。前編・後編とそれぞれ２時間以上の大作は，中１ヶ月で公開された。監督は『るろうに剣心』シリーズの大友啓史。将棋という厳しい勝負の世界に身を置く若き天才プロ棋士を主人公に，偶然の出会いから始まった下町の３姉妹家族との温かな交流の行方が綴られる。

東京の下町でひとり暮らしをしている17歳の青年・桐山零（神木隆之介）。９歳の時に交通事故で家族を亡くし，父の友人であるプロ棋士・幸田柾近（豊川悦司）に引き取られた彼は，将棋しか生きる術はないと強い覚悟で勉強を重ね，史上５人目の中学生棋士としてプロデビューを果たす。しかし，一緒にプロを目指していた幸田の実の娘・香子（有村架純）は，実力の世界の厳しい現実を突きつけられ，親子の関係にも暗い影を落としてしまう。責任を感じた零は幸田家を出て，下町にアパートを借り，１年遅れで高校にも通い始めた。

そんなある日，酔って道端に倒れていた零は，近くに住む川本あかり（倉科カナ）に助けられ，彼女の自宅で介抱される。以来，面倒見のいい長女あかり，頑張り屋の次女ひなた（清原果耶），天真爛漫な末っ子モモ（新津ちせ）の川本３姉妹との思いがけない交流が始まる。

それから１年。再び始まる獅子王戦トーナメント。しかし，零の育ての親で師匠の幸田は，引きこもりの息子・歩（萩原利久）にケガをさせられ緊急入院。香子も未だにA級棋士・後藤（伊藤英明）との関係を終わらせることができず，幸田家は崩壊寸前。一方，川本家ではひなたが学校でいじめのターゲットになってしまう。追い打ちをかけるように，別の女を作って家を出て行った父親が突然現われ，悪びれる様子もなく耳を疑う要求をし，３姉妹を大きく揺さぶり始めるのだったが…。

前編・後編の英題は，
March comes in like a lion and goes out like a lamb.
「3月はライオンのようにやってきて、子羊のように去る」
というイギリスの天気の諺から。将棋の世界では順位戦が6月に始まり，昇級・降級を賭けた最終局が3月に行われるため，棋士が3月にライオンとなるという。

棋士の物語とはいっても，将棋盤の上の攻防よりむしろ，棋士たちの鬼気迫る勝負や神経戦が，見る者まで緊張感で呑み込む辺りが，さすが大友監督。前編ではそんな雰囲気を和らげる川本姉妹だが，後編では彼女たちもまた，戦わざるをえない展開となり，作品全体の空気が張りつめていく。

この構成と，穏やかさと凛とした風景とを行き来する映像のコントラストがまた素晴らしい。将棋のルールなんて判らなくても，その世界に浸り，ストーリーに没入できる秀作だ。

共演は他に，染谷将太，佐々木蔵之介，中村倫也など。