ももへの手紙 | p・rhyth・m~映画を語る~

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監督:沖浦啓之
キャスト:美山加恋/優香/西田敏行
配給:角川映画
公開:2012年4月
時間:120分




今夜は,瀬戸内の小さな島“汐島”の港町を舞台に,小学6年生の少女が妖怪たちとの奇妙な交流を通して成長するハートフルファンタジーアニメ『ももへの手紙』を紹介。監督は『人狼 JIN-ROH』(2000年・バンダイ)の沖浦啓之監督。自身のルーツである瀬戸内海を描きたいという思いから生まれた作品という。

“汐島”は架空の島で,モデルとされるのは瀬戸内海の大崎下島(広島県呉市)。特に御手洗地区の風景が多く取り入れられている。『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『思い出のマーニー』『君の名は。~your name.~』で作画監督を務めた安藤雅司を迎え,美しさと厳しさを併せ持つ瀬戸内の海と,見る者の心の“懐かしさ”にリンクさせる港町を背景に,ハートウォーミングな物語が綴られていく。

11歳の内気な女の子・宮浦もも(美山加恋)は,母・いく子(優香)に連れられ,東京から,いく子がかつて暮らした瀬戸内の“汐島”に移り住む。ももは,心ない言葉をぶつけたまま仲直りできずに亡くなってしまった海洋学者の父(荒川大三郎)が遺した「ももへ」とだけ記された書きかけの手紙のことが頭から離れず,父が何を伝えたかったのかばかりを考えていた。

父が急逝した現実を受け入れられず,慣れない島の生活にも馴染めず,周りの人ともなかなか打ち解けられずにいたもも。そんな彼女の元に,不思議な妖怪“見守り組”のイワ(西田敏行),カワ(山寺宏一),マメ(チョー)が現れ,半ば強引に家に居着いてしまう。食いしん坊でわがまま,でも愛嬌たっぷりの彼らに振り回されながらも,次第に打ち解けていくももだったが…。

冒頭,何だか馴染めないと思っていた画風が,ストーリーの進行とともにじんわりと沁みてくる不思議。それは,一貫したアイコンが物語に効果的に絡んでくるからだろう。空から落ちてきた水滴が“ソラ”と呼ばれる屋根裏部屋にある曾祖父の遺した“黄表紙”と呼ばれる古書『化物御用心』から抜け出し,3人の妖怪の姿になること。水滴に始まり,川への飛び込み,涙と雨宿り,暴風雨,藁舟流しと,“水”にざわめき,溶かされていくももの心。それは,海を愛し海で亡くなった父をも象徴する。

この,風情と感情と成長を連れて,見る者の心に“水”のように浸透していく和製アニメの素晴しさ。ぜひ触れてみてほしい1本だ。


映画クタ評:★★★★


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