監督:山田尚子
キャスト:入野自由/早見沙織/悠木碧
配給:松竹
公開:2016年9月
時間:129分
「声」の旧字体の「聲」という漢字は「声と手と耳」が組み合わさってできているという説があるらしい。聴こえていても伝わらないこと,聴こえなくとも伝わること。瞳や口元や指先の動きひとつが,時として言葉より繊細な心情を伝えることがある。しかしそれを意図して見せること,意識して見ることは難しい。そんなことを考えながら見たこの作品の,足先の動きだけで感情を伝えるいくつかのシーン。実写では困難と思われるその演出に,改めて日本のアニメの表現力を知り,胸を熱くした。
原作は大今良時のベストセラー・コミックス。『けいおん!』の京都アニメーション製作で,監督も同社所属の山田尚子がつとめ興収23億円,海外でも評価の高かった作品だ。
楽しいことが全ての小学6年生のガキ大将・石田将也(松岡茉優)。ある日,彼のクラスに先天性の聴覚障害を持つ少女・西宮硝子(早見沙織)が転校してくる。将也は硝子を無邪気にイジメるようになり,直花(金子有希)ら他のクラスメイトたちも追随,硝子への悪質なイジメや嫌がらせが常態化する。やがて硝子は転校を余儀なくされる一方,将也はクラスメイトたちの裏切りに遭い,イジメ問題の責任を1人で背負わされ周囲から孤立することに。
それから5年。すっかり心を閉ざしたまま高校生となった将也(入野自由)は,ある決意を胸に硝子が通う手話サークルを訪れていた。再会した硝子に手話で「友達になってほしい」と伝えてしまう将也。しかし,再び手話サークルを訪れると「硝子の彼氏」と言う結絃(悠木碧)に阻まれる。そんな時,ひょんなことから同じクラスの永束友宏(小野賢章)と友達になる将也だったが…。
大切な誰かに自分の気持ちを伝えることは,その想いがシンプルであればあるほど難しい。登場する思春期の少年少女たちの感情にリンクするほど,それが大人になっても難しいことだと思い知る。拗らせてしまう鬱屈と混乱,伝えたいと揺らめく切なさと哀しみ,届けられない焦燥。桜の花びらや川面の煌めきといった情景の美しさを背景に綴られる秀逸な群像劇だ。
クタ評:★★★★★
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