(76) 大国主の系譜-再考[2] 沼河比売の父はカンサヒである

古事記に沼河比売は八千矛神(大国主)の妻として出てきますが、その系譜については記述されていません。古事記にはその子についての記述もありませんが、一般的には建御名方の母とされています。

『出雲国風土記』では沼河比売は奴奈宜波比売命として出てきて高志国の意支都久辰為命(おきつくしい)の子の俾都久辰為命(へつくしい)の子と記され、大穴持命(大国主)との間に御穂須須美命(みほすすみ)を産んだとされています。

この意支都久辰為命、俾都久辰為命についてはよくわかっていないようですが、奴奈川神社の社伝に「高皇産霊尊の子・意支都久辰為命が高志国に降臨し、その子の俾都久辰為命(ヘツクシイ)とその子の奴奈川姫命がこの地を治めていた」とあります。

沼河比売の系譜を知るためにはこの高皇産霊尊、意支都久辰為命、俾都久辰為命が誰であるかということが問題になります。

 

ホツマツタエによると高皇産霊(タカミムスビ)は特定の個人を指すのではなく役職名ということで、豊受大神が五代タカミムスビであり、その子のヤソキネが六代タカミムスビであったとされます。
ヤソキネはシラヤマ神とも言われるように白山がある北陸地方が本拠地で、シラヒト・コクミの事件の後は根の国守ともなっています。

根の国というのは現在の北陸地方のことですので、奴奈川神社の社伝に出てくる高皇産霊尊は5代タカミムスビである豊受大神で意支都久辰為命は豊受大神の子であるヤソキネであると推定できます。
意支都久辰為命がヤソキネであるならば、その子である俾都久辰為命は神狭日(カンサヒ)であると私は考えます。

ホツマツタエではカンサヒは豊受大神の子となっていますが、"(7) カンサヒは神皇産霊尊ではない"で書いたように私説ではカンサヒはヤソキネの子です。

ホツマツタエによるとカンサヒはサホコチタル国のマスヒトです。サホコチタル国とは中国地方のことで、もともとは根の国の一部であったとのことです。

以上を系譜としてまとめると
前の記事"(76) 大国主の系譜-再考[1]"にも記述したように次のようになります。
 

 豊受大神──────ヤソキネ──────カンサヒ───────沼河比売─────┬建御名方
 (五代タカミムスビ) (六代タカミムスビ) (俾都久辰為)              │
           (意支都久辰為)                       └御穂須須美

俾都久辰為というのがカンサヒの別名であることがわかったので、次の結論を得ることができました。

 

結論

★沼河比売の父はカンサヒである

参照資料


参照資料1: 奴奈川神社の社伝

 ■奴奈川神社(糸魚川市田伏〈たぶせ〉)
 高皇産霊尊(タカミムスヒ)の子・意支都久辰為命(オキツクシイ)が高志国に降臨し,
 その子の俾都久辰為命(ヘツクシイ)とその子の奴奈川姫命がこの地を治めていたが,
 八千矛神(大国主)が来て,ともに国造りし,それが終わるや多布勢(たぶせ)の神沼山に岩隠れした。

 ■奴奈川神社 [延喜式神社の調査]
 社記二載ル趣ハ上古高皇産霊尊ノ子意支都久辰爲命高志國二天降給ヒ
 其子稗都久辰爲命其子奴奈川比売命高志國ヲ領シ給ヒシ時
 八千矛神豊葦原水穗國ヲ造リ給ハント奴奈川比売命ノ許二至リ
 共二議リテ國造リ意給ヒテ営郡沼川郷多市布勢ノ神沼山二岩隠給フ

参照資料2: ホツマツタエ/ほつまつたゑ/秀真伝 解読ガイド

 ■タカミムスビ・タカムスビ
 高皇産霊尊。
 縮めて『ミムスビ』ともいう。「ヒタカミ国を結ぶ(統べる)」という意の役職名。 

 ■トヨケ・トユケ・トヨウケ
 豊受大神。
 東の君。ホツマ君。大物忌大神。 斎名:タマキネ(タマキ)。贈り名:アサヒ神。
 イサコ(イサナミ)、ヤソキネ、カンサヒ、ツハモノヌシの父。 五代タカミムスビ。

 ■ヤソキネ
 トヨケの子。6代タカミムスビ。カンミムスビ(神皇産霊尊)。シラヤマ神。
 カンサヒ、ツハモノヌシ、イサナミの兄。

 シラヤマ姫(イサナギの妹) と結婚して、シラヒト・コクミの事件の後、根の国守となる。

 ■カンサヒ
 神狭日。 
 タマキネの子。ヤソキネの弟。ツハモノヌシの兄。
 アメオシヒの父。
 タマキネ(トヨケ) の死後、アマテル自らがサホコチタルをしばらく治めた後、
 後任として任命されたマスヒト (副マスヒトはツハモノヌシとコクミ) で、
 根の国のマスヒト・シラウドと共に西日本の統治に当たった。 
 シラウドとコクミの非道を知りながら放置しているとして、弟のツハモノヌシがタカマに告発している。
 この事件によりマスヒトを解任され、代わりに息子のアメオシヒがサホコの新マスヒトとなる。

 ■サホコチタル・ホソホコチタル・ソコチタル
 細戈千足国。
 中国地方。 =ニシナカクニ(西中国)
 アワナギにより平定・開拓される。
 もともとサホコチタル国は根国の一部であったようで、根国との区別があまり明確でない。 
 広義にはナカ国より西の本州は、みなサホコチタル国のようだ。
 宮津に政庁を置く。