桜餅そのものの元祖は、江戸(東京)の長命寺と考えられて
います。発案したのは、長命寺で門番をしていた新六という
男でした。
長命寺のある墨田川の堤には桜並木が植えられていて、桜
の名所として有名でした。ただし秋になると葉っぱがたくさん
落ちてきて、掃いても掃いても片付かず、新六にとっては悩み
の種でした。
しかし或る時、新六はその葉っぱを逆に利用する方法を、思
いついたのです。
”葉っぱを塩漬けにして餅を包めば、桜の香りと一緒に楽しめ
るのではないか”
この発案は受け入れられ、餅を桜の葉で包んで長命寺の門前
で売り出したところ、大人気となったのです。これを機に新六は
桜餅を売る「山本や」という菓子屋を創業させました。
というわけで、確かに桜餅の元祖は長命寺です。では大坂の道
明寺が元祖とする説は、どこから来たのでしょう?
実は桜餅の製造の仕方が、関西では関東と違うのです。関東の
桜餅は、小麦粉の生地を薄く伸ばして焼き、こしあんを包んでクレ
ープ状にしたものです。それに対し関西の桜餅は、粗く挽いた道
明寺粉を使ってつくった生地で、小豆あんを包んだものです。
この「道明寺粉」というのは餅米を蒸して乾燥させ、粗く挽いた保
存食でして、戦国武将も戦場での携帯食として利用していました。
これがお菓子づくりにも利用されたわけでして、長命寺の桜餅よ
りずっと古くからありました。
つまり「桜餅」という名前や桜の葉を利用するやり方は長命寺の
方が先なので元祖ですが、今ある関東の長命寺系桜餅と関西の
道明寺系の桜餅では、道明寺系の方がずっと古いので、道明寺
が元祖という見方も出来るわけです。