以前は月に1度くらい取り上げていた世界史ネタを、久しぶ
りにやろうと思います。
何かの罰として人を残酷に痛めつけることを、「リンチ」と言
いますね。かなり残酷で物騒な言葉として、広く認識されて
います。
この「リンチ」という言葉、語源は人の名前です。しかも、決
して野蛮だったり冷酷な人物では、ありません。
1770年代に湧き起こったアメリカ独立戦争の最中、米国内
の治安は乱れに乱れ、法廷の機能は停滞してしまっておりま
した。
そういう中でバージニア州のベッドフォード部では、或る治安
判事が地域の治安を守るべく、非公式の法廷を主催していま
した。その治安判事の名は、チャールズ・リンチ。
リンチの裁判は、常に公正さを守っていました。そして1件だ
け死刑判決を下していますが、それは国家を揺るがすほどの
重罪だったため、当時としては当たり前とされる判決です。
それ以外ではむしろ刑は軽減され、重罪でも鞭打ち刑程度だ
ったそうです。非公式な法廷とはいえ、リンチは良心的な判決
を下し続け、治安維持にもかなり貢献しています。
そんなリンチの名前が何故、暴力的制裁を意味する物騒な語
源になったのか?それは彼の行なった「非公式法廷」の部分が
主に取り上げられてしまったからです。
私的制裁、即ち「私刑」のことを「リンチ」というようになり、やが
て彼の良心的な部分が忘れ去られるようになり、しかも意味合
いがどんどん野蛮で物騒にエスカレートしていったのです。今で
はこの語源が人の名前であることも、知る人は少なくなっていま
す。