加藤清正が、現在の熊本である肥後の国の領主に命ぜられた
直後のことです。
彼が国に入ると、突然襲ってきた男が、おりました。部下が押さ
え込みます。清正が名前を問うと、国右衛門とだけ名乗りました。
国右衛門は、前の領主に仕えていた者で、清正のためにその領
主が滅ぼされたと思い込み、恨んで襲ったようです。
清正は、その場で国右衛門を討つこともできたのですが、逆に「お
前は心臓に毛の生えた勇者だ」と褒め称え、部下になるように命
じます。
しかし国右衛門は納得せず、清正に懇願しました。
「そんなことはできません。私はすでに、死んだ身です。このまま首
をおはねください」
すると清正は、声を荒げました。
「すでに死んだ身と言ったな。二度も死ぬというのか。ならばそれは
勇者ではない。ただの臆病者ではないか!」
この台詞が、国右衛門には効いたようでした。見ると、声を荒げた
加藤清正の目が、笑っていたそうです。国右衛門は、思わず「ハッ」
とひれ伏しました。清正はその国右衛門に、「俺の刀を持て」と言っ
て、刀を差し出し、供を命じます。
この国右衛門、清正の忠実な部下となったそうです。
「二度も死のうとするのは、臆病だ」
つまり、一度死んで生まれ変わっているのだから、気持ちを切り替え
て新たな人生を送れ。わかりやすく言えば、そういうことでしょう。マイ
ナスの気持ちを引きずることが臆病というのは、今の世の中には更に
参考になるかもしれません。