君がいる幸せ。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 最近よく見かけるな、あの子…。昔からよく通った喫茶アルカードは今でも僕の行きつけで、少し時間が空いた時やちょっと一息つきたいときに良く立ち寄る。そのアルカードに、少し前から新たな常連客が加わったようだ。
 ほかにも常連客はたくさんいる。けれどその子が特に気になったのには理由があった。一つ目は、初めて来店したらしき日にちょうど僕が居合わせたこと。物珍しそうに店内をキョロキョロ見回していたから自然と目に留まったんだ。
 そして二つ目は、その初めての来店の日にその子は見知らぬ男に声を掛けられていたこと。知らない人間にいきなり声をかけられて、とても警戒した様子がまるで毛を逆立てた猫のようだった。
 そして、最後の理由が多分一番重要な理由。その子はまだ高校生くらいだろうか、サラサラのボブヘアーに大きな目が印象的な、目立つ風貌ではないけれど惹きつけられる、愛らしい印象だったから。そう、まるで――。
(ああ、やっぱり出会った頃の彼女に似ている)
 最初は年恰好や髪型が似ていたから気になって。でも、ちょっとしたしぐさや醸し出す雰囲気が見れば見るほど似ているような気がしてきて。何となく気になって、こっそり観察するようになっていた。
 その子は、いつも一人でやってきてコーヒーを頼む。そして雑誌をぱらぱらとめくりながらゆっくりと過ごすことが多い。けど、時折顔を上げて店内を見回すのは誰かを探しているのか。辺りを見回しては小さくため息をついて、また雑誌に目を落とす。まるで、誰かを探しているみたいな。
 誰を探しているのか、いつか機会があったら聞いてみたい。以前の僕なら、迷わずこの時点で声をかけていたと思う。けれど今はそれをしない。なぜなら――。
「お待たせ、太郎君」
 あの子の観察に夢中になっていたのか、君が店内に入ってきたのに気付いていなかった。あのころに比べてすっかり伸びたサラサラの髪はぼくらが共に過ごした年月を物語る。派手ではないけれどシンプルにまとめられたファッションは君そのものだ。目立つ訳ではないのに、なぜか惹きつけられる。
「ずいぶん待たせちゃった…?」
「いや、少し早めについたんだ。君が気にすることは無いよ」
 そう言ってカップの中に残っていたコーヒーを飲み干す。
「さあ、行こうか」

 今日のデートは君が見たがっていた映画を見て、少しばかり高級なストランで夕食。君と同じ時間を共有するようになって、もう随分と経つ。一緒に暮らしているけれど、時々外で待ち合わせをするのはいつまでも恋人気分を味わっていたいから。これからの時間を共に生きようと決めたときに、二人でそう決めた。
 あの頃、僕は酷い男でいつも君には不安そうな顔ばかりさせて。でも、君のおかげで本当に大切なものに気付けたから、君にはいつも笑っていてほしい。休日には時々二人で出かけて、映画を見たりコンサートへ行ったり、公園で散歩したり時には美味しいものを食べたり。君が楽しそうに笑ってくれることが、僕にとっても幸福なことだから。
 けれど今日の君は何故か少しご機嫌斜めな様子。アルカードを出たあたりから口数も少なく、映画を見ていてもどこか上の空。
「映画、つまらなかった?」
 君の様子が気になって、食事中にそう尋ねると君はふるふると首を振った。
「じゃあ、何かあった?」
 すると君は、なぜか拗ねたように口を少し尖らせた。そしてしぶしぶといった風に不機嫌の理由を話し出した。どうやら君は、僕がアルカードであの子の観察をしていたのを面白くなく思ったご様子で。僕は思わず噴き出した。
「ひどい!なんで笑うの!?」
「ごめん、だって…」
 あの子の観察をするようになったのは、出会った頃の君に似ていたからなのに。僕の中にはこんなにも君で溢れているのに。
 なかなか笑いの治まらない僕に、君はますます頬を膨らませて。それが可笑しくて、可愛らしくて。ようやく笑いが収まった頃には、君はすっかりむくれてしまっていた。
「――で、妬いてたって訳だ?」
「ちがっ…」
「ふふ、嬉しいな」
 そう言って僕が微笑を浮かべると、君は怪訝そうに小首をかしげた。
「だって、そうして妬いてくれているってことは、僕のことが好きってことだろ?」
「もう、だから違うって…」
「それに、そうやって怒っている顔も可愛いし」
「……もう!太郎君、ズルい!!」
 一瞬間を開けて、首筋までみるみる真っ赤になった君が怒ったような困ったような複雑な表情を浮かべて僕を睨む。
「ズルい?どうして?」
「だって…そんな風に言われたら、もう怒っていられないでしょ!」
 そう言って口をとがらせた君はやっぱり可愛らしくて。食事が終わるまでクスクスと笑いが収まらない僕に、君はすっかりへそを曲げてしまった。


 ねえ、君は知っている?僕が君に出会って、どれだけたくさんのことを教えてもらったか。どれだけ大切なことに気付かせてもらったか。そして今、どれほど幸せなのかを。


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5月30日は真嶋太郎くんのお誕生日。

と言うことで、いつものごとくお誕生日風ではないけれどお誕生日SS…のつもりでw

お誕生日おめでとうございまっすヾ(@°▽°@)ノ