ある穏やかな午後の事。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 今までルカと二人暮らしの男所帯だったから、そういうことは無縁で生活してきたんだ。けど、高校を卒業して――ルカの勧めで、アイツも一緒にここで生活するようになって…。まあ、色々と今まで通りって訳には行かねぇことは重々分かってた。
 第一、俺たちの関係が以前とは変わっちまってる。それは悪い事じゃねぇ。あのフラフラしたバカは多少はマトモになる気になったみてぇでバイトの傍らに受験勉強なんてものをしているらしい。
「なんかさ…面白い先生、見つけたんだよね。俺、あの人のところで色々とベンキョーしてみたいって思ってさ」
 卒業するまで進学したいなんざ一言も言わなかったくせに、今さら何を言い出しやがるとは思ったが、珍しくマジにやる気になってるみてぇだから黙っておくことにした。

 その『異変』に気が付いたのは、休日の昼下がり。バイトと実家の土建業の手伝いで平日は何かと忙しく、掃除だの洗濯だのしてる暇はねぇ。アイツが一緒に暮らすようになってからは、何かとこまめに手伝ってくれてはいるが、アイツも大学にバイトに…と何かと忙しい。結局は休みの日にまとめてやっちまうかってことになる。
「さて、と…。次は…」
 台所のシンクを拭きあげて、ついでに水回りを片付けちまおうかと思い立つ。バケツにトイレ掃除用洗剤と柄付のブラシ、ゴム手袋等々の掃除セットを放り込む。そしてがちゃり、とそこのドアを開けて…そいつに気が付いたんだ。
 アイツがここで生活するようになって、こまごまとしたものが増えた。人一人増えたんだ、しかもそれが女となりゃ色んなものが増えるのも当然だろう。ソレも、そんなこまごましたものの一つだった。どういった用途で置かれたものかは何となく知っていた。けど、まあ大して邪魔になるものでもないし、アイツにとって必要なものだからと気にも留めていなかった。
 狭い個室の便器の横に、遠慮するように置かれたその小さな蓋付きの箱。そいつに、昨日までかかってなかったビニール袋がかけられている。それはつまり、ゴミ箱にスーパーの袋をひっかけておいてゴミの日になったら簡単に捨てられるという寸法のもので、そうするにアイツがその箱をそういう風に使う必要が出てきた、と言うことで…。




 昨日は少し遅くまで頑張ったから、昼飯食ったら眠たくなった。天気はいいし、窓からはそよそよといい風が入ってくる。バイトまでは時間がある、少し眠っておくかとベッドにもぐりこんでうつらうつらとし始めたときだった。
 どすどすと階段を駆け上がってくる足音。あんな足音を立てるのはこの家には一人しかいない。さっきまで鼻歌交じりで掃除しまくってたくせに、コウのヤツ、何をそんなに慌ててるんだろう。寝ぼけた頭でぼんやりと考えていたら、いきなり布団をひっぺ剥がされた。
「ル、ルカ!」
 いつもならここで続くことは、こんないい天気の休みの日にいつまで寝てんだとか、オマエもちっとは手伝えとか、そういうお小言。でも今日は何だかコウの様子がおかしい。顔が怖いのはいつものことだけど、何つーか…テンパってる?みたいな感じ。いまいち話の要領が分からなくて何でテンパってるのかは分かんないけど、コウをこんな風にテンパらせる原因なら何となく分かる。アイツに関わることだ。
「で、何?どうしたの」
「あー…だから、よ…」
 慌てふためくコウっていう構図は珍しいから面白い。ベッドの上に胡坐をかいて観察していると、コウは困ったような顔になってぼそりと言った。
「きちまったんだよ…」
「何が?」
「だ、だから」
 もにょもにょと煮え切らない様子でコウがつぶやく。何度か聞き返して、ようやく聞き取れたソレは。
「生理?…コウに?」
 へえ、それはおめでとう。今夜は赤飯炊かなきゃね、と言うとゲンコツが飛んできた。
「俺の訳がないだろが!」
「…ってぇ、すぐに殴るんだから」
 ぶつぶつ言いながら頭をさする。
「つーか、あの子に生理が来たってこと?で、なんでコウがそんなに慌ててんの?」
「な、なんでって…」
「こないって慌ててんなら分かるけどさ。ちゃんと来てるなら問題ないじゃん」
 言い放った言葉にコウが固まる。
「あれ、俺、なんか変なこと言った?」
 だってもう二人は付き合いだして1か月以上経ってるし、なんつっても一つ屋根の下で暮らしてる(俺もいるけど)。することしてんじゃないの、と言ったらまた殴られそうだから言わないけど。するとコウは、アイツが今日は朝から調子が悪そうだとか、今も寝てるからどっか悪いんじゃないかとか、そんなことをブツブツと言う。顔の割に心配性だからなぁ、とこれまた声には出さずに内心呟く俺。
「それはほら、生理痛ってヤツだろ?ヒドイ子は大変って言うだろ?さっき痛み止め飲んでたし、すぐに治まるだろ」
「…おい、ルカ」
「ん?」
「何でテメェがそんなこと知ってんだよ」
 あ、ヤバい。コウの目つきがちょっと狂暴になってる。あの子のことになるとホント見境なくなるから困る。
「さっき本人に聞かれた。『痛み止め無い?』て。だから知ってるだけ」
 コウの顔が不機嫌になる。なんで俺に聞かないでルカにって顔だ。
「あのさ、コウ。コウにそう聞いたら、コウが心配するだろ?だからあの子、俺に聞いたんだ。コウに余計な心配かけたくないって」
「……」
「コウがあの子のこと大事に想ってるのは分かるけどさ、ちょっと過保護すぎ。だいたい…」
 ただでさえ見かけによらずオクテなコウが『生理』なんてオンナノコ特有の現象に詳しいわけもなく、そんな話題に強いわけでもない。いちいち赤くなったり青くなったり、要するにいつもと勝手が違ってオタオタしてる様が可笑しくてからかってやろうと畳み掛けてやったら、けっこうな攻撃力があったらしい。5分も持たず、もういいとか分かったとか言いながらフラフラと3階へと上がって行った。
「やれやれ、手間のかかるお兄ちゃんだ」
 チラリと時計を見ると、もう結構いい時間。バイト行く用意しないと。



 階段を上がると、ベッドの上ですやすやと寝息を立てるオマエの姿が目に入った。足音を立てないようにそっと近づく。布団の中で体が温まっているせいか、頬がほんのりピンク色に染まっている。滑らかなその頬にそっと触れると、オマエがゆっくりと目を開けた。
「あ…、コウくん」
 寝ぼけ眼でにへっと笑う。
「体、平気か?」
「うん、薬が効いてきたみたいでだいぶ…」
 と、言いかけて、なんでと言った風な顔になる。
「悪ぃ、ルカのバカに聞いた」
「う…。恥ずかしいなぁ、もう…」
 布団を引き上げて隠れようとするオマエに、ちょっと複雑な心境になった。ルカに知られるのは良くて、俺に知られるのは嫌ってことか?
「じゃ、なくて。コウくん心配するでしょ、絶対に。だから」
 俺の胸の内を読んだのか、オマエが布団から目だけ出してこちらを見上げた。そういやルカにも過保護過ぎだと怒られたなと苦笑する。
「そりゃ心配もするさ。俺は…ほら、バカだからよ。何だ?そういう女の…仕組みっつーか、そういうことワカンネぇから、よ…」
 そうだ、分かんねぇから心配になる。特に、オマエがそういう風に何も言わないから。何にも言わないで、なんでもないって風にいつも笑うから。
「だから、よ…。今度からはちゃんと言え?言わねぇと俺は分かんねぇし、分かんねぇと心配になる。オマエがまた、無理してるんじゃねぇかと思って、よ」
 そう言って頭をポンポンと軽くたたく。
「ん、分かった」
 そう言ってふんわりと笑い、のそのそと起き上がる。そして両手を上げて伸びをして、小さく息を吐く。
「いつもはね、そんなにひどい方じゃないんだよ?今回はちょっとひどかったけど、薬飲んだしもう大丈夫」
「そっか」
 ふっとつられて頬を緩めると、オマエが嬉しそうに笑う。ああ、そうだ。オマエはそうやって笑っているのが一番いい。
「コウくん…?」
 肩を引き寄せると、素直に腕の中に納まった。

 穏やかな波の音が心地いい午後だった。


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ある日ふと思いついたネタ。
琥一EDの後、三人で暮らし始めてバンビが女子の日になったら……。
コウは確実にあわてそうやなぁ、ルカは妙に訳知り顔でおりそうやなぁ…。

コメディタッチになる予定がなんだかグダグダなことに…orz
まあ、結局コウイチが好きだってことですね!←