一つ傘の下。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 出会った頃。並んで歩く肩の高さは同じくらいだった。触れそうで触れられないその距離がもどかしく、ほんのわずかのその差を埋めたくて追いつきたくて。焦っても仕方が無いのに、焦ってばかり。


 じとじとと続く雨は嫌いだった。出かけるのもおっくうになるし、気分も何となく晴れない。でも、彼女と出会ってから雨の日もそう悪くないと思えるようになったのは、我ながらひどく単純な理由。
 出会いは高校入学の日。学内を色々見学して歩いていて、帰るのが少し遅くなってしまって。いつの間にか降り出した雨を前に下駄箱で1人途方に暮れていた時に、彼女が声を掛けてくれたんだ。

「そんな事もあったっけ?」
 あの日と同じように一つの傘で肩寄せ合って歩いている時に思い出して話を振ると、彼女は眼をパチクリとさせて僕を見上げた。
「えー?忘れちゃったの?フツーは女の人の方がこういう事を覚えてるもんじゃない?」
「う…。だ、だって、もう何年も前の事だもん…」
 不貞腐れて頬を膨らませる彼女は、一つ年上なのにどこか僕より子供っぽい。あの頃、たった一年の差を気にして焦ってばかりいた僕は、この人の子供っぽい所に随分と救われてきたような気がする。
 いくら足掻いても焦っても、年齢差だけは縮まる事は無くて。その代わり、あの頃は大して変わらなかった背丈は随分と変わった。彼女の肩が濡れてしまわないように傘を傾けていると、不意に彼女が傘を持つ僕の腕に自分の腕をするりと絡めてきた。
「ちょ、突然どうしたの?」
「んー、何となく?」
 と、無邪気に笑った彼女が身を寄せると、ふんわりと甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「高校の頃かぁ…。懐かしいね」
「うん」
 懐かしそうに呟く彼女に、ふとあの頃の自分を思い出して少し可笑しくなった。ふふ、と小さく漏れた笑い声に彼女が不思議そうな顔をする。
「いや、なんかあの頃の僕って、ホントにガキだったなぁと思ってさ」
 人から良く思われる行動はだいたい分かっていたし、自分が人からどう見られているかも見当がついていた。本当は他人から押し着せられた『イイ子』のイメージが重たくて嫌だったのに、それを裏切るのも怖くて必死になって。
 笑顔一つ浮かべるにも計算してる自分が嫌だった。でも、その笑顔一つで右往左往する他人をどこか見下していた、気がする。あの頃、彼女と出会わなければ今の僕はどんな人間になっていたんだろう?

 いつも自然体で、年上なのに時々とんでもなく抜けてて、でもいつもニコニコ笑ってた彼女。そんな彼女のペースに乱されたのか、ちゃんと使い分けていたはずの表と裏の顔を彼女の前でだけは使い分けなくても良くなったきっかけは、彼女はちゃんと覚えているのだろうか?
 聞いてみたい気もしたけれど、のんびり屋の彼女の事だからきっと忘れてる。それに、あの件をきっかけに彼女が僕にとって特別な存在に変わって行ったのだから、それを知られるのは少し気恥ずかしい。
 そんな事を考えていたら、今度は彼女が隣でクスクスと笑い出した。
「…何?」
「ううん。高校の頃って、1年の差って大きかったなぁと思って」



 出会った頃は、まだあどけなさを残していた彼。どちらかと言うと可愛い感じの少年だった。いつもニコニコしていて礼儀正しくて、甘いものには目が無くて。先輩後輩と言うよりは、女友達に近い感覚だったような気がする。
 けれど次第に打ち解けて、時々見せる表情にやっぱり男の子なんだなぁと変に感心するようになって。彼を意識するようになったきっかけは、何だったんだろう?

「身長もさ、あの頃はほとんど変わんなかったのにね」
 そう言うと、彼は決まって少し不機嫌そうな顔になる。当時の彼は、小柄で女の子っぽい顔をしていた事を気にしていたらしい。でも今は、並んで話す時は目線を少し上げなければ彼の顔が見えない。遅めの成長期で彼は随分と男の子っぽくなった。
 同じ教室で机を並べる事が出来ないのを歯がゆく思っていたのはお互いさまだったと知ったのは、高校を卒業してからだった。たった1年の差を大きく思っていた事も。
「でも、さ」
 と、彼が呟く。
「よくよく考えたら、1歳なんて大して差じゃないよね。70、71とかになったらさ、もうどっちもシワシワになってるんだし」
「ふふ、そうだね」
 少し毒を含んだような言い方は当時から変わらない、と笑っていると絡めていた腕をギュッと引き寄せられた。
「翔太くん?」
 見上げると、何故か少し不貞腐れたような顔で彼はあさっての方向を見ている。
「ねえ、分かんないの?」
「何が?」
「何がって…もう、ホント鈍感だよね、そう言う所…」
 がっくりと脱力したように呟いた彼が、呆れたように言った言葉を聞いて私は顔から火が出るかと思うくらい赤面した。


 ――そのくらいの歳になるまで、一緒にいようって事でしょ?1歳差なんて分かんなくなるくらいシワシワになるまで、離す気ないからね?覚悟しといてよ、センパイ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


6月6日は天地くんのお誕生日!

と、言う事で。
相変わらず誕生日お祝い風SSが書けない主からのお誕生日用SSです(・・;)

天地×デイジーはこんな風にイチャコラしてればいいと思うよ!

天地くん、お誕生日おめでとです☆


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