Canon | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 店内を流れるヴァイオリンの調べと、窓を打つ雨音がちょうど心地よい。眼の前に置かれたコーヒーカップの中身は、もう半分以下になっている。同席している君は、どこか不安そうに僕の様子を窺っていた。
「…どうしたの?」
 そう尋ねても、君はいつものように曖昧に笑って俯くだけ。いくら僕が優しく笑いかけても、どんなに甘く囁いても、君はいつもどこか不安げだ。何がそんなに心配なのか――僕は、あえて君には尋ねない。



 あの頃、僕は君も含めて僕の周りに集まって来る女の子たちは一種のアクセサリーだと思っていた。女性が己を美しく表現するためにアクセサリーを身にまとうように、僕は僕である事を示すために彼女たちをまとっていた。
 誰かと一緒にいる事で、僕の価値が上がると思い込んでいた。そう…かつての、あの人のように。

 だから僕は、君がどうしても信じられなかった。君を見ていると昔の僕を見ているようで苦かった。どうせ、一時だけのお遊びなのに。どんなに真剣に想っても、どんなに想い合ってる二人でも、いつかは別れが廻って来るのだから。
 永遠なんてこの世には存在しないし、絶対なんてものもこの世には無い。だったら、より楽しんだ方が勝ち。うわべだけで愛を語らい、おままごとみたいな恋人ごっこをして、楽しくなくなってきたらサヨウナラ。
 どうせいつかは終わる関係に意味なんて無いし、求めたって仕方が無い。じゃあ、せいぜい楽しんで勝ち点を積み上げていけばいい。

 あの人と別れてから1年、僕はそうやって生きてきた。そしてあの人といた頃の僕を忘れかけていた頃に、君と出会った。


 ねえ、君はどうしていつもそんな風に不安げな顔で微笑むの?僕はもう、あの頃の僕じゃない。
 僕の価値を上げてくれる存在であれば誰だって受け入れていた、あの頃の僕では。
 僕が隣にいて欲しいのは、優しく微笑みかけて欲しいのは、他の誰でも無い君なのに。
 けれどいくら言葉を尽くしても、君はやっぱり曖昧に微笑むだけで。
 僕は、気付くのが遅すぎたのだろうかと悲しくなるんだ…。


 いつも、よどんだ水の中を泳いでいるみたいだった。うわべだけを飾って、ほんのひと時だけの甘い関係。誰と居ても、どんな事をしていても、いつも心から安らげる事なんて無かった。何かが足りない、何かが違う、そう思っていた。
 けれどその声に耳を傾ければ、僕はあの日から今日まで心の奥底に封じ込んできたモノを思い出してしまうから。そしてきっと、あの人が残していった傷跡が疼いて血を流す。だから僕は、どこかで鳴り続けている警鐘に知らん顔をして淀んだ水の中を泳ぎ続けて。
 どんなに華やかに振る舞っても、世界は彩りを失ってしまったのだから。……それほど、あの人がつけて行った傷は深かったのだろう。

 あの頃、僕は君を見ているのが辛かった。どう接していいのか分からなかった。あの日の僕のように、君はひどく傷ついたはずなのに。それでも僕に近づいてくる君に、僕はどう振る舞えばいいのか分からなくなった。
 そして君をさらに遠ざけようとして、冷たく当たって。君の心が傷だらけになって悲鳴を上げて、そして僕から離れて行くように。こんな僕の傍にいれば、君はどんどん不幸になる。だから、君が早く離れて行ってくれるように。

 君が誰よりも僕の心に寄り添ってくれていたなんて、どうして気付く事が出来たのだろう。あの頃の僕は、自分の受けた爪痕を誰かに付ける事で自分を癒そうとしていたどうしようもない愚かな男だった。僕の痛みに気付いてほしいと願いながら、その痛みを他者へ負わせて。
 君を傷つけながら、僕自身にも爪を立てていたんだ――。



 そして君は、こうして僕の前に座っている。手を伸ばせば触れられるほどの距離で。ぼんやりと外を眺める君につられて窓を見ると、雨にぬれたガラスが鏡のように僕らを映していた。

 ああ、そうか。君がいつもどこか不安そうなのは、きっと僕がどこかで不安に思っているからなんだ。
 何かが足りない、足りない何かを満たしたいと望みながら、それを怖れて見て見ぬふりをし続けてきたから。
 君が傍にいて、足りなかったものを与えてくれる。けれど、僕は今までとてもひどい事を君にしてきたから。
 君はいつか、僕の傍から離れて行ってしまうかもしれない。いつかの僕が望んだように。

 いくら言葉を尽くしても、君がいつも不安そうだったのは僕が不安に想っていたからなんだね。君は他の誰でもない僕を見つめてくれていたのに、僕はいつだって君の傍にある自分の事しか考えていなかった。
 君の眼に映る自分の事しか、見えていなかった。君を通して、僕は僕の中にある不安と向き合っていた。




 視線を窓に映る僕らから君へ移動させると、君はいつの間にか僕を真っ直ぐに見つめて微笑んでいた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


5月30日は真嶋太郎くんのお誕生日。
つーことで書いてみましたが……。
何だか途中で方向性を見失い、よく分からない一品に仕立て上がりましたorz

タイトルは、かつて友人が「聞いていると叶わない想いの様な感じがして切なくなる」と言っていた曲より。
決して追いついて同じ旋律を一緒に奏でる事は無いけれど、一緒にいる事で美しいメロディになるのなら二人一緒にいる事も意味があるんじゃないかな、なんてね。

色々残念な仕上がりになりましたが、愛は込めたつもりw

タロさん、お誕生日おめでとうございます☆

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