君と僕を繋ぐドア。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 僕は、幼いころから周りから少しテンポがずれていて。ほんの幼い子供の頃は、そんな事は大して気にも留めずに暮らしていた。だけど、成長するごとに思い知らされて。僕は人より物事を吸収するのが遅く、何をするにも失敗が多くて。気が付くと、他の人にいつも迷惑をかけていた。
 だから、他の人になるべく迷惑をかけないようにひっそりと息をひそめるようになった。誰にも気づかれないように、ひっそりと。失敗しても他の人から遅れても、誰にも気づかれる事が無ければ迷惑をかける事もないと思ったから。

 だけど、中にはそんな僕を気にかけてくれる優しい人がいて。やっぱり僕はその優しい誰かに迷惑をかけてしまう。不甲斐ない自分が情けなくて悲しくて。どうしようもなくて身動きが取れなくなってしまっていた時に、そう。君と出会ったんだ。
 ――初日なんだから、緊張したってしょうがないよ!
 初めて出会った時の君は、とても真っ直ぐで綺麗な眼をした少女だった。初めての土地で、初めての教室で。他の人とは違う、前の学校の制服をまとった僕はひどく不格好に思えて。転校生と言う立場上、好奇の眼に晒されることになって。どうしていいか分からなくなって萎縮してしまって、自己紹介すらまともに出来なくなってしまった僕に、君がそう言ってくれたんだ。
 でも、やっぱり新しい環境に馴染めそうにもなかった僕は転校早々学校に行く事が出来なくなってしまって。家の中で、じっと息をひそめて時間が過ぎるのをただぼんやりと眺めていた。そんな僕の閉じこもってしまった心のドアをノックしたのは、やっぱり君だった。

 ねえ、君は知っていた?
 あの頃の僕は自分から扉を開く勇気もなかったくせに、君が来てくれることをとても心待ちにしていたんだ。インターホン越しで交わす些細な会話。顔も見せない僕に、根気よく君は語り掛け続けてくれた。
 ――一緒に学校へ行こう?
 たったその一言が、嬉しかった。そして同時に、苦しかった。僕はもう誰にも迷惑をかけたくなかったのに。どうして君は、そんな僕に構い続けるのだろう。毎日断り続けているのに、君は懲りもしないで毎朝やって来る。
 学校へ行こう。その一言を僕に言うために。そして僕に断られ、肩を落として通学路へ向かうために。どうして、君は。どうして、こんな僕のために。肩を落としてしょんぼりとした君の背中を見送りながら、何度も自問した。
 考えれば考えるほど分からなくなって、その答えが知りたくて。僕はようやく、その扉を開ける事が出来たんだ。



 初めて彼と出会ったのは、空の高さに秋を感じるようになってきた頃だった。見慣れない制服をまとった彼は、好奇の色を含んだ多数の視線に晒されて怯えているように見えた。
 当時のクラスは団結力もあり明るくにぎやかなクラスで。季節外れの転校生に対しての好奇心を抑える事もなく、彼に矢継ぎ早に質問をしてしまって。転校初日の不安と緊張でいっぱいだった彼を困惑させてしまった。
 見かねて、思わずクラスメイト達に注意を促してしまったけれど。その時の彼の驚いた表情が忘れられなかった。

 彼と私が学校で共に過ごした時間はとても少ない。彼は転校早々のあの騒動で登校することを怖れてしまったから。他のクラスメイト達は彼の存在をあまり気に留める事もなく、月日が経つ間に彼の事が話題に上がる事も無くなっていった。けれど私は、何故か彼の事が気にかかって仕方が無かった。
 当時のクラス担任から頼まれて向かった彼のアパート。ドア越しに交わすわずかな会話。どう接していいのかも分からないまま、でも放っておくことも出来なくて。ただ迷惑がられてない事だけを祈りながら、日に日に彼のアパートに足を向けていたような気がする。

 最初は顔すら見せてくれなかった彼が、少しずつ打ち解けてくれて。初めて羽学の制服をまとって出てきてくれた時は本当に嬉しかった。

 ねえ、あなたは気付いていたの?
 少しずつ、本当に少しずつ近づいていくあなたと私の距離が、もどかしくてじれったくて。でも、昨日よりも今日、今日よりも明日は今よりも少し近くなれる。そう思うとたまらなく幸せだったの。
 少し低くて穏やかな声や、あなたが時折見せてくれる穏やかな笑顔。私は、あなたのまとうゆったりとした空気がとても好きだったの。





「ん?どうか、した?」
 私の視線に気が付いたあなたが、少し恥ずかしそうに微笑んだ。小さなアパートの一室、私はあなたと向かい合って食卓を囲む。あれから随分と料理の練習もしたけれど、やっぱりあなたの作るクラムチャウダーには敵わない。
「うん。何だかすっかりこっちの言葉になっちゃったなぁと思って」
 高校時代に出会った私たちは、私の高校卒業をきっかけに付き合うようになった。他の人よりはゆっくりだけど、あなたは確実にあなたのペースで前へ進む。進むスピードは遅いけれど、ゆっくりと物事を吸収してから前へ進むあなたは他の誰よりもしっかりとそのものに対しての理解や造詣が深い。
 あなたは自分の事を時々『グズでのろま』と言っていたけれど、この今の世の中で自分のペースを守ってしっかりと着実に前へ進むあなたは誰よりも強いと思うの。
「そう?だって、こっちに来てから、もう随分と経つから…」
「そっか。そうだよね」
 でも、あなたのわずかに残る東北訛りがとても好きだと伝えると、あなたは頬をピンク色に染めて恥ずかしそうに笑った。

 他の人にとっては取るに足らない事柄でも。時にはあなたにとってはとても困難な事になるけれど。一つ一つ、ゆっくりでもちゃんと乗り越えて行ける力をあなたは持っていると思う。そして、私はそんなあなたと共に歩んでいけたらと願っているの。


 あなたと過ごす穏やかな時間が、私の何よりの宝物。



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2月22日は古森君のお誕生日。

と言うことで、相変わらずの誕生日とは関係ないけどはぴばSSでございます。


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