リフレイン。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 お互い、出会ったのは同じ頃だったはずなのに。俺と奴の違いって、一体なんだったんだろうと時々思う。
 最初は3人一緒だった。遊びに行くときも、下校するときも。でも、いつからだろう。気が付くと、3人の時間は減っていて。
 俺とあいつらの間が、少しずつ広がっていた――。


 クラスの女子どもが何となく浮き足立っていて落ち着かない。街の中にはチョコレートが溢れ、女子どもの話題もそれで持ちきりだ。本来のスタイルは何処へかと押しやられた日本のこの行事だけは、どうにも馴染めない俺は逃げるように音楽室へ行く。
 吹奏楽部の練習が入っていない時は、この部屋は俺のものだ。白と黒が整列する鍵盤の前に座ると、何もかもがどうでもよくなる。従来の意味を失い製菓会社に踊らされている行事の事も、奴だけに向けられているあいつの笑顔も。
 白い鍵盤に指を落とす。軽く触れただけで、それは空気を震わせ水面のように広がる。軽く眼を閉じて、ひとつ息を吐きだす。奏でるのは決まって同じ曲だ。
「……バカみたいだな」
 あの時、世界の大きさをまざまざと見せつけられたあの曲。俺レベルなんて、ざらにいる――。そんな事はどこかで分かっていたのに、認めたくなくて失いたくなくて。俺にはこれしかないから。これしか、無かったから。
 だから同じ曲をバカみたいに繰り返す。逃げ出したのに……。あの時、俺は舞台に立つことさえ放棄して逃げ出したと言うのに。同じ曲を繰り返す。
 カタン、と音楽室のドア付近から小さなもの音が聞こえた。俺がここでピアノを弾いている時は、何故か誰も近寄らない。俺がここでこいつを弾いている間は、ここは俺だけのもの。そこに侵入してくるのは、たった一人だけ。
「…何か用か?」
 振り返りもせずに問いかけると、パタパタと聞きなれた足音が近づいて来る。
「お邪魔しちゃいましたか?」
 ここまで誰も近寄らない場所に堂々と侵入してきて『お邪魔』も何もないだろうと思う。だが、その無神経なまでの鈍感さが嫌いになれないのは何故だろう。
「いや、構わない。いつもの事だしな」
「あ、ひどーい、やっぱり邪魔だと思ってるんじゃないですか」
 ピアノを弾く手を止め、振り返ると見慣れた膨れっ面がそこにあった。あまりに予想通りの顔をしていたので思わず苦笑いが浮かぶ。
「で、何の用だ。何か用があって来たんだろ?」
「えっと…これなんですけど」
 と、差し出されたのは簡素な箱に入ったチョコレート菓子。少々不格好なそれをしばらく眺め、そしてお前の顔を見る。お前は何故か困ったような恥ずかしいような微妙な顔をしていた。
「……で?」
「あの、そろそろバレンタインですよね?それで、その…練習に作ってみたんですけど、イマイチ自信が無くて…」
「だから?」
 歯切れの悪い口振りに、つい生来の意地の悪い言い方になってしまう。それに気付いたお前も、何だか拗ねたような顔で恨めしげに俺を睨む。
「だから、設楽先輩にちょっと味見をしてもらおうかと思って…」
 やはりその無神経なまでの鈍感さはある意味凶器にも近いなと、俺は思わず溜息を吐く。それをどのように捉えたのか、ひくりと肩をすくませたお前はますます拗ねたように唇を尖らせた。
「やっぱりいいです。きっと先輩のお口には合わないと思うし。お邪魔してすみませんでした」
 むくれたお前が早口で言いながら箱を引っ込めようとするから、思わず手が伸びていた。少しいびつな形をしたチョコレートを一つ摘む。摘んだそれをしげしげと眺めていると、お前が驚いたように眼を丸くしていた。
「これは、トリュフのつもりか?」
「つもりも何も…一応トリュフなんですけど。……あ」
 ぽいっと口に放り込む。口の中でしばらくそれを転がしていると、呆気にとられたようにお前が俺を見つめていた。
「…ふん、見た目はともかく、味はまあまあなんじゃないか?」
「え?」
「お前が気持ちを込めて作ったんだろう?だったら堂々と渡せばいいじゃないか」
「設楽先輩……」
 あんまりにもお前がまじまじと見つめてくるから、自然と頬が熱くなってくる。それを誤魔化すために、俺は再びピアノに向き合った。
「あぁ、もう…。用は済んだんだろ?早く帰れよ。俺はもう少し練習する」
「はい…!」
 パタパタと遠くなっていく足音を背後に聞きながら、口の中には甘くて苦い味がいつまでも残った。












「はい!設楽先輩も!」
 2月14日当日、眼の前に差し出された小箱に俺は眼を丸くする。差し出しているのはやたらにニコニコと笑っているお前。そのお前の背後には同様のラッピングが施された箱を持つ紺野がいて。何故か困ったように笑っている。
「…は?」
「今日はバレンタインデーですよ?だから、私からの気持ちです」
 えへへ、と笑うお前。後ろで苦笑を浮かべる紺野。

 ……あぁ、もう。やっぱりお前のその凶悪なまでの鈍感さには敵わない。




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相変わらずの急ごしらえネタです。
設楽先輩はいつまでもこうやって悶々としていると良いと思うよ!←オイ。



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