部屋のカーテンを開けた。空は澄み渡り、清々しい空気が頬を撫でる。いつもより早くに目が覚めてしまった自分に、少し笑ってしまう。
(少し、緊張してるのかな…)
無事に今日と言う日を迎えられたのは、決して自分ひとりの力ではない。それはよく分かっている。だからこそ、居てもたってもいられないのだ。
部屋の中を振り返る。クローゼットに掛けられた制服。シャツは、昨日の夜のうちにアイロンを当てておいた。この制服に袖を通すのも、今日で最後。
視線を机の方に動かす。写真立てに入れられた1枚の写真。楽しそうに笑う男女と、俯き加減に写っている自分。一番大切な思い出だ。
(この頃から、かな…)
自分のペースで頑張ればいいという事に気がついたのは。そして、そんな自分を見守ってくれている人たちがいるという事に気付いたのは。
(若王子先生と…、彼女のおかげだ)
3人で行った博物館。その帰りに寄った海。夕日がすごくきれいで、切なくなった。プレゼント――そう、若王子先生が教えてくれた。歓迎されてるって。
その後も、何度か彼女と二人で会った。彼女はいつも自分を気遣ってくれた。自分のペースに合わせてくれた。最初はそれが申し訳なくて、何とか彼女のペースに合わせられるよう頑張ろうとしたけど結局上手く行かなくて。
その内、どちらのペースでもない、二人でいる時のペースが出来た。お互いが心地よく過ごせるペース。そんな時間を共有できるのが、すごく嬉しかった。
一緒に卒業式を迎えることはできなかったけど。自分のペースで高校を卒業する。それが、一番大切なんだと教えてもらった。
今の自分がいるのは、自分だけの力じゃない。それが、こんなにも嬉しい。
不意に、携帯電話がメールの着信を知らせる。開いてみると、彼女からだ。
『卒業おめでとう』
その一言に添えられた、綺麗な朝焼けの空。プレゼントだ。心の奥が、じんわりと暖かくなってくる。
「…よし。今日も、僕は歓迎されている」
ひとり呟き、制服に手を伸ばした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
BGM付のSSを考えるのにハマってます。
今回の曲は風味堂「ファイト」
この曲の歌詞と、デイジーに出会った後の古森くんのイメージが何となく重なったので。