「蛇蚹蜩翼(だふちょうよく)という四字熟語が

あります。


(ふ)は、蛇の下腹部にある「うろこ」のこと。

(ちょう)は蝉のこと。日本では「ひぐらし」を

表す字です。翼(よく)は蝉の羽。



お互いに持ちつ持たれつの関係にあることを表す

このことばの出典は、

『荘子』内篇の「斉物論」篇に出てくる話です。


 


(影のまわりにできる)薄い影が影に問いかけた。

「きみは歩いていたかと思えば止まり、

坐っていたかと思えば起きあがる。何とまあ、

気持ちがふらついていることでしょう」


影は答えた。
「ぼくは寄りかかるものがあってそうなっている

んだよ

(自分の意思でそうしているわけじゃないよ)

それに、ぼくの寄りかかっている相手も、

寄りかかるものがあってそうなっているんだよ。

たとえば、

ぼくは蛇の鱗や蝉の羽にも寄りかかるけれど、

鱗や羽だって、寄りかかるものがあるから動いて

いるわけで。

でも、なぜそうなるのかわからないし、

なぜそうならないのかもわからないね

(一体ぼくに何の知識があるというんだい)
 

 

 


蛇は前進する時に鱗を動かします。

蝉は飛ぶ時に翼を動かします。


では何がそうさせているのか。

(どういうふうにして動かしているのか)


荘子に言わせれば、

そんなことは“どうでもいいこと”。



自然界に存在する生きものはみな、自然の摂理に

もとづいて動いている。

ただそれだけが事実なのだと荘子は語る。




私たちは頭で理屈でその仕組みを答えますが、

最終的には、“わからない”ものがある。


思考してわかる世界じゃなさそうですね。


そもそも“わかりようがない”






効率とか不効率とか、損とか得とか、

そんなものを意識して動くのは、人間だけ。

(自然の前では恥ずかしいかぎり)



“目に見えるもの”だけにとらわれて。


ほんとに不自然な生きものですね、人間て…







でも


不自然だから、おもしろいのだ。





癸卯 九月既望

KANAME



参考・引用文献

・『荘子』第一冊 内篇 金谷治 訳註 1971年 岩波書店

・『荘子』第二冊 外篇 金谷治 訳註 1975年 岩波書店

・『荘子』第三冊 外篇・雑篇 金谷治 訳註 1982年 岩波書店

・『荘子』第四冊 雑篇 金谷治 訳註 1983年 岩波書店

・『老子 荘子』上 新釈漢文大系 阿部吉雄・山本敏夫・市川安司・遠藤哲夫 著 1966年 明治書院

・『荘子』下 新釈漢文大系 市川安司・遠藤哲夫 著 1967年 明治書院




【関連記事】


2022年12月1日 投稿


2022年7月25日 投稿


2022年5月20日 投稿

2022年3月26日 投稿


2022年3月12日 投稿


2022年2月21日 投稿


2021年11月21日 投稿


2021年10月5日 投稿


2021年9月29日 投稿


2021年9月24日 投稿


2021年8月29日 投稿


2021年3月30日 投稿


2021年3月15日 投稿


2021年2月15日 投稿


2021年1月18日 投稿