ステキなベテラン女優2人が輝いていた『明日を綴る写真館』 | 週刊テヅカジン

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手束仁が語る、週刊webエッセイ

 味のある脇役として定評のあるベテラン俳優平泉成の初主演映画となった『明日を綴る写真館』(秋山純・監督、企画、プロデュース/中井由梨子・脚本)。60年に及ぶ俳優人生で初めての主役は自分も趣味だという写真のプロで写真館を営むオヤジだ。

 頑固で不器用で融通が利かない頑なな職人気質で、岡崎市の今は寂れてきている写真館館長。父親の写真館を引き継いでいるのだけれども、かつては戦場カメラマンを目指していたアクティブ派だった。そして、家庭も顧みず仕事現場にはせ参じていた。そんな設定の主人公だ。

 ただ、映画としては無骨な作品ではなく、定番ともいえる家族への思いや親子の関係性が大きな柱となっていた。骨太ではなく、しんみりじっくりと、じわじわと心に浸透させてくる日本酒のような味わいの作品となっていた。

 写真館のオヤジの信念としては「写真は目に見える被写体を撮るのではなく、そこに写り込む自分自身を撮るのだ」という思いがある。だから、1枚の写真の意味に拘る。その写真が何を語り、何を伝えたいのか、あるいはそこに写っている人たちのどんな思いが詰まっているのか、そんなことに拘り続けている。

 そんな写真に心を奪われた新進気鋭の売り出し中の若手カメラマンが、突如その写真館に弟子入りを申し出る。その若手カメラマンを佐野晶哉という若手が演じる。この、親子のような2人のカメラマンの世代の違いによる戦いがあるのかというと、そうではない。フイルム世代とデジタル世代が、それぞれを認め合っていく。そこに、息子世代と親世代というそれぞれの家族が絡んでくるのだ。

 そんな作品は、ちょっと予想しなかった展開になっていく。

 だけど、観終わったら、それなりに納得は出来るものではあった。

 作品としては、1枚の写真は、絵画や他の芸術と同じようにその人そのものが描かれていくという。それは、主人公の姿を通して作り手の拘りでもあるとは思う。そして、それはモノカキの端くれとして文字で思いを伝えていくことを生業としてきたボクにとっても、一つの文章、一つの本に自分の思いや拘りがにじみ出るものとしなくてはいけないのだということを再認識させられる思いでもあった。

 ただ、ボクとしてはそれよりも何よりも、黒木瞳と市毛良枝という2人のベテラン女優の存在がとても素晴らしいと思いながら観ていた。黒木瞳は年齢的にはボクより少し下だと思うが、60歳は十分に超えている。その黒木瞳より10歳年上の市毛良枝は70歳を越えているのだけれども、スクリーンの中の彼女はとてもチャーミングでステキな女性に感じられた。だからこそ、待ち受けていたラストのサプライズが生きてくるのだろうなと思う。ということは、なかなかいい演出なんだろうなということだろうか。