NHK朝ドラ『らんまん』で注目度アップの神木隆之介主演の『大名倒産』 | 週刊テヅカジン

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手束仁が語る、週刊webエッセイ

 コメディ調の時代劇ではあるが、その中には人生訓と言うか、人間としての生命の尊さを謳うなど、それなりに観ていて納得感と言うか、同意できるところもあった。そして、主演が、今、NHK朝の連続テレビ小説『らんまん』で主人公を演じ、好感度のアップしている神木隆之介が主演ということでも、ちょっと観といていいんじゃないかなぁと思わせてくれた『大名倒産』(前田哲・監督/丑尾健太郎、稲葉一広・脚本)。時間を費やして観ておいて、損はない作品かなぁという印象ではあった。

 時代は江戸時代末期ということで、今から180年ほど前の設定。江戸から少し離れた越後の丹生山藩という小さな藩が財政危機に陥って、それを新しく藩主に据えられてしまった男が立て直していくという話。その主人公が、神木隆之介なのだけれども、毒気がなくてつるんとした印象なんだけれども、赤字会社を引き継がされながらも一生懸命に頑張っている若社長という雰囲気。赤字となった背景には、当然のことながら先代たちの賄賂や私利私欲に走った輩がいるわけで、その善と悪の構図もわかりやすい。

 元藩主が佐藤浩市なのだけれども、赤字財政となった責を正妻ではない女に産ませて放棄しておきながら、その存在を思い出したという四男に押し付けていく。そして、最終的には、大名倒産という手段しかなく、その責任を負って、切腹しかないという選択肢に迫っていく。つまり、企業でいえば計画倒産である。

 だけど、若き藩主は、一生懸命に頑張っていく。そのことで、周囲の理解も得て、当初は反旗を翻していた連中も、協力していくことになるのだ。

 その背景には、幼馴染の町娘の存在もあった。それを杉咲花が軽快かつコミカルに演じていて観ていても、とても心地よい。出番は少なかったけれども、語り部的にナレーション役となっていた母親役の宮崎あおいとともに、この作品に花を添えていたと言っていいであろう。

 その一方で、悪のたくらみをしている連中もキムラ緑子や石橋蓮などの芸達者で、見どころはあった。まさに「お主も悪じゃのぉ」の応酬で、そこはそれで面白い。時代的に江戸末期には老中の田村意次の賄賂政治が幅を利かせていた時代に重なる。思えば、人間というのは、「ちょっと利権を得たら私利私欲に走っていくというものなのだろうか…」なんて言うことも、ついつい思ってしまう。

 最後は、予定調和ではないけれども、問題解決してハッピーエンドに向かていくことになるのだろうかということは、最初から感じさせてくれる作品ではある。そして、それが、多分、故郷のサケ塩漬けになっていくのだろうかなということも想像は出来る。そういう、わかっているけれども「そうだよね」と思わせてくれるところに、演出の優しさも感じられた。

 悪は、より悪に…。そして、善は苦労しながらも、あくまで善で…。そんなわかり切った構図も、却って安心していられたといってもいいかもしれない。このあたりは、『そしてバトンは渡された』や『老後の資金がありません』の前田監督の上手さだろうか。

 オープニングで「この作品のラストは、エンドロールの後にあります」なんていうお定め書きが出るけれども、その通りに、クレジット後にもうひと話あるのだけれども、まあ、それも予測できたかもしれんことでもあったけれども…ね。それでも、そんな安心感があって観られるのが、この手の作品のいいところといってもいいのかもしれないなぁとも思っていた。