伊勢湾の小島が舞台の『ノイズ』は、見ごたえ十分の作品 | 週刊テヅカジン

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手束仁が語る、週刊webエッセイ

 舞台は、伊勢湾に浮かぶ長閑な島。過疎化の進む町のようだが、そんな島で黒いちじくの栽培が当たって、救世主となる。そこへ、保護司に連れられて前科のある若いヤツが連れてこられたことで、町の平穏が崩れていく。つまり、長閑な町に「雑音(noize)が入ったのである。

 映画🎥『ノイズ』(廣木隆一・監督/片岡翔・脚本)は、そんな映画だったけれども、随所に見どころはあった。

 そんな町の復興の目玉となっていくのが名産として売り出した黒いちじくだった。その農園を経営する主人公をみんなが奉って救世主としていく。女町長も、「町の再建は、あなたに掛かっている」と、もてはやす。そして、この町の一番いいところは、「犯罪が一つもないことだ」と町長は堂々と言う。

 そんな島で殺人事件が起きて騒動となっていってしまう。当然のことながら、県警の捜査も入ってくるのだが、やがて、島の住民と県警との対立構図にまでなっていく。そうした中で女町長や町の長老も殺害されるという連続殺人事件が起きていく。

 映画そのものは、いいテンポで流れていき、「次は、どうなっていくのだろうか」ということで興味も引っ張って行かれる。そういう意味では、作品としても十分に楽しめた。「世の中には、平気でウソをつく人間がいるものだ」などと言う永瀬正敏の県警刑事の言葉も響いた。そして、島にとって守るべきものは何なのか。また、本当の正義とは何なのか…。守らなくてはいけなかった、本当のものは何だったのだろうかということも問いかけてくる。

 さらには、もちろん映画としてのもう一つのテーマである家族についても描かれている。そのあたりも、なかなか秀逸だと思った。

 その一方で、長閑な小さな島が、パニックとなっていく中で、黒いちじく農園を経営する主人公の藤原竜也の圭太とその妻黒木華と、二人とも幼馴染の同級生の松山ケンイチとの危なっかしい微妙な三角関係も、見ているものをハラハラさせるいい展開だ。狭い村社会の中で、お互いに何かを背負って引きずっている。そんなところも感じさせてくれた。

 ところで、エンドロールクレジットで、ロケ協力が篠島と美浜町というのも出てきていた。伊勢湾の小島という設定だから、そうなっていくのも当然だとも思う。ただ、せっかく、愛知県の知多半島周辺が舞台になっとったんだで、名古屋弁というか知多弁というか、そんな言葉も聞きたかったがね。

 死体を隠そうとしている者たちをチラリと見た村の長老には、「あんたら、何やっとるだぁ」とか。

 集会場で、黒いちじく農園主を持ち上げる会合では、「この島は、あんたの腕にかかっとるんだでねぇ」とか、町長にも、「黒いちじく人気で、国からの交付金の5億円は欲しいに決まっとるがね」とかね。そんなセリフを言わせて欲しかったなぁとは思った。