「食は人の天なり」という思いを込めて | 週刊テヅカジン

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手束仁が語る、週刊webエッセイ

   78歳になるという角川春樹監督の最新作品。さすがに、これか監督としては最後になるかともいわれているが、わからない。

  角川春樹氏と言えば、80年代にまさに、映画界に革命を起こした人物でもある。

「社会の常識はオレの非常識、オレの常識は社会の非常識」

 そんな名言とも迷言ともいえる言葉を残したりもしている人物だ。実は、ボクの大学の先輩にもあたるのだけれども、まさに異端児でもあったわけでもある。そして、『犬神家の一族』をはじめとする横溝正史原作作品シリーズや『人間の証明』、『野性の証明』、『戦国自衛隊』といった作品を引っ提げて、明らかに映画界に革命を起こしたプロデューサーでもある。

   その人が「これが最後」と製作・監督を手掛けた作品が『みをつくし料理帖』である。吉原遊郭なども描かれている場面があるということなので、どんな奇抜で非常識なシーンがあるのだろうかとか、どんな突拍子もないどんでん返しを見せてくれるのかなという期待感もあった。

 ところがどっこい、極めてスタンダードで常識的な作りの作品で、見る側としてもきちっと素直に見られたというのが正直な印象だ。角川春樹監督作品ということで、違った期待もあったボクしては、若干拍子抜けしたところもなきにしもあらずだったかもしれない。

 「旭日昇天」「雲外蒼天」なんていう四字熟語も出てくるけれども、さまざまな料理も映像で紹介されていく。それなんかも、なんだかとてもスタンダードで常識的で、本で言えば実用書みたいな感じでもあった。

 「食は人の天なり」という考え方がメインとなっていて、食に対するこだわりを映像化していて、まさに天に一つの美食を生み出していくということになるのだけれども…。そこに、幼馴染の二人の運命をすり合わせていくというストーリー。一人は、江戸一番の女料理人として腕を上げていき、一人は吉原遊郭一の太夫として生きていくという縦糸と横糸が摺り合わさっていく。

 そうしたストーリーが丁寧に描かれていて、最後はちょっとしんみりとくるというエンディングになっていた。

 さすがに角川映画ともいえるのは、薬師丸ひろ子はじめ金田一耕助の石坂浩二や角川ガール三人娘のもう一人渡辺典子に加えて『スローなブギにしてくれ』の浅野温子なども登場していることだろうか。そうした楽しさもあったが、原田知世だけはなぜか出演していなかった。

 大満足の料理で、お腹一杯とは言わないまでも、リズナブルでそこそこ美味しく食べられた料理の食後、という印象といっていいであろうか。