僕がアホ絶好調の中学1年のある日、僕の人生に関わる事件が起きた。
その名は、『前歯4本折れたやん事件』
またの名を、『前歯4本折れたやん事件』である。
雨の日の校舎の影、芝生の上、吸い込まれる空。
もとい。
雨の日の校舎。
窓が開いていて、廊下が濡れていた。
僕は音楽室に向かう時、前を歩いていた上宗(うえそう)に、プロレス技をかけようと走って近付いた。
上宗とは同級生の苗字である。上宗、嬉しそう。
はい、みんなで♪
上宗、嬉しそう。
言ってくれた暇なキミ、どうもありがとう☆
勢いよく走って行った僕は、変な形で滑ってコケた。
手を着けば良いのに、アホすぎて分からなかったのか、僕はそのまま顔面でコケた。
その瞬間、僕の目の前を白い物体が、飛び散った。
僕の歯である。
しかも永久歯。
神様はなぜ、2回だけ歯を生えるシステムに、なさったのだろう。
もう1回あれば、僕も笑っていれたのに。もう1回あれば……
そして僕は差し歯。
僕がコケた時、ちょうど横に、当時、僕が好きだったマキちゃんがいた。
マキちゃんが1番に声をかけてくれたのを、今も忘れない。
倒れながら僕は、上から覗きこみ声をかけてくれたマキちゃんを見た。
急に4本の歯抜けになった僕を見て、マキちゃんは笑いながら、こう言った。
『あ、あおや、フフッ、だ、大丈夫?フフッ♪』
箸が転がっても笑う世代だ。急に歯抜けのマヌケな僕を、マキちゃんが笑うのも無理はない。
語呂が良かったので、何か言ってみる。みんな、今回も声に出して言ってみて!さん、はい!
歯抜けのマヌケ♪
歯抜けのマヌケ♪
夜霧のハウスマヌケ♪
そんな事はどうでも良い。
その事件からすぐ、僕は前歯4本を差し歯にした。
それ以来、僕が廊下を走ることをやめたのは、言うまでもない。
嵐山あおや
追記
こんな苦い思い出も、また懐かしく想う。これをほろ苦いと言うのかもしれない☆