『市民ケーン Citizen Kane 』1941年
オーソン・ウェルズって凄い、と思わせられる映画。
★オーソン・ウェルズ(Orson Welles, 1915年5月6日 - 1985年10月10日)は、アメリカ合衆国の映画監督、脚本家、俳優。 映画『第三の男』などでの個性的な演技で名優として知られたが、映画監督としても数々の傑作を残した。
とくに25歳で初監督した作品『市民ケーン』は、撮影監督グレッグ・トーランドとともに数多くの斬新な撮影技法を案出したことから、現在でも映画研究の分野できわめて高く評価されている[1][2]。
その後も『黒い罠』『上海から来た女』など新しい映画言語を盛り込んだ作品を監督し、全アメリカ映画史を通じて最も重要な映画作家の一人とも呼ばれる[3]。
後半生は巨額の製作費を回収するためB級TV番組の監修や脚本執筆に追われ、実現しなかった映画の企画や未完の脚本が数多く残されている[3]。★
映画『第三の男』の第三の男もこの人。
ラジオで『宇宙戦争』を朗読し、リスナーをパニックさせたと言われているのもこの人。
★『宇宙戦争』(The War of the Worlds)は、1938年にアメリカ合衆国で放送されたラジオ番組で、俳優オーソン・ウェルズがH・G・ウェルズというSF小説『宇宙戦争』を脚色し朗読した。放送をきいた人々が火星人の襲来を事実と信じこんでパニックが起きたという説は[1]、現在では根拠のない都市伝説として否定されている[2][3]。★
『市民ケーン』では25歳で制作・主演・脚本・監督を務めた。そのオーソン・ウェルズのノリノリの万能感が遺憾なく発揮されている。
革命家の新聞王チャールズ・ケーン(モデルは実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト)のパワーは、当時のオーソン・ウェルズと同等だったのだろう。
(チャールズ・ケーンのモデル、ウィリアム・ランドルフ・ハースト)
(ハーストの宮殿内部と収集品)
(ケーンの二番目の妻スーザンのモデルとなった、マリオン・デイヴィス)
ケーンが死に際に言った「ROSEBUD(バラのつぼみ)」とは何を意味するのか、を探ることにより、ケーンの生前へ時空旅をすることになる、という構成がとられた映画。
試写室で新作の伝記映画のラッシュを観るスタッフ。
色々あった新聞王ケーンが死にました、ジエンドとなったが、どうにも漠然としている。これじゃダメだ、テーマがない、作り直しだ、となる。
そこでスタッフの一人が、「ケーンは死に際に『ローズバッド』と言ったらしい。それが何を意味するかを探ろう」と言い、そうしよう、とスタッフはケーンの関係者が創立した図書館に行ったり関係者に会いに行ったりする。
そこで老いた関係者たちが当時を回想する。
するとその関係者が若い姿で出てきて、生前のケーンも出て来る、という具合。
ケーンの両親は、下宿屋を営む貧しい夫婦。下宿代のかたにとった金鉱の権利書が莫大な金になると分かったその権利者である母は、権利を息子のケーンに譲渡し、銀行家サッチャーをケーンの後見人にしてその資産運用を任せる。
そしてケーンは、家を出てニューヨークに行くことになる。母としては、すぐに手が出る暴力的な夫から、息子を離したいという思いもあったらしい。
(向かって左から、ケーンの父、窓の向こうの雪の中のケーン、サッチャー、ケーンの母。)
ニューヨークに行ったケーンは、大学在籍中に新聞社のトップとなる。新聞をガス灯のように日常的に必要なもの、デイリーユースにしたいと考えたケーンは、一面のトップを硬い政治ものからゴシップも載せる柔らかいものにし、ニューヨークでの購買部数をたちまち伸ばしてゆく。
結婚は二回。
最初の相手は大統領の姪。
二回目はオペラ歌手。しかしどちらも離婚。
ケーンを演じたオーソン・ウェルズの存在感が凄かった。
観客は、画面の中でこの人を見るしかないようになる。
なぜなら、オーソン・ウェルズだけが本気だから。だからこの人を信じるしかない。信じるとは、その人を読むということ。その人の目付き、顔つき、体の動きかたから事態を、本当のことを読み取ろうとする。つまり主役のすべきこと、作品世界の包含を、オーソン・ウェルズだけが成している。
役者というのは、作品を全身全霊で理解し、そのエッセンス、オーラが爪先や髪の先から出ていなければならないのだ。
フィクションである役の思考回路・心理を完全に理解するか、自分と完全に一致した実在のモデルと感情同期するかすべきで、演じるとはその二者択一なのではないかと思った。
オーソン・ウェルズは、この話は自分の話だと選択し、つまりモデルの新聞王は自分だと解釈し、演じた。
だからオーソン・ウェルズの映画になっている。
金にあかせて世界中から自分の宮殿であるザナドゥに美術品を収集していたケーン。宮殿には、ケーン以外の人にも価値のある物とない物が混在している。
その様子を、正にケーンそのものだと、ケーン亡きあとの宮殿のスタッフは言う。
「ROSEBUD(バラのつぼみ)」とは、ケーンがこどもの頃遊んでいたそりに印刷されていたロゴマーク。
宮殿にあったその古いそりは、がらくたと判断され、焼却炉に投げ込まれ、焼かれる。
これが探していた「ROSEBUD(バラのつぼみ)」か、と気づくのは観客だけ、という仕組み。カメラが気づいたかのように焼却炉の中のその印刷に寄っていくが、映画の中の登場人物の誰も、そのことに気付いてはいない。
映画の中でケーンの人生を取材していた映画製作スタッフは、関係者の話から、「ROSEBUD(バラのつぼみ)」とはスノードームと関係があるのか、という所まで辿り着いた。しかしスタッフは、それでは結びつきが弱い、と感じる。
関係者の一人は、ケーンがスノードームを手にして「ROSEBUD(バラのつぼみ)」と呟いたのを目撃していた。
二番目の妻スーザンと大喧嘩をして、スーザンが出て行ったあとで大荒れしたケーンは、妻の部屋を破壊し始める。
しかしその最中にスノードームを見つけ、それを投げようとして、ドームの中に降る雪に何かを思い出し、やめる。
そして、「ROSEBUD(バラのつぼみ)」と呟く。ROSEBUD(バラのつぼみ)とは、冒頭でケーンが家の庭で遊んでいたそりに印刷されていた言葉なのだ。
こども時代をふと思い出したケーンは、愛に飢えて渇いていた喉が少し潤ったような気分になるのだ。
ケーンの二番目の妻のスーザンは、「あなたは命令して、金で相手を自由にしようとする。自分が与えたいものしか与えない。わたしが欲しいものはくれない。あなたはわたしを金で買った」などと、ケーンの「愛のなさ」を責める。
ケーンの元同僚の劇評家は「彼はいつも証明しようとしていた。スーザンとの不倫を州知事の対立候補に暴かれ、その後選挙に負けたときに新聞にスーザンのことが「歌手」と「」付きで出たのが気に食わなかったんだ。だから彼は、スーザンを本物の歌手にして、劇場も買って全国ツアーもしたんだ」と言う。
ケーンは、世の中に対して、常に戦っていたのだ。そういう風にしか、この世への対し方を知らない。
歌手の妻にも、戦え、と言う。しかし妻が出来ないと言うと、じゃあ戦うな、と言う。
こどもの頃に両親と別れたケーンは、愛し方が不器用、ということなのかもしれない。
ケーン、というか、モデルとなった新聞王の王たる所以のパワーが、映画から溢れていたと感じた。
彼の栄光と、愛に対する渇望と、死と、残された宮殿の中の彫刻とがらくた。
ラストは、宮殿のフェンスの「立ち入り禁止」のプレート。
どんなに有名な人にも大切な思い出があります、それは踏みにじらないであげましょう、ということかと思った。
死人に口なし、というニュアンスも入っているのかもしれない。
ケーンの親友で同僚の劇評家を演じたジョゼフ・コットンは、
『第三の男』でもオーソン・ウェルズが演じた男と親友役。
実際親友だったのだろうと思わせられる、息の合いぶりだった。
とにかく、奇才オーソン・ウェルズの大ファンになった。
この作品の中に、映画という方法の技術とアイデアが圧縮されて詰まっているのだろう。
★Wikipediaより★
『市民ケーン』(しみんケーン、原題: Citizen Kane)は、1941年のアメリカ合衆国のドラマ映画。オーソン・ウェルズの監督デビュー作[2]。世界映画史上のベストワンとして高く評価されている。ウェルズは監督のほかにプロデュース・主演・共同脚本も務めた。モノクロ、119分。RKO配給。
新聞王ケーンの生涯を、それを追う新聞記者を狂言回しに、彼が取材した関係者の証言を元に描き出していく。主人公のケーンがウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルにしていたことから、ハーストによって上映妨害運動が展開され、第14回アカデミー賞では作品賞など9部門にノミネートされながら、脚本賞のみの受賞にとどまった。しかし、パン・フォーカス、長回し、ローアングルなどの多彩な映像表現などにより、年々評価は高まり、英国映画協会が10年ごとに選出するオールタイム・ベストテン(The Sight & Sound Poll of the Greatest Film of the Greatest Films of All Time)では5回連続で第1位に選ばれ、AFI選出の「アメリカ映画ベスト100」でも第1位にランキングされている。1989年にアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。
ストーリー

暗く荒廃した大邸宅「ザナドゥ(英語版)城」の幾つものショット[注 1]。そしてその一部屋で屋敷の主、かつて37の新聞社と2つのラジオ局を傘下に収めた新聞王チャールズ・フォスター・ケーンが小さなスノードームを握りしめ、「バラのつぼみ(rosebud)」という謎の言葉を残して息を引き取った。ある会社が彼の生涯をまとめたニュース映画を制作しようとするが、そのありきたりな内容に不満を持った経営者ロールストンは、編集のジェリー・トンプスンに「バラのつぼみ」という言葉にはきっと深い意味がある、それを突き止めケーンの人物像を探るようにと命じた。トンプスンはケーンに近かった5人の人物、2度目の妻で元歌手のスーザン・アレグザンダー、後見人の銀行家サッチャー(の回顧録が納められた図書館)、ケーンの旧友であり新聞社「インクワイラー」でのパートナーでもあったバーンステインとリーランド、ザナドゥ城の執事を順に訪ねながらケーンの歴史を紐解いていった。
ケーンの両親は小さな下宿屋を営んでいたが、ある時、宿泊費のかたに取った金鉱の権利書に大変な価値がある事が分かり、その名義人である母親は大金持ちとなった。母親は反対する父親の声に耳を貸さず、ケーンをニューヨークの銀行家サッチャーの元に預け、彼に運用を任せた資産をケーンが25歳になった時に全て相続させる事を決める。雪の中そりで遊んでいた幼いケーンは、自身をニューヨークへ連れ去ろうとするサッチャーを持っていたそりで殴りながらも結局、両親から無理やり離されニューヨークで育った。25歳になり莫大な資産を相続したケーンはサッチャーに「育ててくれと頼んだ覚えもない」と、後見人でありながら冷たく彼を遠ざけ去り、友人のバーンステインとリーランドを引き連れ、買収した新聞社「インクワイラー」の経営に乗り出す。彼が手法とするセンセーショナリズムは友人や古株の社員に批判されるが、結果的に商業的には成功し、廃業寸前の弱小新聞社であったインクワイラーの部数はニューヨークでトップとなる。
勢いに乗るケーンは時の大統領の姪と結婚するが、妻とは反りが合わず次第に会話も無くなっていった。そんな折、街中で偶然出会った歌手を夢見る天真爛漫な女性スーザンにケーンは心を奪われる。そしてケーンは労働者達の為に政治家になるのだと宣言し、ニューヨーク州知事選挙に打って出る。選挙戦ではライバル候補であり現職知事のゲティスの悪評を責めるばかりで、自身はどのような政策を持っているのかという中身がないマニフェストながら、大衆の人気をさらい圧勝かと思われたケーンだったが、ゲティスは愛人スーザンの存在を突き止め、知事選の前日にケーンと妻をスーザン宅に呼び出し、「出馬を辞退しなければケーンの不貞を世に暴露する」と脅す。ケーンは激怒しその要求を突っぱねたが、ニューヨーク中のメディアにスキャンダルを報道されイメージが地に堕ち、教会をも敵に回したケーンは無残に敗北する。敗北の夜、リーランドはケーンの労働者への愛は独りよがりの愛だと強く批判する。妻と息子もケーンの元を去る。
その後スーザンと結婚したケーンは彼女を立派な歌手にすべく巨大なオペラハウスを建設、一流のボイストレーナーもつけたが、そうやって一流の環境を整えるほどにスーザンの歌手としての実力不足が浮き彫りになっていく。彼女の初舞台は散々な出来であったが、インクワイラーは社を挙げて盛り上げようとした。しかしただ一人、劇評を担うリーランドは彼女を酷評する記事を作成していた。リーランドがタイプライターの前で書きかけの記事を前に眠っている所へやってきたケーンは、その記事を見て怒る代わりに自らその続きの悪評をタイプし、その結果、各社全ての記事にスーザンの悪評が載ることとなる。ケーンのインクワイラー社すら悪評を載せた事に激怒するスーザンはもう歌手をやめたいと訴えるが、ケーンは自分を笑い者にする気かと一蹴した。そうして無理やり歌手を続けさせられたスーザンはある日鎮静剤を大量に服用し倒れる。もう耐えられないと懇願するスーザンにケーンもとうとう歌手をやめる事を承諾する。
知事選とスーザンの一件でもうニューヨークには居られないと感じたケーンは、郊外に荘厳な大邸宅、通称「ザナドゥ城」を建てて移り住むが、ケーンと2人、他には使用人しかいない孤独な生活にスーザンは次第に不満を募らせる。そしてある日ケーンと口論となったスーザンは「あなたの行いは全て自分の為」と言い残し、行かないでくれと懇願する彼の元を去っていった。一人残されたケーンは彼女の部屋にある物全てを破壊していくが、スノードームを見つけるとそれを握りしめ呆然とした表情で城のどこかへと消えた。そして時は流れ、年老いたケーンは孤独な最期を遂げる。トンプスンは最後にザナドゥ城まで取材にやってくるが結局誰も「バラのつぼみ」の意味を知らず、その意味は謎のままに終わった。
しかしトンプスン達が城を去った後、ケーンの金に物を言わせて買い漁った遺品が次々と無情に燃やされていくその中に、かつて幼きケーンが遊んでいたそりがあった。誰も気にも留めないそのそりには「ROSEBUD(バラのつぼみ)」のロゴマークが印刷されていた。城の煙突からは遺品を燃やす黒い煙がもくもくと天へ立ち昇り、屋敷を囲むフェンスには「NO TRESPASSING (立入禁止)」の看板が掲げられていた。
キャスト
- チャールズ・フォスター・ケーン(英語版): オーソン・ウェルズ - 新聞王。かつて37の新聞社と2つのラジオ局を傘下に収めた。
- ジェデッドアイア・リーランド: ジョゼフ・コットン - ケーンの親友でビジネスパートナー。
- スーザン・アレクサンダー: ドロシー・カミンゴア(英語版) - ケーンの2番目の妻。歌手。
- バーンステイン: エヴェレット・スローン(英語版) - ケーンのビジネスパートナー。
- ジェームズ・W・ゲティス: レイ・コリンズ - ケーンの政敵。
- ウォルター・サッチャー: ジョージ・クールリス(英語版) - ケーンの後見人。
- メアリー・ケーン: アグネス・ムーアヘッド - ケーンの母。
- レイモンド: ポール・スチュアート(英語版) - ザナドゥ城の執事。
- エミリー・ノートン: ルース・ウォリック(英語版) - ケーンの最初の妻。
- ハーバート・カーター: アースキン・サンフォード(英語版) - インクワイラー紙の編集長。
- ジェリー・トンプソン: ウィリアム・アランド - ケーンの人物像を探ることになったニュース記者。
- ジム・ケーン: ハリー・シャノン(英語版) - ケーンの父。
- ロールストン: フィリップ・ヴァン・ツァント(英語版) - ニュース映画のプロデューサー。トンプソンの上司。
- 新聞記者: アラン・ラッド、アーサー・オコンネル★