「ダブリン市民」に出てくるハロウィン | スコットランドは今日も曇り空

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気がついたら在英30年。今さら周りに言えない憂さをさらすブログ。


アイルランドの小説家
ジェームス・ジョイスの短編集
「ダブリン市民」に
Clay (土くれ)というのがあります。



ハロウィンの夜
(All Harrows Eve)に
ダブリンの街に住む
家族が集まって
パーティをする話です。


なんとなくハロウィンで
思い出したので
ストーリーを書いてみたくなった。
単なる自己満足ね。
記憶で書いているので、
細かいことは無しね。



「ダブリン市民」は
何度も読み返したくなる
大好きな短編集。


いちばん有名な短編、
「死者」はクリスマスが
背景だけど
「土くれ」はハロウィンの
話です。



ダブリンのトリニティカレッジ


主人公は
弟家族のハロウ・イブの
集まりに招ばれたのが
嬉しくて嬉しくて
たまらない
マリアという
中年の女性。



マリアは独身で
ある工場で住み込みの
家政婦のような仕事を
しています。


工場で働く女工たちに
ティーを給仕したら
今日のマリアの仕事は終わり。


いそいそとエプロンを畳んで
市電に乗ると
マリアはまず弟の家族の為に
お土産のケーキを買いに
お店に入ります。


ちょっと、気張って
良いお店に入ったマリア。
でもお店の店員は
ツンケンして
マリアを無視します。


人と接するのが苦手な
マリアは、ただ黙って
順番が次々と
抜かされいくのを
ぼうっと眺めている
ばかりです。


ようやくお菓子を買ったものの
今度は市電の中で
酔っ払った男性に
話かけられ、
お菓子を一つ
置き忘れてしまいます。



リフィー川


弟の家に着き
得意げに
高級菓子店の
包みを渡すマリア。


でも包みを一つ置き忘れたことに
気付かないマリアは、
姪や甥が、
勝手にお菓子を取って
全部食べたのかと
子供たちを詰ります。



皆んなを喜ばせるはずだったのに
気まずい雰囲気になる
弟一家とマリア。



場を和ませる為に
Hallow Eve のゲームが
始まります。


セント・ステファンズ・グリーン


目隠しをして
テーブルの上に置かれた
お皿の中身を
引き当てるゲームです。


お皿に
銅貨があれば
引き当てた人は
将来、お金持ちになる。


指輪なら
もうすぐ結婚。


祈祷書なら
未来は聖職者に。



わいわい騒いで
マリアの番になりました。


クスクス笑いながら
目隠しをして
お皿を探すマリア。


ああ、見つけたわ!
と歓声を上げて
マリアがお皿に手を置くと
賑やかだった部屋が
急にしんと鎮まりました。


目隠しを取り
マリアが中身を見てみると
お皿には
一塊の土くれ



意味がわからず
ぼんやりするマリアの横で
弟は、子供達に向かって
誰の仕業だと
怒り始めます。



これは間違いだからと
マリアはもう一回
お皿を引き直して
今度は祈祷書を
引き当てます。




ダブリンの街並み



ゲームの後は、
弟はマリアに
ワインを勧め
いろいろと
話かけます。


誰もがマリアに
優しくて
マリアは、こんなに
皆んなが良くしてくれるなんて
幸せだと弟に告げます。


短編の最後は
弟に請われて
マリアが古い歌を
歌うシーンで
閉じられています。


“金銀財宝、
立派なお屋敷も
素晴らしいけど
私が夢にみるのは
愛する人に
いつまでも
想われ続けること“



か細い声で
繰り返し歌うマリア。


弟はボロボロ涙を
こぼしながら
栓抜きを探します。
「なんだい、涙で見えないよ、
栓抜きはどこだい、栓抜きは?」



生ビール生ビール生ビール生ビール生ビール生ビール



文中で説明はないけど
野暮を承知で言えば
「土くれ」は
お墓を暗示している。
そして弟は大酒呑み。


淡々とした文章に
浮かびあがる
小市民の生活と
心理、そして
人生に対する
問いかけ。



ジョイスは
やはり素晴らしい作家です。


ダブリンは駆け足でしか
行ったことがないから
いつか、じっくり
ジョイス詣りをしてみたいな。


行くなら6月16日だよね。