会議の途中で、誰かが小さく、ため息をついた。

その瞬間、僕の頭の中は、もうこうです。
「あれ、僕、何かまずいこと言ったかな」

上司の返信が、いつもより素っ気ない。
既読がついたのに、返事が来ない。
それだけで、その日一日、ずっと落ち着かない。

……これ、心当たり、ありませんか。

僕はずっと、これを「気にしすぎる性格」だと思っていました。
直さなきゃいけない、弱点だと。

でも、違ったんです。

前回、「体が固まる仕組みを書きます」と予告しました。
それは、もう少し先で、必ず書きます。
でもその前に、もっと毎日のように起きている、
"顔色を読む"クセの話を、させてください。
根っこは、同じところにあるので。



◆ なぜ、勝手に人の顔色を読んでしまうのか

子どもの頃の僕にとって、
人の顔色を読むことは、生きるための技術でした。

父の機嫌が、家の天気を決めていたから。
足音、声のトーン、ドアの閉め方。
そのぜんぶから、「今日は危ないか、大丈夫か」を読みとる。

読めれば、嵐を避けられた。
読めなければ、巻き込まれた。

つまり僕は、顔色を読むことで、自分を守っていたんです。

これは心理学で「過覚醒(かかくせい)」と呼ばれる状態に近いものです。
むずかしく聞こえますが、ようするに、
脳が、危険がないか常に見張り続けてしまうクセのこと。

脳の中には「扁桃体(へんとうたい)」という、
火災報知器みたいな部分があります。
危険な家で育つと、この報知器が、とても敏感になる。

だから大人になって、安全な場所にいても、
スイッチが入りっぱなしになる。
人の表情や声色を、自動でスキャンしてしまうんです。

これは、あなたの性格の問題じゃない。
気にしすぎでも、弱さでもありません。

あなたのアンテナは、壊れてなんかいない。
ただ、よく効きすぎるだけなんです。



◆ 今日からできる、小さな一歩

報知器を、いきなりオフにはできません。
でも、「今は安全だよ」と、体に教え直すことはできます。

ひとつめ。
人の顔色を読みかけたな、と気づいたら、
足の裏が床についている感覚に、意識を戻してみてください。

「今、ここは、あの家じゃない」
それを、頭じゃなく、体で思い出す。
これだけで、報知器の音が、少し小さくなります。

ふたつめ。
誰かが不機嫌そうなとき、心の中で、こう置いてみる。

「この機嫌が悪いの、僕のせいかは、まだ分からない」

すぐに「自分のせいだ」と決めない。
あいだに、ほんの一瞬、すき間を作るんです。

最初は、うまくいかなくて当然です。
20年以上やってきたクセなので。
……気長に、でいきましょう。



◆ アンテナは、消さなくていい

人の気持ちに気づける力は、本当は、すごい才能です。
やさしさにも、気づかいにもなる。

問題は、その力を「自分を守る」ためだけに、
24時間、使わされてきたこと。

これからは、使う場所を、自分で選んでいけばいい。

かつては、嵐から身を守るために。
これからは、自分の本音を、選ぶために。

あなたのアンテナは、あなたの味方です。
少しずつ、こっち側に、連れて戻ってきましょう。

次回は、「ゲームに逃げていた」あの頃の話を。
あれは逃げじゃなかった、という話をします。

アオ