仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスの歌謡曲「Chanson Populaire」
 
2026年9月29日号

 

2026年9月25日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Fille à Papa - Vacra, La Rvfleuze

 2 Sicario - Timal

 3 Maladie - Mauvais djo

 4 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 5 Pilé - Mauvais djo

 6 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 7 Mélo Décalé - Tiakola

 8 Melodrama - Disiz, Theodora

 9 Dis-moi - Nouvelle École

 10 Pineapple - Leto

 

【アルバムチャート】

 1 Voir la mer - Grand corps malade

 2 Matière noire - Djadja & Dinaz

 3 shelf - Luther

 4 L'Undertaker, Pt. 2 - Mauvais djo

 5 Et si j'échoue - Bouss

 6 Sarah B. - Bello & Dallas

 7 Grand garçon - PLK

 8 Pyramide 2 - Werenoi

 9 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 10 Destinée - Aya Nakamura

 

 新たなシングルチャート1位は、歴代王家と皇帝ナポレオン1世の宮殿(世界文化遺産)で知られるセーヌ=エ=マルヌ(Seine-et-Marne/77)県フォンテーヌブロー(Fontainebleau)出身の31歳のラッパーVacra(ヴァクラ/2024年5月28日号でご紹介)と、Aya Nakamuraとデュエットしている「Sexy Nana」が今週シングル4位で「Numéro d'écrou」が今週アルバム9位にチャートインしているパリ19区出身のセネガル系ラッパーLa Rvfleuze(ラ・ルヴフルーズ)の、男二人のデュオによる「Fille à Papa」です。意味は「ファザコン娘」。「アラフォー婚活女子」になりやすいタイプ? フレンチポップスの女性シンガー、Camille(カミーユ)も2017年に同名の曲を出しています。

 Mauvais djo(ムーヴェイズ・ジョー)のシングル3位に後退した「Maladie」と同5位の「Pilé」を収録した「L'Undertaker, Pt. 2」(9月4日リリース)が、今週のアルバムチャートで4位に入っています。

 

Grand corps malade

 9月も下旬になり、フランスのチャートにも秋の新作が続々登場してきました。アルバムチャート1位に初登場は待ってました、セーヌ=サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県ル・ブラン=メニル(Le Blanc-Mesnil)生まれ49歳のシンガーソングライターで「路上詩人」ことGrand corps malade(グラン・コール・マラード)の9枚目のスタジオアルバム「Voir la mer」(海を見る)です。16曲入りで9月18日リリース。SDM、Mentissa、Styleto、Cœur de pirateが参加し、コンゴ系の大物ラッパーSDMとコラボした「Traces」が8月にシングルカットされています。

 なお、パトリス・ルコント(Patrice Leconte)監督の映画や、フランスの現代美術家ソフィ・カル(Sophie Calle)の映像インスタレーションに「Voir la mer」という同タイトルの作品がありますが、それらとは特に関係はなさそうです。

 グラン・コール・マラードについては2020年9月22日号、2023年10月31日号でくわしく解説しました。バスケットボールの選手でしたが事故で障害を負い、長期のリハビリを経て詩人、ミュージシャンとして再起した経緯が、彼の自伝をもとにした『Patients』(2017年)で映画化されています。最高1位の大ヒットアルバム「Mesdames」(2020年)に収録されていたカミーユ・ルルーシュ(Camille Lellouche)とのデュエットシングル「Mais je t'aime」で、2021年のヴィクトワール音楽賞(Victoires de la musique)の最優秀オリジナル楽曲賞を受賞しています。

 アルバムチャート2位はセーヌ=エ=マルヌ(Seine-et-Marne/77)県モー(Meaux)出身の幼なじみラッパー二人組、Djadja & Dinaz(ジャジャ&ディナズ)が9月16日に出した新作「Matière noire」です。タイトルからルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のフレグランスを思い出す人もいれば、天文学、宇宙物理学やSFが好きな人なら宇宙空間の「暗黒物質(英語でDark matter/ダークマター)」を思い起こすかもしれません。全15曲のタイトルや歌詞(paroles)をざっと見ると、どうやら後者の意味のようです。「リリース後もどんどん進化していく」という、AIの時代にフィットした?実験的なアルバムという触れ込みです。ジャジャ&ディナズのプロフィールは2023年3月14日号でくわしくご紹介しました。

 前週1位のBouss(ブース)が約2年前に出したアルバム「Et si j'échoue」は、今週は5位に後退しました。

 

Luther(ルセール)


Luther

 Luther(ルセール)が9月18日にリリースした新作アルバム「shelf」(英語の「棚」。なお、フランス語で棚は「étagère」女性名詞)が今週、アルバムチャート3位に初登場しました。前週9位のLagui(ラギ)で触れた「顔出し」をしない「覆面ラッパー」です。メディアのインタビューを受けることはなく、プロモーション活動もほとんど行っていません。

「覆面ラッパーは死なない。ただ消え去るのみ」とは言っても、ルセールは2003年7月、橋を歌った童謡や中世の教皇庁で知られる南仏ヴォクリューズ(Vaucluse/84)県アヴィニョン(Avignon)で生まれ、南西部アキテーヌ地方のドゥー=セーヴル(Deux-Sévres/79)県ニオール(Niort)で育った23歳というプロフィールは公開されています。2024年3月12日号で少しご紹介しましたが、フランスの音楽メディアではラップフランセの「New Wave(ニューウェイヴ)」の旗手と紹介されています。Nouvelle Vague(ヌーヴェル・ヴァーグ)とフランス語で言ったらトリュフォーやゴダールになってしまう(笑)。

 まだ10代だった2020年にアルバム「Trame」(枠組み)でデビュー。翌年にはEP「IDD」を出しますが、出世作は2022年のアルバム「Garçon」(最高5位)でSNEPからゴールド認定を受けています。まだ19歳でした。このアルバムの収録曲のシングル「Alakazam」「Blake & Mortimer」「Lessgui」「Garçon」の4曲もゴールドディスクになっています。

 2024年のアルバム「EXIT」(最高3位)も好評でしたが、もちろんそれで終わることなく今回の15曲入りの新作アルバム「Shelf」へつながっています。覆面ラッパーですから当然、他の人とコラボした曲はありません。

 フレンチラップの枠を超えてポップス、オルタナティブロック、シンセサイザーベースのEDMなどさまざまな音楽的要素を取り入れ、リリック(paroles)もシュルレアリスムの「自動筆記(Automatisme)」を連想させるような難解でダークなものを展開。そんな自由さこそラップフランセのニューウェイヴなのでしょうか?

 なお、ルセールは「Geek(ギーク)=オタク」を自称していて、日本のアニメ「ドラゴンボール」の大ファンだそうです。2024年には任天堂のゲーム「ゼルダの伝説シリーズ」に出てくる架空の種族「Goron(ゴロン族)」が歌詞の中に登場する「Rouge Goron」という曲をシングル発売したこともあります(「EXIT」に収録)。また、フランスで「Egress」というビデオゲームの原作に関わったこともあります。

 さて、今回はニューアルバムのラストチューンにしてタイトルチューンの「shelf」をお聴きください。彼の個人的な記憶の断片を「棚(shelf)」にあげて整理していく、という意味が込められています。

 

Luther(ルセール) - shelf

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスの歌番組Chanson Populaire
 
2026年9月22日号

 

2026年9月18日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Maladie - Mauvais djo

 2 Sicario - Timal

 3 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 4 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 5 Pilé - Mauvais djo

 6 Mélo Décalé - Tiakola

 7 Melodrama - Disiz, Theodora

 8 Dis-moi - Nouvelle École

 9 Pineapple - Leto

 10 Séminaire - Bello & Dallas

 

【アルバムチャート】

 1 Et si j'échoue - Bouss

 2 Sarah B. - Bello & Dallas

 3 Grand garçon - PLK

 4 Pyramide 2 - Werenoi

 5 Destinée - Aya Nakamura

 6 Nouvelle École Saison 5 Partie 1 - Nouvelle École

 7 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 8 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 9 En croix - Lagui

 10 Naïri - Jeanne

 

 シングルチャート1位は2週連続でMauvais djoの「Maladie」です。8位には前週ご紹介した「Nouvelle École」のシングルカット曲「Dis-moi」が入りました。準優勝のNayteが歌っていました。同じくシングルカットの「Cash」は23位、「Sage」は32位、「Level up」は36位、「Mode de vie beton style」は54位、「Sorry」は84位、「Mal aimé」は100位です。アルバムチャートのほうでは「Nouvelle École Saison 5 Partie 1」が6位、同じく「Partie 2」が24位に入っています。

 アルバムチャートでは前週のPLKに代わってBouss(ブース)の「Et si j'échoue(で、僕が失敗したらどうなる?)」が初の1位にのぼりつめました。Boussはパリ郊外オー=ド=セーヌ(Hauts-de-Seine/92)県コロンブ(Columbes)で生まれ2020年にデビューした28歳のハイチ系ラッパーです。「Et si j'échoue」は約2年前の2024年11月22日のリリースで、2025年6月24日号、2026年8月4日号で解説しました。

 

Lagui

 アルバムチャート9位にLagui(ラギ)が6月19日にリリースした「En croix(アンクロワ/「十字架にかける」という怖い意味)」が再浮上しました。マルセイユの「帝王」JuLをフューチャーしたシングル「Mandat de dépôt(勾留状)」を収録しています。他にKaaris、Niaks、Gazoともコラボ。このアルバムは6月26日付で1位になり6月30日号でくわしくご紹介しましたが、Laguiはマルセイユ出身の覆面ラッパー(Rappeur masqué)で、素顔も年齢も明かしていません。

 日本でも、近年は「ヨルシカ」のsuisとか「ずっと真夜中でいいのに」のACAねのように顔出ししないアーティストが人気ですが、フランスではZiak、HOUDI、Kerchak、Kekra、Kalash Criminelなど、覆面ラッパーが繰り返しチャート上位に登場してきます。

 某ミュージシャン(ラッパーとは限らない)や、元・サッカーのプロ選手が覆面をかぶって「別人格」を演じているという噂や、某有名ラッパーが元・覆面ラッパーで、悪態をつきまくった「悪童」が改名、顔出し後に「いい人」へ180度イメージチェンジしたという噂もあります。「覆面ラッパーは死なない。ただ消え去るのみ」なのでしょうか。

 

Jeanne(ジャンヌ)


Jeanne

 今週のアルバムチャート10位に、Jeanne(ジャンヌ)が9月11日にリリースした7曲入りファーストEP「Naïri(ナイリ)」が初登場しました。彼女は「Star Academy(スター・アカデミー)Saison 13 2025」に出場しています。前週くわしくご紹介した「Nouvelle École(ヌーヴェル・エコール)」はNetflixの「勝ち抜きラップフランセ合戦」番組ですが、スター・アカデミーのほうはTF1の「合宿制・勝ち抜きフレンチポップス合戦」番組です。ちなみに次のシーズン「Saison 14 2026」の放送が、まもなく10月10日から始まります。

 2月7日に行われた「Saison 13 2025」の決勝戦の優勝者は18歳のAmbre、準優勝は22歳のLéaで、女性がベスト4に3人も勝ち残って大健闘した大会でした。ジャンヌは残念ながら2025年12月20日に敗退しましたが、審査員や視聴者の評判は悪くなく、それが2月の「コロンビア・フランス」レーベルとのメジャー契約、3月の「Respire fort」でのシングルデビューにつながりました。この自作曲はスター・アカデミー出演前にネット上で公開され(ルール違反ではありません)、番組出演中に再生数が700万回以上に達していました。

 ジャンヌは2003年9月生まれで現在23歳。生まれたのはフランス南西部アキテーヌ地方、ランド(Landes/40)県モン=ド=マルサン(Mont-de-Marsan)ですが、同じアキテーヌ地方のロット=エ=ガロンヌ(Lot-et-Garonne/47)県アジャン(Agen)で育ちました。本名はJeanne Naïri Viard(ジャンヌ・ナイリ・ヴィアール)といい、両親は音楽家で、母親は9月1日号で解説したシャルル・アズナヴールやシルヴィ・ヴァルタンと同じくアルメニア系です。

 3月の「Respire fort」に続いて、5月に「Tu restes là(あなた、ここにいて)」、7月に「Les règles(ルール)」とシングルを立て続けにリリースし、それらを収録したEP「Naïri(ナイリ)」を9月に出しました。

 アルバムタイトルは、紀元前8世紀頃に古代アッシリア帝国が、「聖なる山」アララト山周辺の現在のアルメニア共和国がある地域に存在したウラルトゥ王国(アララト王国)を呼んだ古称で、アッシリアはここに侵攻して自らの支配下に置きました。アルメニア系のジャンヌの母方の祖父は、このNaïriという言葉を彼女の誕生時、ミドルネームにつけました。

 アルメニアはその地政学的な位置から、アッシリアに始まり、ペルシャ帝国(アケメネス朝、ササン朝)、ローマ帝国、イスラム帝国、モンゴル帝国、ティムール帝国、オスマン=トルコ帝国、ロシア帝国、イラン帝国(イスラム革命前の正式名称)などなど、世界史上で有名な数々の「帝国」の侵略・支配に翻弄され、異教徒から宗教的迫害を受け、住民虐殺、民族離散の悲劇を何度も経験しながら、民族のアイデンティティとアルメニア正教のキリスト教信仰を守り通した不撓不屈の国です。

 自身もその不屈の精神を受け継ぎたいという、ルーツの地アルメニアへの強い意識があらわれたタイトルが「Naïri」で、オープニングチューンは「Papiers d'Arménie(アルメニアの紙)」です(フランスでは紙製のパフュームのブランドでもありますが……)。他の収録曲の歌詞も恋愛の話に交じって社会問題、フェミニズムなどに触れた硬派ぶりが垣間見え、若いですが、なかなかしっかりした女性シンガーソングライターとお見受けします。

 今回はその収録曲から、SNEPからゴールドディスク認定を受けた「Respire fort」をお聴きください(シングル最高57位)。タイトルは直訳すれば「深く息を吸う」という意味ですが、歌詞(paroles)の「Chacun ses névroses et ses doutes」(拙訳:誰もが神経症や不安を抱えているのよ)から察するに、「深呼吸」よりも精神的な不安による「過呼吸」のほうが適切な訳かと思われます。ジャンヌは10代からメンタルヘルスの問題で悩んだ経験があるそうです。

 

Jeanne(ジャンヌ) - Respire fort

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランス国旗とChanson Populaireの文字
 
2026年9月15日号

 

2026年9月11日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Maladie - Mauvais djo

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 4 Pilé - Mauvais djo

 5 Sicario - Timal

 6 Pocahontas - PLK

 7 Mélo Décalé - Tiakola

 8 Melodrama - Disiz, Theodora

 9 Pineapple - Leto

 10 Séminaire - Bello & Dallas

 

【アルバムチャート】

 1 Grand garçon - PLK

 2 THIS & THAT - Stray Kids

 3 Et si j'échoue - Bouss

 4 Sarah B. - Bello & Dallas

 5 Destinée - Aya Nakamura

 6 Pyramide 2 - Werenoi

 7 Nouvelle École Saison 5 Partie 1 - Nouvelle École

 8 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 9 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 10 L'Undertaker Part.2 - Mauvais djo

 

 Shakira(シャキーラ)とバーナ・ボーイ(Burna Boy)のワールドカップ北中米大会公式アンセム「Dai Dai(ダイ・ダイ)」の連続シングル1位はついに9週でストップし3位に後退。新たな1位はMauvais djo(モーヴェ・ジョー)の「Maladie」です。10位に入った「Séminaire」をラップするBello & Dallasは、アルバムチャートでも「Sarah B.」が4位にいます。

 アルバムチャートでは、前週2位のPLK「Grand garçon」が今週1位にのぼりつめました。PLKはシングルチャートでも「Pocahontas(ポカホンタス)」が今週6位で、約半年という息の長いヒットを続けています。

 

Mauvais Djo

 アルバムチャート10位にコンゴ系28歳の人気ラッパー、Mauvais djoが9月4日にリリースした10曲入りの「L'Undertaker Part.2」が初登場。2025年8月に出した「L'Undertaker Part.1」に続く2枚目のEPです。Undertakerは英語で「葬儀屋さん」という意味で、『黒執事』というマンガで日本でも知られるようになった言葉。彼については2026年7月14日号でくわしくご紹介しましたが、今週もシングルチャートで「Maladie」が初の1位で、「Pilé」(最高1位)が4位に入っています。

 ジャンヌ・ダルクが広場で火あぶりにされた街、ノルマンディーのルーアン(Rouen)の生まれでエソンヌ(Essonne/91)県エヴリィ=クールクーロンヌ(Évry-Courcouronnes)育ち。同じエヴリィ出身の3人組「TRIANGLE DES BERMUDES(TDB/トリアングル・デ・バルミュデ/「ムー民」にはおなじみの「魔の海域」バミューダ・トライアングルのこと)」を結成し、2020年からソロ活動も開始します。それと並行してパリ郊外でクラブMCを長くやっていて、今もMCの仕事でマルセイユや遠くドバイにまで出張しています。MCの仕事を通じて各地で多くのラッパーやミュージシャンと知りあうことができ、2025年に亡くなり今週もアルバム6位のWerenoi(ウェルノワ)とは特に仲のいい「マブダチ」だったそうです。

 

Nouvelle École(ヌーヴェル・エコール)

 

Nouvelle École Saison 5

 今週のアルバムチャートで7位に初登場した「Nouvelle École Saison 5 Partie 1」は、Netflix(ネットフリックス)でライブ動画が配信されたNouvelle École(ヌーヴェル・エコール)という、早い話がフランスの「勝ち抜きヒップホップ合戦」番組の本番で披露された16曲を収録した、コンピレーション・アルバムです。

 過去に2022年11月8日号や2024年10月1日号などで軽く触れましたが、改めてNouvelle École(ヌーヴェル・エコール)とは何かについて簡単にご説明しますと、Netflixの企画で2021年のシーズン1(Saison 1)から始まり、フランス、ベルギー、スイスなどフランス語圏(Francophonie)の若手ラッパーを発掘するのが目的のオーディション・リアリティ番組です。フレンチポップスのジャンルで当ブログで毎年とりあげるTF1の「Star Academy(スター・アカデミー)」に似ていますが、スター・アカデミーのような合宿制はとっていません。

 シーズン5(Saison 5)は、フランスでは2026年8月26日から9月9日まで初回放映され、審査員はSDM、Theodora、Bigflo & OliのOliというラップフランセのスター3名でした。日本のネットフリックスでは「リズム+フロー:フランス編」というタイトルがついて、過去のシーズン1~4とともに日本語字幕付きの動画を見ることができます。

 リリックやフローの出来、フリースタイル、ラップバトルの様子、さらに先輩ラッパーとうまくコラボできるどうかや、自分でコンセプトや絵コンテを書いて映像制作のプロに依頼するビデオクリップの出来まで、多面的に審査されます。

 

Typhee

 シーズン5の1対1のバトル形式のトーナメントを勝ち抜いて、決勝でベルギー出身のNayteを破って優勝し賞金10万ユーロ(約1800万円)を獲得したのは、マルセイユの有名ラッパーAlonzo(アロンゾ)のレーベルに所属するTyphee(ティフェ)でした。マルセイユの出身者からは初の受賞で、マルセイユ・コネクションの総帥JuLなんかは大いに喜んだことでしょう。10月24日には地元のマルセイユで凱旋公演が、10月26日にはパリ20区の「La Maroquinerie」でソロコンサートがあります。

 23歳のTypheeはラッパーには似合わず(失礼)ルックスが「やさ男」っぽく「good vibes」(雰囲気いい)と女性に人気ですが、決勝ではリリックもフローもしっかりしたラップチューンを作り込み、審査員から高い評価を得たようです。

 すでに2025年にアルバム「Estrellas」、2026年にEP「T.Y」を出していますが、新作アルバム「VEGA」を目下、制作中で秋以降のリリースが予定されています。新たなスターのこれからの活躍に期待しましょう。

 代表曲「Mode De Vie Beton Style」、地中海の陽光を感じさせる「Entre Beausoleil et Malpassé」や、日本語タイトルの「Teriyaki」も味わいがありますが、今回は「Nouvelle École Saison 5」のアルバムに収録された優勝曲「Samedi soir」(土曜日の夜)をお聴きください。なお、ジョニー・アリディの同名曲とは別物です。

 

Typhee(ティフェ) - Samedi soir

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランス国旗とChanson Populaire
 
2026年9月8日号

 

2026年9月4日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Maladie - Mauvais djo

 4 Pilé - Mauvais djo

 5 Sicario - Timal

 6 Melodrama - Disiz, Theodora

 7 Pineapple - Leto

 8 Mélo Décalé - Tiakola

 9 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 10 Pocahontas - PLK

 

【アルバムチャート】

 1 THIS & THAT - Stray Kids

 2 Grand garçon - PLK

 3 Et si j'échoue - Bouss

 4 Destinée - Aya Nakamura

 5 Sarah B. - Bello & Dallas

 6 Pyramide 2 - Werenoi

 7 THE SIN:BLISS - ENHYPEN

 8 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 9 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 10 The Cat - Nono la grinta

 

 Shakira(シャキーラ)とバーナ・ボーイ(Burna Boy)の「Dai Dai(ダイ・ダイ)」は9週連続のシングル1位です。シングルチャートではTimalの「Sicario」が前週の8位から5位へ浮上したのが目立ちます。

 アルバムチャート1位には前週のENHYPEN(エンハイプン)に代わって韓流の先輩、Stray Kids(ストレイキッズ)の「THIS & THAT」が返り咲いています。

 

PLK

 アルバム2位は29歳のポーランド系ラッパーPLKの「Grand garçon」が前週の10位から躍進しました。シングル「Pocahontas」もトップ10圏内の10位に再浮上しています。PLKのプロフィールは2023年4月25日号で簡単にご紹介しています。

 アルバムチャートは順位の入れ替わりこそ激しかったものの、トップ10にニューカマーは一作もありませんでした。ヴァカンスシーズンが終わって9月も中旬になれば、フランスの大物、中堅アーティストの「秋の新作」がそろそろ出てくる頃だと思うので、それに期待しましょう。

 

Oria(オリア)


Oria

 今週はシャンソン、フレンチポップスのジャンルから新進気鋭の女性アーティストをご紹介します。Oria(オリア)。南仏アルプ=マリティーム(Alpes-Maritimes/06)県の県庁所在地で、地中海に面したコート・ダジュール(Côte d'Azur)のリゾート地、ニース(Nice)の生まれです。年齢不詳。父親はフランス国籍ですがルーツはコルシカ島で、アルジェリア戦争の戦士を輩出して映画にもなった「Pieds-noirs(ピエ=ノワール)」と呼ばれるフランス人入植者の血も引いていて、母親はチュニジアの出身です。

 1860年までイタリア(サルディニア領)だったニース、1768年までイタリア(ジェノバ領)だったコルシカ、1830年までオスマン=トルコ帝国の属領だったアルジェリア、1881年までイスラム王朝(フサイン朝)の支配下だったチュニジアがそのバックグラウンドにありますから、彼女もまた、エジプト・アレキサンドリア生まれのユダヤ系フランス人ミュージシャン、ジョルジュ・ムスタキ(Georges Moustaki)が自称していた「地中海人(Méditerranéen)」と言えるでしょうか。

 オリアは幼少期、バーを経営していた父親とともにニースから映画祭で有名な同県のカンヌ(Cannes)に移り、そこで成人しました。よく聴いたのが両親がファンだというジャック・ブレルや、エディット・ピアフやダリダのような古き良きシャンソンでしたが、母親の影響でチュニジアやアルジェリアが属するマグレヴ地域のイスラム音楽にも親しんでいました。

 ニースやカンヌのバーでお客さんを相手にその歌声を披露していた少女がプロになったきっかけは、ソーシャルメディアでした。2024年頃から、コート・ダジュールの陽光の下、絵になりそうな海辺の街角で、フランス語で「ナツメロ」を歌っている自作の路上ライブ映像をYouTubeチャンネル、TikTok、Instagram、Facebookなどに投稿。曲はフランソワーズ・アルディ(Françoise Hardy)やマルク・ラヴォワーヌ(Marc Lavoine)などのフレンチポップスが主でしたが、その声と姿が音楽プロデューサーのナウファル・シマイラ(Naoufal Simaila)氏に「発見」され、メジャーデビューにつながります。路上ライブやSNS投稿からプロのミュージシャンになるのは、映画やドラマの中だけの大人のおとぎ話ではないのですね。

 2025年8月に出したファーストシングル「Toi jamais」(邦題:あなたはけっして)は、シルヴィ・ヴァルタン(Sylvie Vartan)が1976年に出した曲のカヴァーです。2002年にフランソワ・オゾン(François Ozon)監督の映画『8 femmes(8人の女たち)』の劇中歌として大女優カトリーヌ・ドヌーヴが歌ってリバイバルヒットしたことがあります。なお、シルヴィ・ヴァルタンはブルガリア生まれですが、ルーツは前週とりあげたシャルル・アズナヴールと同じくアルメニアです。

 オリアは同じ2025年に自ら作詞・作曲を手がけたシングル「Soirée mondaine」を出し、2026年になると同じくオリジナル曲の「Princesse de la nuit」をリリースして、Spotifyではいま、人気が盛り上がっています。

 ステージでは、パリ9区のオランピア劇場(L'Olympia)の晴れ舞台でセネガル生まれのシンガーソングライター、Ycare(イカール)のオープニングアクト(前座)を務めた後、2026年5月にはパリ10区の「La Scala Paris(ラ・スカラ・パリ)」で初のソロコンサートを開き、マルク・ラヴォワーヌの「Elle a les yeux revolver」(1985年)の男女を入れ替えたカヴァー「Il a les yeux revolver」や、ミシェル・フュガン(Michel Fugain)の1972年の大ヒット曲「Une belle histoire」(日本では1978年のサーカス「ミスター・サマータイム」の原曲になりました)のカヴァーも披露し、喝采を浴びています。

 そのようにシャンソン、フレンチポップスの潮流を受け継ぎながらも、アルジェリア歌謡「ライ(Raï)」(2020年9月8日号でくわしくご紹介しました)の「帝王」と呼ばれたハレド(Khaled)が歌い1996年にSNEPシングル1位の大ヒットになった「Aïcha」(作曲はジャン=ジャック・ゴールドマン)をカヴァーするなど、マグレヴ地域の音楽も積極的に取り入れているのが彼女の持ち味で、まさに「地中海人」です。オリエンタルな雰囲気も漂わせている点では、2013年に「Dernière danse」がフランスでメガヒットを飛ばしたIndila(インディラ)の妹分のようにも見られているようです。

 オリアの音楽性は、ただの若い女性ポップシンガーでも、2010年代の子どもユニット「Kids United」のような高年齢層ウケを狙ったナツメロ路線でもありません。それだけに、これからが楽しみな存在と言えます。

 今回はフランスのShazamチャートで1位を獲得し、SNEPシングルチャートでは前々週37位、前週37位、今週36位の「Soirée mondaine」をお聴きください。タイトルは「社交界の夜会」という意味で、歌詞(paroles)では若い女性が社交界デビューするのですが、「Ce n'est pas la vraie vie qu'on apprend dans ces soirées mondaines」(拙訳:この社交界の夜会で学べるのは、本当の人生なんかじゃないの)と、自らの経験もふまえて醒めた目で見ています。

『The Great Gatsby(華麗なるギャツビー)』のような映画のシーンで見た人もいると思いますが、欧米の社交界の「Soirée(ソワレ)」は男女が出会う婚活パーティのような役割も果たしています。とは言っても、容姿以上にセンスや知性や教養が試される場ですから、いきなり「年収はいくらですか?」などと下品なことを尋ねたら、追い出されますよ(笑)。

 さて、8月から「仏蘭西歌謡曲」では、ハイチ、マルティニーク島、アルメニアにマグレヴ等々、フランス本土から離れた地域の話が続きました。「こんなのフランスじゃない」と言われそうですが、どうかこれに懲りず、クレオール文化も含めた広い意味の「Francophonie(フランコフォニー/フランス語圏)」の文化や歴史に親しんでいただければ幸いです。

 

Oria(オリア) - Soirée mondaine

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランス国旗とChanson Populaire
 
2026年9月1日号

 

2026年8月28日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Maladie - Mauvais djo

 4 Pilé - Mauvais djo

 5 Pineapple - Leto

 6 Melodrama - Disiz, Theodora

 7 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 8 Sicario - Timal

 9 Mélo Décalé - Tiakola

 10 La pétasse - Aya Nakamura

 

【アルバムチャート】

 1 THE SIN:BLISS - ENHYPEN

 2 THIS & THAT - Stray Kids

 3 Et si j'échoue - Bouss

 4 Destinée - Aya Nakamura

 5 Wild - Katseye

 6 Petal - Ariana Grande

 7 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 8 Sarah B. - Bello & Dallas

 9 Pyramide 2 - Werenoi

 10 Grand garçon - PLK

 

 Shakira(シャキーラ)とバーナ・ボーイ(Burna Boy)の「Dai Dai(ダイ・ダイ)」は8週連続シングル1位。もうあきました?

 今週のシングルトップ10は前週の9位のAya Nakamuraと10位のTiakolaの順位が入れ替わっただけでした。ヴァカンスシーズンの夏枯れ、ここに極まれり。

 

ENPHYPEN

 アルバムチャート1位は前週までのStray Kids(ストレイキッズ)の「THIS & THAT」に代わって、同じ韓国の男子6人組グループ、ENHYPEN(エンハイプン)の8枚目のミニアルバム「THE SIN:BLISS」が初登場で首位を奪取。8月21日発売。吸血鬼が恋人と逃避行するストーリーをベースに、ブラジリアン・ファンクっぽいダンスナンバーで構成されています。

 アルバム8位にBello & Dallas(ベロ&ダラス)の「Sarah B.」が再浮上しました。2026年6月12日付で3位になり、6月16日号でくわしくご紹介しています。ブルターニュ地方、イル=エ=ヴィレーヌ(Ille-et-Vilaine/35)県の中心都市レンヌ(Rennes)出身のラップデュオです。「Sarah B.」はレンヌにある往年の大女優の名を冠した高層公営住宅「Tour Sarah-Bernhardt(サラ・ベルナール・タワー)」の略称で1963年完成。彼らは少年時代、ここに住んでいました。

 

Charles Aznavour(シャルル・アズナヴール)


Charles Aznavour

 9月。暦の上では秋になりました。気温も下がって、秋の夜長に名曲をじっくり聴き込める季節です。そこで今週は、フランスを代表する大歌手だったCharles Aznavour(シャルル・アズナヴール)のベスト盤「Les Plus Belles Chansons」をご紹介しましょう。2025年4月にリリースされ、今年8月のアルバムチャートでは14日付で25位、21日付で28位、28日付でも28位と、熱波厳しい中、着実にセールスの実績をあげていました。

 あらためてご紹介するまでもないと思いますが、シャルル・アズナヴールは1924年5月、パリ6区セーヌ左岸のSaint-Germain-des-Prés(サンジェルマン=デ=プレ)地区の生まれ。1960年代にはオープンカフェで「実存主義vs.構造主義」のような議論が交わされていた文化の薫り高き街です。本名はShahnour Vaghinag Aznavourian(シャフヌル・ヴァヒナク・アズナヴリアン)といい、両親は現在のコーカサス地方のアルメニア(当時はロシア帝国領)の出身で、1917年の革命で混乱するロシアからフランスに逃れました。本当はアメリカに行くつもりだったそうです。

 9歳から、作家のスコット・フィッツジェラルドが「バビロン」と呼んだ妖しくも麗しき「狂乱の時代(Les Années Folles/レザネ・フォル)」のパリのキャバレーの舞台で歌いはじめ、ナチス占領下を経てパリ解放後、あのÉdith Piaf(エディット・ピアフ)に才能を見出されて本格的に歌手デビューしました。以後、最後の日本公演から帰った直後の2018年10月に94歳で天寿を全うして国葬で見送られるまで、シャンソンの世界の第一線で活躍しました。自らもフランス語、英語など8カ国語で1200曲以上の作詞・作曲を行って、数々の名曲を残しています。

 現在、アルメニア共和国の首都エレバン(Yerevan)には彼の銅像が立つシャルル・アズナヴール広場があり、近くの丘の上には記念館もあります。「剣の舞」で知られる作曲家アラム・ハチャトゥリアン、オーストリア出身の指揮者カラヤンと並ぶ同国の「音楽の英雄」です。

 ちなみにアメリカの実業家カーク・カーコリアンは「ビジネスの英雄」で、「アルメニア人が二人集まれば、世界に新しいアルメニアが生まれる」という名文を残したウィリアム・サローヤンは「文学の英雄」。カーコリアンとサローヤンはアルメニア移民の子としてカリフォルニア州フレズノ(Fresno)で生まれています。フレズノは「アルメニア人と日本人がつくった町」と言われるほど日系人もたくさん住んでいたところです。

 さて、アルバム「Les Plus Belles Chansons」は43曲・2時間27分という長編ベスト盤です。1曲目はダリダ(Dalida)とのデュエット曲「Quand on s'aime」(邦題:愛しあっていれば)で、1965年にミシェル・ルグランとナナ・ムスクーリのデュエット曲としてまず世に出ました。9曲目にはモンマルトルに集った芸術家の見果てぬ夢の物語「La Bohème(ラ・ボエーム)」、15曲目には1999年にエルヴィス・コステロが映画『ノッティングヒルの恋人(Notting Hill)』の劇中歌としてカバーした「She / Tous les visages de L'amour(忘れじの面影)」、18曲目には海外雄飛を夢見るロマンあふれる「Emmenez-moi(世界の果てに)」、29曲目には過ぎ去った若き日を偲ぶ「Hier encore(帰り来ぬ青春)」などなど、日本でも知名度の高いナンバーが並びます。ラストは異郷での哀れな失恋を歌った「Que c'est triste Venise(悲しみのヴェニス)」です。

 残念ながら、フランスでは五月革命が起きた1968年にヒットし、日本の落語家の笑福亭鶴光師匠が1975年に大胆な訳詞(?)でカヴァーされていた「イザベル(Isabelle)」は、このアルバムには収録されておりません。

 今回は2018年10月、パリのまさに中心、「L'Hotel des Invalides(オテル・デ・ザンヴァリッド/廃兵院)」で営まれた彼の国葬の場で流されていた「Emmenez-moi」をお聴きください。

 

Charles Aznavour(シャルル・アズナヴール) - Emmenez-moi(世界の果てに)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスの歌謡曲Chanson Populaire
 
2026年8月25日号

 

2026年8月21日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Maladie - Mauvais djo

 4 Pilé - Mauvais djo

 5 Pineapple - Leto

 6 Melodrama - Disiz, Theodora

 7 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 8 Sicario - Timal

 9 La pétasse - Aya Nakamura

 10 Mélo Décalé - Tiakola

 

【アルバムチャート】

 1 THIS & THAT - Stray Kids

 2 Wild - Katseye

 3 Et si j'échoue - Bouss

 4 Destinée - Aya Nakamura

 5 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 6 Petal - Ariana Grande

 7 Pyramide 2 - Werenoi

 8 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 9 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 10 Grand garçon - PLK

 

 コロンビア出身のShakira(シャキーラ)とナイジェリア出身のバーナ・ボーイ(Burna Boy)による「Dai Dai(ダイ・ダイ)」は7週連続シングル1位。各国のリーグ戦は26-27シーズン、波乱の開幕を迎え、ワールドカップなんてもう「昔の話」なのですが……。

 今週はシングルチャート下位に新たなトップ10入りが2作あります。8位にTimal(ティマル)の「Sicario」(スペイン語で「殺し屋」「暗殺者」という怖い意味)が前週13位から浮上。ティマルはパリ北郊のSaint-Denis(サン=ドニ)で生まれ、セーヌ=エ=マルヌ(Seine-et-Marne/77)県シャン=シュル=マルヌ(Champs-sur-Marne)で育った29歳のラッパーで、ルーツはカリブ海のフランス海外県Guadeloupe(グアドループ)島です。2022年5月、Gazoをフィーチャーした「Filtré」がシングル1位になっていて、アルバムも2018年の「Trop Chaud」、2020年の「Caliente」、2021年の「Arès」が連続最高2位でした。2024年のアルバム「Darvaza」は最高9位です。

 前週の14位から10位に浮上したのがTiakola(ティアコラ)の「Mélo Décalé」(英語で言えば、オンビートをわざと外して独特のおしゃれ感を出す「オフビート・メロディ」のことで、三味線で言えば「破調」のようなもの)です。ティアコラはセーヌ=サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県ボンディ(Bondy)生まれの26歳のコンゴ系ラッパーで、2022年にファーストアルバム「Mélo」、2024年にミックステープ「BDLM Vol.1」がそれぞれ最高1位になっています。2022年6月7日号でくわしくご紹介しました。

 

Katseye

 今週のSNEPアルバムチャートでは多国籍の女子6人組、Katseye(キャッツアイ)の3枚目のミニアルバム「Wild」が初登場で2位に入りました。8月14日リリース。キャッツアイは2024年活動開始で、メンバーの国籍はアメリカ、フィリピン、韓国、スイス。活動拠点はLAで歌詞は英語ですが、BTSを手がけた韓国のエンタメ企業「HYBE」がプロデュースしています。その韓国の男子8人組Stray Kids(ストレイキッズ)の「THIS & THAT」は2週連続の1位です。

 

Feu(フー)


Feu

 今週はいつものアーティスト名ではなく、シングルの楽曲名でご紹介します。タイトルはフランス語で「火」を意味する「Feu(フー)」で、歌詞(paroles)はフランス語ですが、一部にその短縮形や、フランス語と土着言語が融合したクレオール語っぽい言葉が入っています。

 アーティストは男性の「DJ Tutuss」「Mikado」と、女性の「Maurane Voyer」「Bad Bitch」の4人。ここでは「Feu - DJ Tutuss ft.Mikado, Maurane Voyer, Bad Bitch」としておきますが、紹介時の順番はてんでバラバラ。2025年12月リリースで、ダンサブルな曲調は夏向きでカリビアン風味たっぷり。SNEPの前週の「Outre-Mer(海外)」チャートでは3位に入っていて、この夏の注目曲と言えるでしょう。

 4人のプロフィールをご紹介しますと、全員カリブ海のDes Petites Antilles(小アンティル諸島)にあるフランス海外県、Martinique(マルティニーク)島の出身で、フランス国籍です。ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した1983年のフランス映画『マルチニックの少年(Rue Cases-Nègres)』でこの島の名前を知った方も少なくないでしょう。近くのGuadeloupe(グアドループ)島とともにアンティル=クレオール語が話され、豊かな音楽文化で知られています。

「DJ Tutuss(DJチュチュス)」はクラブDJ、作曲家、ビートメーカーで、「Mikado(ミカド)」はボブ・マーリー以前からあるジャマイカの「どレゲエ」とモダンなダンスビートを融合させたスタイルで活躍するミュージシャンです。なお、1985年に元YMOの細野晴臣氏のプロデュースでフランスでデビューした伝説のテクノポップ男女デュオ「MIKADO」や、和歌山市出身の日本人ラッパー「MIKADO」は、名前は同じですが関係はありません。

 女性シンガーの「Maurane Voyer(モーラン・ヴォワイエ)」はエネルギッシュな歌唱で知られ、2025年9月にはパリでソロコンサートを開いており、知名度に関しては4人の中で一番ありそうです。放送禁止用語っぽくも「イケてる女」というニュアンスもあるお名前の「Bad Bitch(バッド・ビッチ)」は本名をCoralie Coutādhyといい、マルティニーク島のダンスホールを拠点に、カリブ各地やフロリダにあるクラブや音楽フェスでのステージで活動しています。なお、日本の女性ヒップホップグループAwichの曲「Bad Bitch 美学」とは関係ありません。

「Feu」は、前週ご紹介したハイチ国籍でマルチカルチャー、マルチリンガルな曲を書くNaïka(ナイカ)と比べれば、より「どカリブ」なカリビアン・ビートに寄った曲です。

 日本では、カリブの音楽というとジャマイカ発の英語曲や、キューバ発やドミニカ発のスペイン語曲がもっぱら紹介されている感がありますが、ハイチの「Kompas(コンパ)」や、マルティニーク島やグアドループ島の「Zouk(ズーク)」「Biguine(ビギン)」「Shatta(シャッタ)」のような、フランス語やクレオール語で歌われる「フレンチ・カリビアン」の音楽もまた、独特な味わいがあります。ぜひ聴いてみてください。

 もっとも、グアドループ島から世界に飛び出したカッサヴ(Kassav')の活躍を契機に80~90年代の「ワールドミュージック」ブームで聴かれたものの、その後は日本ではあまり話題にのぼらないのが惜しまれます。大学の仏文科とか、受験生に人気絶大の「国際系学部」で、「クレオール(Creole)」の音楽文化の研究をもっと盛んにやってほしいものですが……。

 

Feu - DJ Tutuss ft.Mikado,  Maurane Voyer,  Bad Bitch

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランス国旗とChanson Populaireの文字
 
2026年8月18日号

 

2026年8月14日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Maladie - Mauvais djo

 4 Pilé - Mauvais djo

 5 Pineapple - Leto

 6 Melodrama - Disiz, Theodora

 7 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 8 Pocahontas - PLK

 9 Seminaire - Bello & Dallas

 10 La pétasse - Aya Nakamura

 

【アルバムチャート】

 1 THIS & THAT - Stray Kids

 2 Petal - Ariana Grande

 3 Destinée - Aya Nakamura

 4 Et si j'échoue - Bouss

 5 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 6 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 7 Pyramide 2 - Werenoi

 8 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 9 Grand garçon - PLK

 10 The Cat - Nono La Grinta

 

 Shakira(シャキーラ)とバーナ・ボーイ(Burna Boy)の「Dai Dai(ダイ・ダイ)」のシングル1位はこれで6週連続です。シングル10位にアフロの女王、Aya Nakamura(アヤ・ナカムラ)の「La pétasse」(「バカな女」とか「アバズレ」を意味する下品な言葉)が前週の15位から浮上しました。アルバムチャート3位「Destinée」の収録曲です。

 

Stray Kids

 今週のアルバムチャートは、韓国の8人組ボーイズアイドルグループ、Stray Kids(ストレイキッズ)の8曲入り新作ミニアルバム「THIS & THAT」が初登場でいきなり1位になりました。8月7日リリース。タイトルは英語で「あれやこれや」「いろいろなこと」という意味です。2018年デビューで、メンバーは韓国籍が6人、韓国系オーストラリア人が2人。

 アルバムチャートの2位以下は前週とほぼ同じ顔ぶれですが、Stray Kidsの韓流の大先輩、BTSの「Arirang」が13 位になってトップ10圏外に押し出されています。

 

Naïka(ナイカ)


Naïka

 今週もSNEPアルバムチャートは1位以外は前週と同じ顔ぶれで夏枯れモードなので、旧フランス領の島国、Haïti(ハイチ)国籍の女性シンガー、Naïka(ナイカ)にカリビアンな「喝!」を入れてもらいましょう。ハイチは旧フランス領と言っても、独立したのはナポレオン1世が皇帝に即位した1804年で、220年以上も前です。

 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、ハイチの治安の現状は日本の戦国時代よりもひどい群雄割拠状態で、首都のPort-au-Prince(ポルトープランス)は、「応仁の乱」当時の京都、レバノン内戦当時のベイルート、旧ユーゴ内戦当時のサラエボのように、市街地に武装組織の支配地域が入り乱れてお互い対立抗争を繰り返し、ヒャッハー集団による銃撃戦や政治家の暗殺、一般市民の殺害、誘拐、略奪など悪事なら何でもあり。それに大地震やハリケーンなど自然災害も加わったために人道危機が深刻で、中央政府は「一応、あります」が無警察状態が続く「リアル北斗の拳」の日常です。国際的な支援もなかなか届かず、国民はどんどん外国へ逃げ出しています。

 かつて、Duvalier(デュバリエ)父子という強権的な独裁者がいて「一応、平和」だった時代には、同じカリブ海のMartinique(マルティニーク)島やGuadeloupe(グアダルーペ)島と並び立つほどフレンチ・クレオール文化が花開いていた国で、アフリカの土着文化の影響が色濃いブードゥー音楽(Voodoo Music)や、アフリカとヨーロッパの音楽が融合したダンスミュージックのコンパ(Compas)などで知られましたが、「音楽どころではない」現在、それらはアメリカやフランスなど外国の都市にあるハイチ系のコミュニティの中で受け継がれています。そこから現れた新星が、今週ご紹介するNaïka(ナイカ)です。

 1995年3月、キューバ系、ジャマイカ系、ハイチ系などカリビアン・コミュニティが揃ったフロリダ州マイアミで生まれた31歳。本名はVictoria Naika Richardといい、母親はハイチ出身ですがルーツは中東で、父親はマダガスカルで育ちましたがフランス国籍です。少女時代は父親の仕事の関係で今でもフランス領のグアダルーペ島、南太平洋のバヌアツ(旧・英仏共同統治領ニューヘブリディーズ/ヌーヴェルゼブリード)、アフリカのケニアや南アフリカ、フランスのパリなど世界各地で暮らして、それぞれの土地で音楽的な影響を受けたそうです。20歳だった2015年、ジョン・レノンを記念して創設された奨学金を受けてボストンにある名門「Berklee College of Music」(バークリー音楽大学)に入学しました。

 翌2016年、学友や先生の応援を受けてハイチの伝統曲「Papa Gèdè (Bel Gason)」を歌ってネットで配信したところ、2日間で20万回以上、トータル100万回以上の再生数を記録。無残に荒廃したハイチ国内で暮らす人も、外国に逃れたハイチ人も、スマホやラジオで彼女の歌を聴き、涙を流す人もいたそうです。

 バークリーを卒業した後は西海岸のLAを本拠地に本格的な音楽活動を開始。2017年にシングル「Call Me Marilyn」「Ride」でメジャーデビューしました。アメリカでは毎年シングルを出していますが、2026年2月には待望のファーストアルバム「Eclesia(エクレシア)」をリリースしています。Eclesiaは歴史的には古代ギリシャの「民会」、キリスト教では信者の共同体「会衆」を意味しますが、外国に逃れたハイチ人のコミュニティを指しているのかもしれません。 

 アメリカ在住の彼女のアイデンティティは「フランス系ハイチ人」ですが、自身を「Third Culture Kid(略称TCK/多文化環境の子/第三文化児)」と称し、自身の音楽を「World Pop(ワールド・ポップ)」と称しています。

 シンガーソングライターとして、アメリカのR&Bに、ハイチをはじめカリブの音楽、アフリカやラテンアメリカの音楽、さらにフレンチポップス、ラップフランセのようなフランスの音楽をも加えたグローバルな曲づくりを志向。作詞は英語でもフランス語でも、ハイチ・クレオール語(フランス語をベースにハイチ土着の言葉を加えた言語)でも行っています。ナイカはまさに、クロスカルチャーでマルチリンガルな多文化環境の子、と言えるでしょう。

 では、アルバム「Eclesia」から、シングル発売もされている「One Track Mind」(英語で「一途に熱中」というニュアンスの言葉)をお聴きください。シングルチャートでは前週の22位から20位に浮上し、「Outre-Mer(海外)」チャートでは前週3位でした。同じアルバムには、マルティニーク島の出身でフランスで活躍する38歳のラッパー、Kalash(カラシュ)とコラボした「One Track Mind Part II」も収録されています。

 

Naïka(ナイカ) - One Track Mind

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスのChanson Populaire
 
2026年8月11日号

 

2026年8月7日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Maladie - Mauvais djo

 4 Pilé - Mauvais djo

 5 Melodrama - Disiz, Theodora

 6 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 7 Pineapple - Leto

 8 Pocahontas - PLK

 9 Séminaire - Bello & Dallas

 10 Nuevayol - Bad Bunny

 

【アルバムチャート】

 1 Petal - Ariana Grande

 2 Destinée - Aya Nakamura

 3 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 4 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 5 Et si j'échoue - Bouss

 6 Pyramide 2 - Werenoi

 7 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 8 The Cat - Nono La Grinta

 9 Grand garçon - PLK

 10 Arirang - BTS

 

 シングルチャート1位は5週連続でShakira(シャキーラ)とバーナ・ボーイ(Burna Boy)のワールドカップ・アンセム「Dai Dai(ダイ・ダイ)」です。でももう8月も中旬で、ヨーロッパ各国では国内リーグ戦が開幕します。

 9位にBello & Dallas(ベロ&ダラス)の「Séminaire」が前週の12位から浮上しました。タイトルは日本語にもなっている「セミナー」のことですが、語源は「神学校」です。彼らはブルターニュ地方のレンヌ(Rennes)出身のラップ・デュオ。2026年6月12日付で新作アルバム「Sarah B.」がアルバムチャート3位になり、6月16日号でくわしくご紹介しています。

 

Ariana Grande

 今週のアルバムチャート1位は、アメリカの33歳の女性シンガーソングライター、Ariana Grande(アリアナ・グランデ)が7月31日にリリースした約2年ぶり、8枚目のスタジオアルバム「Petal」です。アメリカ、UKでも初登場1位でした。シングルチャートでもタイトルチューンが20位にチャートイン。「花びら」という意味ですが、「petal in the pavement(舗道に落ちた花びら)」という、逆境からのよみがえりを暗示する言葉からきています。彼女、過去にいろいろありましたから。アルバム収録曲「Hate That I Made You Love Me」も今週シングル18位です。

 

Bekar(ベカール)

 

Bekar

  今週のアルバムチャートは夏枯れモードで1位以外は前週と顔ぶれが同じなので、久しぶりに北フランスRoubaix(ルーベ)出身のラッパー、Bekar(ベカール)をとりあげます。過去に2023年4月11日号、2024年3月26日号でご紹介しています。台風シーズンなので、アルバム名「Plus fort que l'orage」(嵐よりも強く)にちなみまして(こじつけ?)。

 この2023年3月31日リリースのファーストアルバムはコンスタントに売れて、8月にSNEPからプラチナディスクに認定されました。そのタイトルでClaude Lelouch(クロード・ルルーシュ)監督の1966年の映画『Un homme et une femme(男と女)』の挿入歌でフレンチポップスの名曲「Plus fort que nous」(邦題:愛は私たちよりも強く/歌ったのはピエール・バル―とニコル・クロワジール)を連想した人がいるかもしれませんが、特にそれと関係はないようです。

 Bekar(ベカール)こと本名Alexandre Becquart(アレクサンドル・ベカール)は1998年1月、スペインの首都マドリード生まれの28歳。7歳からノール(Nord/59)県のRoubaix(ルーベ)で育ちました。ここはベルギーに近いリール都市圏の中核都市の一つで、伝統ある自転車レース「パリ~ルーベ(Paris-Roubaix)」で知られています。

 21歳だった2019年3月にミックステープ「Boréal」でラッパーとしてのソロキャリアをスタートし、2020年にミックステープ「Briques Rouges」、2021年にEP「Mira」、2022年にミックステープ「Mirasierra」を出し、2023年3月に出した「Plus fort que l'orage」でさらに注目されます。このアルバムは2024年に「Plus fort」と改題・再リリースされ、収録曲の「Magenta」がヒット。2025年6月にセカンドアルバム「Alba」(スペイン語で「夜明け」という意味)が出ました。

 最初のミックステープのメインチューンが「La mort a du goût」(死に味わいあり)で、続いて注目された曲が「Anxiolytique」(抗不安薬)と、タイトルからして「苦悩」「不安」を思わせる内向的なリリック(paroles)が数多くあり、それが独特な持ち味になっています。現代のフレンチラップの多様性と深みを象徴する存在と言えるでしょうか?

 日本との関わりで言えば「Yamamoto」(2021年)という曲があります。タイトルはフランスでも著名なファッションデザイナー、ヨウジヤマモト(山本耀司)氏のこと。1981年のパリ・コレのステージで世界のファッション界に「黒の衝撃」をもたらした「伝説」は、45年たった今も語り草になっています。

 歌詞でも「Flamme qui sort de la moto. Noir comme Yohji Yamamoto. Noir comme un couteau dans l'dos. Noir comme la couleur de ma galaxie」(拙訳:バイクから噴きあがる炎。ヨウジヤマモトのように黒い。背中に刺さったナイフのように黒い。俺のギャラクシー※の色のように黒い)とあります。「黒の衝撃」の影響は、当時まだ生まれていなかったラッパーにも及んでいるのです。

※サムスンのスマホ「ギャラクシー(Galaxy)」のこと。「アップル(64.08%)にあらざれば人にあらず」の日本と違って、フランスではスマホの販売シェア首位の座をめぐって長年、サムスン(29.19%)がアップル(34.99%)と互角の勝負を続けています(シェアの数値はアウンコンサルティングのシェア調査2026年7月版より)。

 さて、今回は7月17日にリリースされた新作シングル「Dunes & Icebergs」(砂丘と氷山)をお聴きください。最初は、こう始まります。

「Six heures trente mort bourré d'vant la boîte. Tout l'monde est parti même ma voix. Il m'reste deux clopes et un briquet qui postillonne des étincelles. J'crois qu'j'ai fait l'tour du museum de mes vingt-sept. Faut qu'je pense à m'ranger」

拙訳:(朝の)6時半、クラブの前で酔いつぶれた。みんないない。声もしない。タバコ2本と、火花を放つライター1本が残っている。僕は自分の27年間の博物館を(走馬灯のように)見たんだと思う。それを自分で整理しなければならないのだが……。

 遊び尽くした翌朝、早朝の都市の光景に漂う寂寥感、そして自ら抱いている虚無と絶望、憂鬱なる心情を、つぶやくようにラップしていきます。そして曲の最後は、このように終わります。

「Ici les cœurs et les âmes se perdent. Tu sais ici toutes les vagues se perdent. Entre les dunes et les icebergs」

拙訳:ここでは、心も魂もさまよい、消えていく。ここでは、波もみなさまよい、消えていく。砂丘と氷山の間にだ。わかるかい。

 こんなフレーズを「メンヘラ」とか「自虐的」と評するのはたやすいでしょう。でも、もし、日本の大正時代の詩人、萩原朔太郎が100年の時空を超えて「ふらんすへ行きたしと思へどもふらんすはあまりに遠し」(「旅上」)と嘆いたフランスの現代にラッパーとしてよみがえったとしたら、おそらくこんな寂寥感と孤独感に満ちたリリックを書いたのではないかと、私は思います。

 

Bekar(ベカール) - Dunes & Icebergs

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスの国旗とChanson Populaire
 
2026年8月4日号

 

2026年7月31日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 2 Pilé - Mauvais djo

 3 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 4 Maladie - Mauvais djo

 5 Melodrama - Disiz, Theodora

 6 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 7 Pineapple - Leto

 8 Pocahontas - PLK

 9 Nuevayol - Bad Bunny

 10 Dracula - Tame Impala

 

【アルバムチャート】

 1 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 2 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 3 Destinée - Aya Nakamura

 4 Foreign Tongues - The Rolling Stones

 5 Et si j'échoue - Bouss

 6 Pyramide 2 - Werenoi

 7 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 8 Grand garçon - PLK

 9 The Cat - Nono La Grinta

 10 Arirang - BTS

 

 シングルチャート1位は4週連続でShakira(シャキーラ)とバーナ・ボーイ(Burna Boy)の「Dai Dai(ダイ・ダイ)」のアカペラ・ヴァージョンでした。これを閉会式で歌っていたワールドカップが終わって10日以上がたち、サッカーファンの皆さんはもう完全に8月開始の26-27シーズン突入前の有力選手の移籍話でもちきりなのですが……。

 シングルチャートは1位から13位まで順位が前週とそっくり同じという、完全バカンスモードというか夏枯れモードというか……。SNEPがストライキ(Grève)決行中なのかとさえ思いました。フランスではよくあること。

 今週のアルバムチャート1位はPuerto Rico(プエルトリコ)出身の31歳、Bad Bunny(バッド・バニー)が2025年1月に出した6枚目のスタジオアルバム「DeBÍ TiRAR MáS FOToS」です。第68回グラミー賞年間最優秀アルバム賞を受賞したラテン・トラップの金字塔。これまでフランスでは最高2位で、1位は初めてです。タイトルはスペイン語で「もっとたくさんの写真を撮るべきだった」という意味です。

 

Bouss

 5位にBouss(ブース)の旧作「Et si j'échoue」(で、僕が失敗したらどうなる?)が浮上。2024年11月22日リリースで、同年11月29日付で最高3位になっています。ブースとこのアルバムについては2025年6月24日号でくわしく解説していますが、1998年6月、パリ郊外のオー=ド=セーヌ(Hauts-de-Seine/92)県コロンブ(Columbes)で生まれ、2020年にデビューした28歳のラッパーです。両親がハイチ系で、ハイチ、キューバ、ジャマイカなどアフロ・カリビアンの音楽の影響を受けており、「Parler tout bas」(ささやくように歌う)というコンセプトで独自の境地を築いています。

 

La Rvfleuze(ラ・ルヴフルーズ)


La Rvflueze

 今週のアルバムチャート7位はLa Rvfleuze(ラ・ルヴフルーズ)が3月リリース直後、初登場1位になった「Numéro d'écrou(ニュメロ・デクル)」です。タイトルは刑務所の「受刑者番号」という意味。ラ・ルヴフルーズは2001年7月、パリ19区のPorte d'Aubervilliers(オーベルヴィリエ門)地区生まれの25歳。本名はセニー・ベンガリ(Seny Bengaly)といいセネガル系です。

 この地区はパリ市全20区を囲む「ティエールの城壁」の北端、18区のLa Chapelle(ラ・シャペル)地区との境界にあたり、再開発地区にはあのChanel(シャネル)が服飾、工芸、インテリアの職人を集めた「手仕事」の拠点「Le 19M(ル・ディズヌフ・エム)」ができるなど、大きく生まれ変わりつつあります。同じ19区にはミッテラン政権の80年代、運河沿いに文化施設を集めて整備した大規模都市公園「Parc de la Villette(ラ・ヴィレット公園)」もあります。「パリ18区、19区=荒廃、危険、近づくな」など古い情報で勝手にレッテル貼りをしないようにしましょう。そのへんの住民より、RERのB線の途中駅からドヤドヤ乗ってくる若い奴らのほうがよっぽど怖い。

 さて、ラ・ルヴフルーズはジャンル的には過激で硬派な「ドリルラッパー」とみなされ、アルバムタイトルもルックスもそれっぽいのですが、音楽はあえてテンポを落とした重厚なフロウと緻密なリリックが特徴というややソフトめの路線です。それがかえって「聴きやすい」と、今の人気につながっているようです。

 アルバム「Numéro d'écrou」ではGazo、Hamza、Freeze Corleone、Koba LaDら有名どころのラッパーたちとコラボレーション。エンディングナンバーの「Argent Sale」(汚いカネ)でシングルヒットを飛ばしていますが、今回はシングルチャート今週3位の「アフロ女将軍」Aya Nakamura(アヤ・ナカムラ)とのデュエット「Sexy Nana」をお聴きください。

 歌詞(paroles)の内容は「Chanel, Gucci, Prada(シャネル、グッチ、プラダ)」と有名ブランド名を連呼したり、「Galeries(ギャラリー・ラファイエット)」「Printemps(プランタン)」などパリの高級デパートの名前が出てきたりと、まさしくお買い物デート。もし、男性がMonoprix(モノプリ)やCarrefour(カルフール)なんかに連れて行ったら、即刻関係終了? お買い物デートでは女性はワクワク、ウキウキ気分、男性は黙ってATMと化すのが常ですが、この曲でもやはり、たえずリードしているのは年上の中村さん。なお、この曲はアルバムには未収録です。

 

Aya Nakamura(アヤ・ナカムラ)& La Rvfleuze(ラ・ルヴフルーズ) - Sexy Nana

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランス国旗にChanson Populaireと表示
 
2026年7月28日号

 

2026年7月24日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 2 Pilé - Mauvais djo

 3 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 4 Maladie - Mauvais djo

 5 Melodrama - Disiz, Theodora

 6 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 7 Pineapple - Leto

 8 Pocahontas - PLK

 9 Nuevayol - Bad Bunny

 10 Dracula - Tame Impala

 

【アルバムチャート】

 1 Daughter From Hell - Gracie Abrams

 2 Foreign Tongues - The Rolling Stones

 3 Arirang - BTS

 4 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 5 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 6 Destinée - Aya Nakamura

 7 Pyramide 2 - Werenoi

 8 Grand garçon - PLK

 9 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 10 The Cat - Nono La Grinta

 

 シングルチャート1位は3週連続でShakira(シャキーラ)とバーナ・ボーイ(Burna Boy)の「Dai Dai(ダイ・ダイ)」のアカペラ・ヴァージョンです。タイトルはイタリア語で「行け、行け」という意味。シャキーラとワールドカップ決勝戦のハーフタイムショーで共演した韓国のBTSの「Arirang」はアルバムチャートで3位に再浮上しましたが、Madonna(マドンナ)のほうはトップ10落ちの12位でした。

 シングルチャートのほうのトップ10ですが、前週と顔ぶれが同じで順位が多少入れ替わっただけ。ニューリリースも夏枯れ気味でしょうか?

 

Gracie Abrams

 今週のアルバムチャート1位は、前週のローリング・ストーンズを2位に退けて、アメリカ・LA出身の26歳の女性シンガーソングライターGracie Abrams(グレイシー・エイブラムス)の7月17日発売の3枚目のスタジオアルバム「Daughter From Hell」(地獄から来た娘)でした。テイラー・スウィフトの「妹分」的な存在で2019年デビュー。2024年の「That's So True」でビルボートチャート最高6位のヒットを飛ばしました。2025年4月初来日。父親は『スターウォーズ』『スタートレック』シリーズの映画を何本か撮っている映画監督のJ・J・エイブラムス氏です。

 

Ibrahim Maalouf(イブラヒム・マーロフ)


Ibrahim Maalouf

 前週はSNEPクラシックチャートからイタリアのベテランピアニスト、Ludovico Einaudi(ルドヴィコ・エイナウディ)をとりあげましたが、今週は、前週のSNEPジャズチャートで6月12日リリースの9曲入りアルバム「Trumpets of Michel-Ange Vol.2」が3位に入ったトランペット奏者、Ibrahim Maalouf(イブラヒム・マーロフ)をとりあげます。ジャズチャートでは、晩年をフランスで暮らし2003年に70歳で亡くなった女性ジャズシンガーNina Simone(ニーナ・シモン)が毎週上位を占め続けているのですが、レバノン生まれでパリで音楽を学び、フランスを拠点にジャズシーンでワールドワイドな活躍をみせる彼も、フランス人の間では人気があります。

 1980年11月、中東レバノンの首都ベイルート生まれの45歳。当時のレバノンは武装組織が入り乱れる内戦の渦中で、幼少期にトランペット奏者の父親ナシム・マーロフや家族とともに戦火を避けてフランスに移住しました。レバノンは旧フランス植民地(委任統治領)で、現在もフランス語が英語とともに広く通用します。

「四分音(微分音)トランペット」考案者の父親に7歳からトランペット演奏の英才教育を受け、パリ国立高等音楽・舞踏学校(Conservatoire de Paris)では、バロック音楽、現代音楽、アラブ古典音楽からジャズの即興演奏まで、演奏や音楽理論や作曲法など幅広く学びました。

 20代の頃は父親に同行してヨーロッパや中東諸国を回り、クラシック、主にバロック音楽の演奏家たちと共演していましたが、やがて、クラシックの枠を大きく超えた活躍をみせるようになります。きっかけとしては28歳だった2008年11月、パリの伝統ある劇場シャトレ座(Théâtre du Châtelet)で演じられた現代オペラ「Welcome to the Voice」に演奏で参加したその楽屋で、主演のSting(スティング)やElvis Costello(エルヴィス・コステロ)と出会ったことでした。スティングはその場で彼の才能を絶賛した上、自身のアルバム「If on a Winter's Night...」のレコーディングへの参加を依頼したほどです。

「ジャンル、国籍、話す言葉は違っても、いいものはいい」と世界で認められていくのがミュージシャンの世界。ポップス、ロック、ジャズ、エレクトロ・ミュージック、映画のサウンドトラック、アフロポップ、ルーツのアラビア音楽などなど、彼の演奏、作曲、編曲、プロデュースの才能を活かす場がひろがっていきました。

 ジャズについては批評家のJean-Louis Perrier(ジャン=ルイ・ペリエ)の紹介でバンドを結成し、2006年2月にパリ10区にあるフランスを代表するジャズクラブ「New Morning(ニュー・モーニング)」に出演。2017年にスイスの「モントルー・ジャズ・フェスティバル」に出演した時には自らもトランペット奏者である大物プロデューサーQuincy Jones(クインシー・ジョーンズ)に注目され、以後、USAでもジャズメンからラッパーまで人脈がどんどん拡大していきました。

 一方では2017年、1987年に亡くなったDalida(ダリダ)の没後30年トリビュート盤「Dalida By Ibrahim Maalouf」を出し、岩下志麻さんも歌っていた「18歳の彼(Il venait d'avoir 18 ans)」のトランペット演奏ヴァージョンも収録するなどしてシャンソンやフレンチポップスのオーディエンスの心もひきつけています。

 Victoires de la Musique(ヴィクトワール音楽賞)は2010年、2013年、2014年、2017年と4回受賞。グラミー賞は2022年、ベナンのアフロポップ女性シンガー、Angélique Kidjo(アンジェリーク・キジョー)とのコラボアルバム「Queen of Sheba」(シバの女王)でノミネートされました。なお、フランス政府からは「Ordre des Arts et des Lettres(芸術文化勲章)」「Ordre national du Mérite(国家功労勲章)」のChevalier(シュバリエ)が授与されています。

 ファーストアルバムは2007年の「Diasporas(ディアスポラ)」で、タイトルに内戦で祖国を離れざるを得なかったレバノン人の心情を込めています。最も売れたアルバムは2015年の「Red & Black Light」で、SNEP総合チャートでも最高8位になりました。なお2013年には、2020年9月22日号でご紹介したGrand Corps Malade(グラン・コー・マラード)のアルバム「Funambule」をプロデュースしていて、これは最高3位になっています。

 イブラヒム・マーロフはたびたび来日しており、最近では2024年11月と2025年10月に東京・南青山の「ブルーノート東京」のステージに立っています。日本の「X JAPAN」のリーダーYOSHIKIさんとはサウジアラビアで共演したり、「ALULA(アルウラ)」という曲を共同で制作したこともあります。

 新作アルバム「Trumpets of Michel-Ange Vol.2」ですが、陽気なジャズナンバーに、彼のルーツの地のアラブ音楽などワールドミュージック風味を加味したラインナップです。今回はその収録曲から「ニューオーリンズの革命児」ことTrombone Shorty(トロンボーン・ショーティ)をフィーチャーした「BRING THE LIGHT」をお聴きください。

 

Ibrahim Maalouf(イブラヒム・マーロフ) - BRING THE LIGHT

 

では、また来週

À la semaine prochaine!