仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスのChanson Populaire
 
2026年8月11日号

 

2026年8月7日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Maladie - Mauvais djo

 4 Pilé - Mauvais djo

 5 Melodrama - Disiz, Theodora

 6 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 7 Pineapple - Leto

 8 Pocahontas - PLK

 9 Séminaire - Bello & Dallas

 10 Nuevayol - Bad Bunny

 

【アルバムチャート】

 1 Petal - Ariana Grande

 2 Destinée - Aya Nakamura

 3 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 4 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 5 Et si j'échoue - Bouss

 6 Pyramide 2 - Werenoi

 7 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 8 The Cat - Nono La Grinta

 9 Grand garçon - PLK

 10 Arirang - BTS

 

 シングルチャート1位は5週連続でShakira(シャキーラ)とバーナ・ボーイ(Burna Boy)のワールドカップ・アンセム「Dai Dai(ダイ・ダイ)」です。でももう8月も中旬で、ヨーロッパ各国では国内リーグ戦が開幕します。

 9位にBello & Dallas(ベロ&ダラス)の「Séminaire」が前週の12位から浮上しました。タイトルは日本語にもなっている「セミナー」のことですが、語源は「神学校」です。彼らはブルターニュ地方のレンヌ(Rennes)出身のラップ・デュオ。2026年6月12日付で新作アルバム「Sarah B.」がアルバムチャート3位になり、6月16日号でくわしくご紹介しています。

 

Ariana Grande

 今週のアルバムチャート1位は、アメリカの33歳の女性シンガーソングライター、Ariana Grande(アリアナ・グランデ)が7月31日にリリースした約2年ぶり、8枚目のスタジオアルバム「Petal」です。アメリカ、UKでも初登場1位でした。シングルチャートでもタイトルチューンが20位にチャートイン。「花びら」という意味ですが、「petal in the pavement(舗道に落ちた花びら)」という、逆境からのよみがえりを暗示する言葉からきています。彼女、過去にいろいろありましたから。アルバム収録曲「Hate That I Made You Love Me」も今週シングル18位です。

 

Bekar(ベカール)

 

Bekar

  今週のアルバムチャートは夏枯れモードで1位以外は前週と顔ぶれが同じなので、久しぶりに北フランスRoubaix(ルーベ)出身のラッパー、Bekar(ベカール)をとりあげます。過去に2023年4月11日号、2024年3月26日号でご紹介しています。台風シーズンなので、アルバム名「Plus fort que l'orage」(嵐よりも強く)にちなみまして(こじつけ?)。

 この2023年3月31日リリースのファーストアルバムはコンスタントに売れて、8月にSNEPからプラチナディスクに認定されました。そのタイトルでClaude Lelouch(クロード・ルルーシュ)監督の1966年の映画『Un homme et une femme(男と女)』の挿入歌でフレンチポップスの名曲「Plus fort que nous」(邦題:愛は私たちよりも強く/歌ったのはピエール・バル―とニコル・クロワジール)を連想した人がいるかもしれませんが、特にそれと関係はないようです。

 Bekar(ベカール)こと本名Alexandre Becquart(アレクサンドル・ベカール)は1998年1月、スペインの首都マドリード生まれの28歳。7歳からノール(Nord/59)県のRoubaix(ルーベ)で育ちました。ここはベルギーに近いリール都市圏の中核都市の一つで、伝統ある自転車レース「パリ~ルーベ(Paris-Roubaix)」で知られています。

 21歳だった2019年3月にミックステープ「Boréal」でラッパーとしてのソロキャリアをスタートし、2020年にミックステープ「Briques Rouges」、2021年にEP「Mira」、2022年にミックステープ「Mirasierra」を出し、2023年3月に出した「Plus fort que l'orage」でさらに注目されます。このアルバムは2024年に「Plus fort」と改題・再リリースされ、収録曲の「Magenta」がヒット。2025年6月にセカンドアルバム「Alba」(スペイン語で「夜明け」という意味)が出ました。

 最初のミックステープのメインチューンが「La mort a du goût」(死に味わいあり)で、続いて注目された曲が「Anxiolytique」(抗不安薬)と、タイトルからして「苦悩」「不安」を思わせる内向的なリリック(paroles)が数多くあり、それが独特な持ち味になっています。現代のフレンチラップの多様性と深みを象徴する存在と言えるでしょうか?

 日本との関わりで言えば「Yamamoto」(2021年)という曲があります。タイトルはフランスでも著名なファッションデザイナー、ヨウジヤマモト(山本耀司)氏のこと。1981年のパリ・コレのステージで世界のファッション界に「黒の衝撃」をもたらした「伝説」は、45年たった今も語り草になっています。

 歌詞でも「Flamme qui sort de la moto. Noir comme Yohji Yamamoto. Noir comme un couteau dans l'dos. Noir comme la couleur de ma galaxie」(拙訳:バイクから噴きあがる炎。ヨウジヤマモトのように黒い。背中に刺さったナイフのように黒い。俺のギャラクシー※の色のように黒い)とあります。「黒の衝撃」の影響は、当時まだ生まれていなかったラッパーにも及んでいるのです。

※サムスンのスマホ「ギャラクシー(Galaxy)」のこと。「アップル(64.08%)にあらざれば人にあらず」の日本と違って、フランスではスマホの販売シェア首位の座をめぐって長年、サムスン(29.19%)がアップル(34.99%)と互角の勝負を続けています(シェアの数値はアウンコンサルティングのシェア調査2026年7月版より)。

 さて、今回は7月17日にリリースされた新作シングル「Dunes & Icebergs」(砂丘と氷山)をお聴きください。最初は、こう始まります。

「Six heures trente mort bourré d'vant la boîte. Tout l'monde est parti même ma voix. Il m'reste deux clopes et un briquet qui postillonne des étincelles. J'crois qu'j'ai fait l'tour du museum de mes vingt-sept. Faut qu'je pense à m'ranger」

拙訳:(朝の)6時半、クラブの前で酔いつぶれた。みんないない。声もしない。タバコ2本と、火花を放つライター1本が残っている。僕は自分の27年間の博物館を(走馬灯のように)見たんだと思う。それを自分で整理しなければならないのだが……。

 遊び尽くした翌朝、早朝の都市の光景に漂う寂寥感、そして自ら抱いている虚無と絶望、憂鬱なる心情を、つぶやくようにラップしていきます。そして曲の最後は、このように終わります。

「Ici les cœurs et les âmes se perdent. Tu sais ici toutes les vagues se perdent. Entre les dunes et les icebergs」

拙訳:ここでは、心も魂もさまよい、消えていく。ここでは、波もみなさまよい、消えていく。砂丘と氷山の間にだ。わかるかい。

 こんなフレーズを「メンヘラ」とか「自虐的」と評するのはたやすいでしょう。でも、もし、日本の大正時代の詩人、萩原朔太郎が100年の時空を超えて「ふらんすへ行きたしと思へどもふらんすはあまりに遠し」(「旅上」)と嘆いたフランスの現代にラッパーとしてよみがえったとしたら、おそらくこんな寂寥感と孤独感に満ちたリリックを書いたのではないかと、私は思います。

 

Bekar(ベカール) - Dunes & Icebergs

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスの国旗とChanson Populaire
 
2026年8月4日号

 

2026年7月31日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 2 Pilé - Mauvais djo

 3 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 4 Maladie - Mauvais djo

 5 Melodrama - Disiz, Theodora

 6 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 7 Pineapple - Leto

 8 Pocahontas - PLK

 9 Nuevayol - Bad Bunny

 10 Dracula - Tame Impala

 

【アルバムチャート】

 1 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 2 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 3 Destinée - Aya Nakamura

 4 Foreign Tongues - The Rolling Stones

 5 Et si j'échoue - Bouss

 6 Pyramide 2 - Werenoi

 7 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 8 Grand garçon - PLK

 9 The Cat - Nono La Grinta

 10 Arirang - BTS

 

 シングルチャート1位は4週連続でShakira(シャキーラ)とバーナ・ボーイ(Burna Boy)の「Dai Dai(ダイ・ダイ)」のアカペラ・ヴァージョンでした。これを閉会式で歌っていたワールドカップが終わって10日以上がたち、サッカーファンの皆さんはもう完全に8月開始の26-27シーズン突入前の有力選手の移籍話でもちきりなのですが……。

 シングルチャートは1位から13位まで順位が前週とそっくり同じという、完全バカンスモードというか夏枯れモードというか……。SNEPがストライキ(Grève)決行中なのかとさえ思いました。フランスではよくあること。

 今週のアルバムチャート1位はPuerto Rico(プエルトリコ)出身の31歳、Bad Bunny(バッド・バニー)が2025年1月に出した6枚目のスタジオアルバム「DeBÍ TiRAR MáS FOToS」です。第68回グラミー賞年間最優秀アルバム賞を受賞したラテン・トラップの金字塔。これまでフランスでは最高2位で、1位は初めてです。タイトルはスペイン語で「もっとたくさんの写真を撮るべきだった」という意味です。

 

Bouss

 5位にBouss(ブース)の旧作「Et si j'échoue」(で、僕が失敗したらどうなる?)が浮上。2024年11月22日リリースで、同年11月29日付で最高3位になっています。ブースとこのアルバムについては2025年6月24日号でくわしく解説していますが、1998年6月、パリ郊外のオー=ド=セーヌ(Hauts-de-Seine/92)県コロンブ(Columbes)で生まれ、2020年にデビューした28歳のラッパーです。両親がハイチ系で、ハイチ、キューバ、ジャマイカなどアフロ・カリビアンの音楽の影響を受けており、「Parler tout bas」(ささやくように歌う)というコンセプトで独自の境地を築いています。

 

La Rvfleuze(ラ・ルヴフルーズ)


La Rvflueze

 今週のアルバムチャート7位はLa Rvfleuze(ラ・ルヴフルーズ)が3月リリース直後、初登場1位になった「Numéro d'écrou(ニュメロ・デクル)」です。タイトルは刑務所の「受刑者番号」という意味。ラ・ルヴフルーズは2001年7月、パリ19区のPorte d'Aubervilliers(オーベルヴィリエ門)地区生まれの25歳。本名はセニー・ベンガリ(Seny Bengaly)といいセネガル系です。

 この地区はパリ市全20区を囲む「ティエールの城壁」の北端、18区のLa Chapelle(ラ・シャペル)地区との境界にあたり、再開発地区にはあのChanel(シャネル)が服飾、工芸、インテリアの職人を集めた「手仕事」の拠点「Le 19M(ル・ディズヌフ・エム)」ができるなど、大きく生まれ変わりつつあります。同じ19区にはミッテラン政権の80年代、運河沿いに文化施設を集めて整備した大規模都市公園「Parc de la Villette(ラ・ヴィレット公園)」もあります。「パリ18区、19区=荒廃、危険、近づくな」など古い情報で勝手にレッテル貼りをしないようにしましょう。そのへんの住民より、RERのB線の途中駅からドヤドヤ乗ってくる若い奴らのほうがよっぽど怖い。

 さて、ラ・ルヴフルーズはジャンル的には過激で硬派な「ドリルラッパー」とみなされ、アルバムタイトルもルックスもそれっぽいのですが、音楽はあえてテンポを落とした重厚なフロウと緻密なリリックが特徴というややソフトめの路線です。それがかえって「聴きやすい」と、今の人気につながっているようです。

 アルバム「Numéro d'écrou」ではGazo、Hamza、Freeze Corleone、Koba LaDら有名どころのラッパーたちとコラボレーション。エンディングナンバーの「Argent Sale」(汚いカネ)でシングルヒットを飛ばしていますが、今回はシングルチャート今週3位の「アフロ女将軍」Aya Nakamura(アヤ・ナカムラ)とのデュエット「Sexy Nana」をお聴きください。

 歌詞(paroles)の内容は「Chanel, Gucci, Prada(シャネル、グッチ、プラダ)」と有名ブランド名を連呼したり、「Galeries(ギャラリー・ラファイエット)」「Printemps(プランタン)」などパリの高級デパートの名前が出てきたりと、まさしくお買い物デート。もし、男性がMonoprix(モノプリ)やCarrefour(カルフール)なんかに連れて行ったら、即刻関係終了? お買い物デートでは女性はワクワク、ウキウキ気分、男性は黙ってATMと化すのが常ですが、この曲でもやはり、たえずリードしているのは年上の中村さん。なお、この曲はアルバムには未収録です。

 

Aya Nakamura(アヤ・ナカムラ)& La Rvfleuze(ラ・ルヴフルーズ) - Sexy Nana

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランス国旗にChanson Populaireと表示
 
2026年7月28日号

 

2026年7月24日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira, Burna Boy

 2 Pilé - Mauvais djo

 3 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 4 Maladie - Mauvais djo

 5 Melodrama - Disiz, Theodora

 6 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 7 Pineapple - Leto

 8 Pocahontas - PLK

 9 Nuevayol - Bad Bunny

 10 Dracula - Tame Impala

 

【アルバムチャート】

 1 Daughter From Hell - Gracie Abrams

 2 Foreign Tongues - The Rolling Stones

 3 Arirang - BTS

 4 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 5 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 6 Destinée - Aya Nakamura

 7 Pyramide 2 - Werenoi

 8 Grand garçon - PLK

 9 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 10 The Cat - Nono La Grinta

 

 シングルチャート1位は3週連続でShakira(シャキーラ)とバーナ・ボーイ(Burna Boy)の「Dai Dai(ダイ・ダイ)」のアカペラ・ヴァージョンです。タイトルはイタリア語で「行け、行け」という意味。シャキーラとワールドカップ決勝戦のハーフタイムショーで共演した韓国のBTSの「Arirang」はアルバムチャートで3位に再浮上しましたが、Madonna(マドンナ)のほうはトップ10落ちの12位でした。

 シングルチャートのほうのトップ10ですが、前週と顔ぶれが同じで順位が多少入れ替わっただけ。ニューリリースも夏枯れ気味でしょうか?

 

Gracie Abrams

 今週のアルバムチャート1位は、前週のローリング・ストーンズを2位に退けて、アメリカ・LA出身の26歳の女性シンガーソングライターGracie Abrams(グレイシー・エイブラムス)の7月17日発売の3枚目のスタジオアルバム「Daughter From Hell」(地獄から来た娘)でした。テイラー・スウィフトの「妹分」的な存在で2019年デビュー。2024年の「That's So True」でビルボートチャート最高6位のヒットを飛ばしました。2025年4月初来日。父親は『スターウォーズ』『スタートレック』シリーズの映画を何本か撮っている映画監督のJ・J・エイブラムス氏です。

 

Ibrahim Maalouf(イブラヒム・マーロフ)


Ibrahim Maalouf

 前週はSNEPクラシックチャートからイタリアのベテランピアニスト、Ludovico Einaudi(ルドヴィコ・エイナウディ)をとりあげましたが、今週は、前週のSNEPジャズチャートで6月12日リリースの9曲入りアルバム「Trumpets of Michel-Ange Vol.2」が3位に入ったトランペット奏者、Ibrahim Maalouf(イブラヒム・マーロフ)をとりあげます。ジャズチャートでは、晩年をフランスで暮らし2003年に70歳で亡くなった女性ジャズシンガーNina Simone(ニーナ・シモン)が毎週上位を占め続けているのですが、レバノン生まれでパリで音楽を学び、フランスを拠点にジャズシーンでワールドワイドな活躍をみせる彼も、フランス人の間では人気があります。

 1980年11月、中東レバノンの首都ベイルート生まれの45歳。当時のレバノンは武装組織が入り乱れる内戦の渦中で、幼少期にトランペット奏者の父親ナシム・マーロフや家族とともに戦火を避けてフランスに移住しました。レバノンは旧フランス植民地(委任統治領)で、現在もフランス語が英語とともに広く通用します。

「四分音(微分音)トランペット」考案者の父親に7歳からトランペット演奏の英才教育を受け、パリ国立高等音楽・舞踏学校(Conservatoire de Paris)では、バロック音楽、現代音楽、アラブ古典音楽からジャズの即興演奏まで、演奏や音楽理論や作曲法など幅広く学びました。

 20代の頃は父親に同行してヨーロッパや中東諸国を回り、クラシック、主にバロック音楽の演奏家たちと共演していましたが、やがて、クラシックの枠を大きく超えた活躍をみせるようになります。きっかけとしては28歳だった2008年11月、パリの伝統ある劇場シャトレ座(Théâtre du Châtelet)で演じられた現代オペラ「Welcome to the Voice」に演奏で参加したその楽屋で、主演のSting(スティング)やElvis Costello(エルヴィス・コステロ)と出会ったことでした。スティングはその場で彼の才能を絶賛した上、自身のアルバム「If on a Winter's Night...」のレコーディングへの参加を依頼したほどです。

「ジャンル、国籍、話す言葉は違っても、いいものはいい」と世界で認められていくのがミュージシャンの世界。ポップス、ロック、ジャズ、エレクトロ・ミュージック、映画のサウンドトラック、アフロポップ、ルーツのアラビア音楽などなど、彼の演奏、作曲、編曲、プロデュースの才能を活かす場がひろがっていきました。

 ジャズについては批評家のJean-Louis Perrier(ジャン=ルイ・ペリエ)の紹介でバンドを結成し、2006年2月にパリ10区にあるフランスを代表するジャズクラブ「New Morning(ニュー・モーニング)」に出演。2017年にスイスの「モントルー・ジャズ・フェスティバル」に出演した時には自らもトランペット奏者である大物プロデューサーQuincy Jones(クインシー・ジョーンズ)に注目され、以後、USAでもジャズメンからラッパーまで人脈がどんどん拡大していきました。

 一方では2017年、1987年に亡くなったDalida(ダリダ)の没後30年トリビュート盤「Dalida By Ibrahim Maalouf」を出し、岩下志麻さんも歌っていた「18歳の彼(Il venait d'avoir 18 ans)」のトランペット演奏ヴァージョンも収録するなどしてシャンソンやフレンチポップスのオーディエンスの心もひきつけています。

 Victoires de la Musique(ヴィクトワール音楽賞)は2010年、2013年、2014年、2017年と4回受賞。グラミー賞は2022年、ベナンのアフロポップ女性シンガー、Angélique Kidjo(アンジェリーク・キジョー)とのコラボアルバム「Queen of Sheba」(シバの女王)でノミネートされました。なお、フランス政府からは「Ordre des Arts et des Lettres(芸術文化勲章)」「Ordre national du Mérite(国家功労勲章)」のChevalier(シュバリエ)が授与されています。

 ファーストアルバムは2007年の「Diasporas(ディアスポラ)」で、タイトルに内戦で祖国を離れざるを得なかったレバノン人の心情を込めています。最も売れたアルバムは2015年の「Red & Black Light」で、SNEP総合チャートでも最高8位になりました。なお2013年には、2020年9月22日号でご紹介したGrand Corps Malade(グラン・コー・マラード)のアルバム「Funambule」をプロデュースしていて、これは最高3位になっています。

 イブラヒム・マーロフはたびたび来日しており、最近では2024年11月と2025年10月に東京・南青山の「ブルーノート東京」のステージに立っています。日本の「X JAPAN」のリーダーYOSHIKIさんとはサウジアラビアで共演したり、「ALULA(アルウラ)」という曲を共同で制作したこともあります。

 新作アルバム「Trumpets of Michel-Ange Vol.2」ですが、陽気なジャズナンバーに、彼のルーツの地のアラブ音楽などワールドミュージック風味を加味したラインナップです。今回はその収録曲から「ニューオーリンズの革命児」ことTrombone Shorty(トロンボーン・ショーティ)をフィーチャーした「BRING THE LIGHT」をお聴きください。

 

Ibrahim Maalouf(イブラヒム・マーロフ) - BRING THE LIGHT

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスのChanson Populaire
 
2026年7月21日号

 

2026年7月17日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira

 2 Pilé - Mauvais djo

 3 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 4 Maladie - Mauvais djo

 5 Melodrama - Disiz, Theodora

 6 Pineapple - Leto

 7 Pocahontas - PLK

 8 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 9 Nuevayol - Bad Bunny

 10 Dracula - Tame Impala

 

【アルバムチャート】

 1 Foreign Tongues - The Rolling Stones

 2 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 3 Confessions II - Madonna

 4 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 5 Destinée - Aya Nakamura

 6 The Cat - Nono La Grinta

 7 Grand garçon - PLK

 8 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 9 Pyramide 2 - Werenoi

 10 Et si j'échoue - Bouss

 

 今週もシングルチャート1位はコロンビア出身のShakira(シャキーラ)がバーナ・ボーイ(Burna Boy)をフィーチャーした「Dai Dai」です。7月19日(現地時間)に行われたワールドカップ決勝戦のハーフタイム・ショーで一緒に出演していました。

 シングル10位にTame Impala(テーム・インパラ)の「Dracula(ドラキュラ)」が前週の11位から浮上。テーム・インパラは、オーストラリア・パース出身のKevin Parker(ケヴィン・パーカー)による、60年代のサイケデリック・ロックを現代によみがえらせようというサイケデリック・ミュージック・プロジェクトで、バンドとしてもライブ活動を行っています。

「Dracula」は2025年9月リリースの5枚目のアルバム「Deadbeat」の収録曲で、シングルではBLACKPINKの女性シンガー、JENNIE(ジェニー)をフィーチャーしています。アイルランドの作家Bram Stoker(ブラム・ストーカー)が生み出した世界的に有名なキャラクター「吸血鬼ドラキュラ」が、太陽の光を避けながらも愛する人をひたすら求め続けるというロマンティックなリリックが人気です。

 

The Rolling Stones

 今週のアルバムチャート1位はThe Rolling Stones(ザ・ローリング・ストーンズ)です。7月10日リリースの約3年ぶりの14曲入りの新作「Foreign Tongues」は、UKでは25枚目のスタジオアルバムです。

 では、ストーンズについて私が知っているニ、三の事柄。彼らはフランスとは少なからぬ縁があります。フロントマンの今年82歳のMick Jagger(ミック・ジャガー)はフランスで結婚式を挙げ、UKの重い税金を嫌ってフランスに移住しロワール地方の古城に住んでいます。なお、彼の邸宅はロンドンのチェルシー地区や、島全体を個人所有するカリブ海の島にもあります。

 2022年に亡くなったヌーヴェルヴァーグの巨匠Jean-Luc Godard(ジャン=リュック・ゴダール)監督が1968年、五月革命直後に撮った映画『One Plus One(ワン・プラス・ワン)』は、ストーンズの「Sympathy for the Devil(悪魔を憐れむ歌)」のレコーディング風景と、過激な革命家のインタビューと、ヒトラー「わが闘争」の単調な朗読が、アンドレ・ブルトンの「自動筆記」のごとく何の脈絡もなく並行し、ラストは「悪魔を憐れむ歌」をBGMに革命のヒロイン役アンヌ・ヴィアゼムスキーが真っ赤に染められクレーンで宙吊りにされて終わります。そのシーンをめぐってさまざまな解釈が交錯しました。ゴダール監督がミュージシャンのレコーディングを撮るのは、1987年の『Soigne ta droite(右側に気をつけろ)』でもフランスのロックバンドLes Rita Mitsouko(レ・リタ・ミツコ)でやっています。どちらの映画も、ぜひご覧ください。

 

Ludovico Einaudi(ルドヴィコ・エイナウディ)


Ludovico Einaudi

 梅雨が明けて、暑い夏がやってきました。暑気払いにピアノソロをお聴きになられてはいかがでしょうか?

 熱波に苦しんでいるヨーロッパでいま、静かに聞かれているのが、イタリアのピアニストにして作曲家、Ludovico Einaudi(ルドヴィコ・エイナウディ)が2月27日に出した「Solo Piano」というアルバムです。フランスのSNEPクラシックチャートでは前週、このブログで何度もご紹介しているフランスの気鋭のピアニスト、Sofiane Pamart(ソフィアン・パマール)の「Movie」に次ぐ第2位でした。

 1955年11月、北イタリア、トリノ(Torino)生まれの70歳。父方の祖父はイタリア共和国大統領(1948~1955年)、母方の祖父はピアニストにしてオペラのコンダクター、父親は出版社の創業経営者という「華麗なる一族」のご出身です。オペラ『トスカ』『ラ・ボエーム』で知られる19世紀のプッチーニなど数多くの音楽家を輩出した名門ミラノ音楽院で学び、20世紀の現代音楽の巨匠として知られるLuciano Berio(ルチアーノ・ベリオ)に師事しました。

 主にピアノ演奏と作曲で活躍していますが、クラシックの枠内にとどまらず、現代音楽、ポップス、ロック、60~70年代に隆盛を極めたイージーリスニング、90年代のワールドミュージックなどから影響を受けている独特な作風で人気を得ています。

 特に映画のサウンドトラックでは、近年のフランス映画としては珍しく日本でも人気を得ていたオリヴィエ・ナカシュ/エリック・トレダノ監督の『Intouchables(最強のふたり)』(2011年)、フローリアン・ゼレール監督の『The Father(ファーザー)』、アカデミー賞を受賞したクロエ・ジャオ監督の『Nomadland(ノマドランド)』(2020年)など、近年の話題作を手がけています。日本映画でも是枝裕和監督『三度目の殺人』(2017年)のサウンドトラックは、この人の手によるものでした。

 さて、演奏者としてのルドヴィコ・エイナウディはとりわけピアノ独奏への評価が高く、絵のようなイメージが思い浮かぶきれいな旋律の「ミニマル・ミュージックの第一人者」と呼ばれています。環境音楽的な聴かれ方もされるためなのか「ニューエイジ」のジャンルに入っていることもあるようです。その代表作の「Nuvole Bianche」「Le Onde」「Experience」などを収録し、それに「Memory One」などの新作を加えて構成されたのが17曲入りの新作「Solo Piano」で、これはピアニストとしてのキャリアの集大成と言ってもいいかもしれません。

 イタリア政府の音楽大使でもあり、2026年前半は「Solo Piano Tour」で主にヨーロッパ各国を公演して回っていましたが、2025年の8年ぶりの来日公演は大阪でのみで実現し東京はキャンセルされました。お年がお年ではありますが、再び日本に来てくださったらいいですね。

 では、アルバム「Solo Piano」の収録曲から、2026年2月のミラノ・コルティナ冬季五輪の閉会式でピアノを弾いて披露していた「Experience」をお聴きください。少しは涼しくなれますでしょうか?

 

Ludovico Einaudi(ルドヴィコ・エイナウディ) - Experience(Official Visualizer)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランス国旗とChanson Populaireの文字
 
2026年7月14日号

 

2026年7月10日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Dai Dai - Shakira

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Pilé - Mauvais djo

 4 Maladie - Mauvais djo

 5 Nuevayol - Bad Bunny

 6 Pineapple - Leto

 7 Melodrama - Disiz, Theodora

 8 Pocahontas - PLK

 9 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 10 René Caovilla - Gambi

 

【アルバムチャート】

 1 Confessions II - Madonna

 2 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 3 The Wow! Signal - MUSE

 4 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 5 The Cat - Nono La Grinta

 6 Destinée - Aya Nakamura

 7 Grand garçon - PLK

 8 you seem pretty sad for a girl so in love - Olivia Rodrigo

 9 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 10 En croix - Lagui

 

 今週、シングルチャート1位にのぼりつめたのはShakira(シャキーラ)がバーナ・ボーイ(Burna Boy)をフィーチャーした「Dai Dai」です。激戦もいよいよ佳境、2026年FIFAワールドカップの公式テーマソング。7月19日の日曜日(現地時間)にニューヨーク郊外、ニュージャージー州「メットライフ・スタジアム」で行われる決勝戦で、シャキーラはマドンナ、BTSとともにハーフタイム・ショーの舞台に立つ予定です。もしも、スペインがフランスを破って決勝に勝ち進んだら、元夫の元スペイン代表ジェラール・ピケがシャキーラをスタンドから「観戦」する姿がテレビに映るかもしれません。どんな顔をする?

 前週の12位からトップ10の5位に再浮上したのがBad Bunny(バッド・バニー)の「Nuevayol」。そのタイトルはスペイン語で決勝戦の地「ニューヨーク」を意味しています。

 

Madonna

 今週のフランスのSNEPアルバムチャート1位は、故・マイコーが「King of Pop」なら、ワールドカップ決勝戦ハーフタイムショー出演予定のこの人は「Queen of Pop」と呼ばれるMadonna(マドンナ)の「Confessions II」です。7月3日リリースの7年ぶり15枚目のオリジナル・アルバムで、2005年の10枚目のアルバム「Confessions on a Dance Floor」の続編という位置づけです。スチュアート・プライスを再びプロデューサーに起用し(超大物はアルバムのプロデューサーを自分でチョイスできるのです)、ダンスミュージック、エレクトロミュージックをさらに極めた作品群。Sabrina Carpenter(サブリナ・カーペンター)をフィーチャーした先行シングル「Bring Your Love」を4月にリリースしたほか、6月にはアルバムの世界を映像で表現した14分間の短編映画『Confessions II – The Film』が公開されました。ミレーヌ・ファルメールのMVもそれぐらい長かったような……。

 アルバムチャート2位以下は前週と比べて順位の入れ替えだけ。バッド・バニーの順位は落ちず2位、MUSEは3位に後退しました。

 

Mauvais djo(ムーヴェイ・ジョー)


Mauvais djo

 フランスのSNEPシングルチャートで前週まで「Pilé」が3週連続1位。今週も「Pilé」3位、「Maladie」4位とダブルでトップ10入りし、ワールドカップのフランス代表に匹敵しそうな強さを見せつけているのがMauvais djo(ムーヴェイ・ジョー)です。ステージネームの「mauvais」は「悪」、「djo」は英語の「Joe(ジョー)」に匹敵する男の子の通称なので、日本語で言えば「悪太郎」になるでしょうか?

 生年月日、年齢は本人の要望で公表していませんが、コンゴ系で、出身地はパリの南の郊外、エソンヌ(Essonne/91)県エヴリィ=クールクーロンヌ(Évry-Courcouronnes)です。民族的なルーツ(特にアフリカ)と「地元が同じ」なことで自分に親しみを持ってもらおうとするのは、フランスのラッパーあるある。

 ミュージシャンとして頭角をあらわす前には、無名の若手からベテランまでラッパーたちがライブで自作を競いあうパリ近郊のクラブで司会者(MC)をやっていました。「勝ち抜きエレキ合戦」、映画『エレキの若大将』の内田裕也さんみたいなものでしょうか?(いくら何でも古すぎる)。やがて、パリ市内、マルセイユやヨーロッパ各地、果てはドバイにまで出張するような人気MCになります。出演者やDJを紹介し、曲の合い間にギャグを飛ばしたりして客をノセる役を務める一方で、酒に酔ってブーイングしたり、変にからんでくる客には「黙れ!」「出ていけ!」とブロックすることもあるクラブMCという仕事のいい点は、ミュージシャンの知りあいが増え、デビュー後に声をかけられる人脈が築けることです。もちろん性格が良ければの話ですが……。

 さて、ラッパーのムーヴェイ・ジョーとしては2020年に遅咲きデビュー。サッカーが好きらしく「Maradona」「Ballon d'or」などの曲を出します。ラッキーだったのは2025年に亡くなった人気ラッパーWerenoiと仲が良かったことでした。2023年からは、2025年8月12日号でくわしくご紹介した同じエヴリィ出身の3人組「TRIANGLE DES BERMUDES(TDB/トリアングル・デ・バルミュデ/バミューダ・トライアングル)」としても活動。「Lunettes」(メガネ)、「T'es mort」(おまえ、死んどる)、「Y'a u​​ne meuf」(女の子おるやん)といった曲で成功をおさめます。今週も彼らの「À l'aise」(気楽にいこうや)がシングルチャート16位、「Balek」(どうでもええねん)が同21位に入っています。

 2025年後半になるとソロ活動が本格化して、8月にデビューソロアルバム(EP)「L'Undertaker Part.1」をリリースします。それに収録されたのが現在もヒットを続ける「Pilé」(最高1位)でした。そして2026年3月には「Maladie」(病気/最高3位)を出しています。この2曲だけで、ムーヴェイ・ジョーはヒットチャート上位を席巻するアーティストになりました。

 今回は「Pilé」をお聴きください。タイトルは英語の「pile」と同じく「積み重なる」という意味で、成功して「札束が積み重なる」というニュアンスですが、歌詞で「Allumer」「Rallumer」(「火がつく」「再び火がつく」)と繰り返して「炎上」をにおわせ、さらにはアルバム名ではありますが「Undertaker」(葬儀屋さんという意味)まで登場するので、英語でネット上の集団いじめを意味する「Dogpile(ドッグパイル)」とも無関係ではなさそうです。大金を持つとジェラシーの十字砲火も浴びてしまう。それが人間の性(サガ)なのでしょうか? サガは北欧の英雄伝説だけで結構ですが。

 

Mauvais djo(ムーヴェイズ・ジョー) - Pilé (Clip Officiel)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランス国旗と「Chanson Populaire」の文字
 
2026年7月7日号

 

2026年7月3日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Piré - Mauvais djo

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Dai Dai - Shakira

 4 Maladie - Mauvais djo

 5 Pineapple - Leto

 6 Pocahontas - PLK

 7 Melodrama - Disiz, Theodora

 8 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 9 René Caovilla - Gambi

 10 Dracura - Tame Impala

 

【アルバムチャート】

 1 The Wow! Signal - MUSE

 2 En croix - Lagui

 3 you seem pretty sad for a girl so in love - Olivia Rodrigo

 4 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 5 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 6 Destinée - Aya Nakamura

 7 Grand garçon - PLK

 8 The Cat - Nono La Grinta

 9 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 10 Oubliez-moi - JuL

 

 シングルチャートはMauvais djoの「Piré」が3週連続1位でした。前週と比べれば3位と4位、9位と10位が入れ替わっただけという、いささか退屈なチャートアクションでした。

 

Leto

 今週のシングルチャート5位はLeto(レト)の「PINEAPPLE(パイナップル)」。2022年3月1日号でくわしく紹介しましたが、レトはパリ17区、蚤の市(クリニャンクール)で知られるサン=トゥーアン門(Porte de Saint-Ouen)の近くの出身。コンゴ系の28歳のラッパーで、2014年から同区生まれのAéroとラップデュオ「PSO Thug」を組んでいます。

「パイナップルはフランス語ではananas(アナナ)と呼ぶのではないか?」と思う人がいそうですが、歌詞の中で「j'ai mélangé vodka pineapple(僕はウォッカとパイナップルを混ぜた)」「Croquer la pomme comme Apple(リンゴのようにリンゴをかじる)」とあるので、「pineapple」と「Apple」で脚韻を踏んでいるとわかります。韻(フランス語ではリムrime/英語ではライムrhyme)を踏むためにあえて外国語を使うのは、日本では明治の島崎藤村も、昭和の金子光晴も、サザンオールスターズも、令和の日本語ラッパーもやっています。

 アルバムチャートは、2位以下は前週と顔ぶれが同じで順位に変動があっただけでしたが、プエルトリコのBad Bunny(バッド・バニー)の「DeBÍ TiRAR MáS FOToS」が8位から4位に上昇。島国にいい音楽あり。島国はサッカーも強いですが(もちろんアジアの某島国ではなく、2022年2月8日号でご紹介した、歌姫ロニシアRonisiaを生んだカーボベルデのことです)。

 

MUSE(ミューズ)


Muse

 UKの3ピースバンド、MUSE(ミューズ)が6月26日リリースしたニューアルバム「The Wow! Signal」が、今週のSNEPアルバムチャート1位に登場しました。2022年の「Will of the People」以来4年ぶり10枚目のスタジオアルバムです。

 タイトルの「The Wow! Signal」とは、1977年8月にアメリカ・オハイオ州立大学のビッグイヤー電波望遠鏡が検出した72秒間の怪電波の名前で、当時は「地球外生命体から地球へのメッセージではないか?」と騒がれました。日本でも、不思議なものが大好きな「ムー少年」や「SF少年」たちの間ではひとしきり話題になっていました。

※「ムー少年」とは何かを知りたい方には、滝本竜彦氏のライトノベル『ムーの少年』(角川書店)がおすすめです。

 新作アルバムの日本語の宣伝コピーは、こうなっています。

「宇宙の神秘、実存的な希望、そして我々よりも遥かに巨大な存在との接触という、胸が躍るような可能性の融合。壮大なMUSE的スペース・オペラが今その幕を上げる。君はMUSEが発信するシグナルを受け取れるか!」

 ムー少年にしてSF少年にしてロック少年が大きくなったら、どんな大人になるのでしょう。令和の日本では「中二病」という安直なレッテル貼りで嘲笑されるだけで終わるのでしょうか?

 それはともかく、MUSEはMatthew Bellamy(マシュー・ベラミー)をフロントマンに、ベースのChristopher Wolstenholme(クリス・ウォルステンホルム)、ドラムのDominic Howard(ドミニク・ハワード)で構成された3人組で、1994年にUKイングランド南西部、コーンウォール(Cornwall)半島にあるデヴォン州で結成されました。

 コーンウォールはいわゆる「ケルト七国」(アイルランド、スコットランド、ウェールズ、コーンウォール半島、マン島、フランスのブルターニュ半島、スペインのガリシア地方)の一角をなしますが、MUSEの音楽にケルト文化からの直接的な影響は特にみられないようです。

 むしろ教会音楽、オペラなどのクラシック音楽、プログレッシブ・ロックからの影響が色濃く、シンセサイザー、サウンドエフェクト、多重録音を駆使して、クラシックのオーケストラもフィーチャーした荘厳、気宇壮大にして雄渾なサウンドが彼らの特徴と言えるでしょう。「MUSE的スペース・オペラ」とは、言い得て妙な表現です。

 そのサウンドゆえか、英語圏の枠を超えてフランス、ドイツ、オランダ、イタリアなどでも人気があり、フランスのSNEPアルバムチャートではこれまで最新作も含め5作が最高1位、2作が最高2位になっています。大陸ヨーロッパにはオペラの伝統があるので、オーディエンスの「耳」とMUSEの音楽との親和性が高いのでしょうか?

 MUSEは1999年9月にアルバム「Showbiz」でメジャーデビュー。世界的に認められたのは2001年7月リリースのセカンドアルバムの「Origin of Symmetry」で、UKチャート最高3位、フランスでは最高2位。サードアルバムの「Absolution」以来、UKチャートで8作連続最高1位を続けています。アメリカのグラミー賞は過去2回受賞。2012年には「Survival」がロンドン五輪の公式ソングに採用されました。日本との関係では2000年に初来日し、2012年に芸人にしてイラストレーターの「鉄拳」氏とともに東京の渋谷や新宿を舞台に「Follow me」という曲のPVを制作しています。「鉄拳」氏は2016年にも彼らの曲のPVを手がけました。

 さて、新作「The Wow! Signal」の収録曲から3月にシングルリリースされた「Be With You」をお聴きください。そのPVは映画『バイオハザード』などに出ていたエラ・バリンスカ主演で、S・スピルバーグの『未知との遭遇』のクライマックスシーンをサイコSF映画にリメイクしたような風味になっています。

 途中で示される「6EQUJ5」という謎めいた文字列は、1977年の怪電波「The Wow! Signal」を解析して浮かび上がった「宇宙からのメッセージ」(?)で、当時、カウンターカルチャーの「ギョーカイ」ではTシャツにプリントされるなど、大いにシンボライズされ、宣布せしめられました。当時22歳のアップル創業者の故スティーブ・ジョブス氏なんかは、鈴木大拙(禅)やティモシー・リアリー(サイケ)に影響されたというその思想的背景から鑑みるに、このTシャツをうれしがって着ていた一人だった、かもしれません。

 

MUSE(ミューズ) - Be With You (Official Music Video)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランス国旗にChanson Populaireの文字
 
2026年6月30日号

 

2026年6月26日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Piré - Mauvais djo

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Maladie - Mauvais djo

 4 Dai Dai - Shakira

 5 Pineapple - Leto

 6 Pocahontas - PLK

 7 Melodrama - Disiz, Theodora

 8 Jamaican(Bam Bam) - Hugel, Solto(FR)

 9 Dracura - Tame Impala

 10 René Caovilla - Gambi

 

【アルバムチャート】

 1 En croix - Lagui

 2 you seem pretty sad for a girl so in love - Olivia Rodrigo

 3 The Cat - Nono La Grinta

 4 Destinée - Aya Nakamura

 5 Byakugan - Kaaris

 6 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 7 Grand garçon - PLK

 8 DeBÍ TiRAR MáS FOToS - Bad Bunny

 9 Oubliez-moi - JuL

 10 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 

 シングルチャート1位は前週に引き続きMauvais djoの「Piré」でした。

 

Jamaican(BamBam)

 今週のシングルチャート8位に、Hugel(ユーゲル)とSolto(ソルト)による「Jamaican(Bam Bam)」が前週の12位からランクアップしてトップ10入りしました。HugelもSoltoもフランスの音楽プロデューサーにしてクラブDJです。この曲はジャマイカの女性レゲエシンガー、Sister Nancy(シスター・ナンシー)が1982年にヒットさせたダンスナンバー「Bam Bam」を、モダンなアフロ・ハウスミュージック風味にアレンジして2025年11月リリース。中南米やヨーロッパのクラブシーンではいま絶賛ヘビーローテーション中です。

 アルバムチャートではNono La Grinta(ノノ・ラ・グリンタ)の「The Cat」が前週の7位から3位に上昇。パリ10区生まれで19区で育った20歳のラッパーでコンゴ系。2025年8月19日号でくわしくご紹介しています。

 アルバム8位にはプエルトリコのBad Bunny(バッド・バニー)の「DeBÍ TiRAR MáS FOToS」が再々浮上。2025年1月リリースですから1年半に及ぶロングセラーです。夏は、カリブ海からノリノリな音楽の風が吹いてくる季節です。

 

Lagui(ラギ)


Lagui

 今週、アルバムチャート1位にいきなり登場したのが、ブーシュ=デュ=ローヌ(Bouches-du-Rhône/13)県の大都市マルセイユ(Marseille)出身の覆面ラッパー、Lagui(ラギ)の6月19日リリースの新作「En croix(アンクロワ)」です。

 ラギはマルセイユ3区の「Félix Pyat」と13区の「Oliviers A」に住んだことがあるという以外、常にマスクやフードで隠している素顔も年齢も明かしていません。住んでいた「Cité」や「HLM」と呼ばれる低所得者向け公営団地の名前を明かすのは、ヒップホップの世界では重要な要素をなす「地元愛」のアピールのためでしょう。なお、13区は悪名にまみれた「マルセイユ北部地区」にあります。よい子は近づかないように……。

 メキシコの「ルチャ・リブレ」の覆面レスラーは負けたらリング上でマスクをはぎ取られて正体をバラされますが、フランスの覆面ラッパーのほとんどは覆面のまま、いつしか消えていきます。たとえラップバトルで負けても覆面ははぎ取られません。現在のメジャーなラッパーの中に「元・覆面ラッパー」が複数存在するという噂もあります。覆面を脱いで名前を変えるだけでいいなら「悪役」から「いい人」にイメージチェンジするのも容易でしょう。

 覆面ラッパーの弱点は、マルセイユ・コネクションの「13'Organisé」のような徒党を組めないことと、地道なライブ活動でファンと交流しながら人気を獲得できないことですが、日本でも「顔出ししないアーティスト」が人気を得ているように、最近はソーシャルメディアの発達でオーディエンスとの「ネット上だけの関係」でもセールスが期待できるようになっています。世界的に、覆面アーティストに追い風が吹いていると言えるでしょう。

 そんなラギですが、2025年10月に動画を公開した「Ciro」が事実上のメジャーデビュー作で、ストリーミングで再生回数100万回以上を記録。続いて公開した「Skorpion」「Aux armes」も好調で、ファーストアルバムの制作につながりました。

 彼の将来性を見込んで大物ラッパーのGazo、JuL、Kaaris、Niaksらもコラボ参加した16曲入りアルバムのタイトル「En croix」は「十字架の形に」という意味で、本来はクラシック・バレエで手足を十字の形に伸ばすポーズをそう言いますが、ラッパーが陰に陽に関わっていることも少なくない「裏社会」の言葉ではキリスト像からの連想で「磔にする(処刑する)」という恐ろしい意味になる場合があり、正しくは「mettre (quelqu'un) en croix」です(quelqu'un=誰かを)。

 もっとも、ソーシャルネットワークでは、ネット上で誰かを断罪して「公開処刑」することを「en croix」と表現することもあるようです。ちなみに、誰かさんと違って敬虔なキリスト教徒が教会での礼拝や自宅での食事の前などにお祈りをして「十字を切る」行為は「faire le signe de la croix」と言います。

 では、アルバム収録曲から、マルセイユの大先輩JuL(ジュール)をフィーチャーした「Mandat de dépôt」をお聴きください。曲のタイトルですが、被疑者の身柄を一定の日数、留置場や拘置所で拘束しておくために、検察官の請求に基づいて裁判官が発行する、日本では「勾留状」に相当する令状を指す法律用語です。前週は戦時国際法でしたが、今週は刑事訴訟法。フランスのラッパーは法学部のダメ学生だった人間に法律の勉強をさせてくれます。

 歌詞(paroles)は「J'ai aucun sentiment depuis qu'l'argent, c'est devenu l'nerf de la guerre」(拙訳:カネ、それがこの街の「戦争状態」の原動力になってから、俺は何も感じなくなったんだ)と始まり、諸悪はびこる暗黒街の実相のあれやこれやを赤裸々に綴っていきます。「マルセイユ13区」も、しっかり登場。覆面ラッパーだからこそ「組織とのしがらみ」を恐れることなく言えるのかもしれません。コラボしているJuLのほうは、大物すぎて手が出せない?

 

Lagui(ラギ) - Mandat de dépôt ft.JuL

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスの国旗とChanson Populaireの文字
 
2026年6月23日号

 

2026年6月19日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Piré - Mauvais djo

 2 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 3 Pineapple - Leto

 4 Pocahontas - PLK

 5 Maladie - Mauvais djo

 6 Dai Dai - Shakira

 7 Melodrama - Disiz, Theodora

 8 René Caovilla - Gambi

 9 Dracura - Tame Impala

 10 Elle voulait - RnBoi

 

【アルバムチャート】

 1 you seem pretty sad for a girl so in love - Olivia Rodrigo

 2 Byakugan - Kaaris

 3 Casus belli - Le Crime

 4 EX VOTO - Kalash

 5 Destinée - Aya Nakamura

 6 Oubliez-moi - JuL

 7 The Cat - Nono La Grinta

 8 Grand garçon - PLK

 9 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 10 Sarah B. - Bello & Dallas

 

 シングルチャートは前週の1位と2位が、3位と4位が入れ替わりました。新たな1位はMauvais djoの「Piré」です。

 6位にShakira(シャキーラ)の「Dai Dai」が38位から急浮上。コロンビア生まれの女性ラテンポップシンガーで49歳。6月11日(現地時間)にメキシコシティのアステカ・スタジアムで行われたFIFAワールドカップ北中米大会の開会式で、大会公式テーマソングのこの「Dai Dai」を歌いました。FCバルセロナにいた元サッカー選手のジェラール・ピケと2010年から事実婚状態になり子どもが2人いますが、ピケが女子大生と不倫したために2022年6月に別れました。

 

Olivia Rodrigo

 今週のアルバムチャートの1~4位はニューエントリーが揃いました。1位はアメリカ・カリフォルニア州マリエータ出身の23歳の女優にして歌手、Olivia Rodrigo(オリヴィア・ロドリゴ)の3枚目の新作「you seem pretty sad for a girl so in love」(全部小文字/日本語タイトルは「恋に落ちた女の子にしては、なんだかずいぶん悲しそうだね」)で6月12日のリリース。UKチャートでも1位でした。彼女は10代でディズニー・チャンネルのドラマに出演して人気に火がつき、2021年1月のシングル「drivers license」で歌手デビューするや、全米ビルボード・チャートで初登場から8週連続1位という新記録を樹立しました。同年5月発売のデビューアルバム「SOUR」もチャート初登場首位で、2023年のセカンドアルバム「GUTS」(最高全米1位)と合わせると全世界でアルバムセールス3600万枚以上を記録しています。

 アルバム2位はKaaris(カーリス)の「Byakugan(ビャクガン)」で6月12日のリリース。カーリスはワールドカップで先日、土壇場でドイツに逆転負けしたコートジボワールで生まれ、3歳でパリ北東郊外セーヌ=サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県スヴラン(Sevran)に移住してここで育った46歳のベテランラッパー。Booba(ブーバ)との関係については「永遠のライバル」とだけ言っておきましょう。アルバムタイトルは日本のアニメ「NARUTO(ナルト)」の日向一族が受け継ぐ眼力の秘術で、漢字では「白眼」と書きます。収録曲はハードでダークなトラップへ「原点回帰」しているのだそうです。

 Kalash(カラシュ)が6月12日に出した新作「EX-VOTO(エクス・ヴォート)」が今週アルバムチャート4位。カラシュはアルザス地方バ=ラン(Bas-Rhin/67)県の大都市ストラスブール(Strasbourg)生まれの38歳。ルーツがカリブ海のフランス海外県マルティニーク(Martinique)島なのでヒップホップもレゲエもやります。コンゴ系の覆面ラッパーKalash Criminel(カラシュ・クリミネル)とはコラボもしていますが別人です。

 アルバムタイトルの「EX-VOTO」はラテン語で「教会への奉納品」を意味し、カトリック教会では願いがかなうと教会のキリスト像や聖マリア像、聖人像に捧げます。現代では眼病が治れば目を、足のケガが治れば足をかたどった銀製の工芸品を買ってきて奉納することが多いようです。

 

Le Crime(ル・クリム)


Le Crime

 今週のアルバムチャート3位に6月12日リリースの18曲入りの「Casus belli(カスス・ベリ)」が初登場したLe Crime(ル・クリム)は、ワインで世界的に有名なジロンド(Gironde/33)県ボルドー(Bordeaux)出身のラッパーです。年齢不詳。2021年ごろから「Ingrat」という曲がTikTokなどソーシャルメディアで注目されるようになり、2025年には「La Vague」(7月発売)と「Après La Vague」(10月発売)という2枚のアルバムを出して、ラップフランセの世界では一定の知名度を獲得しました。

 Apple Musicによると影響を受けたラッパーはJuL、Niaks、Lacrimだそうですが、彼の作風は名前が示すような危険で野性味あふれるダークなトラップを主体に、メロディアスな要素(メロ)、オールドスクール的なリリック重視のヒップホップの要素もからまった独特なものになっていて、それが一種ミステリアスな風味を醸し出しています。

 名前が知られても、あくまでも地元ボルドーを拠点にしたソーシャルメディアを駆使する「一匹狼」的な独自の活動を続け、パリやマルセイユ方面のメジャーなラッパーたちとは一線を画してきましたが、新作アルバム「Casus belli」ではパリ17区出身のLeto(レト)とのコラボ曲「Ballon d'Or」(バロンドール/サッカーの世界最優秀選手賞)、セーヌ=エ=マルヌ県出身で、7歳年上のAya Nakamura(今週シングル2位、アルバム5位)と2025年から事実婚状態にある24歳のラッパーRKとのコラボ曲「Barbie」が収録されています。他には2024年に出したシングル「Oulala」も入っているこのニューアルバムをひっさげて、6月26日にはナント、7月5日にはベルギーのリエージュでライブがあります。

 アルバムタイトルの「Casus belli」ですが、これは外交や戦時国際法の用語で「戦争の原因」とか「開戦の口実」を指し、もともとはラテン語です。たとえば「居留する自国民の保護」とか「武装集団の越境攻撃」を口実に宣戦布告をして戦争を始めたら、その理由が「カスス・ベリ」と呼ばれます。もっとも最近は宣戦布告なき戦争ばかり起きていますが、それは1928年の「パリ不戦条約」(ブリアン=ケロッグ協定ともいい、63か国が署名し現在も有効)で戦争それ自体が全て違法とされ、宣戦布告が法的な正当性を欠いてしまったからです。フランスのラッパーは毎週毎週、中世史とかベル・エポックとか法律用語とかラテン語とか、いろいろと勉強させてくれます。

  では、そのアルバムの収録曲から、5月2日に動画が公開されたシングル「Médaillon(メダリオン)」をお聴きください。タイトルは「メダルのような円形のもの」を広く指す言葉ですが、この曲の歌詞(palores)が「Pour nous y'aura pas d'médaillon(俺たちはメダルを持てない)」と始まり、その後にネガティブでドロドロしたフレーズが続くので、単に栄誉の授与品のメダルを指しているようです。

 

Le Crime(ル・クリム) - Médaillon (Clip Officiel)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスの歌。シャンソン・ポピュレール。
 
2026年6月16日号

 

2026年6月12日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 2 Piré - Mauvais djo

 3 Pocahontas - PLK

 4 Pineapple - Leto

 5 Melodrama - Disiz, Theodora

 6 René Caovilla - Gambi

 7 Maladie - Mauvais djo

 8 Elle voulait - RnBoi

 9 Dracura - Tame Impala

 10 I Knew It, I Knew You - Taylor Swift

 

【アルバムチャート】

 1 Drakkar - Alonzo

 2 Oubliez-moi - JuL

 3 Sarah B. - Bello & Dallas

 4 Destinée - Aya Nakamura

 5 The Cat - Nono La Grinta

 6 Grand garçon - PLK

 7 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 8 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 9 Et si j'échoue - Bouss

 10 My Eyes Only-Flashback - RnBoi

 

 シングルチャートはAya NakamuraとLa Rvfleuzeの「Sexy Nana」が4週連続1位。9位までは前週と同じ顔ぶれで順位が入れ替わっただけでした。10位にTaylor Swift(テイラー・スウィフト)の「I Knew It, I Knew You」が登場。ディズニー映画『Toy Story 5(トイ・ストーリー5)』のサウンドトラックとして書き下ろした新曲で、6月5日のリリースです。

 

 Bello & Dallas

 アルバムチャート3位に6月5日発売の14曲入りセカンドアルバム「Sarah B.(サラ・ベー)」が初登場したBello & Dallas(ベロ&ダラス)は、ブルターニュ地方の中心都市、イル=エ=ヴィレーヌ(Ille-et-Vilaine/35)県レンヌ(Rennes)出身のラップデュオです。トラップとメロディアスなアーバンポップが融合したような作風が特徴で、ファーストシングル「Export」を2024年7月に、ファーストアルバム「FUGA」を2025年12月に出しています。

 アルバムタイトル「Sarah B.」とはレンヌ市内にある22階建て、高さ65メートルの公営高層住宅「Tour Sarah-Bernhardt(サラ・ベルナール・タワー)」の略称で、1963年に完成しました。Bello & Dallasの二人は少年時代ここに住んでいましたが、その頃には第一次大戦前の「ベル・エポック(Belle Époque)」時代を象徴する大女優、芸術家の名とは似ても似つかぬ荒廃した建物になっていたそうです。彼らのそこでの日々を回想するような曲が収録されています。

 なお、サラ・ベルナールは公式にはパリ15区生まれで、幼少時にブルターニュ半島の先端にあるフィニステール(Finistère/29)県カンペルレ(Quimperlé)に住んでいたもののレンヌの町とのご縁はないのですが、レンヌ市は彼女の名前を広場、公園、市場などさまざまな施設に冠して「街おこし」に利用しています。

 

Alonzo(アロンゾ)


Alonzo

 Alonzo(アロンゾ)の6月5日リリースの12枚目の17曲入りスタジオアルバム「Drakkar(ドラッカー)」が今週、いきなりアルバムチャート1位に登場しました。2022年の前作アルバム「Quartiers nord」(最高3位/「マルセイユ北部地区」という意味)リリース直後の2022年5月31日号でくわしくご紹介していますが、1982年7月にマルセイユで生まれたラッパーで現在43歳。本名はKassimou Djaeといい、コモロ系です。

 1994年、いとこのSoprano、Vincenzo、モロッコ出身のDJ Sya Stylesと4人で、マルセイユを拠点に主にギャングスターラップをやるグループ「Kids Dog Black(KDB)」を結成し、翌年「Psy 4 de la Rime」と改名して2002年にアルバムデビューしています。ソロデビューは2009年で、翌2010年のセカンドアルバム「Les temps modernes」が最高7位になり、以後、JuLをボスとするラップフランセのマルセイユ・コネクションの一員として「13 organisée」に参加するなど、実績を重ねてきました。

 2015年の「Règlement de comptes」以降、リリースしたアルバムは8作連続でトップ10に入っていて、シングルでも2022年にNinho、Napsと組んで出した「Tout va bien」が1位にのぼりつめています。

 さて、Mous-K、L2B、Guy2Bezbar、RnBoi、KeBlackらが参加したアロンゾの新作アルバムのタイトル「Drakkar」とは、中世にヨーロッパ各地を荒らしまわったバイキング(ノルマン人)の海賊船のことです。収録曲「Drakkar(Interlude)」(Interludeとは「間奏曲」という意味)の短い歌詞の中でも、「On a débarqué en drakkar.  On a tout chargé sur le zodiac.  Tout ça pour finir sur un yacht,  Yeah」(拙訳:俺たちはバイキングの海賊船を下船して、荷物を全てゾディアックに積み込んで、最後はそれをみんなヨットの上に乗せたんだ。イエイ)とあります。マルセイユは古代ギリシャ時代から地中海の港町です。

※「ゾディアック(ZODIAC)」とは、フランスのゾディアック・エアロスペース社が1939年に生産を開始したゴムボートです。当初は軍用の上陸用舟艇でしたが、戦後、海洋ドキュメンタリーの映画やテレビ番組で日本でも有名になったボルドー出身の海洋学者、ジャック=イヴ・クストー(Jacques-Yves Cousteau/エミール・ガニヨンÉmile Gagnanとともにスキューバダイビング器具の発明者)が七つの海の海底探検で愛用していたこともあって世界的なプレジャーボートのブランドに成長し、現在ではエンジンつきゴムボートの代名詞のようになっています。

 なお、バイキングに由来する「Drakkar」という言葉ですが、現代のフランスでは「ギ・ラロッシュ(Guy Laroche)」ブランドの男性用香水「Drakkar Noir(ドラッカー・ノワール)」を指す場合もよくあり、この伊達男御用達の「甘く危険な香り」の発売が自分が生まれた年と同じ1982年ということで、アロンゾも特別な思い入れがあるのかもしれません。

 では、アルバム収録曲から6月2日発売のシングル「100MILLE」をお聴きください。歌詞に「Mon contrat vaut 10 Richard Mille (Calcule)」(拙訳:オレの契約金はリシャール・ミルの10個分あるんだ(計算してくれ))とありますが、その「Richard Mille(リシャール・ミル)」とは2001年創業のスイスの超高級腕時計ブランドで、東京のブランドショップでは1000万円、1億円単位の値段がついています。贅沢を誇示するのはアメリカでもフランスでも、ラッパーあるある。

 

Alonzo(アロンゾ)- 100MILLE (Clip Officiel) 

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

フランスの歌謡曲チャート
 
2026年6月9日号

 

2026年6月5日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Sexy Nana - Aya Nakamura & La Rvfleuze

 2 Piré - Mauvais djo

 3 Pocahontas - PLK

 4 Pineapple - Leto

 5 Melodrama - Disiz, Theodora

 6 Elle voulait - RnBoi

 7 René Caovilla - Gambi

 8 Dracura - Tame Impala

 9 hate that i made you love me - Ariana Grande

 10 Maladie - Mauvais djo

 

【アルバムチャート】

 1 Oubliez-moi - JuL

 2 Grand garçon - PLK

 3 Blanco Nemesis - Booba

 4 The Boys of Dungeon Lane - Paul McCartney

 5 The Cat - Nono La Grinta

 6 Destinée - Aya Nakamura

 7 Numéro d'écrou - La Rvfleuze

 8 Le nord se souvient:L'Odyssée - Maître Gims

 9 Et si j'échoue - Bouss

 10 My Eyes Only-Flashback - RnBoi

 

 シングルチャートはAya NakamuraとLa Rvfleuzeの「Sexy Nana」が3週連続の1位です。エソンヌ(Essonnes/91)県エヴリー=クールクロンヌ(Évry-Courcouronnes)出身のコンゴ系28歳のラッパー、Mauvais djo(ムーヴェイズ・ジョー)は「Piré」が2位、「Maladie」が10位と2曲がトップ10入りしました。DisizとTheodoraの「Melodrama」は5位を維持。

 アメリカの歌姫、Ariana Grande(アリアナ・グランデ)の「hate that i made you love me」が9位に初登場しました。PSGのCL連覇で注目されたNono La Grintaの「Paris」は今週11位で惜しくもトップ10入りならず。フランス人の関心はすでにワールドカップのフランス代表にいってますか? 16日(現地時間)の初戦の相手は2002年開幕戦で負けたセネガル代表。

 アルバムチャートの1位は3週連続でJuLの「Oubliez-moi」。2位はPLKの「Grand garçon」が粘っています。

 アルバム4位は、解散からもう56年も経過しましたが元ビートルズのポール・マッカートニー(Paul McCartney)83歳が5月29日にリリースした18枚目のスタジオソロアルバム「The Boys of Dungeon Lane(ダンジョン・レインの少年たち)」です。ダンジョン・レインはイングランド・リヴァプール南部のスピーク地区に実在する通りの名前で、ポールが少年時代を過ごした家の近くにあります。「ペニー・レイン(Penny Lane)」も、ジョンの家の近くにあった救世軍の戦災孤児収容施設「ストロベリー・フィールド(Strawberry Field)」の跡地も歩いて行ける範囲ですが、効率よく回れる「マジカル・ミステリー・ツアー」(笑)というツアーバスが運行されています。

 

Aya Nakamura

 Aya Nakamura(アヤ・ナカムラ)が2025年11月に出した通算5枚目の18曲入りスタジオアルバム「Destinée」(最高1位)が今週、アルバムチャートで6位に再浮上しました。シングルチャート3週連続1位の「Sexy Nana」による波及効果とみて間違いないでしょう。

 マリ共和国の首都バマコ(Bamako)で生まれ、フランスのセーヌ=サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県オルネー=スー=ボワ(Aulnay-sous-Bois)で育った「アフロ・トラップの女王」は、2024年7月のパリ五輪開会式でのパフォーマンスでその名が世界に知られました。Ayaは本名(Aya Danioko)ですが、Nakamuraはアメリカのテレビドラマ『HEROES/ヒーローズ』に登場するマシ・オカ(岡政偉/東京都渋谷区出身)が演じる超能力を操る日本人「ヒロ・ナカムラ(Hiro Nakamura/中村広)」に由来します。

 

【Fête de la musique 2026(音楽の日2026)】

 夏至の日、6月21日(日)は、1982年にミッテラン政権のジャック・ラング文化相の提唱で始まった「Fête de la musique(音楽の日)」です。フランスでも全世界でも日本でも、数々の音楽イベントが開催されます。

・フランス文化省の公式サイト(フランス語)

  https://fetedelamusique.culture.gouv.fr/

・パリとイル・ド・フランス地方で開催される「音楽の祭典2026」のプログラム(日本語)

 https://www.sortiraparis.com/ja/nyusu/ongaku-sai/guides/53382-paritoiru-do-furansuno-yin-le-ji2026-konsatonopuroguramu

・音楽の祭日2026〜音楽でつなぐMUSIC MARATHON〜(Fête de la musique au Japon/日本語)

 https://www.mediatv.ne.jp/ongakunosaijitsu/

・アンスティチュ・フランセ東京/東京日仏学院(6月27日開催/日本語)

 https://event.exantenna.net/tokyo/fete-de-la-musique.html

 

Booba(ブーバ)


Booba

 5月28日にリリースされた約2年ぶり13作目の新作スタジオアルバム「Blanco Nemesis」が今週、アルバムチャート3位に初登場したBooba(ブーバ)について、これまで当ブログでは2020年5月19日号を皮切りにアルバム「Ad vitam æternam」が1位になった2024年2月20日号まで何度もご紹介してきましたが、今回以降は彼の「黒歴史」とも言えるKaaris(カーリス)との「オルリー空港事件」に触れるのも、「武闘派」とレッテル貼りするのもやめにしまして、一人のヒップホップのミュージシャンとして、純粋に音楽の話だけで通したいと思います。フランスの芸能ゴシップのブログではなく、音楽ヒットチャートのブログですので……。

 プロフィールを改めてご紹介しますと、1976年12月、陶磁器の「セーヴル焼」で有名なオー=ド=セーヌ(Hauts-de-Seine/93)県セーヴル(Sèvres)生まれの49歳。本名はÉlie Yaffa(エリ・ヤッファ)といいセネガル系です。

 今や伝説と化したラップデュオ「Lunatic」を経て25歳でソロデビュー。2002年のファーストアルバム「Temps mort」は最高2位。2004年のセカンドアルバム「Panthéon」は最高3位で、2006年のサードアルバム「Ouest Side」で初の1位を獲得します。以後、最高1位のアルバムは「Lunatic」(2010年)、「D.U.C」(2015年)、「Trône」(2017年)、「Ad vitam æternam」(2024年)と計5枚もあり、ラップフランセの世界では少々遅咲きながら大物ラッパーの道を歩んできました。

 ギャングスタラップやトラップの影響を受けたハードコアな作品が多いですが、日本でも知られる映画『TAXi』シリーズのサントラを手がけたり、自前のレーベル「92i」を創設してDamsoら後輩ラッパーを世に送り出す一方、アパレルブランド「Unkut」を立ち上げて商業的に成功させています。その資金力に物を言わせ、曲のPVではいつも映画のような映像世界を展開しています。その点に限れば「男版ミレーヌ・ファルメール」と言えるかもしれません。

 さて、新作「Blanco Nemesis」のタイトルは、スペイン語で「白」を意味する「Blanco」と、ギリシャ神話の女神ネメシス(Nemesis)を組み合わせています。ネメシスは、人間が神に対して傲慢な態度をとった時、罰として神の怒りを下す「復讐の女神」で、そこから転じて「宿敵」とか「天罰」を意味する場合があります。ブーバの最高7位だった2015年のアルバムのタイトルが「Nero Nemesis」(黒いネメシス/Neroはイタリア語で「黒」)でしたので、それと対をなす続編的な位置づけのアルバムではないかと話題を呼んでいます。なお、ブーバには「El Blanco」というスペイン語のニックネームがあるので、それとも因縁があるのかもしれません。

 今週のシングルチャートでは収録曲の「Kendall」が14位に入っていますが、今回はオープニングチューンの「Nemesis」をお聴きください。歌詞(paroles)には「Templiers」という言葉が頻繁に出てきますが、これは中世の「テンプル騎士団」のことで、十字軍が華やかなりし頃の1119年に設立され、当初は聖地エルサレムの巡礼者の安全を守る役割を担っていましたが、次第にヨーロッパ随一の「金貸し集団」に変質。今で言う銀行業務も行っていたものの、1314年、教皇庁により「異端」と認定されて壊滅しました。しかし、現在も「聖遺物を隠し持っている」「財産を地中海の小島に隠している」「オカルティックな秘儀をやっている」など数々の「伝説」がささやかれ、小説や映画、最近はRPGの題材になっています。

 ブーバは以前からヨーロッパをはじめイスラム圏、アフリカ、インド、中国、ネイティブ・アメリカン、日本(ラフカディオ・ハーンの「怪談(Kwaidan)」)など世界中の神話や伝説の類に関心を示していて、それが彼のリリック、PVの独特な持ち味になっています。オカルト雑誌「ムー」がフランスにあれば、きっと愛読者になっていたでしょう。ちなみにその愛読者を「ムー民」と呼ぶそうです。こっち向いて♪

 

Booba(ブーバ) - Nemesis (Clip Officiel)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!