仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年11月12日号

 

2024年11月8日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Cartier Santos - SDM

 2 Sois pas timide - Maître Gims

 3 Sous la lune - JuL

 4 Pour elle - SDM

 5 Spider - Maître Gims, Dystinct

 6 4 Kampé - Joé Dwèt Filé

 7 Minimum Ça - Dr.Yaro

 8 Ça parle mal - Bouss

 9 Collabo - Ninho & Niska

 10 Die With A Smile - Lady Gaga & Bruno Mars

 

【アルバムチャート】

 1 Songs Of A Lost World - The Cure

 2 Goat - Ninho & Niska

 3 Pyramide 2 - Werenoi

 4 À la vie à la mort - SDM

 5 BDLM Vol.1 - Tiakola

 6 Le Nord se souvient - Maître Gims

 7 La symphonie des éclaires - Zaho de Sagazan

 8 Babel Babel - Indochine

 9 Depuis le temps - Bouss

 10 X - Calogero

 

 今回は11月11日がフランスの国民の休日「Armistice 1918」(第一次世界大戦の休戦記念日)だったため、SNEPチャートの発表も、ブログの配信も1日遅れになりました。ちなみに第二次世界大戦のヨーロッパ戦線でナチス・ドイツが降伏した5月8日も「Victoire du 8 mai 1945」で祝日です。8月15日は「Assomption」(聖母被昇天の日)というローマ・カトリックの祝祭日で、もともと国民の休日です。

 

SDM

 28歳のコンゴ系のラッパー、SDMのアルバム「À la vie à la mort」(今週4位/9月26日発売)の収録曲「Cartier Santos」が今週もシングルチャート1位です。SDMは彼のミドルネームSadamの略ですが、15歳でラッパーとしてデビューした時は「SADAM KADAFI 92」という、今は亡きイラクとリビアの独裁者を合わせたような怖い名前でした。

 3位にフレンチラップの帝王JuLの「Sous la lune」が浮上。6位に「4 Kampé」が登場したJoé Dwèt Filé(ジョエ・ドウェット・フィレ)は、セーヌ=​サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県モントルイユ(Montreuil)生まれ。ハイチ系で29歳のアフロ・カリビアンのシンガーソングライター。2021年6月15日号でご紹介しています。レディー・ガガ(Lady Gaga)とブルーノ・マーズ(Bruno Mars)のコラボ曲でアメリカのビルボードチャートで最高2位になった「Die With A Smile」が、フランスでもシングル10位に入りました。

 アルバムチャート1位は前週のNinho & Niskaの「Goat」に代わってUKのロックバンド「The Cure(ザ・キュアー)」の16年ぶりの新作「Songs Of A Lost World」が登場。それ以下のトップ10は前週と同じ顔ぶれからルアンヌ・エメラの「Solo」が圏外に去りました。フランスのロック・レジェンド、アンドシーヌ「Babel Babel」が今週も8位で粘っています。

 

The Cure(ザ・キュアー)


The Cure

 1978年の結成から今年で46年、2019年には「ロックの殿堂」入りしているUKの超ベテランバンド、The Cure(ザ・キュアー)が16年ぶり14枚目のスタジオアルバム「Songs Of A Lost World」を11月1日にリリースし、UKのチャートでも、今週のフランスSNEPチャートでもいきなり1位になりました。現在は5人編成。フロントマンのロバート・スミス(Robert Smith)は現在65歳で白髪も目立つようになりましたが、2023年には世界33か国、90公演の「Shows Of A Lost World」ツアーを打ち抜いて、その健在ぶりをアピールしています。

 ロンドンの南、ウエスト・サセックス州クローリー(Crawley)で、同市出身のロバート・スミスを中心に結成され、1979年にアルベール・カミュの小説「異邦人」にインスパイアされたシングル「Killing An Arab」でメジャーデビューしました。2008年の前作「4:13 Dream」まで、アルバムを全世界でトータル約3000万枚以上セールスしています。1984年と2007年のフジロック・フェスティバルでライブパフォーマンスを披露しています。

 ジャンルとしては「オルタナティブ」とされることが多く、知的で文学的なリリック、しばしば「死」をイメージさせる陰鬱で幻想的、宗教的、退廃的な作風、芸術的なアートワークなど、いわゆる「ゴシック趣味」のマニアックな世界観でカルトな人気を得てきました。評論家はデヴィッド・ボウイの影響を指摘しているようですが、フランスであれば、ミレーヌ・ファルメールが好きな人なら、ザ・キュアーも好きになれそうな感じがあります。

 ザ・キュアーは分派活動、解散騒ぎ、内紛に起因するメンバーチェンジを繰り返しながら、一貫してロバート・スミスの強烈すぎる個性に支えられてきたバンドで、今回の久々のニューアルバムも彼が全ての曲を作詞、作曲、編曲しています。

 その収録曲から先行シングルリリースされたオープニングチューン「Alone」をお聴きください。「This is the end of every song we sing, alone」で締めくくる終末観に満ちたそのリリックは、相次ぐ肉親の死と失恋に加えて肺を病み、アルコールに溺れた末に32歳で夭折したヴィクトリア朝時代(世紀末)の英国のデカダン詩人アーネスト・ダウスン(Ernest Dowson)に影響されたものだと、ロバート・スミスは語っています。

 

The Cure(ザ・キュアー) - Alone

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年11月5日号

 

2024年11月1日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Cartier Santos - SDM

 2 Pour elle - SDM

 3 Sois pas timide - Maître Gims

 4 Collabo - Ninho & Niska

 5 Boucherie - Ninho & Niska

 6 Coco - Ninho & Niska

 7 Jungle - Ninho & Niska

 8 Minimum Ça - Dr.Yaro

 9 Spider - Maître Gims, Dystinct

 10 Ça parle mal - Bouss

 

【アルバムチャート】

 1 Goat - Ninho & Niska

 2 Pyramide 2 - Werenoi

 3 À la vie à la mort - SDM

 4 X - Calogero

 5 La symphonie des éclaires - Zaho de Sagazan

 6 BDLM Vol.1 - Tiakola

 7 Le Nord se souvient - Maître Gims

 8 Solo - Louane Emera

 9 Depuis le temps - Bouss

 10 Babel Babel - Indochine

 

 今週も前週同様、シングルチャート1位は「Cartier Santos」、2位は「Pour elle」で、ともにSDMの新作アルバム「À la vie à la mort」(今週3位)の収録曲です。4位、5位、6位、7位に、今週アルバム1位、Ninho & Niska「Goat」の収録曲が並びました。

 

Ninho & Niska

 アルバムチャートではNinho & Niskaのラップデュオ・アルバム「Goat」がいきなり1位に入りました。さすがは有名ラッパーのお二人。10月25日リリースです。Goatは英語で「ヤギ(山羊)」。旧約聖書レビ記第16章に出てくる有名な言葉「スケープ・ゴート(scapegoat)/贖罪のヤギ」のゴートです。フランス語ではヤギは「chèvre」と言います(女性名詞)。

 5位にはなぜかZaho de Sagazan(ザホ・ドゥ・サガザン)が2023年3月に出したデビューアルバム「La symphonie des éclaires」(稲妻のシンフォニー)がランクイン。彼女については2023年4月11日号でご紹介していますが、2月の「ヴィクトワール音楽賞2024」では新人にして4冠を獲得するなど玄人筋からのウケがいいシンガーソングライターです。

 8位には女優でもあるLouane Emera(ルアンヌ・エメラ)の5枚目の新作「Solo」(10月25日リリース)が入りました。2014年に日本でも公開されアメリカでリメイクもされた映画『エール!』(原題:La Famille Bélier)に17歳で主演した彼女も27歳になりました。映画の中でミシェル・サルドゥーの「青春の翼(Je Vole)」のカヴァーを披露していた歌手ルアンヌとしては、2015年のデビューアルバム「Chambre 12(邦題:夢見るルアンヌ)」が1位になっています。なお、今週はミレーヌ・ファルメール姐さんのライブ・アルバムがトップ10圏外に去りました。

 

Calogero(カロジェロ)


Calogero

 53歳のフレンチポップスのベテラン・シンガーソングライター、Calogero(カロジェロ)が10月25日に出した1年ぶり10枚目のスタジオアルバム「X」が今週、SNEPアルバムチャートの4位にチャートインしました。カロジェロについては前作「A.M.O.U.R.」(最高1位)を出した直後の2023年9月19日号でくわしくとりあげていますが、改めてご紹介します。

 1971年7月、冬季五輪開催地にもなったスキーリゾート、グルノーブル郊外のイゼール県(Isère/38)エシロル(Échirolles)の生まれ。ルーツは南イタリア。10代の頃からUKのビートルズやザ・フーに感化されてロックバンドを結成し、ポール・マッカートニー&ウイングスの「Live And Let Die(死ぬのは奴らだ)」が、一番のお気に入りにしてオハコだそうです。

 バンド解散後、2000年にアルバム「Au millieu des autres」でソロデビュー。セカンドアルバム「Calogero」が最高3位で、2004年の「3」で初の1位を獲得。同年出したシングル「Face à la mer」が最高3位のヒットを記録し、フランス文化通信省の芸術文化勲章(L'Ordre des Arts et des Lettres)を受賞してから、20年の歳月が流れました。

 年齢が近いパスカル・オビスポ、フローラン・パニー、パトリック・フィオーリらから、今では故人となったジョニー・アリディ、フランソワーズ・アルディーにも曲提供を行って、シンガーソングライター、コンポーザーとしての地位を確立しました。

 さて、新作アルバムのタイトル「X」は10枚目の10を示すローマ数字で「dix」と読みますが、マルセイユのラッパーSoprano(ソプラーノ)、若手女性シンガーソングライターHoshi(ホシ)や、レバノンを代表する音楽家で、2015年11月にテロリストに襲撃されたパリのバタクラン劇場の再開記念コンサートでUKのスティングと共演したことがあるIbrahim Maalouf(イブラヒム・マーロフ)らが参加しています。マーロフ氏はキリスト教徒(マロン派)ですが、テロ発生直後にパリ北駅でロンドン行きユーロスターに乗車する直前(パスポートチェックがあります)、レバノン国籍という理由で拘束されて取り調べを受け、列車に乗れなかったエピソードがあります。

 今回はタイトルチューン「X」をお聴きください。歌詞(paroles)に何度も出てくる「Diego」とは、ボカ・ジュニアーズでもFCバルセロナでもナポリでもアルゼンチン代表でもユニフォームに「10番」をつけていたサッカーの英雄ディエゴ・マラドーナのことで、この曲には彼を追悼する思いも込められています。

 

Calogero(カロジェロ) - X

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年10月29日号

 

2024年10月25日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Cartier Santos - SDM

 2 Pour elle - SDM

 3 Sois pas timide - Maître Gims

 4 Spider - Maître Gims, Dystinct

 5 Ça parle mal - Bouss

 6 Pétunias - Werenoi

 7 Monaco - Guy2Bezbar

 8 Manon B - Tiakola

 9 Minimum Ça - Dr.Yaro

 10 La famine - Werenoi ft.Gazo

 

【アルバムチャート】

 1 Pyramide 2 - Werenoi

 2 À la vie à la mort - SDM

 3 BDLM Vol.1 - Tiakola

 4 Le Nord se souvient - Maître Gims

 5 Depuis le temps - Bouss

 6 Babel Babel - Indochine

 7 Vivre... - Kendji Girac

 8 HIT ME HARD AND SOFT - Billie Eilish

 9 La vie continue - Maes

 10 Nevermore - Mylène Farmer

 

 今週もシングルチャート1位はSDMの新作アルバム「À la vie à la mort」の収録曲「Cartier Santos」でした。2位も前週と変わらずSDMの「Pour elle」です。

 

Guy2Bezbar

 Guy2Bezbar(ガイ2ベズバル)の「Monaco(モナコ)」が今週のシングルチャート7位です。パリ18区生まれ、コンゴ系の26歳のラッパー。2024年4月23日号でくわしくご紹介しています。

 リリックにココ・シャネル(Coco Chanel)の名が出てきますが、彼女は第二次世界大戦前からモナコに別荘を所有し、戦後はナチス占領下での対独協力を咎められてスイスで「亡命生活」を送りながら、モナコが「カジノとF1グランプリとグレース・ケリー」で有名な高級リゾート地になるのに貢献しています。1962年にド=ゴール将軍がモナコ公国の併合を口にしたのは、ココ・シャネルの財産を没収する目的もあった、という説も流れていました。

「Minimum Ça」(最低限それは)が今週シングルチャート9位のDr.Yaroは、いとこのLa Folieとともに「Dr. Yaro & La Folie」というユニットで活躍することが多いラッパーです。パリ19区出身でコモロ系。なお、少年時代からNinhoとラップしていたYaroとは別人です。

 アルバムチャート1位には前週のSDMに代わってWerenoi(ウェルノワ)のニューアルバム「Pyramide 2」が登場。その収録曲でGazoをフィーチャーした「La famine」(飢餓)が今週シングル10位にチャートインしました。トップ10では8位にビリー・アイリッシュ、9位にMaesのアルバムが再浮上。「ラッパー先生」メイトル・ギムズは4位、「ロックレジェンド」アンドシーヌは6位、「暗黒の歌姫」ミレーヌ・ファルメールは10位で、どれもトップ10に残っています。さすがは大物アーティスト。

 

Werenoi(ウェルノワ)


Werenoi

 Werenoi(ウェルノワ)はパリ郊外出身の30歳のラッパーで、2023年3月21日号で一度、ご紹介しています。1994年1月、セーヌ=エ=マルヌ(Seine-et-Marne/77)県の県庁所在地ムラン(Melun)で生まれ、セーヌ=サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県モントルイユ(Montreuil)で育ちました。本名はJeremy Bana-Owonaといい、カメルーン系です。

 2021年、YouTubeでまず「Guadalajara」(グアダラハラ/メキシコの都市名)を皮切りに連作を公開して注目され、デジタル音楽配信サービスの「AWA」と契約します。2021年3月に「La league」でシングルデビュー(最高61位)し、2022年6月にEP「Telegram」(最高15位)でアルバムデビューします。2023年にはシングルチャートで、Ninhoをフィーチャーしたシングル「3 Singes」(日光東照宮にある「三猿」のこと。フランスでも知られているとは意外でした)が6位、Tiakolaをフィーチャーした「Tout seul」が9位、PLKをフィーチャーした「Escorte」が6位、Ninhoをフィーチャーした「Ciao」が3位と、大物ラッパーとのコラボレーションで上位に食い込んでいます。

 2023年3月に出したアルバム「Carré」は最高2位になり、前作「Pyramide」は2024年3月1日付で初のアルバム1位。そして今週のアルバムチャートでは10月18日リリースの新作「Pyramide 2」が初登場で1位になりました。今年は2作続けての1位で、フランスのヒップホップシーンでトップの地位にのぼりつめています。コロナ禍のもと、ラップバトルなど外でのライブ活動が制約を受けていたとはいえ、才能が認められればYouTube、ソーシャルネットワークで人気に火がついてスターになれる世の中になった、ということですね。

 ニューアルバム「Pyramide 2」収録曲からはシングル「Pétunias」「La famine」がチャートインしていますが、今回はオープニングチューンの「Alpha」をお聴きください。その自動筆記(オートマティスム)っぽい難解なリリック(paroles)の中に「Henri Jamet(アンリ・ジャメ)」という人物名が出てきます。ベル・エポック期から戦間期にかけて活動した画家と同姓同名ですが、このアンリ・ジャメ氏は現在、パリに本社があり東京にも支社がある音楽マーケティング企業「Believe」のマネージング・ディレクターを務める、現代のフランスを代表する辣腕音楽プロデューサーです。あのJuL(ジュール)をスーパースターにした実績があり、ウェルノワについてはアルバム「Carré」を大ヒットさせました。本物の才能を見分けられる目利きで、デジタルテクノロジーも駆使できるフランスのヒップホップシーンの「仕掛人」として、その名前をメモしておいて、損はないでしょう。

 

Werenoi(ウェルノワ) - Alpha

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年10月22日号

 

2024年10月18日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Cartier Santos - SDM

 2 Pour elle - SDM

 3 Sois pas timide - Maître Gims

 4 Spider - Maître Gims, Dystinct

 5 Ça parle mal - Bouss

 6 Toka - SDM

 7 Monaco - Guy2Bezbar

 8 Manon B - Tiakola

 9 Pétunias - Werenoi

 10 Dolce Camara - Booba

 

【アルバムチャート】

 1 À la vie à la mort - SDM

 2 BDLM Vol.1 - Tiakola

 3 Vivre... - Kendji Girac

 4 Moon Music - Coldplay

 5 Le Nord se souvient - Maître Gims

 6 Babel Babel - Indochine

 7 13 Organisé 2 - 13 Organisé

 8 Nevermore - Mylène Farmer

 9 Depuis le temps - Bouss

 10 Harlequin - Lady Gaga

 

 シングルチャート今週1位はSDMの「Cartier Santos」で、前週1位の「Pour elle」と同じくSDMの新作アルバム「À la vie à la mort」の収録曲です。10位にブローニュ=ビヤンクール出身のコワモテラッパーBoobaの「Dolce Camara」が再浮上しました。

 今週もSDMの「À la vie à la mort」が連続してアルバムチャート1位です。ニューリリースが少なかったこともあってシングルもアルバムもトップ10の顔ぶれは10位を除けば前週と同じになり、順位が多少、入れ替わっただけでした。

 

Lady Gaga

 アルバム10位にLady Gaga(レディー・ガガ)のニューアルバム「Harlequin(ハーレイ・クイン)」が入りました。パリ五輪開会式にサプライズ出演したビッグスターの新作のタイトルは、バットマンシリーズからスピンアウトした『ジョーカー』(2019年)の続編で、2024年のヴェネチア国際映画祭にコンペティション出品された『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で、レディー・ガガ自らが演じているアメコミヒロインの名前で、ホアキン・フェニックス扮するジョーカーの恋人にして共犯者。この映画にインスパイアされた13曲を収録して10月11日にリリースされたアルバムです(日本盤発売は10月30日)。

 映画の原題の「Folie à Deux」は直訳すれば「ふたり狂い」で、二人で同じ妄想を共有する精神障害の一種「感応精神病」を意味するフランス語です。それがフランス人の琴線に触れてアルバムが売れたのでしょうか? なお、カナダ・トロントの出版社が出した大衆恋愛小説シリーズで、日本でも1979年から翻訳・出版され、恋に恋する乙女たちをとりこにした「ハーレクイン・ロマンス」は、スペルは同じですが関係は全くありません。

 

13 Organisé 2(13オルガニゼ2)


13 Organisé

 アルバムチャート前週2位、今週7位の「13 Organisé 2」は、10月4日にリリースされた13 Organisé(13オルガニゼ)の新作アルバムです。と言ってもグループではなく、フレンチラップのオムニバス・プロジェクトという位置づけです。2020年10月に発表された前作「13 Organisé」は今年、パリ五輪の聖火ランナーにもなった超大物ラッパーJuL(ジュール)の呼びかけで約50人のラッパーが集結しましたが、「13 Organisé 2」では同じくJuLが仕切って、レコーディングに参加したラッパーが150人以上と約3倍に拡大しました。26曲入りです。

 前作はJuLと親しい「マルセイユ・コネクション」御一行様の地元愛一色の感がありましたが、今回はマルセイユにとどまらずアフリカなども加えたフランス語圏全体、さらにその外からもラッパーが集結した観があります。例を挙げればDon Choaはトゥールーズ、YLはロレーヌ地方のメッスの出身で、Le Loupはオランダ人の血を引きベルギーで活動。Yasに至ってはイラン人です。女性ラッパーのLaetitia Bayもいます。そのあたり、JuLの人徳がなせるわざでしょうか?

 なお、マルセイユへの濃厚な地元愛は、このアルバムにも収録されている8月に出したシングル「Bande organisée 2」に譲ったようです(2024年8月27日号で解説済み)。

 今回は収録曲から9月6日にリリースされたシングル「Sous le soleil」(太陽の下で)をお聴きください。曲に参加したアーティストはMenzo、Don Choa、As、Vincenzo、Soprano、DJ Djel、SCH、Kofs、JuL、Alonzo、Naps。Don Choa以外はマルセイユ出身で、歌詞によるとサッカーの元フランス代表でマルセイユ、アーセナル、マンCなどで活躍したサミル・ナスリ選手(アルジェリア系/2021年現役引退)と同じ地区で育った人もいるようです。

 リリックでは「今のマルセイユはもう、昔のマルセイユじゃないんだ」と嘆いています。アメリカのボルティモア(メリーランド州)を例に挙げていますが、スラム化が進んで住民が入れ替わり、近隣同士で助けあっていたぬくもりが街から消え、建物が老朽化し犯罪で荒廃した地域になっていくのは、フランス、ヨーロッパの他の大都会でも似たようなものです。13 Organiséは、ヴェロドロームのサポーター気取りのおちゃらけだけでなく、ちゃんと社会派しています。それもまたラッパーによる「地元愛(レペゼン)」の表現の一つなのでしょう。

 

13 Organisé(13オルガニゼ2) - Sous le soleil

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年10月15日号

 

2024年10月11日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Pour elle - SDM

 2 Cartier Santos - SDM

 3 Sois pas timide - Maître Gims

 4 Toka - SDM

 5 Spider - Maître Gims, Dystinct

 6 Manon B - Tiakola

 7 Monaco - Guy2Bezbar

 8 Metallica - SDM

 9 Ça parle mal - Bouss

 10 Pétunias - Werenoi

 

【アルバムチャート】

 1 À la vie à la mort - SDM

 2 13 Organisé 2 - 13 Organisé

 3 Moon Music - Coldplay

 4 Vivre... - Kendji Girac

 5 BDLM Vol.1 - Tiakola

 6 Nevermore - Mylène Farmer

 7 Babel Babel - Indochine

 8 Le Nord se souvient - Maître Gims

 9 Black Bird - B.B.Jacques

 10 Depuis le temps - Bouss

 

 シングルチャート1位は前週に続いてSDMの「Pour elle」。2位、4位、8位もSDMの新作アルバム「À la vie à la mort」の収録曲が入りました。Maître Gimsが3位と5位に顔を出しています。9位のBouss「Ça parle mal」はBoussのアルバム「Depuis le temps」の収録曲で、タイトルは「それは言い方が悪いよ」と、たしなめる言葉。10位にWerenoiの「Pétunias」が初登場。本来の意味は南米原産のきれいな花「ペチュニア」ですが、花の形が似ている「タバコ」を指したり、暗に「マリファナ」を指すこともあります。リリックの「mais ils sont morts dans les Pétunias(しかし彼らはペチュニアの中で死んだ)」が過剰摂取を連想させますが(考えすぎ?)。

 アルバムチャート1位は、前週のミレーヌ姐さん(今週は6位)に代わってSDMのサードアルバム「À la vie à la mort」がのぼりつめました。2位の13 Organiséによる「13 Organisé 2」は、JuL率いるフレンチラップのマルセイユ・コネクション御一行様のセカンドアルバムで、10月4日発売。相変わらずマルセイユへの地元愛、サッカーの名門オリンピック・マルセイユ愛ですが、リーグ・アンで昨季8位に沈んでカンファレンス・リーグさえも出られず、みんな腐っているかも? 3位にはブリット・ロックの雄Coldplay(コールドプレイ)が10月4日に出した3年ぶり10作目のスタジオアルバム「Moon Music」が入りました。前作「Music Of The Spheres(天球の音楽)」に引き続き、宇宙づいています。

 

Kendji Girac

 Kendji Girac(ケンジ・ジラク)は2020年10月27日号以来、何度もご紹介してきたラテン風味フレンチポップスの若きアイコン。オーディション番組「The Voice」のフランス版シーズン3で注目されてデビューし、現在28歳。南仏ドルドーニュ(Dordogne/24)県ペリグー(Périgueux)の生まれですが、少年時代はスペイン・カタルーニャ州出身で庭師をしていた父親とともにフランス、スペイン各地を転々とし、そのおかげでフランス語、スペイン語、カタルーニャ語、オクシタン語(南仏の地方語)が話せて、「樹木医」の資格も持っています。10月4日リリースで今週アルバムチャート4位の「Vivre...」は、2年ぶり6枚目のスタジオアルバムになります。

 

B.B.Jacques(B.B.ジャック)


B.B.Jacques

 今週のアルバムチャート9位に、26歳の孤高のラッパー、B.B.Jacques(B.B.ジャック)の10月4日発売14曲入りニューアルバム「Black Bird」が登場しました。ステージネームはBlack Bird Jacquesの略で、新作のタイトルはそれに由来しています。

 パリの西の郊外、新都心のラ・デファンス(La Défense)に近いオー=ド=セーヌ(Hauts-de-Seine/92)県クールブヴォア(Courbevoie)で生まれた彼の両親は中東レバノンの出身です。レバノンは1943年まではフランスの委任統治領で、首都ベイルートは70~80年代の内戦で荒廃する以前は「中東のパリ」と呼ばれるほど繁栄したビジネスセンターで、英仏語がよく通じキリスト教徒も多い、欧米人にとっては暮らしやすい国でした。

 B.B.ジャック、またの名をToni(ファーストネーム)は2020年12月、「Phéromone(フェロモン)」を出してアルバムデビューしました。文学的で自分に正直なリリックが持ち味で、2021年のEP連作プロジェクト「La nuit sera calme(夜は静かになる)」で高い評価を受けました。今回の「Black Bird」は4枚目のスタジオアルバムになります。それをひっさげ10月25日からフランス国内のツアーに出ますが、収録曲から9月3日にシングルリリースされた「Bitches & Ryads」をお聴きください。

 タイトルは「娼婦と邸宅ホテル」(Ryadsはアラビア語由来で高級な宿泊施設を指します)というような意味ですが、リリックに「On dit jamais "à l'aide" (Jamais), cœur en ruines comme Alep (Eh)」という一節があります。意味は「俺たちは『助けてくれ』とは言わない(決して)。心はアレッポのような廃墟になるのか(ああ)」(拙訳)。Alep(フランス語表記/アレッポ/英語表記はAleppo)はシリアに古代、旧約聖書の時代から存在する都市で世界遺産ですが、2011年以降、内戦と地震によってほとんど廃墟と化してしまい、ユネスコは危機遺産に登録しています。レバノン内戦で無残に破壊されたベイルートと同じ運命をたどっています。

 レバノン、シリア、パレスチナを舞台に現在進行形で、11日に日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まった広島、長崎以来の核兵器の使用すらも噂される、終わりが見えない黙示録的な戦乱をほのめかしていることがわかります。フレンチラップは「移民の音楽」と言われますが、ラッパーはそれぞれ自分のルーツを背負い、時には生々しい近現代史も背負っているのです。

 

B.B.Jacques(B.B.ジャック) - Bitches & Ryads

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年10月8日号

 

2024年10月4日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Pour elle - SDM

 2 Sois pas timide - Maître Gims

 3 Toka - SDM

 4 Metallica - SDM

 5 Cartier Santos - SDM

 6 Manon B - Tiakola

 7 Spider - Maître Gims, Dystinct

 8 Monaco - Guy2Bezbar

 9 Jeux d'échecs - SDM

 10 ALVALM - SDM

 

【アルバムチャート】

 1 Nevermore - Mylène Farmer

 2 À la vie à la mort - SDM

 3 BDLM Vol.1 - Tiakola

 4 Babel Babel - Indochine

 5 Le Nord se souvient - Maître Gims

 6 Ultra Vomit et le pouvoir de la puissance - Ultra Vomit

 7 Depuis le temps - Bouss

 8 PAFINI - Jean-Louis Aubert

 9 Saison 3 /L'Album intégral - Nouvelle École

 10 HIT ME HARD AND SOFT - Billie Eilish

 

 シングルチャート1位はSDMの「Pour elle」(彼女のために)に入れ替わり、Maître Gimsの「Sois pas timide」は2位に後退。以下、3位、4位、5位、9位、10位はSDMの新作アルバム「À la vie à la mort」の収録曲が一斉にチャートインしています。

 今週のアルバムチャート1位はやっぱりMylène Farmer(ミレーヌ・ファルメール)の9月27日リリースの新作ライブ盤「Nevermore」で、まさに指定席。ロックバンドIndochine(アンドシーヌ)、ラッパーJuL(ジュール)とともに、「妖艶なる暗黒のゴシック、世紀末の歌姫」ミレーヌ姐さんがアルバムを出せば初登場1位になるのは、今やフランスのミュージックシーンのお約束。Nevermore(英語で「もう二度とない」という意味)は2023-24年に行われたコンサートツアーのタイトルで、パリ五輪の閉会式会場になったサン=ドニ(Saint-Denis)のフランス競技場(Stade de France)でのコンサートの模様を収録しています。

 

SDM

 2位はSDMの「À la vie à la mort」(生へ、死へ/略してALVALM)。9月26日に出した3作目のスタジオアルバムです。SDMはパリ南方、オー=ド=セーヌ(Hauts-de-Seine/92)県ムードン(Meudon)出身、コンゴ系の28歳のラッパー。Booba(ブーバ)に見い出されて2020年にデビューしましたが、それから4年。すでに中堅の風格ありです。新作アルバムではTiakola、Werenoi、Hamza、Josman、Skreadがゲスト参加しています。

 

Ultra Vomit(ウルトラ・ボミット)


Ultra Vomit

 フランスのヘヴィメタルバンド、Ultra Vomit(ウルトラ・ボミット)が9月27日に出したニューアルバム「Ultra Vomit et le pouvoir de la puissance」が、今週のSNEPアルバムチャートで6位に初登場しました。アルバムタイトルはあえて訳せば「ウルトラ・ボミットと力による力」で、「力こそパワー」みたいな変な表現ですが、語源をたどれば「le pouvoir」は政治的な権力、「la puissance」は宗教的な力を指すらしいです。中世ヨーロッパの西方教会(現在のローマ=カトリック)の世界では、軍事力に由来する「俗権(le pouvoir)」とキリスト教に由来する「聖権(la puissance)」が並立し、歴史を動かす二つの大きな力でした。なお、順番が逆の「La puissance du pouvoir」という曲が新作アルバムに収録されています。ということは、俗権による聖権? 世俗の権力者がローマ教皇に選ばれるようなもの?

 バンド名のUltra Vomitは、あえて訳せば「ウルトラ嘔吐」。メタルらしくてよろしい。Nicolas Patra(ニコラス・パトラ)をフロントマンとする4人組で、1999年にナント(Nantes)で結成され、今年で25周年です。2004年の「M.Patate」でアルバムデビューしますが、活動がフェスなどライブが中心になっているからなのか寡作で、スタジオアルバムは2017年の「Panzer Surprise!」以来7年ぶりになる4枚目です。

 話のネタになりそうなパロディ、おちょくり、おふざけ、下品、下ネタの数々がウケてフランスではマニアックな人気があり、メタリカやニルヴァーナ、ジューダス・プリースト、フランスのヘヴィメタルバンドGojira(ゴジラ)の曲を堂々とパロるかと思えば、「pipi vs. caca」(フランス語の幼児語で「おしっこ対うんこ」)や「TAKOYAKI」(たこ焼き)というタイトルの曲もあります。メタルらしくてよろしい。

 よほど気に入ったのか大阪のたこ焼きをひたすらリスペクトする「TAKOYAKI」(2017年)は、「永遠の14歳」を自称する日本の女性デュオ「黒色すみれ」の、ゆか、さちがコーラスで参加。最後は大阪弁の定番あいさつ「もうかりまっか? ぼちぼちでんな」で締めます。フランス語で言ったら「Gagnez-vous de l'argent? Comme ci, Comme ça」ですか?

「コミックバンドはテクがなければシラけるだけ」と言われますが、ウルトラ・ボミットの実力は決してチープではなく、確かなものがあります。だからこそメンバーチェンジしながら25年も活動できたのでしょう。アルバムには茶番抜きのシリアスな曲も収録されています。

 2021年5月には若者の文化に理解を示す(ポーズだけかもしれませんが……)マクロン大統領に招待され、パリのエリゼ宮ことフランス共和国大統領官邸の庭でライブしています。

 今回は新作アルバムから「La puissance du pouvoir」をお聴きください。歌詞の内容は「音楽の力」をただただ誇示するヘヴィメタル讃歌です。シンプルでよろしい。

※バンド名の日本語表記は公式MV中のタイトルに即して「ウルトラ・ボミット」としましたので、一人アカデミー・フランセーズ気取りのフランス語教師の諸氏はご了承ください。

 

Ultra Vomit(ウルトラ・ボミット) - La puissance du pouvoir

 

おまけ

Ultra Vomit(ウルトラ・ボミット) - TAKOYAKI

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年10月1日号

 

2024年9月27日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Sois pas timide - Maître Gims

 2 Manon B - Tiakola

 3 Nightcall - Kavinsky, Angèle, Phoenix

 4 Spider - Maître Gims, Dystinct

 5 Monaco - Guy2Bezbar

 6 Pona nin - Tiakola

 7 Plaisir Nocif - Tiakola

 8 1H55 - Tiakola

 9 G.A.N.G. - Tiakola

 10 Dolse Camara - Booba

 

【アルバムチャート】

 1 BDLM Vol.1 - Tiakola

 2 Babel Babel - Indochine

 3 PAFINI - Jean-Louis Aubert

 4 Viva tu - Manu Chao

 5 Le Nord se souvient - Maître Gims

 6 Depuis le temps - Bouss

 7 Saison 3 /L'Album intégral - Nouvelle École

 8 Hypersensible - Gringe

 9 HIT ME HARD AND SOFT - Billie Eilish

 10 Chaque seconde - Pierre Garnier

 

 今週もフランスSNEPチャートには秋の新作が続々とランクインしています。

 シングル1位は今週もMaître Gims先生の「Sois pas timide」でした。2位、6位、7位、8位、9位は、アルバム1位のTiakola(ティアコラ)「BDLM Vol.1」の収録曲です。3位に浮上した「Nightcall」は、フランスの49歳のエレクトロポップ・ミュージシャンのKavinsky(カヴィンスキー)の曲に、ベルギーの28歳のポップス女子Angèle(アンジェル)、1997年にヴェルサイユで結成されたロックバンドPhoenix(フェニックス)がコラボした異色作です。

 2週連続1位のアンドシーヌを押しのけてアルバム1位にTiakola(ティアコラ)の4枚目のアルバム「BDLM Vol.1」が初登場。BDLMは「Bienvenue dans le Milieu(中心へようこそ)」の略。9月20日リリース。ティアコラはセーヌ=サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県ボンディ(Bondy)出身の25歳のラッパーで、2022年6月7日号でくわしくご紹介しています。

 

Jean-Louis Aubert

 3位にフランスの伝説的ロックバンドTéléphone(テレフォーヌ/2020年6月2日号参照)に所属していた超ベテラン、69歳のJean-Louis Aubert(ジャン=ルイ・オベール)が9月20日に出した新作アルバム「PAFINI」が入りました。前作「Refuge」以来5年ぶりのスタジオアルバムで、2025年2月からは「PAFINI Tour」のツアーに出ます。70代になっても彼が言う「音楽の旅」はまだまだ続きます。

 7位に「Saison 3 /L'Album intégral」(24曲入り)がチャートインしたNouvelle Écoleは、7月4日からNetflix(ネットフリックス)でAya Nakamura、SCH、SDMらを審査員に迎えてシーズン3(Saison 3)が放送されたラップ・リアリティ番組のことで、そのライブ盤が9月に発売されました。番組は勝ち抜きエレキ合戦ならぬ勝ち抜きラップ合戦、いかすバンド天国のラップ版みたいなものです(たとえが古すぎる)。

 9月19日に出した「Hypersensible」がアルバムチャートで8位に入ったGringe(グランジュ)は、1980年8月生まれの44歳。パリ北西のヴァル=ドワーズ(Val-d'Oise/95)県セルジー(Cergy)の出身で、かつてはあのOrelsan(オレールサン)とヒップホップデュオ「Casseurs Flowters(カサール・フローターズ)」を組んでいたラッパーです。

 来週になればサン=ドニのフランス競技場(Stade de France)で収録された「暗黒の歌姫」Mylène Farmer(ミレーヌ・ファルメール)のニューライブアルバム「Nevermore」(9月27日リリース)がご降臨。お約束通りまた初登場1位でしょうか? お楽しみに。

 

Manu Chao(マヌ・チャオ)


Manu Chao

 Manu Chao(マヌ・チャオ)のニューアルバム「Viva tu」が今週、アルバム4位にチャートインしました。9月20日発売。実に17年ぶりのスタジオアルバムです。

 2021年5月18日号で「80年代にフランスにおけるレゲエ音楽の先駆けとなったシンガーソングライター」とご紹介していますが、時の流れとともに長らくその名前を聞くことがなく、まだ音楽活動をしているのか、あるいはまだ存命中かなどと、失礼ながら思っていました。

 プロフィールをご紹介しますと、1961年6月、パリ生まれの63歳。父親はスペイン・ガリシア地方(カトリックの巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステラがあり、ケルト文化圏でもある地域)出身の作家、母親はスペインのバスク地方の中心都市ビルバオの出身で、フランコ独裁政権の抑圧から逃れてパリに来ました。本人はフランスで教育を受けており、フランス語、スペイン語、英語のトリリンガルでシンガーソングライターの活動を行っています。

 10代でロンドン・パンク、20代で第二次ブリティッシュ・インベージョンの影響を受けます。パンクバンドのマノ・ネグラ(Mano Negra)での活動が挫折し一時はスペインに「潜伏」したそうですが、「ワールド・ミュージック」華やかなりし80~90年代にはフランスで「ラテン・オルタナティブ・ムーブメントの旗手」と目されてスポットライトを浴びた時期がありました。ジャマイカのレゲエに接触してそれを積極的に吸収したのもその頃です。そのような出自と音楽的影響から、フランス、スペイン、英米、パンク、オルタナ、ケルト、バスク、ラテン、レゲエ、アフリカなどの民族音楽といったように多文化が折り重なって音楽的基盤をなしているのが、マヌ・チャオならではの独自の個性と言ってもいいでしょう。

 特にラテンについてはスペイン語が話せる強みを活かし、船乗りのボスやサーカス団の世話になりながら弾き語りで中南米諸国を放浪。時には反政府武装ゲリラ集団とも接触しながら、欧米先進国で「ソフィスティケート(洗練)」される以前の土着のラテン音楽に触れていったそうです。それでいて、2004年には自らの生誕の地「パリ」への回帰をコンセプトに全曲フランス語で歌うアルバム「Sibérie M'était Contéee」もリリースしています。

 ブローニュ=ビヤンクールやセーヴルに住んでいた青少年期は父親と交友関係の知識人たちと交わり、バンド時代はネズミと一緒にパリの地下鉄駅で演奏。先進国フランスでも中南米の発展途上国でも社会の最上層から最下層に至る「人間」を肌で知ります。そうして時間をかけて「熟成」した彼の音楽が21世紀、17年ぶりの新作に結晶している、と言えるでしょうか。

 ニューアルバムのコンセプトは「不均衡さが増す世界の現状に警鐘を鳴らす」だそうですが、その音楽自体には理屈っぽさはなく、明るいラテン系がベースです。その新作「Viva tu」(「バンザイ、君」というような意味)から、「人生と連帯を祝福する曲」だというタイトルチューンをお聴きください。

 

Manu Chao(マヌ・チャオ) - Viva tu

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年9月24日号

 

2024年9月20日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Sois pas timide - Maître Gims

 2 Spider - Maître Gims, Dystinct

 3 Manon B - Tiakola

 4 Monaco - Guy2Bezbar

 5 J'crois qu'ils ont pas compris - Leto

 6 Toka - SDM

 7 Imagine - Carbonne

 8 Dolse Camara - Booba

 9 Coco - Ninho & Niska

 10 Alibi (With Pabllo Vitter & Yseult) - Sevdalia

 

【アルバムチャート】

 1 Babel Babel - Indochine

 2 Le Nord se souvient - Maître Gims

 3 Le dernier rayon de soleil - HOUDI

 4 Depuis le temps - Bouss

 5 C Amir - Amir

 6 Luck and Storange - David Gilmour

 7 La vie continue - Maes

 8 HIT ME HARD AND SOFT - Billie Eilish

 9 Short N'Sweet - Sabrina Carpenter

 10 The Death of Slim Shady (Coup de Grâce) - Eminem

 

 シングルチャート1位は今週もMaître Gims「Sois pas timide」(恥ずかしがらないでください)。これと今週2位の「Spider」を収録した新作アルバムも2位に入っています。SDMの「Toka」が6位でシングルトップ10入り。スワヒリ語で「出ていけ!」という意味。歌詞の冒頭で「Le bruit du(うるさい)」を連発しています。HamzaとコラボしているBoobaの「Dolce Camara」がトップ10に再浮上しました。

 アルバムチャートの1位は今週もIndochine(アンドシーヌ)の新作が売れていました。2、3、5位に秋の新作が登場。2位は今やフレンチラップ界の「大先生」格、コンゴ民主共和国の首都キンシャサ生まれで38歳のMaître Gims(メイトル・ギムス)の「Le Nord se souvient」(北は覚えている)で、9月13日リリース。意外にもEPとしては2枚目で、アルバム収録曲「Vent du Nord」(北風)もシングル発売されています。

 

Amir

 5位にAmir(アミール)が9月13日に出した4年ぶり4枚目のニューアルバム「C Amir」が入りました。アミールについては2020年11月3日号でくわしくご紹介していますが、2015年に歯医者さんから転向してポップシンガーとしてデビューした当時のさわやか系お兄さんも、すでに40歳。「C(セー)」とは、2023年4月に亡くなった彼の母親のCarmi(カルミ)さんのことです。タイトルはその名前のアナグラムで、アミールは積もる思いを込めて曲を書いたという話です。

 アメリカの著名ラッパー、Eminem(エミネム)の7月12日発売の12枚目のスタジオアルバム「The Death of Slim Shady (Coup de Grâce)」が10位にチャートイン。Slim Shadyとはエミネム自身の分身名です。フランス語の「coup de grâce」は、中世の戦場で瀕死の重傷を負った戦友や敵をこれ以上、苦しませることなくその魂を天国へ送るために、魚の活け締めのようにとどめを刺す「慈悲の一撃」が語源です。それを前にして騎士は「終油の秘蹟」(第二バチカン公会議以後は「病者の塗油」)の代わりに死の直前の告解を聴いてあげたといい、それも騎士道精神の慈悲の心のあらわれだったとされています。

 

HOUDI(ウーディ)


HOUDI

 HOUDI(ウーディ)のニューアルバム「Le dernier rayon de soleil」が9月13日にリリースされました。「最後の太陽の光」という意味で、Guy-Gavriel Kayというカナダの作家がフランス語で同名のファンタジー小説を刊行していますが、これは中世にカナダのニューファンドランド島まで行った北欧のバイキングの話で、特に関係はなさそうです。

 HOUDI(ウーディ)については、2024年1月5日にアルバム「Hood Volume 1」がアルバムチャートで5位に入った直後の2024年1月16日号で一度、ご紹介しています。2002年3月生まれ、22歳のラッパーで、セーヌ=エ=マルヌ(Seine-et-Marne/77)県出身。2022年、毎週金曜日に新作を披露するハイペースで曲を量産するプロジェクト「WOKA」でデビューしました。

 首から上はフードでおおって素顔を見せないので、ステージネームは「HOODI」(ウーディ/フーディ)で、人呼んで「Rappeur au masque de ski」(スキーマスクをかぶったラッパー)。さらにゴーグルまでつけていて、「ストリートをアルプスのスキーリゾートのシャモニー(Chamonix)と間違えていませんか」「夏は暑くないですか」と言いたくなるようなルックスです。リリックは、パロディとユーモアと批判精神をもって権力者、フランス社会、ヒップホップ界から自分の日常まで、自虐も交えながら笑い飛ばすおふざけラップが特色です。

 2年前のデビュー時からDosseh、Georgio、Favé、Guy2Bezbar、Ziak、Lesramら中堅、若手のラッパーたちとのコラボを重ねてその名前と顔ならぬ覆面を売って、2024年4月6日にはパリのオランピア劇場でのステージも成功させていますから「期待の若手」とは言えそうです。今回は新作アルバムからタイトルチューンをお聴きください。歌詞(paroles)は意外にもマジメ路線で。イメージチェンジを図っている?

 

HOUDI(ウーディ) - Le dernier rayon de soleil(最後の太陽の光)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年9月17日号

 

2024年9月13日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Sois pas timide - Maître Gims

 2 Spider - Maître Gims, Dystinct

 3 Manon B - Tiakola

 4 J'crois qu'ils ont pas compris - Leto

 5 Monaco - Guy2Bezbar

 6 911 - Niska, Ninho, Koba LaD

 7 Imagine - Carbonne

 8 Coco - Ninho & Niska

 9 No lo sé - Lacrim

 10 Alibi (With Pabllo Vitter & Yseult) - Sevdalia

 

【アルバムチャート】

 1 Babel Babel - Indochine

 2 Luck and Storange - David Gilmour

 3 BIGLAF - La Fève

 4 Depuis le temps - Bouss

 5 Short N'Sweet - Sabrina Carpenter

 6 HIT ME HARD AND SOFT - Billie Eilish

 7 La vie continue - Maes

 8 Chambre 140 (Part.3) - PLK

 9 VENI VIDI VICI - Lacrim

 10 Papercuts-Singles collection 2000-2023(1CD) - Linkin Park

 

 シングルチャート1位は今週もMaître Gims「Sois pas timide」。6位にNiska, Ninho, Koba LaDによる「911」がチャートイン。アメリカ同時多発テロ事件から23年の歳月が流れましたが、「911」はアメリカ、カナダで警察、消防、救急車を呼ぶ電話番号でもあります。

 今週はアルバムチャート1~3位に秋の新作登場。2位のDavid Gilmour(デヴィッド・ギルモア)は、オールドロックファンならその名を知らぬ者なし。UKのピンク・フロイド(Pink Floyd)のギタリストで、ロジャー・ウォーターズ脱退後はバンドリーダーを務めていました。「Rattle That Look」(飛翔)」以来9年ぶりの新作ソロアルバムになる「Luck and Storange」の邦題は「邂逅」(かいこう/「めぐりあい」という意味)。9月6日リリースでUKチャートでは初登場1位。すでに78歳ですがギターレジェンド、健在です。

 

La Fève

 アルバム3位に9月6日発売の「BIGLAF」が入ったLa Fève(ラ・フェーヴ)は、ヴァル=ド=マルヌ(Val-de-Marne/94)県フォントネー=スー=ボワ(Fontenay-sous-Bois)生まれの25歳のニューウェーヴ・ラッパー。2024年1月2日号でくわしくご紹介しています。「BIGLAF」は英語起源の略語で「大笑い」を意味し、同名のナイジェリアのコメディアンがいます。タイトルチューンのリリックでは「BIGLAFと呼んでくれ」と連呼します。

 アメリカのニューメタルバンド、リンキン・パーク(Linkin Park)のシングル・コレクション盤が10位にチャートインしました。グラミー賞2回受賞。「21世紀で最も売れたバンド」だそうです。今週のSNEPシングルチャートで「The Emptiness Machine」が12位に入っています。

 

Indochine(アンドシーヌ)


Indochine

 ロックファンの皆様、お待たせしました。今週のフランスSNEPアルバムチャートでは、Indochine(アンドシーヌ)の9月7日リリースの14枚目のスタジオアルバム、2枚組17曲入りの「Babel Babel(バベル・バベル)」が「お約束通り」初登場1位となりました。「フランスで新作アルバムを出せば必ずチャート初登場1位になる」という点では、ラッパーのJuL(ジュール)、「暗黒の歌姫」Mylène Farmer(ミレーヌ・ファルメール)と並び立つフランス・ロック界の大物バンド。1981年結成で第一線で40年以上のキャリアがあるという点では、ローリング・ストーンズは別格としても、アイルランドのU2とは十分に張りあいます。

 彼らについてはライブ盤「Central tour」発売直後の2023年1月24日号でご説明していますが、改めてプロフィールをご紹介するまでもないでしょう。新作「Babel Babel」についてフロントマンのNicolas Sirkis(ニコラ・シルキス)は、「現代世界の病理を解剖した」と言い、現代人を取り巻く混沌をテーマにしながら、そこに調和を求めるというのがコンセプトだそうです。ライナーノーツに「Babel Babel regarde l'époque droit dans les yeux (拙訳:バベル・バベルは、時代をまっすぐに見つめています)」とあるように、コロナ禍、イランでの女性へのベール着用義務化やウクライナ戦争についてもとりあげています。う~ん、ニコラ・シルキスはU2のボノとウマが合いそうな感じがありますね。同世代ですし。

 今回はまずタイトルチューンの「Babel Babel」をお聴きください。よく知られているようにBebel(バベル)とは「旧約聖書」創世記第11章に書かれた天にも届かんばかりの高い塔を後世の人たちが呼んだ言葉(バビロンが由来の説などあり)で、それを築こうとしていた人類は神の怒りに触れ、罰として言語をバラバラにされ、お互いの意思疎通がしにくくなりました。なお、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェットや菊地凛子さんが出演した2006年の映画『Babel(バベル)』は、この時に罰として人類に与えられた「言葉の壁」がテーマになっています。

 歌詞(paroles)は寓意的で難解ですが、8分を超える曲の冒頭に世界のさまざまな言語が聞こえてきますから、やはり映画と同じように「言葉の壁」がテーマなのでしょう。頻繁に登場する「roi(王)」とはウクライナのゼレンスキー大統領を指すそうで、ニコラ・シルキスは「これは戦闘の記録だ」と言っています。

 アルバム収録曲には「Tokyo Boy」というナンバーもありますので、それもあわせてお聴きください。東海道新幹線「のぞみ」の車内放送で始まり、歌詞では唐突にロシアのプーチン大統領の名前が出てきます。

※アメブロの運営は病的に神経質なので、今回は一番上の余計な注意書きが「コロナ禍」「ウクライナ戦争」のダブルで勝手につくと思いますが、どうか気になさらないでください。

 

Indochine(アンドシーヌ) - Babel Babel(バベル・バベル)

 

Indochine(アンドシーヌ) - Tokyo Boy

 

では、また来週

À la semaine prochaine!

 

 

 

仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年9月10日号

 

2024年9月6日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Sois pas timide - Maître Gims

 2 Spider - Maître Gims, Dystinct

 3 Manon B - Tiakola

 4 J'crois qu'ils ont pas compris - Leto

 5 Monaco - Guy2Bezbar

 6 Imagine - Carbonne

 7 Coco - Ninho & Niska

 8 No lo sé - Lacrim

 9 Alibi (With Pabllo Vitter & Yseult) - Sevdalia

 10 Dolce Caméra - Booba

 

【アルバムチャート】

 1 Short N'Sweet - Subrina Carpenter

 2 Wild God - Nick Cave & The Bad Seeds

 3 HIT ME HARD AND SOFT - Billie Eilish

 4 Depuis le temps - Bouss

 5 Piano Voix - Arther Teboul & Baptiste Trotignon

 6 La vie continue - Maes

 7 VENI VIDI VICI - Lacrim

 8 Chambre 140 (Part.3) - PLK

 9 Zénith 1985 - Johnny Hallyday

 10 Essentiels - Slimane

 

 オリンピック、パラリンピックと続いたLa Fête(祝祭)も9月8日で終了し、季節は秋。今週もSNEPのヒットチャートに新作が顔を出しています。

  シングルチャート1位は今週もMaître Gims「Sois pas timide」。3位に登場のTiakolaの「Manon B」の「Manon」は、本来はかわいい、可憐という意味ですが、女性の「恋人」「愛人」を指す場合もあります。アベ・プレヴォー(Abbé Prévost)が1731年に出版した小説『マノン・レスコー(Manon Lescaut)』は、可憐だった美少女が男性遍歴を経てファム・ファタール(Femme Fatale/魔性の女)と化す物語。10位に武闘派ラッパーBoobaの「Dolce Caméra」が上がってきました。フランスでは本来「caméra」は映画・テレビ用の動画カメラを指し、静止画カメラは「appareil photo」でしたが、デジタル化が進んだ最近は言葉の使い分けがあいまいになっています。スマホでは動画も静止画も撮れますからね。

 

Nick Cave

 アルバムチャート1位は先週に引き続いてSubrina Carpenter(サブリナ・カーペンター)の「Short N'Sweet」ですが、2位にNick Cave & The Bad Seedsの「Wild God」という渋いところがチャートインしました。8月30日リリース。Nick Cave(ニック・ケイヴ)はオーストラリア出身のシンガーソングライターにして俳優にして作家にして画家という多芸多才な人。すでに66歳ですが、アルバム制作もライブも芸術活動も精力的です。The Bad Seedsは1983年に結成した、良くも悪くもニック・ケイヴのプライベートなバンドで、初期の80年代前半のロンドン風味のオルタナティヴな音楽性から、本拠地をまだ「壁」があった映画『ベルリン・天使の詩(Der Himmel über Berlin)』の頃の西ベルリン、ニューヨーク、サンパウロ、ロンドンと移しながら変遷を遂げ、カイリー・ミノーグとの仕事で商業的な成功をおさめました。「Wild God」は18枚目のスタジオアルバムになります。

 9位にJohnny Hallyday(ジョニー・アリディ)が1985年、パリ19区ラ・ヴィレット公園内の「Zénith」(ゼニス・アリーナ)で収録したライブ盤が入りました。

 

Arthur Teboul(アーサー・テブール)


Arthur Teboul

 今週のアルバムチャートの5位に、Baptiste Trotignon(バティスト・トロティニョン)との共作アルバム「Piano Voix」(8月30日リリース)が入っているArther Teboul(アーサー・テブール)は、ポップロックバンド「Feu! Chatterton」(燃えろ!チャタートン)のメンバーです。バンド名は、シェリーやバイロンなど19世紀ロマン派詩人の先駆けで、苦悩と貧窮の末に17歳で自裁した18世紀イングランドの天才少年詩人トーマス・チャタートンに由来しています。

 アーサー・テブールは1987年11月、パリ生まれの36歳。スペインから追放されたユダヤ人の家系です。少年時代からジョルジュ・ブラッサンスやレオ・フェレの曲を聴いて自ら詩を書き、シンガーソングライターになることを志しますが、パリ20区にあった児童劇団に所属して演劇の勉強もしていました。パリ5区のルイ・ル・グラン高校(Lycée Louis-le-Grand)で出会った仲間と2011年に「Feu! Chatterton」を結成。2015年にメジャーデビューを果たし、テブールは作詞を手がける一方、フロントマンとしてステージに立っています。

 文学性を帯びた音楽が注目されU2のボノからツアー帯同に誘われたり、映画音楽をつくったり、監督のオファーで映画俳優デビューしたり、「アルチュール・テブール」名義で自ら詩集を出版したりと、現在はバンドでもソロでもなかなかの活躍ぶりですが、2022年に「アルテ(ARTE)」プロジェクトで、フランスのコンテンポラリージャズの第一人者、バティスト・トロティニョンと共演します。それが今回の共作アルバム「Piano Voix」に発展しました。

 ジャズを聴くことで一種の陶酔感をも生み出すインプロヴィゼーション(即興演奏)は、約100年前にアンドレ・ブルトンが提唱したシュルレアリスム文学の「自動筆記(オートマティスム)」に通じるところがあるとテブールは言い、詩とジャズ演奏のコラボレーションを一緒にやってみようというのが「Piano Voix」(ピアノ、声)のコンセプトです。

 今回はこのアルバム収録曲から、バルバラ(Barbara)のナンバーとして名高い「Göttingen(ゲッチンゲン)」をお聴きください。その詩には、フランスを支配したナチス・ドイツへの憎悪でも忘却でもなく、真の和解がしたいという、バルバラの思いが込められています。

 

Arthur Teboul(アーサー・テブール) et Baptiste Trotignon(バティスト・トロティニョン) - Göttingen(ゲッチンゲン)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!