智が拉致された。
今日は朝から横浜に遊びにいて
智と始めてデートらしいデートをした。
楽しかったのに………
ほんの数分前まで一緒にいて
本当に楽しかったのに…………
突然の別れがやって来た。
「見つかったんだ。
とうとう……………
俺達の夫婦ごっこも………
強制終了………なんだ。」
携帯に掛けてみても、メールを送ってみても
連絡が来ない。
お店の前で並んでいた女性が
智が拉致られた瞬間を動画に撮っていて
様子を知ることが出来たけど
決して自分の意思で車に乗ったんじゃない。
多分、脅されたんだ。
GPSも切られてる。
智がそんなこと出来るわけがないんだから。
オーナーの先輩や店の仲間も心配して
「警察に連絡しようか?」
って、騒いでる。
どうしよう………
どうしたらいい………
もし、警察が介入するなら
今までの経緯や俺達の関係
そして何より………
智の正体をばらすことになる。
今日、始めて知った事実を…………
ばらすことになるんだ。
そんなことしたら………
………智の今までが………
智が有名人だけあって
おかしな報道されたら……
………色々考えあぐね
兎に角、智を連れていったのは
智のお父さんだろう。
そうに違いない。
だから、一旦警察に連絡するのは後にして
先輩たちに
『た、多分。
智子のお父さんが連れていったんだと思う。
俺達の結婚、もともと大反対してたから……
実家に戻されたのかも知れない。
俺これから行って来ますので
このまま帰らせてください。』
と、説明して
俺は直ぐ様マンションに帰ってきた。
なにか、手掛かりになりそうなものはないか。
阿部さんの電話番号がないか。
そもそも、お父さんて今どこにいるの?
お父さんの事務所ってどこ?
住所は?
電話番号は?
どうやって探せばいい?
焦ったところで何も見つからない。
ソファーにドカッと座り込んで
「…………………俺って……………
あいつとずっと一緒にいたのに………
あいつのこと……………
本当に…………何も知らないんだ…………
ふふふ…………ははは………
ばっかみたい。
バカみたい。
大体、そう言う契約じゃん。
あいつが、お父さんに見つかるまでの契約じゃん。
俺は……………やっと、あいつから………
解放されるんじゃん。
わがままで…………
なんもできなくて………
世話が焼けるあいつから…………
解放されるんじゃん。
やっと、本業に力を入れられるんだ。
むしろよかったじゃん。」
俺は駄々広いマンションのリビングを見回して
『出て行かなきゃ……』
と、呟いた。
俺の荷物が入った部屋。
もう暫く開けてない部屋に足を踏み入れた。
「ここを出ていくなら
この荷物を持って行かなきゃ。」
乱雑に置かれた荷物。
静かな部屋でなんだか異様な音が微かに聞こえてきて
よく耳を澄ませると
冷蔵庫の音だった。
「なんで電源が入ってるの?
え?
なんで?
もしかしてずっと?」
恐る恐る冷蔵庫を開けると
冷蔵庫の中に真っ黒く干からびた
う〇こが置いてあって
その下の段に
紙袋に包まれた何かが入っていた。
見たことがない紙袋と、う〇こ。
これのために電源が入ってたんだろうか
多分この"黒いう〇こ"は
腐ったバナナだろう。
紙袋はわからないなあ………
中身を取り出してビックリ
札束3つと手紙が入っていた。
「翔くんへ
多分これを見つけたってことは
俺が突然消えたって事でしょ。
その時のために一応用意しておいたんだから
翔くん。
ごめんね。
たくさん振り回してごめんなさい。
もう、翔くんは自由だよ。
迷惑かけた分これで勘弁してください。
翔くんとの夫婦ごっこ
楽しかった。
本当に夫婦になったら楽しいだろうなって
思ったこともあるぐらい楽しかった。
今のまま、いつまでも行けたらいいのに
って思ったこともある。
でも、俺には
俺の背中には
沢山の物が乗っかっていて
やっぱり…………
無理だ。
翔くん。
バイバイ。
ほんと楽しかった。
そして…………翔くんが………好きだよ。
…………言っちゃった………へへへ………
…………バイバイ。
あっ。
そうそう、前のアパートから持ってきたときからある
あの黒い物体はなに?
正体が知りたかったけど……もういいや。
大事にしてるみたいだから
電源、入れておきました。
じゃあ、翔くん。
元気でね。
いつかTVでみる日を楽しみにしてるね。」
と、書いてあった。
あいつは、こうなる事を予測してたんだ。