大きな大きなタワーマンション。
俺には一生………縁がない物………
だったはず。
大学時代に相方に誘われて
有名大学を卒業後お笑いの道へ………
親には大反対をされた挙げ句に"勘当"
大学に掛かった費用を返せと言われ
毎月少しづつ返してる。
実家はそれなりに裕福なのに
こんな貧乏してる息子に、仕送りするわけでもなく
逆に取ると言う冷血さ。
………わかってる。
諦めて帰って来いってんだろ。
わかっているけど……………
俺にも意地ってもんがあるんだよ。
一花位は咲かせたい。
貧しくって
毎日、腹空かせてる俺。
だから、こんなタワーマンションに
縁なんて……
あるはずなかったのに…………
『…………気づかないの?
……………俺だよ。』
と、ウィッグを外して短髪の栗色の頭が出てきて
声色がワントーン落ちたその声を聞いて
やっと"大野だ"と気づいた。
俺の足は膝から力が抜けて
ヘナヘナと座り込んでしまった。
でも、弁当はちゃんとキープするあたり
俺って流石だろ。
『大丈夫?』
『……大丈夫じゃ……ねえー……』
緊張と不安から解放されて
俺は思わず「わあ~」と泣き出してしまった。
どんなに不安と、恐怖だったと思ってるんだ。
ここまで来る間、
「俺は騙されているんだ。
部屋に入ったとたん
やくざの兄ちゃんに縛られて
大野と一緒に海に投げられるのかもしれない……
とか、
俺に成り変わっている奴がいて
俺の戸籍を盗んで、俺は人知れず抹消されるんじゃないか…………
とか、
やくざの情婦に手を出したと間違われて
殺される………
とか、
あらゆる想像をしてビビってた………
……………マジで………
マジで………怖かった~」
泣いてる俺に、あいつは慌てて
『ごめん。
ごめん。
ごめんてば………
泣き止んでよ。』
と、オロオロしながら謝ってる。
それも、淡いピンク色のワンピースを着て
うっすら化粧をしてる大野が………
ワンピースなのに短髪で
男らしい表情に、ちょっとおかしくなってきて
『…お前………
…何して…………くれてんだよ。
その格好も…………』
と、涙を拭って問い尋ねた。
俺の言葉に
『…………だって、
身を隠すんだったら
安全なところがいいって………
ここならセキュリテーしっかりしてるし………
それに、性別を変えた方がいいって………
………阿部が言うから…………』
と、唇を尖らせたこいつ。
……こいつ…………ほんとに何もんなんだよ。
『………阿部?
阿部って………
誰それ?
と言うよりも
俺を巻き込むなよ。
俺は、部外者でしょ。
家、借りるなら借りるで
一人で行きゃいいじゃん。』
「全く………俺を巻き込むんじゃね!!」
と、大野を睨み付けたやった。
あれ?
そう言えばこいつ………
"家って借りれるの?"
って言わなかったっけ?
『でも…………
俺を、守ってくれる人が欲しいんだもん。』
『守る?』
『うん。
俺、一人じゃ何も出来ないじゃん。
こんなの一晩ほったらかしてたら
あっという間に干物だぜ。』
と、威張っている大野。
『………だからって…………
なんで俺?
…………ってか、
心配事が余りにも多すぎるんですけど………。』
玄関で腰砕けの俺。
ここだけ見ただけで中が恐ろしい。
『まあ………
兎に角、入ってよ。』
大野が"入ってよ。"とスリッパを出す。
「…………いいのか?
いいのか………俺。
……ここに…………上がったら……
俺はもう………
戻れないんじゃないか?
それでもいいのか?」
と、心が叫ぶ。