いいのか俺………
この先に……
足を踏み入れても……いいのか?
覚悟は出来てるか?
…………って、なんの覚悟だよ。
兎に角、玄関がこれだけ広いことを考えると…………
この先もだいたい想像はつく。
玄関で怖じ気づいて……どうする………。
この先は………俺の知らない……
未知なる世界が、あるんじゃないか?
俺は入ってはいけない世界に
入ってしまうのではないか?
そんな、不安から
出されたスリッパに足を通す事が出来ない。
思えば………
こいつを拾った夜から
俺の人生は、大きくカーブしてしまったんじゃないだろうか………
破滅へのカウントが聴こえてくるようだ。
今なら……
今ならまだ………
俺は平凡な人間に戻れるんじゃないだろうか……
あの、ワンルーム5万円のアパートに
もう一度…………帰ろう。
こいつが何者で
何をしようとしてるかわからないけど。
俺は、もう関わるのを辞めよう。
この先も知る必要はない。
家財道具ももういい。
大野にくれてやる。
ただ、通帳と判子……
そして……
出来れば寝袋だけ返してくれたら
俺は黙ってここから出ていくよ。
(公園で寝るつもり)
そして、誰にも言わないから……………
可愛い女装姿の大野が、俺を見てる。
きょとんとした顔で俺を見てる。
なんだよ………
なんなんだよ。
この、可愛らしさは………
ロン毛のウィッグをつけてた時の姿と言ったら
マジで女の子だと思ったもんな。
"奥さん"だって…………
どんな説明をしたんだろう杉本さんに……
あっ、
俺に腕を絡ませたときに、当たったおっぱい
あれって偽者だったんだ。
喜んだ俺はバカか。
本物と偽者の区別も出来ないなんて………
まあ………
しばらく、本物に触ってないから当たり前か。
って、そんなことより
兎に角、通帳と判子だけでも貰って帰らなきゃ………
だいたい、あんなみすぼらしい格好して
道端で寝てるような奴が…………
この状況……………って………
想像つかないだろ。
あんなヤバイ金もって…………
待て。
あの金で借りたのか?
こいつはバカか
ここの家賃どんだけすんだよ。
あんだけの金があったって
あっという間に無くなるぞ。
俺に払えってか?
そうか…………
俺にも足を突っ込めってか……
俺にも偽札作りの共犯になれってか………
そうはいくか…………
『…ぷぷぷっ……
…翔……………くん………
なにさっきから…………
一人で百面相してるの?
…ははは……面白すぎる。』
と、大野が大笑いして涙まで流してる。
『お前に笑われる筋合いないわ。』
俺は"ふん"と顔をそむけてやった。
『………でも、……超笑えるよ。
ははは……………
…はああ~………それより、早く入りなよ。
翔くんの家なんだから
早く上がって。』
と、手を取る。
「俺の………家って………」
『………じょう……冗談じゃねーぞ。
こんなとこに俺が…………
住めるわけねえじゃん。
むしろ、なんでここ住むんだよ。
意味がわかんねーよ。』
「冗談も大概にしろ。
俺の部屋から持っていった荷物を返せ。
…お前のしてることは……………泥棒だぞ。
もう……………これっきり
お前とはおさらばだ。
お守りも………ごめんだっての。」
と、大野の手を振り払った。
『え?
なんで?
ここ、翔くん名義なんだけど……』
『はいい?』
「俺………名義………って?
………………なんで?」
『だって、俺の名前で借りたら
直ぐにばれちゃうじゃん。』
『ちょっと、待て。』
「ちょと待て………
もう一度整理させてくれ………
こいつはマジで誰に狙われてるんだ?
やっぱりやっちゃんか?
どう考えてもやっちゃんだよな。
俺が守れるわけないだろうが…………
ボディーガード着けた方が正解だろ。」
『………………そう言えば、
翔くん。
さっきから、なに持ってるの?』
大野に、不意に話を反らされて
俺は自分の手を見てみると
お弁当が二つ………
こいつが腹を空かせてると思ったから
持ってきた弁当…………
なんだか……………
俺って…………
お人好し………………
このお人好しが悲劇を生むんだ……………
どうか………
どうか神様……………
時間を………戻して…………………