あれから静かに時が流れ
季節は移り変わって春となった。
俺は、先生の紹介で
パン屋の見習いすることになった。
先生の教え子の家で
俺の事情もよく知ってくれている。
朝早くに家を出てパン屋で働いて
昼から学校の勉強をしての毎日。
忙しことはいいことで
翔くんの事を考えなくていいから
助かった。
そんなある日
机に向かって勉強していると
突然、俺の携帯が鳴り出した。
俺の携帯が鳴るなんて
初めてといってもいい。
「誰だ?」
表示された番号は登録されてないうえに
見覚えのない番号。
「まさか…………翔………くん………?
……………まさかね。」
しばらく鳴り響く携帯を眺め
思いきって出てみることにした。
相手を確認するように
『……もし……もし………
………だれ………?』
と、訝しげに尋ねる。
相手も俺を確認してるのか
「……………もしもし……」
と、少しの間を置いて答える。
聞こえてきた声。
それは懐かしく、忘れられない………
俺が好きだった人の声だった。
『え?
もしかして………翔くん?』
俺が名前を言い当てたことで
相手も確信したんだろう。
「………うん。
よくわかったなっ。」
って、答えた。
『だって、
俺に電話くれる人なんて
………いないもん。』
俺の返事に黙りこむ翔くん。
『……………なに?
…………翔くんからは………
連絡しないんじゃなかったっけ。』
と、意地悪を言ってみる。
だって、翔くんはあの日俺にそう言って、
俺はその言葉に悲しくなったんだから。
「……………」
翔くんも、思い出したのか沈黙が続く。
『………うそ。
ごめん。』
本当はうれしいのに
翔くんが連絡くれたのがうれしいのに……ごめん。
「いや。
健太が謝ることないよ。
俺が悪いんだから………」
と、言う翔くんの声に
なんか元気がないように感じて
『翔くん?
……………どうしたの?
なんか変だよ。
なにかあった?』
と、聞いてみた。
また、しばらくの沈黙。
翔くんに、何があったんだろう………
もしかして…………
智さんの行方がわかった?
なら、俺に連絡はくれないか。
まさか、智さんが………………
と、考えてると
「………………なあ…………」
と、翔くんが絞り出すように声をだし
『なに?』
って、静かに聞いてみた。
「お前は………………」
と、言いかけてまたやめる。
翔くんは、何か言いたいんだろう。
なんで俺に連絡よこしたんだろう。
用があったんじゃないの?
『………………?』
でも、言えない。
すると、
「…………なんで…………
なんで会いに来ないの?」
って、翔くんが言う。
『…………………』
だって……………
だって……………
俺が普通じゃないから………
俺が…………
俺が…………翔くんを怒らせたから……
翔くんが…………
俺を……………あきれてるから…………
俺……………
口に出して言いたいことが言葉にならないもどかしさ………
すると、
「俺の事……………
嫌いになったか?
俺が重くなった?」
と、翔くんが聞いてきた。
『……………………………』
俺は頭を左右にブンブンと振る。
翔くんを嫌いになんて
なれるわけないじゃん。
電話口から翔くんの優しい声が
「…………健太。」
と言う。
優しい、俺の大好きな声。
その声を聞いて
目を瞑ると俺の前に翔くんが現れて
優しい笑みを浮かべて立っている。
「健太に会いたい。
会って話したいことがある。」
俺の目から自然と涙が溢れ
『………………うん。
本当は……………
俺も……会いたかった。』
って、翔くんに答えた。