『で…………用ってなに?』
俺は、潤からの電話を切って尋ねた。
昨日、潤を事務所に送って
一週間ぶりに自宅マンションに向かった。
ポストには一週間分のダイレクトメールや明細書
チラシが入っていて
一枚一枚確認しながら、必要なものを抜き取って
要らないものはごみ袋にいれた。
そこに一枚のメモを発見。
「用があって来てみたけど
留守なので帰ります。
明日、3時頃に来るので待っててください。
……………………母より。」
と、書いてあった。
「……………母さん、来たんだ。」
エレベーターの来るのを待ちながら
何の用だろうと………と考える。
『あれ?…………櫻井さんじゃないですか。
お帰りなさい。』
と、背後から声を掛けられた。
『あっ。管理人さん。
ご苦労様です。』
振り向くとそこには
マンションの管理をしてくださる小堺さんが
電球と脚立を持って立っていた。
俺は、にこやかに会釈をして前を向いた。
管理人さんが、そのまま通り過ぎて行くものだと思っていたのに
俺の前で立ち止まり
『………櫻井さん、
最近お見かけしませんけど
どうかされましたか?』
と、聞かれた。
『はい?』
『いえね。
ここ最近、何度かお母様が来られてるんですよ。
確か、先程も来られてたかと思いますが………
しばらくエントランスのソファーに座って待ってらして………
待ち合わせ、されてたんじゃないですか?』
『あ………いえ。
そうでしたか。
教えてくださりありがとうございます。
これから連絡してみます。
……それじゃあ……失礼します。』
俺は、ちょうど来たエレベーターに乗った。
母さんが何度か来たって………
携帯に連絡くれたらいいのに………
って、実家からの電話も取ったことがない俺。
メールが来ても、返信もしないし………
連絡してから来るとしても
多分「忙しい」とか、「これから出掛ける」って言って
相手しないだろう。
だから、強行突破って思っての行動だろう。
どんな用があるって言うんだ?
ちょっと胸騒ぎがする。
今まで、何も言わず
突然、訊ねて来ることもなかったから
嫌な予感しかしない。
一週間ぶりのマンションの自室は
夏の暑さでどの部屋もムシムシする。
人が住まなくなった家はどこか淀んでいて、かび臭い。
部屋中の窓を開いて風を入れて
ひとまず掃除を始めた。
いつかちゃんと智のことを紹介しなきゃ。
どんなに、反対されたって
俺たちの気持ちは変わらな
俺は、左手薬指に嵌めてある指輪を見て
この指輪を智に嵌めてあげたときの
あの、幸せそうな顔を思い出していた。
智を苦しめたり、矢面にたたせることだけはしない。
と、誓う。
智には、心配かけるといけないので
母の事は黙っておいた。
そして、今日は
『昼から学校の先生たちと
繁華街の見回りがあるから、出掛けるね。』
と、智に嘘をついて
俺は、自分のマンションで母が来るのを待っていた。
すると、4時頃にやっと家のチャイムが鳴って母が来た。
『デパ地下でね。
美味しそうな惣菜を買ってきたのよ。
どうせ、大したもの食べてないんでしょ。』
と、母はエコバッグからあれや、これやと取り出した。
そんな時に潤が心配して俺の携帯に連絡してくれたんだ。