Silent Separation -12ページ目

Silent Separation

作者:顧漫

中国小説「何以笙箫默」(マイ・サンシャイン)の
日本語解釈文です。
ドラマとは若干異なっています。

Part.1 第1章 再会(1)


再び彼を目にしたのは、7年後、週末の買い物客でごった返す超満員のスーパーマーケットだった。

チャオ・モーションは1人ショッピングカートを押し、人波を縫って進むのに苦労していた。外国から帰って来たばかりの彼女は、まだこんな人混みに免疫がついていない。しかし、こういう活気に満ちて慣れ親しんだ場面は自然と彼女を笑顔にさせ、このかしましい故郷の言葉を耳にすると心を強く動かされる。他の人たちも自分と同じように帰国したばかりなのかどうかは知らないが、心の中の興奮と喜びは抑えきれなかった。

7年!長い時間が経ったのね!

だけど、どうして帰国した途端、彼と出くわしてしまうの?ううん、違う。‘彼ら’と言ったほうが正確かも。

モーションは野菜コーナーの前に立つ一組のカップルの姿を無言で見やり、今一度運命の不可思議を味わっていた。7年前、最終的に彼女に海外へ行く決断をさせたのは、他でもない彼らなのだ。

今、その2人が一緒に買い物をしている。やっぱり、結局一緒になったのね。足が速くてよかった。でなければ恐らく、もっと深く傷ついていたことだろう。

ホー・イーチェン、ホー・イーメイ。私って本当にバカ。似たような名前だったら兄妹に違いないと思い込むなんて!

「私たち、兄妹なんかじゃないわ。昔、2軒がお隣りさんで、家族同士とても仲が良かった。どちらも‘ホー’っていう名字だから、親たちが似た名前をつけただけ。その後、イーチェンのご両親が事故に遭ったんで、うちがイーチェンを引き取って育てたのよ」

「あなたが私とイーチェンの20年来の強い絆に勝てると思う?」

「今日はあなたに伝えに来たの。私はイーチェンを愛してる。こそこそ愛したくない。あなたと真っ向から勝負するつもりよ」

19歳のあの年、モーションの誕生日の前日、常にもの静かで、内気な友人だったホー・イーメイが突如、意を決して彼女にこう宣言をした。ずっと温和で、人とのいさかいを嫌うイーメイがこんなセリフを口にするほど、愛情が限界に達してしまったのだろう。

だけど、私は何を武器にイーメイと競争しようっていうの?イーメイが宣戦布告したその日、私はすでに敗北していた。その後、7年間アメリカへ逃げ出したのだ。

ホー・イーチェン――突然、あの日の彼の氷のように冷たい面差しと無情な言葉を思い出し、モーションの心臓はズキズキ痛む。それは軽微で、ほとんど感じ取れない痛みとはいえ、確かに存在していた。

彼らが彼女の方向へ歩いて来る。ショッピングカートをしっかりつかむモーションの指の関節が白くなり始め、すぐにでもきびすを返して逃げたい思いだった。しかし、スーパーマーケットは人で埋め尽くされているため、カートを押している彼女は向きを変えることすらできない。すると次の瞬間、彼女も悟った。どうして私が逃げ隠れしなきゃいけないの?落ち着き払って言ってやればいいじゃない。 「まあ、お久しぶり」 そして、クールに歩き去って、彼らの目に美しい後ろ姿を留めておくのよ。

それに、私だと見て取れないかもしれない。私はすっかり変わっているもの。以前のあのしなやかな長い髪は今や耳の下できちんと切り揃えられた短い髪になっているし、以前のしみ1つない色白な肌は今やカリフォルニアの太陽で日焼けして黒くなっている。だぶだぶのTシャツ、ジーンズ、スニーカーを身につけた姿は、以前とのギャップが大きすぎる。

彼らはゆっくり、一歩一歩近づき、その後……すれ違って行く。

心が痛くないなんてことはない。

か細い声が耳に入る。

「牛乳を買う?」 イーメイのなめらかな声。

「……」

返事ははっきり聞き取れなかった。それでも、イーチェンのチェロのような低く沈んだ声がすごく懐かしい。ここ何年と異国の地で暮らしていても、相変わらずいつでもどこでも彼女の耳に響き渡っていた。

虚しさを感じるが、ふっと一息吐くと、モーションはずっと垂れ下げていた頭を上げて、歩き出す。

「バン」 という音とともに、ショッピングカートが山形に直積みされたバーゲンの石鹸にぶつかった。事の張本人チャオ・モーションは、呆然と数百個の石鹸の山が崩壊する様を眺める。かなり壮大な光景だ。

あのう、私がやったんじゃないってことにしてもいいですか?

「勘弁してよ!今日はもうこれで3回目だぜ」 どこからともなくスーパーの店員が飛び出してきて、非難の声を上げる。

だから、今回も私を責めちゃダメでしょ。通路の真ん中に商品を積み上げる人がどこにいるのよ。モーションはこっそり舌を出すと、しおらしい表情に見えるよう努力する。

この一連のドタバタ騒ぎは、ホー・イーメイを含む周囲の人々の注意を引いた。イーメイは殊のほか騒がしい場所にうっかり目を向け、そして固まる――あの子だ。紛れもなく彼女!イーメイは我が目を疑う。あの子、帰って来たの?

「イーメイ?」 ホー・イーチェンは彼女の反応を怪訝に思い、声に出して問いながら彼女の視線を追って目を向ける。

長身のピンと伸びた体がまたたく間に硬直する。

チャオ・モーション!

あの無邪気な顔してうなだれている小さい女は、まさにチャオ・モーションだ!顔は100%申し訳なさそうにしているが、目には絶対イタズラな笑みを浮かべているはず。遠く離れていて、実のところその表情はあまりはっきり見えない。しかし、イーチェンは知っている。彼は前々から知っていた、彼女がそんな女だと。池一面の水をかき乱しておきながら、責任も取らず立ち去ろうとも涼しい顔をしているような、わがままで利己的で、その上憎らしい女だと。

まるまる7年……まだ帰り方を覚えてたのか?

ホー・イーチェンは目線を落とす。 「イーメイ、行こう!」

ホー・イーメイは驚いて、落ち着いた表情のイーチェンを見る。 「挨拶に行きたくないの?たぶん……」

「彼女はとうに俺の人生とは縁もゆかりもない」 まるで本当に何事もなかったかのような抑揚に乏しい口調である。

イーメイは注意深く彼の表情を観察するが、何の兆候も見い出せず、結局低いため息を1つ吐くしかなかった。 「行きましょ!」

最後にチャオ・モーションに目を向けると、運悪く彼女も顔を動かして、こちらを見ているのに気づく。視線が空中でぶつかり合い、モーションは少しの間ぽかんとしてるようだった。その後、顔に微笑みを浮かべ、イーメイに向かって軽く頭を下げて挨拶した。

イーメイは慌てて振り返って呼ぶ。 「イーチェン……」

「うん?」

「彼女……」 イーメイは動転して話をやめる。再度振り返ると、途切れることのない人波の中にもう彼女の姿はなかった。

「どうした?」

「ううん、何でもない」 イーメイは顔をうつむける。だけど、彼女は明らかに私たちを見たのに、どうしてこんなに簡単に行ってしまったの?そしてイーチェン、あなただって明らかに彼女を見たのに……

いつの日かここに帰って来られるとは思いもよらなかった。

編集長が面接時に彼女に問う。 「チャオさん、どうしてA市で働こうと思ったの?」

モーションは、とっさにどう答えていいかわからなかった。なぜなの?かつてここの大学で1年余り勉強したから?かつてここで彼と知り合ったから?かつてここでたくさんのことを経験したから?

最初は彼女もわからなかったが、帰国する前、まっ先に頭に浮かんだのがここだった。彼に会ったその日になってようやくはっきり悟った。彼に会いたいのだと。彼はすでに私のものではないけれど、だけどどうしても見てみたいと。

ただ見てみるだけ。

「家に帰れないせいかもしれません」 モーションは言う。編集長はしばらくの間、もの問いたげにじろじろ見ていたがモーションを迎え入れ、晴れて某女性雑誌のカメラマンとなった。

しかし、海外の雑誌社で働いた経歴を編集長が重視しすぎる点が、モーションには不安だった。

「ほんの小さな雑誌社にすぎないんですよ」 モーションは編集長にこう告げる。

「あらま!モーションさん」 40代の女性編集長は気安く彼女の名前を呼ぶ。 「私の博識ぶりを褒めてくれてるの?私はね、アメリカの日の目を見ないような小さな雑誌社だって知り尽くしているんだから」

モーションは笑い出し、不安も吹き飛んでしまった。

編集長が真顔になって言う。 「モーションさん、私は中国人個人が一写真家としてアメリカでやっていくのがいかに難しいか知ってるつもりよ。白人より何倍も優秀であることが不可欠なのよね。アイツらはいつだって私たち中国人には芸術的な細胞がないと思ってるんだもの」

こうして落ち着き先が決まると、彼女は又してもあのスーパーへ買い物に行くが、再び彼らと出くわすことはなかった。スーパーの警備員が呼び止める、その時までは。

「お客様、警備室まで少々ご足労願えませんか?」

モーションはぎょっとして、マズいことになったと直感する。新聞では、スーパーの警備員が強制的に身体検査を行うとか、ひいては人を殴るといった報道が紙面を賑わしていた。

モーションが慎重に彼をじっと見つめていると、警備員は渋々言う。 「お客様、別に他意はないんです。ひと月前に何か失くしてないか、伺いたかっただけでして」

ひと月前は帰国したばかりの時期だ。何かを失くしておいて、まさか自分で気づいていなかったとでもいうのか?好奇心から彼について警備室へ入ると、警備員が黒い財布を手渡した。

モーションは中を見るまでもなく自分のものではないとわかり、笑顔で首を振って言う。 「思い違いです。これは私のではありませんもの」

警備員は意外にも頑固だった。 「開けて中をご覧下さい」

彼女は受け取って開く。すると自分の写真が目に入った。

警備員は得意げに言う。 「お客様、これはお宅の写真でしょう?現在とはかなり違ってるけど、それでも僕はパッと一目で見抜いたんですから」

かなり違っている。それは大学に入学したばかりの頃撮った写真だからだ。まだ長く伸ばしていた髪はポニーテールに結ばれ、バカ丸出しで笑っている。

それがどうして見知らぬ財布の中から出てくるの?

モーションは財布を警備員に返す。 「本当に私のものじゃありませんので」

警備員は気転がきかない。 「写真に写ってるのはお宅じゃないの?」

「私です。でも、財布は私のじゃないし」

「絶対お宅のことを知ってる人に決まってますよ。お嬢さん、もしかしたらこの財布の持ち主は、人知れずお宅に恋心を抱いているのかも……」

ちょっと、中国人には連想力がないなんて言ったのは誰?

「だけど……」

「どうぞどうぞ持ってって下さいな、これまで引き取りに来る人がいないんですから。ここに置いといても僕たちだって扱いに困るし、上司に渡したところで政府が没収するだろうし。ならば、お宅にあげたほうがマシってもん。お宅さんと財布の持ち主は少なからず繋がりがあるに違いない。あっ!ひょっとして僕、恋のキューピッドになってたりして……」 警備員は連続ドラマまがいの空想に浸っている。

1ヵ月前と言えば、おおかたホー・イーチェンやホー・イーメイと出くわした頃。彼が落としたとか?そんな馬鹿げた推測をしながら、モーションは財布を家へ持ち帰った。

夜、シャワーを浴びた後、ベッドの上で念入りにその財布を調べる。シンプルなデザイン、高価なブランド、多くない現金。落とし主の身元を特定することなど全くできない。

そしてあの写真、モーションは慎重に取り出す。表面に刻印の跡があることからして、おそらく何かの証明書から剥したのだろう。無意識に裏返して、彼女は突然目を見張る。裏に文字がある!その洗練された、まるで紙を破ってしまいそうな勢いのある筆跡を彼女は決して忘れられやしない。

それは、黒い万年筆で書かれたイーチェンの筆跡――

my sunshine!

複雑な都会生活でも、これまで同様単純に過ごすことができる。働いて、食べて寝る。それだけだ。目が回るほど忙しかった適応期間の後を引き継ぐのは、無感覚の繰り返し。

「モーション君、あちこち探してたんだよ」

モーションが雑誌社にちょうど足を踏み入れた時、遠くで誰かが呼んでいるのが聞こえる。

「ゴジイさん、何かご用ですか?」

ゴジイさんとは雑誌社にいるカメラマンの1人で、実際はとても若い。名字はリーなのだが、いつも誤字・言い間違いが多いため、みんな茶化して彼をゴジイさんと呼ぶ。スターのご機嫌取りにかけてはそれなりの経験を積んでいるため、雑誌の表紙モデルの撮影はすべて彼が担当している。

「うちのカミさんがもうじき出産しそうなんだ。明日、スーパーモデル・シャオの写真を代わりに撮ってくれないか?」

シャオシャオ?モーションは少し困惑する。 「私はかまいませんけど、噂によるとシャオシャオはかなり偏屈な性格だそうで、見ず知らずの人間にはまったく協力してくれないかもしれませんよ」

ゴジイさんもこの点に気がついて、ちょっと考えて言う。 「じゃあ、こうしよう。ひとまず君が行って、トライしてみてくれ。もしどうしても駄目だったら、その時俺を呼べばいい」

翌日、クールビューティが印象的なシャオシャオを見た時、モーションは完全に度肝を抜かれた。モーションは国内の芸能界に関する知識に疎く、これまでシャオシャオの写真を見たことがないため、知らなかった。彼女がまさか……まさか大学時代の親友とこんなにも似ているとは。

だけど、私の親友は素朴で不器用な田舎娘だった。それに引き替え、目の前にいる女性はスラリと伸びた美脚を組み、煙草を吸う仕草が様になっていて色っぽい……

モーションは認めようとしない。たぶん、ただの他人の空似でしょ。

しかし、スーパーモデル・シャオは目を細めてじーっと睨みつけ、エレガントな足どりで歩いて来ると、モーションの前で止まる。

「何よ、私を忘れちゃったってわけ?」

「……シャオメイ?」

「ハン!」 彼女は皮肉まじりの薄ら笑いをする。 「正真正銘、本人よ」

「モーションさん、シャオシャオと知り合いなのかい?そりゃよかった」 一緒に来た同僚が興奮して言う。

「大学1年の時、私が使ってたベッドの上段に彼女がいたの」

「大学時代のベッドの上下ってのは、一番の仲良しって言うもんな」 シャオシャオのエージェントも近寄って言う。

「写真を撮る気はないの?早く撮んなさいよ!」 シャオシャオがいらいらした。

本当に彼女はとても変わったのね!モーションは写真を撮りながら考える。レンズの奥にいるのは、もう不器用で可愛い、あのシャオメイではない。じゃあ、彼女は誰なの?

たぶん誰でもない。上手いカメラマンというのは、レンズの向こうにいる人の魂を撮影することができるものだ。なのにモーションは、シャオシャオの魂までキャプチャーしきれない。たぶん私の実力が足りないせいかも。あるいは、レンズの向こうにいる人がそもそも持っていないせいかもしれない。

シャオシャオは人間味に乏しい!人を絶望させ、無力にさせるぐらい乏しい。しかし、ほかならぬこの乏しさこそが彼女をドル箱スターにしたのかもしれない。

ひと通り撮影した後、シャオシャオが手を振る。 「今日はここまで」

「だけどシャオシャオ、この先まだ……」 彼女のエージェントがピリピリして言う。

「ここまで」 シャオシャオは頑なに言い張ると、振り向いてモーションに相対する。 「コーヒーを飲みに行こう」

「久しぶりの再会だからお酒でもって言いたいとこだけど、残念ながら最近胃がトラブルを起こしてるもんで、コーヒーにせざるを得ないのよね」

「そう、コーヒーがいいわ。それか牛乳にしてもいいかも」 モーションは何を話すべきかわからなかった。訊きたい事があまりにも多すぎて、どこから始めていいかわからない。

「体が何より重要なんだから、ダイエットも程々にね」 モーションはとりとめもない話題を探して口にする。

「ダイエットなんか、一切やったことない」 シャオシャオは笑っているようないないような顔をする。 「ただヘビードリンカーなだけ」

「シャオメイ!」 モーションは親友の自己否定の表情に驚き、つき動かされて彼女の手をしっかりと握る。彼女はどうしてこんな風になっちゃったの?

シャオシャオが反射的に手を振り払ったせいで、モーションはあっけにとられ、気まずい空気が漂い、沈黙が落ちる。

「あなたはすっかり変わったわね」 しばらくして、モーションはとつとつと言う。

「その通り。大学1年の時、私がある人にひそかに恋してたこと、まだ覚えてる?」 シャオシャオは冷ややかに身の上を打ち明ける。 「ある日、私は彼に好きだって告白したの。彼は受け入れてくれたけど、私を愛してはいなかった。その時シャオメイは死んだ。私は今、シャオシャオよ」

わずかな言葉が胸を刺し、身につまされる。モーションはひとしきり心を痛め、何も口に出して訊けなかった。

しばらくすると、シャオシャオが冷ややかに皮肉を込めて言う。 「あなたはちっとも変わらない。相変わらずいかにも親切そうなふりをしちゃって。ずいぶん潔く輝かしいアメリカを捨てて帰って来られたもんよね?」

この言葉はモーションを若干傷つけた。しかし、よくよく考えてみると結局のところ、自分が先に道理に背いたのだ。あの年、ひと言も告げずに去り、7年間連絡も取らなかったのだから、2人の友情に対して後ろ暗いのは私のほう。 「あの時、とても慌ただしく発って……」

「そんなこと、私に言う必要ないってば」 シャオシャオは彼女の言葉をさえぎる。 「そういう話はホー・イーチェンに言うべきなんじゃない?」


ホー・イーチェン?どうして彼に飛び火するわけ?モーションはあの日の彼とイーメイの親密な仲を匂わせる姿を思い出す。 「彼は別に気にしてないと思う……」

「気にしない?誰もが自分と同じように義理も人情もない鉄面皮だと思ってるんだ?」 シャオシャオの声が興奮し始める。 「あなたが行方不明になって間もなくの数日間、彼は気が狂いそうなほどあなたを探し回ってた。その後、1日中寮の下で待ってたっていうのに、そんな彼を待ち受けてたのは何だと思う?」 シャオシャオの瞳が冷ややかにモーションを非難する。 「何人かの人が来てあなたの荷物を全部持って行った。そして、彼や私たちに告げたわ。あなたはすでにアメリカに旅立ったと。恐らく永遠に帰って来ることはないだろうと」

「モーション、あなたは本当に残忍な人ね」 シャオシャオはちょっと言葉を途切らせてから、また話を続ける。 「あの時の彼の姿を私は一生忘れられない。まるでいきなり空っぽにされたかのように、絶望が極限に達して。とてもじゃないけど目も当てられない状態だった。あんなにもプライドの高い人なのに。その人がそんな表情をさらけ出すなんて……」

モーションはうわの空で聞いている。本当にそんなことが起こったのだろうか?

「たぶん彼は罪の意識から……」

「チャオ・モーション、彼を捨ててアメリカへ行ったのはあなたよ。罪の意識に苦しむのはあなたのはずでしょ」

「シャオメイ、あなたは理解してない……」

「私の目に狂いはないわ」

モーションは話を止めた。みんな私が彼を捨てたと思ってるの?絶対違うのに!

紛れもなく彼がそう言ったのよ……二度と私に会いたくないと言った。そもそも出逢わなければよかったと言った。できる限り遠くへ消え失せろと叫んだ……

紛れもなく彼のほうなのに!