Part.56 【莫扎他 & KO 番外1】 同居生活
愚公は莫扎他と4年間、寮の同じ部屋で暮らしていたが、今日になって初めて、実はこいつは金持ちなのだと突き止めた。
そもそものきっかけは、愚公が食べ物を探しに莫扎他のオフィスへ来たことから始まる。莫扎他は仕事に追われ、うわの空で言う。 「引き出しにビスケットがあるから、勝手に持って行け」
愚公が引き出しを開けた結果、目にしたものはビスケットではなく、最上面に置かれている不動産売買の契約書だった。愚公の目が点になる。取り出して見て、冷たい空気を吸い込む。マジかよ!なんとそれも2部!上側にあったのは建築中マンションで、面積180㎡のメゾネットタイプ、引き渡しは再来年となっている。もう1部は改修済みの家具付き中古物件で、100㎡、寝室2つに客間2つ、地理的条件に恵まれているし、インテリアが豪華だ。
2軒合わせると1000万近くの価値があり、なんと現金一括で支払われているではないか。最下段にある購入者の署名はズバリ、莫扎他の実名――ハオ・メイ。
おそらく愚公の表情があまりにも大袈裟すぎたのだろう。通り過ぎる同僚の注意を引きつけた。そこでその同僚も近づいて来て一緒にのぞき込み、ウソだろ!同様に愕然とした。
そして当然の如く、会社中の独身男たちが揃ってショックを受け、莫扎他はたちまち鼻つまみ者に成り下がった。愚公は恨みがましく力いっぱい彼を揺さぶる。 「なあメイ兄貴よ、銀行強盗に何で俺を連れて行かなかったんだ?!」
同僚たちも非常に悲しむ。 「美人兄貴、宝くじの当選金はまだ残ってないかい。俺たちにも部屋を買ってくれよ!」
「美人兄貴、君はブルジョアのくせして、長きにわたって俺たちプロレタリアの中に身を潜めてるとは、一体どういう魂胆だ!」
愚公は心の底から怒りが湧き上がる。 「学生時代、お前はたびたび貧乏なフリして、俺に50元貸してくれと何度も頼みに来たよな!」
「したくて借金してたわけじゃない。本当に貧乏なんだ!」 莫扎他は愚公に揺さぶられて気絶しそうになり、ありったけの力で抜け出す。 「大学入試の時、俺はA大のコンピューター学部にこっそり願書を出したんだ。うちの親父が望んでたZ大の経営学部じゃなかったもんで、毎月600元しか仕送りがない。クソッ、俺はいまだに後悔してる。もっと早く北京に砂嵐と三男がいると知ってりゃ、来たりしなかったのに!」
事態の収拾に乗り出そうとしていたシャオ・ナイは、自分がなんと砂嵐と同列に論じられるのを耳にして、とっさに足を止める。片隅へ寄って携帯を取り出すと、ウェイウェイにライブ中継を始める。
莫扎他は興奮した同僚たちに一歩一歩壁際へ追いやられ、やむを得ず大声で叫ぶ。 「押すな。飯をおごってやる!おごってやるったら!」
勤務時間終了後、メイ兄貴は小さな財布に悲憤をしまい込み、みんなを引き連れて海鮮料理を食べに行った。シャオ・ナイが用事があって行かなかった以外、社員全員が参加したため、大所帯となった。食事中、莫扎他は正直に釈明する。 「先週、うちの両親が上京したじゃないか。俺は実家に戻るつもりなんてないから、親が帰る前、嫁を迎える支度として買ってくれたんだ」
言わない方が良かったかもしれない。海鮮によって静まっていたみんなの怒りがまた燃え始めた。
「チッ、じゃあ、どうして2軒買うのさ。お前は女房を2人娶る気か!」
莫扎他 ^_^|||
個室の中で袋叩きされるシーンが目に浮かぶ。莫扎他はとっさにいい知恵を思いついて、彼らに内輪揉めさせるために一芝居打つ。彼は突然、思い出したフリをした。 「そうだ、もう少しで忘れるところだった。今、住んでる家に1つ部屋が空いてるけど、誰か住みたいヤツいるか?家賃は取らない」
みんな先ずはポカンとして、それから申し合わせたように一斉に吠える。 「俺!!!」
その声が大きすぎて、莫扎他の手は震え、もう少しで生牡蠣を落としそうになった。 「その部屋は少し狭いから、1人しか住めない。お前たち……」
わざと困った風にぐるりと見回す。
噂を聞いて食事会へまぎれ込んでた猴子酒が彼の手をつかむ。 「兄弟、俺たちは4年間同居したじゃないか。この期に及んで俺を見捨てるなんて、できないよな」
愚公が彼を押し退ける。 「どけ。お前は大学院生だから寮があるだろ。俺はメイ兄貴と一緒に風呂に入った仲だぞ。敵わないだろうが!」
同僚A 「愚公、よく考えろ。将来、もしお前に彼女ができて、家へ連れて行ったら、なあ、メイ兄貴にイチコロになっちまうぞ」
愚公は恥知らずに言う。 「ならちょうどいい。俺は奥さんと一緒に生涯、メイ兄貴に寄り添って暮らす」
みんな彼に降参する。 「お前にゃ負けたわ」
デザイン課のある同僚は舌打ちして言う。 「このドロドロぶりを見ろ!美人兄貴よ、一体KO以外に何股かけてんだ?」
みんなは美人兄貴とKOの「婚姻」関係を思い出し、一向に声をあげないKOに次々と目をやる。ふと見ると、彼は一番奥に座って目も上げず、無言で蟹の殻を剥いている。
莫扎他はひとつ咳をして、軌道修正した。 「つまりだな、みんな兄弟だから、誰と暮らすか決めるなんて良心が痛むぜ……ハァッ、お前らで相談してくれ。結果を教えてくれるだけでいいから」
みんなの関心がすぐさまKOから戻り、泥仕合の新たなラウンドが始まった。自分が袋叩きされるシーンは一瞬にして互いの「殴り合い」へと変わり、莫扎他はどさくさにまぎれてパクパク食べ出す。内心この上なく清々しい。
こんなしっちゃかめっちゃかな中、食事を終えて会計する際、ウエイトレスが笑顔で莫扎他の横に立っている。 「ご来店ありがとうございました。全部で……元でございます」
同僚たちはびっくりした。 「こんなに高いのか?」
海鮮料理は確かに安くはないが、これほど高くつくとは考えてもいなかった。この場所へは莫扎他に連れられて来たため、来るまでその相場を誰も知らなかった。
みんなが罪悪感にかられた表情を見せる中、莫扎他はさらさらとクレジットカードの署名をした後、弱々しくため息をつく。 「控え目な生活が長すぎたな。湯水の如く金を使う感覚をすっかり忘れちまってた」
罪悪感は一瞬にして消え去り、みんな開いた口が塞がらない。もちろん例外もいて、ある男は2つの目をハートにして美人兄貴を見ている。 「何たる太っ腹。そのカードで払う姿。メイ兄貴なんかであるもんか。どう見てもメイ坊ちゃまだ!」
海鮮料理を食べ終えた後、メイ坊ちゃまはみんなを引き連れてカラオケへ行く。一行は深夜まで騒ぎ続け、ようやく解散した。
***
翌日は土曜日で、莫扎他は本来昼過ぎまで寝ているつもりだったが、あろうことか午前9時頃、ドアベルが鳴り響いた。莫扎他はぶつぶつ言いながら起き上がって、ドアを開けに行く。誰だ?セキュリティか?隣人か?越して来たばかりだから、俺がここに住んでいることを知っている人間はいないはず。
ドアを開けると、外に立っていたのはなんと――
KO?
まさかまだ半分夢の中か?
「KO?」 莫扎他は驚いて訊く。 「何しに来たんだ?」
KOは無表情で、右手に持っている2つの大きなビニール袋を高く挙げる。 「後ろから攻めに来た」
「あ?」 莫扎他はぼうっとビニール袋から突き出た魚の尾を見る。KOは彼を通り過ぎて、直接キッチンに向かった後、ひと通り見回してから出て来る。
「お前のキッチンには何もないな」
「兄貴、まだ引っ越してきて何日も経ってないんだぜ」
KOは黙ったままリビングルームに戻ると、コンピューターを開けて、Wordを開き、文字を打ち始める。しばらくしてプリントアウトされた紙が1枚出て来た。
KOは莫扎他に渡す。 「着替えてからスーパーに行って、紙にある通り買って来てくれ」
莫扎他は頭を下げて紙を見る――中華鍋、フライパン、電気炊飯器、紫砂砂鍋、フライ返し、オーブン、電子レンジ、電気ベーキングパン、醤油、チキンエッセンス……などなど。
莫扎他は唾を呑み込み、頭を上げて宇宙人を見るかのようにKOを見る。
「君は料理ができるの?」
KOはもの静かに言う。 「プロ並みだ」
莫扎他は衝撃を受けた。
「俺に行けと?」
KOはうなずく。
「じゃあ、君は?」
「野菜を洗う」
「ああ」 莫扎他は黙々と長い時間 白い紙を見て 「電気ベーキングパンって何だよ?フライ返しはどんな形のを買えばいい?木製、鉄製、それともステンレス製かい?」
「……」 KO 「俺も一緒に行く」
莫扎他は小さい財布をポケットにしまって、KOと近くのスーパーへ向かう。KOがいるお蔭で買い物はさっさと済み、その後、配達員を呼んで宅配を頼んだ。
配達員が納品して帰った後。
「鍋と箸は買ったばかりだから消毒しなくちゃならない。今日はちょっと時間がかかりそうだ」 KOは手を上げて腕時計を見る。 「ゲームをしてろ。2時間後、食事しに来い」
莫扎他はキッチンへ向かう彼の後ろ姿を見て、寝ることにした。たぶん目が覚めたら、KOはいなくなっているだろう。この一切合切、夢かまぼろしみたいなもんさ。
夢を見ているような気分だったが、2時間後、莫扎他は時間通りにダイニングに現れる。そして、テーブルの上に湧いて出たように並ぶおかずを見て、思わずゴクリと唾を呑み込んだ。
水煮魚、毛蟹と餅の醤油炒め、手羽先の卵黄蒸し焼き、ピーマンとジャガイモの細切り炒め、ナスのはさみ揚げ……なんと俺の好物ばかり!莫扎他が品位の欠片もなく食いつこうとすると、KOがエプロンを着けて、茶碗を2つ持って出て来た。 「手を洗え」
莫扎他は後ろ髪を引かれる思いで手を洗いに行き、パッとすすいで出て来ると、一目散に食卓に着いて、瞬く間に手羽先を2本平らげる。KOが尋ねる。 「うまいか?」
「んまい、タイコ―に、んまい!」 莫扎他は口に詰め込んだまま、不明瞭な発音で答え、さらに毛蟹半匹を取る。 「KO、君は才能があって優しい上に、料理もできるんだね」
「この会社に来る前は、シェフを本業にしてた」
莫扎他は蟹の足に噛みつくのを止め、ポカンとして彼を見る。
シェフ?彼は突然、目の前にいる男が当代随一のハッカーであることを思い出した。ってことは、こいつはハッカーだった時、正職としてキッチンで料理をしていたってことか?!
文句なしのレジェンドだな!
かつて地元のトップだった莫扎他のプライドは、シャオ・ナイと出逢って一度崩れたが、また改めて深い傷を負った。 「君はどこの大学を卒業したんだい?」
畜生め。これまでのところ、学校の点でしか尊厳を見い出せない。A大以上に優れた学校が国内にあると思えないし。
「9年間の義務教育だけ」
はあ?
KOは疑問に満ちた莫扎他の顔を見て、他人事のように説明する。 「14の時、家族のいない身になった。金がなくて、学校を続けられなかったんだ」
莫扎他はきまりが悪かった。訊いちゃいけないことを訊いたらしい。慰めの言葉をかけたいが、他人を慰めるようなキャラではないので、誠意を持って語ることしかできない。 「今の君は素晴らしい。俺たちみたいな有名ブランド大学を出た人間よりはるかに優秀だよ。以前、三男に負けたかもしれないけど、それは決して君の技術がアイツに劣ってるってわけじゃない。君の人柄がアイツより立派なのさ==」
KOはしばらく彼を黙って見た。そして言う。 「知ってる」
莫扎他は= = 思わず気がふさいだ。まったくもう。お世辞で言ってるのに何、真に受けてやがる!
半時間後、すべての皿が空っぽになった。莫扎他は椅子に背をあずけて丸々とした腹を撫でる。満ち足りた気分でげっぷをする。
「俺はここで暮らすつもりだ」 テーブルを挟んで真向かいに座るKOが言う。
「はあ?ゲプッ……」 莫扎他の全血液は胃に集中していて、明らかに脳が働いていない。
「飯は俺が作る」
「……」
「皿は俺が洗う」
「……」
「床を雑巾掛けする」
「……」
「洗濯もする」
「……」
「俺が何だってやる」
KOは今ひとつ頭の回転が鈍い人を見て、意味ありげに補足する。 「俺に住んでほしいか?」
莫扎他は涙を流して泣き叫ぶ。 「ほしい」
交渉は1ラウンドで終了!KOはうなずき、キッチンに入って食器を洗い始める。
***
すぐ後のある夜、莫扎他はベッドに押し倒され、身ぐるみ剥がされて、食い尽くされる。事が終わった後、手で尻を隠して非難すると、KO兄貴は静かに煙草を吸いながら言う。 「ここに来た初日に言ったろ。お前は反対しなかった」
莫扎他は目を怒らす。 「いつ言った?」
KO 「お前、まだ覚えているか?あの日の俺の第一声が何だったか」
「覚えてるもんか……」 そう言ったものの、A大優等生の頭はお飾りで付いているわけではない。当日の様子が少しよみがえり、莫扎他は思い出した。
彼は回想する。あの日、ドアを開けた後、尋ねた。 「何しに来たんだ?」
KO……
たぶんその返答だったような。 「後ろから攻めに来た」
ゲッ!!!
「思い出したか?」 KOは煙草をベッド横の灰皿に押しつけて消した。 「その後、もう一度言った」
莫扎他はそれをどうしても思い出せなかった。 「何の話?」
「言ったぜ。料理、掃除、洗濯……俺が何だってやるってな」 KOは彼をじっと見つめ、ゆっくり話す。その瞳はまるで黒い炎のように燃えている。
莫扎他は彼に全身 穴が開くほど見られ、ぶちギレそうだった。 「その言葉の何が問題なのさ?!!!」
視線とはまったく対照的に、相変わらず落ち着いた口調でKOは言う。 「俺が何だってしてやる。お前の面倒もひっくるめて」
「……」
莫扎他は菊の花(肛門)を締め、顔じゅう涙まみれだった。