以前、どこかの喫茶店で、お爺さんが幼稚園児と思われる孫に話しかけているのを見た。
「ほーら、くまさんだよ」
お爺さんはそう言った。リラックマグッズを指していた。
……ん?
確かにリラックマはくまなのだが、「くまさん」で間違いはないのだが、……何か違和感。
「くまさん」と言われると、一般的にはテディベアとかのイメージ?
私の場合は、子供の頃に持っていた赤いぬいぐるみが浮かぶ(なぜか定番の茶ではなく真っ赤だった)。
好きで好きで、ズダボロに手足が裂けてしまった高校の頃まで捨てられなかったやつ。
お爺さんにとってはどれも同じに見えたんだろう。そのお孫ちゃんは、幼なすぎてニコニコ笑っていただけだったが、もう少し大きくなると「違うよ! リラックマだよ! こっちがコリラックマでこれはチャイロイコグマ。これはキイロイトリ」とか言い返すに違いない。
現に私は、学童クラブで小学生の低学年と遊んだことがあるのだが、ポケモンのキャラクターを全部ポケモンと呼んでいたら子供らに怒られたことがある。「これはゼニガメ、これはヒトカゲ。こっちはヤングースがレベルアップしたデカグース」とかレクチャーされたが、さっぱり覚えられなかった。
記憶力柔軟なはずの学生時代に、世界史でヘンリ何世かが、国が変わるとアンリ何世になるとか言われた時点で放り投げてしまったほど、この手の名詞変化に弱い。
そんなわけで、ポケモンなんてどれも一括りに「かいじゅう」じゃないかと思ってしまうのだが、それはもはや「くまさん」のお爺さんと同類かもしれない。
そんな私でも、ハマったものに関してはいろいろと覚える。今のマイブームはサンリオの「けろけろけろっぴ」。
1988年頃から出てきたキャラで、生まれはドーナツ池。友達はカタツムリのでんでんとてるてる坊主のてるてる。ガールフレンドのけろりーぬと仲間のノーベルン、キョロスケ、ガンタ、いとこのけろっぺ。その頃はこのくらいの設定だったように思う。
ところが最近、「けろっぴ三兄弟」という、実は三つ子だった、という事実が発覚した。お姉さんのぴっき、弟のころっぴがいるそうだ。
三つ子や仲間、お父さんお母さん、と、みな微妙に違う顔をしている。でもこれも、一括りに言えば「かえるさん」になってしまう。
やっぱりちょっと違和感。かえるさんと言われると、田んぼで体長の割にものすごい大声でげろげろと鳴き声を上げる、あのリアルな蛙が思い浮かんでしまう私。
ポケモンの件で怒った子供たちの気持ちが少しわかった。ちゃんとした名前で呼ばないと、何か別物に感じてしまうわけで。
さて、季節柄、そろそろ年賀状を用意しなくてはならない。来年の干支はねずみ。どういう絵柄にしようか思案中。
ふとカレンダーを見たら、ミッキーマウスがいた。これにしようかな。
そして思った。あのお爺さんはミッキーのこともお孫ちゃんに「ほーら、ねずみさんだよ」と言っているのだろうか、と。
「くまさん」のときも思ったが、違和感はあれど、何だかほんわかもするのはなぜだろう。
(了)