最近、昼休みの後半を読書で過ごしていた。
かなり分厚い手書きの自伝。
もうすぐ90才に手が届く、ある女性の自伝だ。
彼女の人生は、通り一遍知っていた。
例えば子供の数や、最終学歴、出生地。
知っているつもりだった。
でも、全く違っていた。
学生時代から心に決めた人がいたのに、実母の強い、恨みに似た感情で引き裂かれた。
母との諍い、母により兄妹仲を引き裂かれ、殺されかけたこともあった。
あげくいつまでも嫁に出さず、無理矢理使用人と結婚させられた。
子供が病に倒れ、母や母に感化されている兄にお金を出してもらえず、満足な治療を受けさせることができず亡くす…という辛い経験もしていた。
長い長い文章。
書き間違いは一つもない。
話が重複することもない。
昔の字体だから、本当は読みにくかったし、読めないところもあった。
でも、これだけの文章を、いや、過去を忘れることなく書き綴る。
鬼気迫るものを感じた。
彼女は自伝を書き終えたあと、すっかり仏のようになってしまっている。
そう、ボケてしまったのだ。
思いを綴ってほっとしたのだろうか。
彼女の愛する息子は、母の目が黒いうちは二度と会わないといっている。
そこまで拗れた関係については、サラリとしか書いてなかった。
彼女は人生の最後にとんでもないことをしていた。
そこまで至った理由はよくわかった。
もちろん、互いの話を聞かなければ、本当のことなんて知り得ないけれど。
彼女の愛する息子さんに、いつかその本を渡せる日が来るのだろうか。
子供に対する愛は、みんな同じ。
十分、苦労に苦労を重ねて子育てした時代だ。
なぜ、自分がここにいるのか。
どうして生まれてきたのか。
考えさせられる本だった。
本当の事なのか?…彼女に問うた。
微笑みしか返ってこない。
節くれだった指が真実を語っているような気がした。