進化論を否定する学者はブッシュ政権のスパイ | 大野純司のブログ

進化論を否定する学者はブッシュ政権のスパイ

 これまでのブログで、ダーウィニズムを疑う学者が増えていることと、その理由について簡単に述べました。今回は、米国ではダーウィニズムを非難することができないと述べた中国の古生物学者、陳氏の言葉が本当なのかどうかについて、お話しします。「ダーウィンの死」と「進化のビッグバン」をお読みになってからでないと、理解できない部分が多いと思います。

 

 

 

 進化は信じているがダーウィニズムは信じないと言う学者も、「ダーウィンの死」で述べたように厳しく非難されますが、ここで挙げる例はすべてID論者(インテリジェント・デザイン)に関するものです。IDとは、生命の起源や大進化は、本質的に自然な過程だけでは説明できないもので、外部からの情報、つまり知的デザインが必要だと主張するものです。化学進化のブログで詳しく説明していますので、参考にしてください。

 

 化学進化のブログで、カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校のディーン・ケニオン教授が、化学進化論者からID論者になったという話をしました。化学進化とは、生命が化学物質から進化してできたというものです。一般的に受け入れられている説ですが、その過程については、70年の研究を経て、まだほとんど解明されていません。それどころか、疑問点ばかりが増えて、ゴールラインが見えなくなっている状態です。

 彼は、彼の著書が化学進化の教科書として広く使われていたほどの学者でしたが、生物学の授業から外され、実験室監督に格下げになったのです。しかし、大学でこの処分についてヒアリングがあり、25対8票で教授に復職することができました。何と、生物学部の教授は全員復職に反対したそうです。なぜこれほど多くの生物学者が反対したのでしょうか。

 英国の無神論ダーウィニスト、リチャード・ドーキンスによると、英国王立学会の物理学会員の68%が無神論者であるのに比べて、生物学者は89%だそうです。この統計に無神論と有神論以外の選択があるのかどうかは知りませんが、ないとすれば、物理学の有神論者は32%、生物学の有神論者は11%で、約3分の1です。

 これは進化論、ビッグバン、宇宙の微調整などが哲学的宗教的にどういう意味を持つかということと関係があると思われます。統計学者ではなく、自身熱心な無神論者であるドーキンス氏の記述ですので、この数字自体はあまり信憑性がないかもしれません。ノーベル賞を受賞した科学者の4割ほどが有神論者であると言う統計もあります。しかし、生物学者に無神論者が多いと言うのは間違いないでしょう。

 有名な無神論科学者のカール・セイガン氏は、多くの物理学者が「ビッグバン教会に集っている」と言って彼らをバカにしました。ビッグバンが広く受け入れられ、宇宙に始まりがあったと知った多くの物理学者が、有神論者になったことを嘆いたコメントなのです。過去100年の物理学の発見は有神論的意味合いがありますが、ダーウィニズムは哲学的宗教的にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。

 リチャード・ドーキンス氏は、「ダーウィン以前でも、無神論は論理的には成立したが、ダーウィンの理論が知的に満足できる無神論者であることを可能にした。」と述べています。つまり、進化論は無神論的意味合いを持つと言えます。ケニオン教授がこのような仕打ちを受けたのも、これと関係がありそうです。

 ID自体は、超自然的な要素を肯定も否定もしませんが、進化論に無神論的意味合いがあるのと同様、ID論には有神論的意味合いがあります。そのため、ID論の動機は有神論であり、科学ではなく宗教だ、と非難されるのです。ウィキペディアなどを見ても、IDは疑似科学と呼ばれています。

 進化論の無神論的意味合いに比べると、ID論の有神論的意味合いの方が強いことは確かです。しかし、これは、進化論は科学ではなく、無神論あるいは無宗教だというのと同じようなものです。だとすると進化論も疑似科学ということになりますが、もちろんそんなことはありません。

 無神論の科学史学者マイケル・シャーマー氏は、IDに反対していますが、大切なことはIDが科学であるか疑似科学であるかではなく、正しいかどうかだと述べています。意外にも、科学の定義は統一されてはおらず、言葉の範疇の議論をしても意味はないというのです。しかし、一部の人は、自然科学は事象に自然以外の要因を見出してはいけないと考えるのです。

 そう考えたところで、自然以外の要因がないということにはなりません。臨死体験の研究をしていたある有名大学の教授が、これを科学と呼べるかどうかはわからないが、とテレビのインタビューで前置きしたのを見たことがあります。確かに、「自然」科学の範疇には入らないかもしれませんが、問題は、彼の研究が科学的であるかどうかではなく、事実であるかどうかです。

 

 2004年、IDで有名なスティーブン・マイヤー博士は、カンブリア爆発に関する記事を、スミソニアン研究所が発行するワシントン生物学会論文集に寄稿しました。ところが、スミソニアン研究所の学者だけでなく、国中の進化論者が、記事自体よりも、それを載せたリチャード・スターンバーグ編集長を非難したのです。

 スミソニアン博物館は、彼のカギを取り上げて事務室から締め出し、博物館の化石サンプルなどへのアクセスを禁じ、彼に好意的だった上司の部署から彼を外しました。これが大問題になり、米国会で小委員会を作って調査したのですが、博物館関係者は、彼を辞めさせるために、故意に噓の情報を流したことが発覚しました。

 スターンバーグ氏は、進化生物学とシステム生物学の博士号を取得していましたが、彼は生物学の学位を持っていないという噂が流されました。「彼は神父だ。ブッシュ政権のスパイだ。賄賂をもらってこの記事を出版した。」これらの全く根拠のない非難をして、彼を降格させたのです。ちなみに、彼は、今はID論者ですが、当時はそうではありませんでした。

 この事件は、有名な科学誌だけでなく、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナル、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)、フォックスニュースなどでも報道されました。当初、記事の内容自体に関する反論はなかったのですが、ワシントン生物学会は、反論する価値すらないと発表しました。ウォールストリート・ジャーナルも、ワシントン生物学会が記事の内容的な批判はしていないと指摘しています。

 通常、科学誌の記事は、他の専門家に依頼して出版前に査読します。何か問題があれば、それを指摘し、訂正した上で出版するかどうかを決めるのですが、学会会長は、査読では特に問題がなかったことを認めています。

 反論したのは、talkreason.orgと言う無神論のサイトに出た記事のみでした。著者は、ナショナル・センター・フォー・サイエンス・エジュケーションと言う進化論教育の促進を目的とする活動団体のメンバーでした。このような団体の会員が無神論サイトに寄稿していることを見ても、進化論の哲学的意味合いが伺えます。

 ところで、「化学進化」のブログで、ID学者がジャンクDNAにも何からの機能があるはずだと予測し、それが的中したと言う話をしました。進化論者は、進化の過程において役に立っていないDNAが多く残っているはずであり、それらはくず(ジャンク)だと考えたのです。大部分のDNAがジャンクであることが、進化論の証拠だと考えました。

 しかし、ID学者は、DNAが情報であり、情報の起源が知性以外にないとすれば、必要ないDNAはほとんどないはずだと考え、その予想が的中したのです。ジャーナル・オブ・サイエンスが、この発見を2012年の10大ニュースの一つに取り上げたとき、トロント大学の生化学者ローレンス・モラン氏は、こうやじったそうです。

 「まあ、仕方がない。多くの科学者もIDの創造主義者と同じくらい愚かだと指摘することで満足しなければならないのかもしれない。」これは、前述したセイガン氏の物理学者に対する皮肉に似ています。繰り返しになりますが、進化論=無神論でないのと同様、ID=創造論ではありません。

 「ダーウィンの死」で引用したジェームズ・シャピロ氏は、ダーウィニストではありませんが、有名な進化論者です。彼は、この発見の重要性と、この説を予測し発見した学者たちを称える記事をハフィングトン・ポストに寄稿しました。

 この記事には共著者がいたのですが、彼は、その共著者について、進化論に関する考え方は自分と全く異なると述べながらも、好意的に紹介しています。それはリチャード・スターンバーグ氏で、彼もこの発見に貢献した一人でした。

 

 シュツットガルト州立自然史博物館所長だったグンター・ベックリー博士は、2009年のダーウィン誕生200周年と「種の起源」出版150周年の展示計画を立てていました。IDが如何に馬鹿げているかを示すために、IDを提唱する書物を「種の起源」と一緒に展示しようと考えたのです。

 彼曰く、彼はそれらの本を読んでしまうという間違いを犯してしまいました。彼は無神論者であったにもかかわらず、ID論者になってしまい、「迫害」され、辞任しました。彼の名前は、ウィキペディアからも消されてしまったそうです。実際、検索してみましたが、出てきませんでした。

 ちなみに、彼はその後、理神論者になり、現在はキリスト教徒になったようです。理神論は、有神論と少し異なり、後者が宗教的であるのに比べて、前者は哲学的であると言えるかもしれません。アインシュタインも、ビッグバンの発見で理神論者になりましたが、セイガン氏の皮肉は彼にも向けられているということです。

 このような例を挙げればきりがありません。次回は、今までのブログをまとめたいと思います。