進化のビッグバン | 大野純司のブログ

進化のビッグバン

 大進化に関する前回のブログでは、ダーウィニズムを疑問視する学者が増えていると言う話をしました。今回のブログは、その理由について簡単に話したいと思います。

 

 

 このような疑惑の一つの大きな理由はカンブリア爆発です。もう一つは、マクロ進化に必要な莫大な量の新しいDNA情報がダーウィニズムでは説明できないという点です。これは化学進化のブログの内容と似ていますので、そちらを参考にしてください。カンブリア爆発では、1千万年足らずの間に多くの新しい生物種が地球上に突然出現し、多様な動物の体制(身体的な特徴や組織の配置、構造、形態のパターン)が発現しました。

 

 

 生命の誕生は約38億年前と言われています。カンブリア紀まで、ほとんど単細胞の生物しか存在しなかったのですが、直前のエディアカラ紀、約5.6億年前に、シンプルな多細胞生物が現れました。これらは、現存する多細胞生物とは非常に異なるとされています。

 カンブリア爆発の時期についても、正確には言えません。ほとんどの場合1000万年の単位で表記されていますが、私が調べた限り、唯一100万年単位で表記されていたある大学の資料によると、5億4300万年前となっています。もちろん、数が細かい方が正確だということではありませんが、この数を基に計算してみましょう。

 生命の誕生から今までの38億年を1年に置き換えると、10月まで単細胞しか存在しなかったのに、11月8日辺りに海綿のような多細胞生物が出現し、10日の夜カンブリア爆発が始まり、翌朝には、現在地球に存在するほとんどの動物型が現れた、と言った感じでしょうか。現代の科学ではそこまで正確には言えませんが、どれだけ突発的であったか、分かっていただけると思います。

 単細胞生物のDNAの塩基対(A、T、G、Cのペア)は、多くても約100万対ほどです。しかし、カンブリア紀に出現した三葉虫は、現存の節足動物と同じだとすると約1.4億対で、その複雑さは比べ物になりません。

 ダーウィンは、カンブリア紀以前にそれまでの進化の過程があったはずで、それらの化石がまだ発見されてないだけだと考えました。「カンブリア紀系統前の、これらの仮定される初期時代に属する豊富な化石層が見当たらない理由について、私は満足のいく答を提供することができない(種の起源)。」

 「種の起源」出版の50年後、1909年、カナダのバージェス頁岩でカンブリア紀の海洋環境の化石が大量に発見され、最近では、1984年に陳興瑞博士によって発見された中国雲南省の化石が有名です。前カンブリア紀の地層にも、単細胞動物やシンプルな軟体動物など、保存されにくい化石が非常によく保存された状態で見つかりました。これらは、カンブリア紀の動物形態には程遠いものがほとんどだったのです。

 決定的だったのは、当時の海水の成分が保存に適していたためと思われますが、海綿と思われる生物の胚の化石が多く見つかったことです。この直径1ミリに満たない軟体が化石として保存されたのであれば、カンブリア紀の生物に至る進化過程の生物の化石が見つからない訳がありません。これ以上探して何かが見つかる見通しはありません。

 1995年、米国のタイムズ紙は、「進化のビッグバン」と題して、雲南省の化石の特集を組みました。副題には、「新しい発見は、生命が驚くべき生物学的激発で始まり、ほぼ一晩でこの惑星を変えた」とあります。ビッグバンで宇宙が無から生まれたように、カンブリア紀の動物群も突如として出現したので、このような題が付けられたのです。「一晩」とありますが、これは11月12日の晩のことかもしれませんね。

 記事の中で、ある中国の学者は、どれだけ早ければ「進化」と呼ばなくなるのかと皮肉っています。つまり、こんなに急に多くの生物が現れたのにもかかわらず、それを段階的な進化と呼ぶのはおかしいと言うのです。

 陳興瑞氏は、その後、シアトルで講演をし、ダーウィンの「生命の樹」は逆様だと述べました。以下の図は、上がダーウィンのスケッチ、下はそれを元にヘッケルが書き直した「生命の樹」です。

ダーウィンによる生命の樹

ヘッケルによる生命の樹

 動物界の最上層の分類階層を門と言い、それに網、目、科、属、種と続きます。進化論は、すべての生命に普遍的共通祖先があると教えていますが、カンブリア爆発では、脊椎動物を含め、現存する門の過半数が別々に突如として現れたのです。つまり、共通先祖はないと言うことになります。

 今世紀、人間を含むいろいろなゲノム情報が解読され、コンピューターや数学などを専門とする学者が統計的にそれらを分析しています。それによって、各生物のDNAがどの程度似ているか、いないかが分かるわけですが、彼らも、その多くが、生命の樹は間違っていると指摘しています。

 ついでにつけ足しておきますが、下の絵に見覚えのある人は多いと思います。「ヘッケルの胚」と呼ばれ、かなり最近まで生物学の教科書などでよく使われていました。先述した「生命の樹」を描いたヘッケルは、発生進化論の代表的な提唱者でした。発生進化論とは、個体発生の過程において、さまざまな種が共通の胚の段階を経ると主張し、この類似性が進化の証拠であると考えたのです。

ヘッケルの胚

 1868年に描いたものですが、19世紀末に既に胚の類似性が実際以上に大げさに表現されていることが指摘されていました。発生進化論が広く支持されなくなった後もこの図が広く使われ続けたので、未だにこの図に見覚えのある人が多いのです。最先端の学者と一般レベルの知識の乖離が伺えますが、それは現在も続いています。

 私がこのブログに書いている事柄も、調べると簡単に出てきますが、知らない方がほとんどだと思います。科学界が意図的に隠しているのではないかと思うのは私だけではなく、このシリーズを終わりまで読んでいただければご理解できると思います。

 

 話を元に戻しますが、各地から進化論学者が集まって陳氏の講演を聞きました。ところが、ある教授が、ちょっと配慮に欠けているのではないかと思われる質問をしたのです。「あなたの国はとても権威主義的ですから、こうした化石がダーウィニズムに異議を唱えているなどと発言するのは、少し不安に感じませんか。」この教授がどういう理由でこの質問をしたのかは、本人にしか分かりませんが、推測はできます。

 共産主義は無神論に基づいたイデオロギーです。進化論は、無神論の発展に最も貢献した説であると言っていいでしょう。実際、マルクスもエンゲルも、進化論には非常に興味を持っていたそうで、エンゲルは進化論に関する論文も書いています。その進化論を覆しかねないようなことを中国で発言しても大丈夫なのか、という質問なのでしょう。

 もう一つの可能性は、欧米では進化論が通説として受け入れられており、それに反対すると、体制に逆らうものとして、学界から「迫害」されます。前回のブログ、「ダーウィンの死」にも書きましたが、ダーウィニズムに反対した英国自然史博物館が受けた仕打ちは、そのよい例です。欧米ですらそうなのだから、中国ならもっとひどい仕打ちを受けるのではないかと考えたのかもしれません。

 陳興瑞氏は、笑みを浮かべながら、「中国では、政府を非難することはできませんが、ダーウィニズムを非難することはできます。アメリカでは、政府を非難することはできますが、ダーウィニズムを非難することはできません。」と答えました。実際、彼の学説は、人民日報でも報じられたそうです。

 次回のブログでは、欧米でダーウィニズムを非難するとどうなるか、具体的な例をご紹介します。