10月に読んだ本は4冊(図書館本4冊)でした。
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<満足度> ★★★ 感動 ★★ 面白い ★ 収穫少
<お気に入り順>
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅 香帆(集英社新書 2024.4)
【満足度】★★★
【概要・所感】天狼院書店の店長を経て文芸評論家の著者が2023年にウェブサイトに連載したものを加筆修正した内容だそう。「労働」と「文化的生活」の両立についてどうすればいいのか?を考察した本で、まさかの明治からの労働史と読書史を並べて紐解くアプローチは秀逸でした。本は読む時間はなくてもインターネットはできてしまうんですよね。忙しいと必然的に仕事(またはなんらかの目的)以外の文脈を取り入れる余裕はなく、自分に関係のある答えだけをしかもインスタントに求めてしまうのはよくわかります。仕事(それ以外もですが)に全身全霊で取り組むのを美徳とするのではなく、「半身」で働きながら本が読める社会になればよいという著書に共感しました。
【ポイント】
*明治時代初期に読書界に起きた革命と言えば、「黙読」が誕生したことだ。江戸時代、読書
といえば朗読だったのだ。当時、本は個人で読むものではなく、家族で朗読し合いながら
楽しむものだった。(p.36)
*現代の私たちが持っている「教養を身につけることは自分を向上させる手段である」という
うっすらとした感覚は、まさに「修養」から派生した「教養」の概念によるもの(p.76)
*つまり読書は常に、階級の差異を確認し、そして優越を示すための道具になりやすい。
(p.160)
*自己啓発書は「ノイズを除去する」姿勢を重視(p.181)
⇒本を読むことは、働くことのノイズになる。
*90年代以前 =中略= 読書はむしろ「知らなかったことを知ることができる」ツールで
あった。=中略= 90年代以降 =中略= 社会のことを知っても、自分には関係がない。
それよりも自分自身でコントロールできるものに注力した方がいい。(p.183)
*従来の人文知や教養の本と比較して、インターネットは、ノイズのない情報を私たちに与えて
くれる。(p.201)
⇒ノイズの除去された知識(=知りたいことのみ)が情報。偶然出会う情報を知識と呼ぶ。
*読書を「娯楽」ではなく処理すべき「情報」として捉えている人の存在感が増してきている
(p.221)
⇒「情報」を得るには速く、役立つほうがいい
*昨今「シリアスレジャー」と呼ばれる、「お金にならない趣味を生きがいとする人々」が注目
されている。(p.229)
*本を読むことは、自分から遠く離れた他者の文脈を知ることである。(p.236)
*この世の知識はいつかどこかで自分につながってくると思っている。他者は自分と違う人間
だが、それでも自分に影響を与えたり、あるいは自分が影響を与えたりするのと同じだ。
(p.236)
『日本陸海軍、失敗の研究』歴史街道編集部/編(PHP新書 2021.7)
【満足度】★★
【概要・所感】「陸軍編」「海軍編」「終戦・和平工作編」という3部構成で、各章の著者も保阪正康、岩井秀一郎、大木毅、戸高一成ほか戦史研究でお馴染のメンバー。(保阪正康の陸軍編の第三世代論が一番わかりやすかった。)詳しい人からすれば総花的で目新しい内容も無いのかもしれないが、まだまだ知らなかった内容も多く、戦争に向かう道の分岐点でどこが失敗だったのかよくわかる1冊。
【ポイント】
*明治の陸軍指導者を第一世代とするならば、第二世代は大正から昭和初期までの田中義一、
上原勇作、宇垣一成たちである。(p.13)
⇒戦争は軍事だけでなく、政治と一体化しているという土台に立っていた
⇒第三世代の先頭の永田鉄山はその意識を継いだ人物だったが、昭和10年に暗殺
*長州閥の支配を変えるときに、陸軍大学校卒業時の成績をもって、能力を客観的に評価
(p.16)
*東條が首相兼陸相のとき、アメリカとの戦争の火蓋は切られた。これはすなわち、彼が
アメリカと戦争ができると判断していたからに他ならない。(p.18)
*「作戦主体の戦争」を作戦参謀は主張し、その結果、現実と乖離した作戦が出てきた(p.22)
⇒自分より成績の悪い者が集めた情報に振り回されるより、自分達の考えでやらなければ。
*陸軍で通信傍受を担当していたのは、参謀本部特殊情報部であり、戦争末期には千名もの人員
を投入していた。さらに中央以外にも、=中略= 陸軍全体で見ると、三千五百名近い要員
(p.40)
*連合艦隊司令部には、兵站、情報、政務など、あらゆる分野の参謀が揃っている。つまり、
スペシャリストが集まる巨大な作戦空間であり、単独で作戦立案を行うだけの能力があった。
(p.114)
*マリアナ沖海戦まではまだ戦力を有していた連合艦隊だったが、昭和十九年十月のレイテ沖
海戦に至って、主力艦艇のほとんどを失った。(p.119)
⇒豊田副武時代に弱体化
『続ける思考』井上 新八(ディスカヴァー・トゥエンティワン 2023.11)
【満足度】★★
【概要・所感】 著者は主に本のデザインを手掛けるフリーのデザイナー。この本で覚えておくことは二つ。「やろうと思ったらすぐやる・やると決めたら毎日やる。」 例えば読書を習慣化したいなら手に取ってページを開くだけとか、つまり続けられるサイズまで小さくして着手するというのは意外と考えなかったです。また、「記録する」ことも確かに継続の一歩。最後の裏テーマのくだりはポエムっぽかったですが、本質をついている話のように思いました。
【ポイント】
*人生に革命を起こすのは、生まれ持った才能でも、驚くべき発明や、天才的なひらめきでも
なく日々の小さな積み重ねだ。(p.25)
*続ける秘訣は「毎日やる」(p.68)
⇒やるやらないをいちいち考えないようにする
*よく考えてみたらこの人もいきなりこんなふうにピアノが弾けるようになったわけじゃない。
=中略= 練習して、練習して、嫌になることもあっただろうけど、それでも練習して、そう
やって積み重ねてきた先に、今こうして軽やかに、なんでもないように、楽しそうにピアノを
弾いているのだ。今上手に弾いている、その結果の部分しか見ていないから、簡単そうに
見えるし、そこだけを見て「いいな」なんて思っているけど、じつはそれはものすごい努力の上
に成り立っている。(p.153)
*細部に小さく手を入れていく間に、いつのまにか全体が変ってくる。(p.168)
⇒日々の小さな変化を起こし続けていく。大きく変わっていたことにあとで気づく。
*一見無駄かもしれないと思うことを続けると、そこにはその人にしかない個性が生まれる。
(p.208)
*記録することで観察力が高まる。(p.230)
⇒自分だけの好きを発見できる
*毎日1冊読むにあたってルール(p.267)
最後まで読む・気になったらメモ・1冊で2つ以上は人に話せるネタを探す
*「やる気」とか「意志の力」で続けるのは限界がある。こういう面倒なことを続けるために
必要なのは、意志の力とは関係なくやれるように行動を「自動化」することだ。(p.269)
*世界を見るメガネを増やすための読書 =中略= 当たり前に気づくための「気づきの読書」
=中略= 本を読むということは世界に出会い直す手段であり、=中略= 世界にある
「当たり前」に気づき直すための方法だ。(p.279)
*思ったような人生になることはない。人生とはだいたい思ってもないふうになるのだ。
(p.281)
*好きじゃなかったものを好きになる。それはなんだったのか。そこに何があったのか。
「時間をかけた」 これなんだと思う。時間をかけて、毎日それに向き合い続けたから好きに
なった。(p.293)
⇒時間をかけるというのは続けることの先にある
『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』佐藤 恵美(PHP研究所 2024.8)
【満足度】★
【概要・所感】著者は労働者メンタルヘルスの専門家。職場の同僚のフォローに疲れる状況というのは仕事量と心理的負担感の合わせ技で起こる典型だそうです。その対処方法や認知の方法はメンタルヘルス系の知見が有効ですが、初学者向けの本と思います。
【ポイント】
*「報酬」がない状態で「怒り」の感情があると疲弊する(p.55)
*人に話をすると「自分はこう思っていたんだ」「こうしてほしかったんだ」などと、自分の思考や
感情の輪郭がはっきりしてきます。(p.151)
*人間は農耕生活をはじめる以前は、場所を変えながら狩猟採集をして生活する歴史が長かった
ので、本能的に移動や変化の欲求があるといわれています。(p.170)
⇒これを満たすことは心身のエネルギーチャージにつながる(日常に小さな変化を加える)
*「手続き的公正」(p.233)
決定のプロセスに公正感があるほど、その決定に対して肯定的になる