今年の春の甲子園決勝は、好ゲームになるのでは?という予想から一転、17対1という大差がつくワンサイドゲームになりました。
本当の理由などは誰にもわかりませんが、大会屈指の好投手である安楽くんが3連投で、決勝では腕の振りも、球速も自分の力にはほど遠い状態で、メッタ打ちにあったという事実は残りました。
MAX150キロを超える球速をもっている選手でしたが、決勝戦では140キロが精一杯で、相手選手からしたら、ちょうど「打ちごろ」の球になってしまいました。
現在の大会の日程システム上、決勝戦に近づくにつれて連戦連戦になることは、大会開始前からわかっている事なんですけどね・・・
ただ、あまりのワンサイドゲームになったことで、「やはり連投はよくないのではないか?」「日程を考えた方がいいのではないか?」「これでは大切な素材がつぶれてしまう!」という議論が巻き起こっている。
しかし。
実は、この手の議論は私が高校生の頃、すなわち、すでに20年以上前から議論されていることである。
そして、この議論は、本質的には改善される事は無い。
その事も知っている。
なぜなら、
<その1>「大会日程をなんとかできないのか!」
という、疑問点に関しては、甲子園球場を試合の舞台にしているという最大の問題点があります。
なぜ問題なのかというと、甲子園球場が阪神タイガースのホーム球場であるということです。
今は強いですが、昔のタイガースが弱かった時は、夏の甲子園大会期間に甲子園球場で試合はできないので、何週間か、ずっと遠征になるわけです。いわゆる「死のロード」と言われ、メタメタに負けて甲子園に帰ってくるという時期が続きました。ですので、「なるべく大会期間は短くできれば・・・」という考えになることは当然です。
<その2>「甲子園球場以外で開催はできないのか?」
例えば、他の球技のように、「準決勝からは甲子園球場で!」みたいなことにできれば、日程的に相当余裕がでるとおもいますが、テレビ放送の問題、甲子園に出場する事は名誉な事であり、出場チームのOB、OG、関係者が試合になると、多数観戦に来られるので、キャパシティー的にも甲子園でないと難しいという問題。伝統的な問題もあります。
まぁ、当事者である<甲子園球児>たちが、「絶対に甲子園でやりたい!」と言うだろうから、ここを変えるのも難しいでしょう。
<その3>「ひとりのピッチャーに負担がかかりすぎると肩やひじを故障してしまうので、球数制限や連投制限をすればいいのではないか?」
これは、声を大にして言いますが(笑)、「試合に勝てるレベル」だったり「甲子園を目指す事ができるレベル」で、同一チームに2人以上の優れたピッチャーがいる事など、はっきり言って強豪チーム以外はあり得ないのです。
この議論は、野球を本気でやったことがある人ならわかります。ピッチャーという存在がどれだけ野球という試合に影響を与えるのかを知っているからです。
<4番バッターも変えはきかないですし、エースも変えはきかないのです。>
だから、WBCのようなプロならともかく、アマチュア野球での球数制限などありえないのです。
当事者である高校球児達は、純粋です。
将来の夢はもちろんプロ野球選手であるとか、メジャーリーグに行きたいとか、大きな夢を持っていると思いますが、チームスポーツであり、高校生時代という期間限定の大会である以上、本人達は「つぶれてでも勝ちたい!」と思うのです。
これは、10数年前くらいに、松坂大輔選手率いる横浜高校が準々決勝で延長17回を戦い抜き、準決勝では監督が「松坂を壊したくない」という理由で松坂選手が先発しなかった試合があります。
その試合でさえ、終盤、試合が接戦になると、松坂投手は右腕にぐるぐるに巻き付けていたテーピングを外し、ブルペンで投球練習を始めるのです。
そのときの、甲子園の歓声、チームメイトの表情、テレビカメラの追い方、そしてなによりも、松坂投手本人の鬼の形相が忘れられません。
その試合、横浜高校は大逆転で決勝戦に進み、そして、その決勝戦で松坂投手はノーヒットノーランを達成して優勝するのです。
そうなんです。
極限状態になれば、高校生たちは、若い人たちは、あとさき考えずに、ただ純粋にボールを追いかけるんです。
目の前に倒すべき相手がいたら、リスクを顧みずにぶつかっていくのです。
たとえ、それで「自分の体がつぶれたとしても、本望だ」くらいに熱中するのです。
これが、子供の純粋さであるし、怖いところなのです。
実際、高校野球で一斉を風靡した投手が、プロ野球で早い時期にスランプや故障に苦しみ、実力を発揮できない選手、引退に追い込まれる選手がたくさんいます。
その理由として、まだ骨格が完成していない時点での無理な筋肉や骨への負荷があげられていますが、それは事実かもしれません。
これは甲子園大会だけでなく、甲子園出場を目指す地区予選でもおこっている現象です。
安楽君の様に、議題にあがる事無く、人知れず故障してしまう選手は本当にたくさんいるのです。
じゃあ、そのような無理な育成や日程から誰が守ってやるの?
大人でしょ。
(すみません・・・。今、流行なんで(笑)あっ。ちなみに林先生は私の高校の10歳上の先輩でして、いつかお話ししたいなぁ)
話は脱線しましたが、守ってやるのは大人の役割なんです。
高校生達は純粋がゆえに、目の前のことしか見えなくなることもあります。
それを冷静な大人の視点で、守ってやるのが大人の役割なんです。
方法やシステムももちろん大切ですが、まずは、どこに目標を置くのかが大切です。
甲子園出場で野球人生を終わりたいのか、大学野球なのか?プロ野球なのか?
アメリカのメジャーリーグでは、日本のような骨格が完成していない時期に、これほどまでに体に負担をかけることは、ありえないという論評があります。
確かに、その通りだと思いますね。
あくまでも、高校時代のスポーツ大会は学業や体育の延長線上にあるものであるということを大人が忘れてはいけないのです。
甲子園に出たら、国体に出たら、大学に進学しやすくなるぞ!とか
箱根駅伝にでたら、就職が有利になるぞ!
人材の採用本やセミナーで、大人が煽っていたら、子供だって「今が、勝負だ!」と無理をします。
大切なのは、日本中の大人たちが、子供達の将来に責任がとれるように行動する事、胸をはれるような行動をとることです。
「子供達を守るのは私たちだ!」と強い気持ちをもつ事です。
そうすれば、
「甲子園球場の問題」
「日程の問題」
「球数制限の問題」
など、一瞬で解決します。
それが改善できないとしたら、それはすべて大人の都合です。
それが変えられないのは、なぜなのか?
こういうことって政治と同じかもしれませんね。
しかし、あきらめずに本質を探し、議論を起こす。そして、継続していく。
これが現状を変える、小さくても大きな一歩なのです!
試合後、安楽投手は、「夏の大会は4連投しても、150キロが出せる様にがんばりたい」と試合後語っています。
他人やシステムのせいにしない発言はまさに、この子の親御さんの教育の賜物であり、素晴らしい選手だと思います。
きっと、このまま成長したら、日本を代表する選手になることでしょう。
だからこそ、絶対に連投させてはいかん。
大人が守らないかんのです。
問題を提起して、私自身が自分の案を提示しないのも卑怯なので、一つ提案します。
<山村案>
準決勝の前で一旦、大会を中断します。1週間の中断期間を置き、選手の疲労回復と、タイガースの試合をホームの甲子園でおこないます。そののち、準決勝を再開します。勝ち上がっているチームの勢いに水を差してしまうという問題はありますが、選手が故障する確立の高さに比べたら、比にならないと思います。
これは地区予選も同じで、準決勝前で一旦1週間の中断を置けば、過度な連投はなくなります。