天国から来た大投手 十二、ワンダーボーイ 216 | 六月の虫のブログ

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森次郎がグランドに出ると選手達にあいさつした。ホワイトソックスには二人の日本人選手がいると聞いていたが、一人は戦力外通告されて他球団に移籍したとのことだ。もう一人は、福岡ブレーブスにいた井口二塁手だ。井口は森次郎を見るなり日本語で話し掛けてきた。気さくな人だ。井口は森次郎が緊張もせず、他のチームメイト達と英語で冗談を言い合っていることに感心していた。森次郎は、軽く球場内を走って体を温めると井口の隣でストレッチを始めた。森次郎が相撲の四股のような格好でストレッチをしていると、井口が「モリ、そのストレッチ、誰に教わった」と尋ねた。森次郎は肩をすぼめた。井口は「ライオンズの松原がしていたストレッチに似ているから訊いたんだ」と微笑んだ。森次郎は「松原さんを知っているんですか」と尋ねた。井口は「彼には日本シリーズで完全試合されたんだから。それに、彼も大リーグ志向が強かったから、よく一緒に食事に行ったからね。可愛い後輩だよ」と言った後、「松原が生きていたらプレーオフで、当たっていたかもしれない。残念でならないよ」と首を振った。森次郎は「井口さん、僕が松原さんの夢を受け継いで、叶えます。必ず、プレーオフを勝ち抜いて、ワールドシリーズで勝ちましょう」と言って、ブルペンに向かった。

森次郎の肩ができると、A.J.は座ってミットを構えた。森次郎は時速百マイルのファーストボールを投げた。彼は「こんなに速い球を受けたのは初めてだよ」とボールを投げ返した。森次郎は数球ファーストボールを投げた後、カットボールとスライダーを5球ずつ投げた。A.J.は「モリ、君は本当に高校生か」と驚いた。森次郎は「いいえ、先月高校は卒業しました」と微笑むと、「サークルチェンジも見ておいて下さい」と頼んだ。森次郎がサークルチェンジを投げると、「ホーリー・カウ。マッダクスのサークルチェンジに匹敵するくらい落ちるね」と感心した。オジー・ギーエン監督が来ると「オジー、モリはマダックスとロケットを足したようなピッチャーだよ。二十勝以上するのは間違いない。ミットを構えたところに、桁違いのボールが来るんだから」と興奮気味に語った。森次郎はオジーの前で数球投げて、ブルペンを降りた。

A.J.とグランドに出ると、井口がバッティング練習をしていた。森次郎はオジーに「僕も何球か打たせて下さい」と直訴した。オジーがうなずくと、森次郎はベンチに自分のバットを取りに行った。A.J.が不思議そうな顔をしていると、「モリは、シャーロットでもホームランを打っているからね。あのパワフルなピッチングを見るとバッティングも見たくなるよ」とオジーが説明した。森次郎が井口に代わって、バッティングケージに入った。井口はオジーとA.J.の隣に立って、森次郎のバッティングを見守った。森次郎は一球目を見送った。コーチが投げた二球目を、森次郎はフルスイングした。ボールはレフトスタンドの上空、遥か彼方に消えて行った。その後の3球とも場外まで運んだ。オジーは、森次郎の打球を見て「彼のパワーは、コネルコ以上だよ。A.J.、君に指名代打を当てるしかないようだ」と苦笑いした。森次郎は二十球ほど打ってゲージを出ると、「コーチのボールを打っても参考にならないですね」と驚いている三人に言った。




     ホワイトソックスの井口選手(フリー画像より)