天国から来た大投手 四、佐々木裕香 36 | 六月の虫のブログ

六月の虫のブログ

ブログの説明を入力します。

 土曜日の朝、早慶大学野球部のグランドに行くと、野島が待っていた。野島は、森次郎に「吉野君、今日のことは池崎君にも言ってあるから心配しなくていいよ」と言った。野島は、森次郎の今までの活躍を称えた。そして、「今日わざわざ来てもらったのは、君に新しい球を教えたかったのとうちの連中に投げてみて欲しかったからだ」と森次郎に言った。森次郎より浩輔の方が、その新しい球に興味を持った。野島が教えたかったのは『サークルチェンジ』という変化球だった。握り方は単純で親指と人差し指で丸の形を作って、残りの三本の指でボールを包み込むように握る。この『サークルチェンジ』は、腕の振りがムービングファーストボールと同じで、球速は遅く大きく落ちるのが特徴だ。バッターには、この速度の差と変化にタイミングを合わすのが困難だ。野島は「この『サークルチェンジ』は、シカゴカブスのマダックス投手の得意な球で、彼は三百勝以上上げている大投手だ。君の大きな手を見て、この球がいいと思ったんだ。肩やひじにそう負担にならないしね」と森次郎に付け加えた。
 ウォームアップを終えると森次郎は野島に握り方を教わって、マウンドに向かった。野島自ら森次郎の球を受けてくれる。森次郎は野島のミット目掛けて、ムービングファーストボールを数球投げた。野島は前回より森次郎の球速が速くなっていることに感心した。この時、浩輔はまだ森次郎に乗り移っていなかった。浩輔は大学生相手に投げるまで、乗り移るのを待つことにしていた。森次郎は早速野島に教わった『サークルチェンジ』を投げてみることにした。森次郎が握りを確かめていると、野島は「ボールを高めに投げるつもりで、おもいきり腕を振ってみなさい」と指示した。森次郎はうなずくと、野島の言うとおり投げた。ボールはホームベースを越えたところでショートバウンドして野島のミットに収まった。野島は思わず「ナイスボール」と声を上げた。浩輔もこの球は使えると、確信した。森次郎は十球くらい『サークルチェンジ』を投げてみたが、感触はいい。細かいコントロールも、これからの練習でなんとかなりそうだ。
 野島と軽食を採った後、グランドに戻ると、野球部の選手たちがウォームアップしていた。野島は選手たちを集めると、森次郎を紹介した。選手の中には、新聞等で森次郎の記事を読んだことがある者もいて、「君が超高校級バッターで大リーグ級ピッチャーの吉野君か」と騒いだ。野島は真面目な顔をして、「今日は、君たちに大リーグ級ピッチャー、吉野君のボールを直に経験してもらおうと、彼をここに呼んだのだ」と言った。


       グレッグ・マダックス投手(フリー画像より)