十六歳のアメリカ Vol.159 | 六月の虫のブログ

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ベースボール


三二、勝負はこれから (つづき)


 パムはやはり幸運の女神だった。この日のマウンドに立った私は、今シーズンで一番の出来だった。コントロールも良く、変化球も決まった。セイント・アン高校のバッターたちは大振りが目立ち、チェンジ・アップや二種類のカーブにまったくタイミングが合っていなかった。特に、サイドスローで投げるカーブの曲がり方には驚いたらしく、そのボールを『スキヤキ・ボール』と命名して私をからかった。私は順調に四回を無失点で切り抜けて、めでたく勝利投手の権利を獲得した。味方は四回までに四点を取ってくれていた。四回を投げ終えた私に、ミスターが勝利投手の権利を獲得したのだから交代したいかどうか尋ねた。私は点を取られたら交代すると言った。

 五回裏、ワン・アウトを取ったものの、二本のヒットとエラーで一点取られてしまった。ミスターも私の球威が衰えてきているのが分って、四回に交代したいかどうか尋ねたのだろう。ピッチャーというのはいつも強気で、何とか抑えられると思っている。私は特にこの傾向が強かったようだ。一点取られた後、まだランナーは一塁、二塁に残っていた。私はマウンドからベンチのミスターを見たが、私を交代させる素振りは見せなかった。

 結局、私は続投することになった。バッター・ボックスには、『スキヤキ・ボール』と命名した相手チームの四番打者が立っていた。彼が、昨シーズン、唯一セイント・アン高校からKVCのオールスターに選ばれたプレーヤーだということは知っていた。彼の前の打席は、『スキヤキ・ボール』で当たり損ねのピッチャー・ゴロに仕留めていた。この回もカーブと『スキヤキ・ボール』で打ち取ろうとしたが、二球とも見逃されてボール・ツーとなってしまった。どうしてもストライクの欲しい私は、ファスト・ボールでカウントを取りにいった。さすがにKVCのオール・スター・プレーヤー、私の真ん中に入ったボールを見逃さず、見事に捕らえた。彼の打球は外野の間を抜けていった。セイント・アン高校のグランドにはフェンスがなく、打球はどこまでも転がっていき、結局三塁打となった。これで、一点差の三対四まで迫られた。それでも、私の強気は変わらず、負ける気がしなかった。この回はとにかく自力で抑えてやろうと、次のバッターに向かった。私に気合が勝ったのか、後続バッターを三振と内野フライに打ち取って、5回を投げ終えた。


 つづく・・・




 大リーグはシーズン最終戦。ボストンはこの試合に立って、プレー・オフ出場を決めたいところ。


 『スキヤキ・ボール』は、遊びで投げていたボールで、試合で投げたのはこの日が初めてだった。ホームベースの端から端まで大きく曲がるボール、右バッターには有効だった。



注意: 『十六歳のアメリカ』は、私の体験を基に書いていますが、フィクションです。

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