十六歳のアメリカ Vol.130 | 六月の虫のブログ

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ベースボール


三〇、練習試合 (つづき)


 キャッチャーのゲイリーはカーブを要求した。私は彼のサインにうなずき、三球目を投げた。ボールは外角に外れ、ワン・ボール、ツー・ストライク。四球目は、ファスト・ボールで、KCCのベンチからため息が聞こえてくるようなボールだった。球筋は彼が空振りした二球目と変わらないと思ったが、今度は彼が見送った。カウントは、ツー・ボール、ツー・ストライク。ゲイリーは、カーブのサインを出した。私はこのカーブで決めるつもりで、慎重にボールの縫い目に指をかけて投げた。ボールに指が思ったより引っかかり、投球はホームベース手前でワン・バウンドした。ゲイリーはキャッチャー・ミットを脇に挟み、両手でボールをこすりながら二、三歩マウンドのほうに歩いてボールを投げ返した。私はゲイリーからボールを受け取ると、深呼吸をしながら右手でロージン・バッグをつかみ、指で軽く揉んで横に落とした。ここは、一か八かの勝負だ。投げる球は決まっていた。ゲイリーも私と同感らしい。彼はサインを出すと、ミットをど真ん中に構えた。

 私は振りかぶると、懇親の力を込めてボールをゲイリーのミット目掛けて投げ込んだ。「ボール」。審判はそう言うと、一塁のほうを指差した。ボールは力み過ぎたせいか、外角高めに外れた。バッターは私のほうをチラッと見て、無表情で一塁ベースへ歩いた。このとき、私にはKCCベンチの表情を覗く余裕はなかった。次のバッターにもストライクが入らず、歩かせてしまった。さらに、次のバッターには初球を狙われ、絵に描いたような流し打ちでライト前に運ばれ、まず一点を献上した。なお、ランナー、一塁、三塁でレフト前ヒットを打たれ、二点目を献上。続いて、ランナー、一塁、二塁。変化球はまったくストライクが入らない。仕方ないので、ファスト・ボールを多投した。今度も、私の投げたボールは真っ直ぐど真ん中には行ってしまった。そんな絶好球を大学生が見逃すはずがない。バッターはバットをスイングすると、ボールはライナーでレフト前に飛んで行った。私は三点目を覚悟して、ホームのカバーに走った。二塁ランナーは躊躇なく三塁ベースを蹴ってホームベースを目指した。レフトのレイ・デヴァインからの送球はダイレクトでゲイリーのミットに収まり、三塁を回ってホームを突こうとした二塁ランナーは余裕でタッチ・アウト。

 結局、ランナーの暴走とレイの好返球がなかったら、何点取られていたか分らない。私はベンチに戻ると、真っ先にレイに握手を求めた。

 次に投げたブライアン・マーサリは、KCC打線を一失点に抑えた。このとき、私は完全に、開幕投手はブライアン・マーサリに持っていかれたと思った。



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 大学生との神経戦に負けた気がした。変化球の練習が足りていないのも確かだった。今でも、最初に「五ドルやる!」と挑発してきたプレーヤーの顔を覚えている。



注意: 『十六歳のアメリカ』は、私の体験を基に書いていますが、フィクションです。