メイキング・フレンズ
一八、初めてのキス (つづき)
交換留学生は自分の国やホームタウンや家族について、ロータリー・クラブの定例会で紹介することになっている。私は、アメリカに来る前に日本で、京都や自分の住んでいる町や家族の写真スライドを用意していた。スライドは全部で三十枚ほどあったが、定例会ではこれらのスライドを英語で説明しなければならない。アメリカ到着から約一ヵ月半後のロータリー・クラブの定例会で、その任務を果たすこととなった。定例会での上映の一週間前、マムとチャックの前でスライドの説明の練習をすることにした。まず、見せるスライドの順番を検討し、説明をつけていった。説明は、キーワードだけをメモに書き取った。練習は二時間くらいで終わった。
いよいよ定例会での上映の日がやってきた。カンカキー・ロータリー・クラブの定例会は毎週平日の木曜日にあるので、私は途中で学校を抜けることになっていた。三時限目のP.E.(体育)の授業が終わると、駐車場に出てダッドを待った。すぐにダッドが車で現れ、私たちは定例会の会場に向かった。定例会の始まる二十分前に会場に到着した。会場には世話役のワドリーさんがいて、スライドの準備をしてくれた。私は持ってきたスライドをワドリーさんに渡した。会場を暗くしてピントの調整をし終わると、ワドリーさんは私にスライド映写機の操作の仕方を教えてくれた。
準備が終わるとワドリーさんの隣の席に腰掛け、会が始まるのを待った。私がテーブルに座っているのを見つけて、ドクター・ハース(水上スキーを一緒にした歯医者さん)やマッキャンさん(航空ショーに連れて行ってくれたビジネスマン)が挨拶に来てくれた。二人ともスライド上映を楽しみにしているとのことだった。みんながテーブルに着き、時間がくると司会の人が連絡事項と本定例会のプログラムを知らせ、私をみんなに紹介してくれた。私は立ち上がり、深々とお辞儀をした。私には立ち上がってお辞儀をする以外、他にどうすればよいのか分らなかった。お辞儀の後、会場から大きな拍手が舞い起こった。日本式の挨拶を、みなさん、喜んでいるらしい。私の出番は、食事の後とのことだった。
ワドリーさんが私に飲み物は何にするのか尋ねた。私が「紅茶」と答えると、彼は私の前にあるコーヒーカップを横に倒した。私が不思議そうにしていると、彼が私にその理由を説明してくれた。カップがそのまま上を向いていると、ウエイターはコーヒーを注ぎ、カップが横に倒してあると、紅茶を注ぐ。また、カップが伏せてあると、ウエイターは飲み物の希望を聞くことになっているらしい。会議などの場合、注文をとるウエイターの声に邪魔されることもぐ~んと減る。なんとまあ、アメリカらしい非常に効率的なシステムだろうと感心した。
つづく・・・