十六歳のアメリカ Vol.35 | 六月の虫のブログ

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ハイスクールの一日


一六、美術の時間 (つづき)


 ドーンと初めて喋ったのは、学校が始まって三日後のスタディー・ホールの時間だった。彼女がチャックに話しかけた。彼女は、私が英語を話せるのかどうか知りたいらしい。チャックは自分で試すよう彼女に言い、彼女を私のほうに手招いた。すると、彼女は私に向かって、”Hey, speak something!”(「何か喋ってみろ」)と言ってきた。そこで私は”How old are you?”(「何歳?」)と彼女に問いかけた。彼女は丁寧に、”Sixteen years old”(「一六歳」)と答え、大きな声で、”Hey, Chuck, he can speak English!”(「ヘイ、チャック、彼、英語喋れるじゃん」)と叫んだ。

 当時の私には彼女と会話できるほどの英語力はなかったので、彼女との最初の会話はこの三十秒で終わった。アメリカ人のほうが日本の同級生より大人っぽい顔をしているとは感じていたが、ドーンが私と同い年だと聞いて驚いた。


 ドーンは面白がって、私にスラングを教えてくれた。”Kiss my ass!”は、私が彼女に冗談を言ってからかうと、彼女が私に向かって返す決まり文句だった。私はどういう意味かさっぱり解らなかったが、彼女があまりにも頻繁に使うのでその文章を紙に書いてもらった。私は辞書で”ass”を調べたが、「ロバ、ばか、強情者」としか出ていない。これでは意味がわからないので彼女に聞いた。すると彼女はキスの口をした後、自分のお尻を指差した。”ass”とは「お尻」という意味らしい。そこで、私は「オーケー」と言って、立っている彼女の後ろに回ってしゃがんだ。彼女はびっくりしたように私の顔の前からお尻をどけ、振り向いて笑い出した。私はとぼけて”What?”と言い返した。

 ”Kiss my ass!”を直訳すると「私のお尻にキスをしろ!」だが、これは他人を馬鹿にするときに使う慣用句で文字どおりの意味はない。このとき以来、ドーンは私に”Kiss my ass!”と言うのを止めた。

 

 つづく・・・


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ドーンの後姿。机に座っているのは美術のガネルズ先生。ドーンは今、何をしているのだろう?書きながら、彼女との思い出に浸っています。


注意: 『十六歳のアメリカ』は私の体験を基に書いていますが、フィクションです。