近所に小さな本屋がオープンし、記念に何か買いたくて、
文庫の棚を「あ」行から見ていった結果、たまたま出会った本。
それが植村直己さんの本であり、私の運命が動き始めた瞬間でした。
※これは、私がオーロラタロットを創った経緯を書いている
「私とタロット」シリーズの第5回の記事です。
第一回目は、以下のリンクからどうぞ。
世界を駆け巡り、大冒険を果たしていった植村さんの本を読み終えて、「うん、いい本に出会えた」と思った私は、ひと月後、再び、同じ本屋へ。。
そこに待っていたのは、「運命が確定する瞬間」でした。
今度もまた、文庫の棚に向かい、「あ」、「い」、「う」……と、著者順を追っていきます。
このまえ、このやり方で素敵な本に出会ったのだから、今度もまた同じ方法で。
そんな気持ちからです。
ただ、こうした「期待」は厄介なもの。
「また素晴らしい本に出会いたい!」と意気込んでいるせいで、
「なんとなく、これがいいかな……」
といった感じの「肩の力を抜いた選び方」ができません。
目に留まる本があっても、
「んー、どうかな……いまいち、ハマれる気がしないなぁ」
と、いちいち身構えてしまうのです。
いやいや、あのときは無心だったからこそ、植村さんの本を手に取る気になったわけで、こんなふうに「吟味」をするのは失敗のもと。
本選びも、仕事選びも、恋の相手選びもそうですが、
「絶対に、私にピッタリの素晴らしいものを……」
という欲を出すと、かえってうまく行かないことが多いように思います。
きっと、「運命に身を預けること」ができていないからでしょう。
「欲」のない「無私な心」こそ、不思議な運命を呼び込むものだということは、長年生きていると、なんとなく分かってくるものです。
そこで、ふっと思いました。
そうだ、もう完全にデタラメに、たまたま手に取った本を選んでしまえばいい!
この思いつきが気にいり、書棚のまえで目をつむって、そっと手だけを棚に向かって伸ばしてみます。
何も見ないで、運に任せて本を選ぶことにしてみたのです。
棚に伸びたのは左手でした。
特に意識したわけではないのですが、
タロットカードを引くときに使う「左手」が自然に書棚に向かって伸びていました。
背表紙に指先が当たります。
目を閉じたまま手探りで、
「コレ」という一冊を「指」が選びます。
その本をスッと引き出し、目を開けました。
ん?
・・・・!?
声にならない驚きで、私は目を見開いて、
出てきた本の表紙をしばらくじっと見つめていました。
なぜなら、私の左手が引き当てた本の表紙には、
「シロクマ」の写真があったからです。
シ、シロクマ?
ま、まさか……、また北極の話?
著者もタイトルも、ロクに確認しないまま、その一冊を開き、目次を眺めます。
第一章 卒業する君に
第二章 アラスカに惹かれて
……やはりこれは北極圏のお話。。
タイトルを見ると『魔法の言葉』とあります。
もし、この日の私が、タイトル名で本を探していたら、こんなタイトルの本に北極の話が書いてあるとは決して思わなかったでしょう。
著者名は星野道夫。
本をペラペラめくるうち、ようやく気付きました。
パッと思いついたのは、ゴマフアザラシの赤ちゃんの写真だったのですが、
ああ、星野道夫さんって、アラスカで活動していた写真家だ! と。
その彼の本。
それが私の左手が探り当てた本だったのです。
一度目はただの偶然。
二度目は奇跡。
……そんな言葉が脳裏をかすめていました。
たまたま手に取った本と、デタラメに選んだ本。
――その両方に現れた北極圏の世界。。
実をいうと、植村さんの本を読んでいるときから、北極圏の神秘的な現象の数々をタロットにしたら素敵かも……という「妄想」は、頭のなかで始まっていました。
ただ、私にとって、そういうのは珍しいことではありません。
魅惑的なモチーフに出会うたび、「これをタロットにしてみたら……」と考えるのは、私にとって職業病のようなもの。
料理研究家が何かの拍子に「オリジナルレシピ」のヒントを思いつくのと同じような感じで、何をしていても、「この世界をオリジナルのタロットにすること」をイメージしてしまうだけなのです。
ただ、そのイメージを実際の形にできるのは稀なこと。
「できたらいいな」で終わってしまう場合も多いので、
北極圏の世界についても、あくまでひとつのアイディアとして、頭のなかにストックしておくつもりでいたのですが……
なぜ、私の左手はこの本を選び取ったんだろう。
こんなにたくさんの本が存在するのに、なぜ、この一冊が出てきたんだろう。
……そんなことを思いながら、読み始めた星野道夫さんの本。
強烈でした。
たった1枚の写真から、この極寒の世界に魅入られ、
アラスカの大自然を撮ることに愛を注ぐことになった星野さんの深い世界観。
運命の不思議、人生の不思議、自然の不思議をとつとつと語ったこの本を読みえたとき、私の心は決まっていました。
北極圏の神秘を詰め込んだタロットを創りたい――いや、必ず創ろうと。
……つづく