駅のホームで食す立ち喰いソバは大好物だが、そこら辺の街角にある同じ様な店も嫌いじゃない。
嫌いじゃないが風情が無い。そこにはやっぱり「旅をしている」というスパイスが欠けているからか。
で、こちらの「天政」みたいなタイプの店はどちらにも属さない。
かと言って、本格手打ちうどん・そば屋かと聞かれればそれも違う。
出汁はちゃんと取っているが、麺は袋入りの見慣れた物だ。具の天ぷらだって業者から仕入れた出来合い物である。更に立ち喰いではない。
こういったタイプの店の事はハイブリッドソバ屋、若しくは永世中立ソバ屋と呼ぶのが正しいのだが、このタイプの店ではそれなりに食べる時のマナーというものが存在する。
まずは注文方法だが、最近では新進気鋭のラーメン店でも食券自販機を良く見かける様になった。
が、特にこれに関しちゃラヲタに多い意見なのだが、この食券制度というもの自体に味わいが無くて嫌だという輩が多い。
ま、言わんとする事は分からなくもないが、一般の立ち喰いソバ屋やこういったハイブリッドヌードルショップにそれは不要だ。
何故なら、こういった店では暖簾をくぐる直前から「無機質」な気持ちで挑むのがマナーだからである。
旅の途中、駅のホームにある店で無機質・無感情になるのは無理な話だ。
「とりあえず何か食べたい」と、はやる気持ちは抑えようが無く、ドアが閉まる10秒前までキオスクを物色しながら、気が付けば片手にハイチュウを持ってた人だって少なくないだろう。
都こんぶに至っては、「普段は絶対に食べない旅のお供ランキング」で見事40年連続No.1に輝いている(←知らんけど)。それだけ気持ちのスパイスという物は重要なのだ。
さて、無機質・無感情の表情で暖簾をくぐると、食券自販機の一番安い「かけ」に目が行く。
大阪なら平均して200円というところか。しかし、そこに固執するのは小遣い月給制のマスオさんだけ。私共「ワンランク上」の中流階級に位置する者としては、最低でもキツネ、最高では天ぷら辺りをチョイスしたい。従って、中流の中でも最高にランクされている私は「天ぷらソバ」のボタンを何食わぬ顔をしながら押すのである。
仮に、間違って「うどん」の方を押してしまっても訂正するのはマナー違反だ。その場合は諦めて、「うどんが食べたかった顔」を食べる直前に無理矢理作る。これが中流階級のしきたり、山で言うところの掟である。
中のおばちゃんに食券を手渡しする時も必ず無機質・無感情。間違っても「お願いします!」などと騒ぎ立ててはならない。
おばちゃん達は忙しいのだ。おばちゃん達は客の顔など見ている暇は無い。「お冷や下さい」なんて口走った日には長靴が飛んで来たって文句は言えない。邪魔をしてはいけないのである。これが客とおばちゃんとの正しい連係プレーであり、場に相応しい信頼関係の構築と言える。
天ぷらソバと一口に言っても、店によってそれは大きく異なる。
「天ぷら」と呼びつつ「かき揚げ」が乗ってたり、今回の様に海老が一本はめ込まれた様な「化石型」も存在する。
この化石型天ぷらの場合は少々厄介だ。
特に、後乗せサクサク方式が好みの人はこれでも構わないとは思う(サクサクじゃなくガリガリだが)。
しかし、私の様な「先漬け込み衣ドロドロ方式」が好みの人だとこうするしかないだろう。
この状態で先に少しずつ麺を食べ、〆の「衣雑炊」の作成に入る。
ここでも忘れてはいけないのが無機質・無感情・無表情で、天ぷらの上にソバを乗せる時に溜め息を一つ吐くと尚良し。
実際のサイズが露わになった海老が、何とも言えずセクシーだ。
が、ここで海老を食べてしまうと尻尾のやり場に困るため、先に衣雑炊から頂くのがスマートな食べ方だと私は思う。
刻み葱一つ残さず、丼の中央に想い出の一品をさりげなくあしらう。
気管に引っ掛かった葱が咳と共に出て来るのが一番多いのがこの瞬間だが、その葱は絶対に残さない様にしたい。
最後に残すのは、あくまでも尻尾だけにするのが大人の嗜みだ。
マナーを守って優雅な昼食を。
ご静聴、ありがとうございました。