「愛は勝つ」棚橋弘至 逆転人生の法則〜「全力で生きる技術」おすすめポイント10コ〜 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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恒例企画「プロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コ」シリーズ30回目です。このシリーズはライターの池田園子さんが以前、「旅とプロレス 小倉でしてきた活動10コ」という記事を書かれていまして、池田さんがこの記事の書き方の参考にしたのがはあちゅうさんの「旅で私がした10のことシリーズ」という記事。つまり、このシリーズはサンプリングのサンプリング。私がおすすめプロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コをご紹介したいと思います。

この企画は単行本「インディペンデント・ブルース」発売以降、色々と試行錯誤してましてブログ運営における新しい基軸となったと思っています。今後もさまざまなプロレス本を読んで知識をインプットしてから、プレゼンという形でアウトプットしていきます。よろしくお願いします!


さて今回記念すべき30回目に、皆さんにご紹介するプロレス本はこちらです。


全力で生きる技術/棚橋弘至【飛鳥新社】






内容紹介

自信がないから頑張れる。
失敗するから成功できる。


低迷を続けていた名門・新日本プロレスを支え抜き、奇跡の復活へ導いた棚橋弘至。
キャリアのあらゆる場面で挫折を味わってきた著者が、「それでも立ち上がるための人生哲学」を熱く語る!


【目次より】
・夢は持たなくていい。夢は変わってもいい
・「期待の自給自足」という方法
・失敗したときがチャンス
・「小さな達成感」を積み上げる
・受け身をとる勇気
・言葉を「無意識」にストックする
・他人からの悪意にどう対処するか
・ひとりぼっちが武器になる
・「ただニコニコしている」作戦
・トレーニングで「疲れない体」をつくる
・中邑真輔なくして棚橋弘至なし
・「スイーツ真壁」は一日にしてならず

内容(「BOOK」データベースより)

自信がないから頑張れる。失敗するから成功できる。新日本プロレスをV字回復に導いた「100年に一人の逸材」が、挫折だらけのキャリアから編み出した方法論を大公開!

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

棚橋/弘至
新日本プロレス所属。1976年11月13日、岐阜県大垣市生まれ。第45代、47代、50代、52代、56代、58代、61代IWGPヘビー級王者。第7代IWGPインターコンチネンタル王者。1998年2月、入門テストに合格し、99年、立命館大学を卒業後、新日本プロレスに入門。同年10月10日、真壁伸也(現・刀義)戦でデビュー。2003年4月23日、初代U‐30王者に。2006年7月17日、IWGPヘビー級王座決定トーナメントを制し、同王座を初戴冠(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)




2015年に飛鳥新社さんから発売されました棚橋弘至選手の著書「全力で生きる技術」をご紹介します。

棚橋選手の本はこのレビュー企画ではこれまで2冊紹介しています。2冊とも本当に素晴らしい本でした。

 

 

 

 

今回取り上げる「全力で生きる技術」は「棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか」(2014年)と「カウント2.9から立ち上がれ」(2015年)の谷間である2015年に出版されています。本当に興味深い本でした。

そこで「全力で生きる技術」のおすすめポイントをなるべくネタバレもあるかもしれませんが、各章の順を追ってプレゼンしていきたいと思います。よろしくお願いします!


★1.文章表現を武器にするプロレスラー・棚橋弘至選手×読みやすい深い文章で伝える編集者・茂田浩司さんのベストタッグが再び! 

棚橋選手といえば、これまで書籍やコラム、ネットメディアでの連載、ブログ記事などあらゆる媒体で書かれてきました。そして自ら文章表現をプロレスを伝える大事なツールのひとつして大切に磨かれている方です。彼にとって文章表現は大きな武器なのです。しかも読む限り、インタビューではなく彼自身が主に執筆していることがなんとなく分かります。

確かにこれまでもプロレスラーで文章表現を得意にされてきた方はいましたが、団体のエース、プロレス界のエースともいえる看板レスラーでここまで文章力で勝負しているのは私は棚橋選手くらいだと思っています。

棚橋選手の文章の特徴。それは媒体によって、書く内容や文体が変わることです。真面目な話からざっくばらんなぶっちゃけ話まで、多岐に渡ります。そしてその文章にはどこか爽やかさがあるのが棚橋選手の文章。時には問題提起をする文章を書く場合もあります。でも棚橋選手の凄いところはきちんと理由付けがしっかりされていて、なぜ自分はこう思うのかということが明確になっています。基本的には論理的なんですが、そこに少しばかりのゆとり、すきもあるんです。読む側に「突っ込ませる」ためのその隙間がまた棚橋選手らしいなと思っています。攻めも受けもきちんとやり切るというスタンスが文章でもされているのが棚橋選手なんです。


そしてこの本の編集を担当されたライターの茂田浩司さんは、「棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか」の編集にも携わっています。茂田さんが絡んだ書籍はどんなジャンルでも分かりやすく深く伝えるというテーマに沿って、読みやすい作品が多いのが特徴です。TAJIRI選手の書籍「プロレスラーは観客に何を見せているのか」の編集担当も茂田さんです。

茂田さんの編集力にも私は注目して読みました。TAJIRI選手の文章はやや独特なんです。クセが強いんです。そこを滑らかにして読みやすい伝わるような編集をされていたんです。棚橋選手の場合は、棚橋選手の特色である爽快な文章がより際立つために編集されているなと感じました。どちらも作品にとって、著者にとって最大限に活きる編集になっているところに茂田さんの凄さがあります。    

このプロレス本のベストタッグチームともいえる二人が再びタッグを組んだ作品が「全力で生きる技術」。そりゃ、面白いはずです。



★2.はじめに

まえがきとなるはじめに。冒頭から棚橋選手は「人生の醍醐味は逆転だ」と書かれています。これは棚橋選手のプロレスやレスラー人生を見ると逆転人生ですよね。あらゆる逆境や苦境、挫折を乗り越えてきた棚橋選手が見つけた「百年に1人の逸材」になるための方法…それは誰でもやれるシンプルなものだそうです。

決して難しい課題ではないという書き方は、割とビジネス本や自己啓発本ではありますね。その打ち出し方を冒頭の段階から出されています。

この本はやはりプロレス本という枠を越えた生き方の指南書になることはすぐに確信しました。 

★3.第1章 目的地を見つける

第1章のタイトルは「目的地を見つける」。この本は各章でいくつかテーマといいますか、表題があるわけですよ。「夢は持たなくてもいい」や「受け身を取る勇気」とか。このひとつの表題で大体は4ページ書かれていて、この表題に沿ったアドバイスやポイントが掲載されています。こうしたほうがいいよ、ここは大切だよとか。

この手法は学校とかでいう参考書の書き方に近いのです。参考書は教科書をより分かりやすくポイントや要点を簡潔に記されています。 これは多分茂田さんの編集なのだと思います。極めて分かりやすいです!この本をプロレスファンだけではなく、世代や性別関係なく多くの皆さんに届いてほしいという気概を感じました。 

印象に残ったのは「全力を積み重ねると壁を壊せる」。それは例え失敗だったとして全力でやった失敗ならば、自分の力が足りないのだと自覚できるから、そこから自分の力を少しずつ伸ばしていくこと、それが積み重なり、挑んだときに成功するということ。これは以前、三沢光晴さんが「前向きな失敗がいつかの成功に繋がる」という話をされていたことがあるのですが、それに似ているように感じました。

また各章のラストにショートコラムが掲載されています。第1章は東日本大震災について。これは必読です!
 


★4.第2章 人間関係を切り抜ける

第2章のテーマは「人間関係を切り抜ける」。主にコミュニケーションの話が多いかなと思います。これ読むと棚橋選手がプロレスラーではなく、ビジネスマンの道を選んだとして成功したでしょうね。営業とか企画開発とか。

他人からの悪意についてどう対処するのか、SNSとどう向き合うのかなど気になるところもあります。他人からの悪意への対処法に関しては棚橋選手かなりご苦労されたのだなと感じました。恐らく「他人からの悪意」というやっかいなものに対して、「なぜ悪意が起こるのか」
の初期段階から研究した上で対処されている印象を受けました。物事へのアプローチ能力は棚橋選手、ずば抜けていますからね。

第2章のショートコラムのテーマは「オカダ・カズチカ選手」。こちらはなかなか興味深い。個人的にはオカダ選手というプロレスラーは棚橋選手が対戦相手として底上げしてきたと思います。そして近年のオカダ選手の話を聞くと所々に棚橋選手イズムを感じてしまうんです。プロレス界を背負う覚悟と責任感といいますか。


★5.第3章 やる気を出す

第3章のテーマは「やる気を出す」。実はこの本のキャッチコピーのひとつに「やる気の出し方、教えます」なんです。本当にプロレス本を越えて自己啓発本になってまいりました!
 
棚橋選手は自身を支えている二つのモチベーションを教えてくれました。ひとつは幸せのハードルを下げることで得られるモチベーション、もうひとつは自分より頑張っている人を見て得られるモチベーション。どこまでもポジティブシンキング。特に幸せのハードルを下げるというのは、要は自分自身の感じ方を軌道修正することなんですよね。

また「こんな人間になりたいと思い続ける」という項目では、「棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか」でも綴られていますが、想像すること、理想像を描くことの大切さを説いています。

第3章のショートコラムのテーマは「中邑真輔選手」。この本が執筆された2015年はまだ中邑選手は新日本に在籍していました(2016年に中邑選手は新日本を退団し、WWE入団)。この内容は是非読んでいただきご確認いただければと思います。



★6.第4章 トレーニングする

第4章のテーマは「トレーニングする」。トレーニングや肉体作りの知識は棚橋選手ってプロレス界でもトップクラスです。だからその発言には説得力があります。

この章で印象に残ったのはジャイアント・バーナードさんの「プロレスは耳でしろ」、元レフェリーのタイガー服部さんの「もっとカーキー(生意気なやつ)になれよ!」というアドバイスでした。

それから「無意識の引き出しを充実させておく」 というのも面白かったです。

第4章のショートコラムのテーマは「AJスタイルズ選手」。中邑選手同様にAJ選手もこの本が出た当時は新日本に在籍していました。棚橋選手のAJリスペクトというのは半端ないと感じました。



★7.第5章 「うまくいかない時間」を力に変える

第5章のテーマは「うまくいかない時間を力に変える」。うまくいかないというのはネガティブですよね、それをポジティブシンキングで力にするというわけなのですが、ここはまた棚橋選手の暗黒期の新日本を復活に導いた原動力とかになると思うんです。

ここはめちゃくちゃ印象に残ったのは真壁刀義選手との会話です。これ読んで笑ってしまいましたが、どこか感動してしまうんです。真壁選手も棚橋選手と同様に暗黒期の新日本を支えてきた功労者ですから。そこは棚橋選手と真壁選手は同志なのかもしれませんね。

「どんな経験も無駄ではない」なんて嬉しいですよね。自分の人生を振り返ったときに果たしてこんなことは経験しなくてもよかったのではと考えてしまうことがあったりします。それは私に限らずですが。

これは刑事ドラマ「踊る大捜査線」で主人公の青島俊作(織田裕二)が、所属する湾岸署で次々と部署換えになってしまいにはぬいぐるみを被る仕事をしてしまうんです。腐っていた青島に尊敬する老刑事の和久平八郎(いかりや長介)が「無駄なことも必要なんだよ」と励ますことがあるんです。あれを思い出しましたね。

そして棚橋選手は無駄な経験や失敗も今後の話のネタになるのだから、大丈夫と説くのです。さすが棚橋選手です!

第5章のショートコラムのテーマは「内藤哲也選手」。実はこの本を出した2015年はまだロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンを立ち上げた頃。コラムを読むと恐らく執筆した時はまだ立ち上げていなかったと思われます。棚橋選手は内藤選手に熱きエールを送っていました。そして、この言葉が心に響きました。

「我慢して続けていくと、あるとき大逆転のチャンスがやってくるのがプロレス」

そして今や内藤選手は制御不能のカリスマ、逆転の内藤哲也と呼ばれるようになっています。棚橋選手のエールに実力で応えたのです。



★8.第6章 こだわる

この本のラストを飾る第6章は「こだわる」。昔、週刊プロレスで藤本かずまささんがまだ全日本プロレス時代の高山善廣選手にインタビューした記事があって、高山選手が「こだわりという言葉は嫌い」という趣旨の発言をしたことがあって、そこがかなり印象に残ったことがあったんですが、棚橋選手が「こだわり」の重要性を説いているんです。棚橋選手は何にこだわっているのでしょうか。

主人公であること、ファッション、おもしろくなりたいなど、棚橋選手ならではのこだわりがあることがわかりました。特におもしろくなりたいという項目から棚橋選手がかなりお笑い芸人さんにリスペクトを感じました。お笑い芸人さんの話術から何かヒントを得たり、おもしろくなるための勉強をしている棚橋選手は進化を止めないんです。

そうなんです。これは棚橋選手だけではありませんが、メジャーやインディー関係なく年齢や性別も関係なくトップレスラーの方は基本的に貪欲なのです。

プロレスへの恩返しという項目でダイナマイト・キッドとショーン・マイケルズという二人の好きなレスラーについて語っています。これはプロレスファンは必見!棚橋選手のHBKへの愛を感じました。

そして棚橋選手は表題の中にある全力という言葉についてこのように定義しています。

「激しく動き回ることだけが全力じゃない。目の前にある課題に、しっかり集中して、丁寧に向き合うこと。それをずっと続けていく志の高さが全力なのだ」

この本の全般的に出てくる「積み重ねる」「ずっと続ける」という継続力こそが棚橋選手流の全力かもしれません。



★9.おわりに

あとがきで棚橋選手は、2014年に出した「棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか」を出したときにオールドファンやOBからお叱りの声を受けるかもしれないと覚悟していたことを明かしています。賛否両論を呼ぶ本になると。しかし、否の声は少なくこの本の反響が大きく、棚橋選手の評価は上がりました。

「少しでも『自分も頑張りたい』と思っている人たちの背中を押すことができたら、こんなに嬉しいことはない」

棚橋選手はプロレスというジャンルの素晴らしさを伝導しつつ、みんなを応援しているのかなと。それを使命にしている。そして、壮大な使命を持つことで生きるモチベーションにしている。やはりこの人は凄いなと感心しましたね。

★10.棚橋弘至選手が考える逆転勝ち人生の法則

この「全力で生きる技術」を読んで冒頭で書かれていた「人生の醍醐味は逆転」という文章があるのですが、これをどうやって実践すれば可能になるのかというのを全般的に棚橋選手はあらゆる角度からプレゼンしているのだなと感じました。最初にひとつの結論を出しておいて、そこから導線を貼るように、ハイパーリンクして棚橋選手は色々なテーマで論じていくんですね。そして最終的には表題の「全力で生きる技術」を磨いていくことが人生の逆転勝ちに繋がる法則なのではないかなと。

実は鈴木秀樹選手の著書「捻くれ者の生き抜き方」も冒頭でひとつの結論を出してから、紐付きするようにあらゆる角度からその理由付けをしているという印象を受けました。鈴木選手の本も生き方指南書でしたので、最初に結論を書いて後から理由付けというやり方というのは、そういう自己啓発本では一種のトレンドなのかもしれませんね。

ちなみに鈴木選手は棚橋選手について著書でおもしろいことを言っているんです。

「棚橋さんが起こした改革については、リアルタイムで僕がIGFの時で、最初は『僕の好きだった新日本プロレスを壊している』と感じていました。ただずっと見ているうちに『意外に古臭いことをやっているな』と思うようになりました。雰囲気があんな感じで伝わりづらいのかもしれないですけど、試合はどちらかというと古いオーソドックスで、いい意味でベタ。これは自分がフリーになってからわかったことですね」

鈴木選手は、よく見ていると感じました。まだ新日本参戦経験はありませんが、ここまで洞察しているわけですから。これ、試合だけではなく棚橋選手の考え方も本当はオーソドックスなんですよ。ベタといいますか。

実は棚橋選手も自分の考え方はスマートな平成世代にはとうてい受け入れられないと考えていたといいます。

そしてよく考えると棚橋選手のアドバイスも割とシンプルなものが多いんです。「シンプル・イズ・ベスト」。だがこれを積み重ねるという膨大な作業をすることで得られる対価なんですよ。これがなかなか難しい。そこで棚橋選手は分かりやすく優しく伝えることで積み重ねの啓蒙をされているんです。


そういえばKANさんの名曲「愛は勝つ」でこんな詩があります。

「どんなに困難で挫けそうでも信じることさ、必ず最後に愛は勝つ!」

これなんて棚橋選手の人生じゃないですか。そして自分を信じること、努力を積み重ねることが最後に勝つという逆転人生という栄光が待っているわけですね!



とにかく色々と思考できた素晴らしい本でした!棚橋選手語録が全開です!チェックのほどよろしくお願いいたします!

ちなみに棚橋選手のレスラー人生は現在進行形。時には苦戦しながらも、さすがエースという逆襲を果たしながら、新日本プロレスの最前線で全力で生きています!今後も彼から目が離せません!



そして、この本の編集者・茂田浩司さんがブログでこのレビュー記事を取り上げていただきました。





茂田さん、ありがとうございます!次回作、読ませていただこうと思っています!期待しています!