斎藤文彦の世界一受けてみたいプロレス授業〜「プロレス入門」おすすめポイント10コ〜 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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恒例企画「プロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コ」シリーズ29回目です。このシリーズはライターの池田園子さんが以前、「旅とプロレス 小倉でしてきた活動10コ」という記事を書かれていまして、池田さんがこの記事の書き方の参考にしたのがはあちゅうさんの「旅で私がした10のことシリーズ」という記事。つまり、このシリーズはサンプリングのサンプリング。私がおすすめプロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コをご紹介したいと思います。

今回ご紹介するプロレス本はこちらです。

内容紹介

〘神がみと伝説の男たちのヒストリー〙
鉄人テーズ、神様ゴッチ、人間風車ロビンソン、魔王デストロイヤー、
呪術師ブッチャー、ファンク兄弟、ハンセン、ホーガン・・・・・・

日米プロレスの起源から現代まで
150年以上にわたり幾多のレスラーが紡いだ叙事詩を
レジェンドたちの生の声とともに克明に綴る
「プロレス史」決定版

キャリア35年のプロレスライター・フミ・サイトーが、
幾多の取材、膨大な資料、レスラーへの貴重なインタビューをもとに記した
「プロレス入門—歴史編」


序章 プロレスとは何か?
第1章 日本人とプロレス
第2章 プロレスの神がみ
第3章 伝説の男たち
第4章 プロレス世界史

内容(「BOOK」データベースより)

日米プロレスの起源から現代まで150年以上にわたり幾多のレスラーが紡いだ叙事詩をレジェンドたちの生の声とともに克明に綴る「プロレス史」決定版。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

斎藤/文彦

1962年1月1日、東京都杉並区生まれ。プロレス・ライター、コラムニスト、編集者、プロレス解説者、大学講師(スポーツ社会学、サブカルチャー論、メディア文化論)。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士後期課程満期退学。在米中の1981年よりプロレスを取材。1983年の創刊時から『週刊プロレス』に記者、編集としてかかわる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) 



今回は2016年にビジネス社さんより発売されましたプロレスライター斎藤文彦さんの著書「プロレス入門〜神がみと伝説の男たちのヒストリー〜」を紹介させていただきます。実に700ページ超えの作品。ボリュームが膨大です!

この本について、なるべくネタバレ少なめに各章の順を追ってプレゼンします!よろしくお願いいたします!


★1.プロレス評論家・斎藤文彦さんとは?

この本の著者である斎藤文彦さんはプロレス評論家、プロレスライターとして活躍されています。通称はフミ・サイトー。長年週刊プロレスで記者、編集で携わり、コラム「ボーイズはボーイズ」は人気連載でした。WWE(当時WWF)やWCW、ECWの日本語映像版VHSの制作や解説も担当されました。週刊プロレスで外国人レスラーの取材となると斎藤さんが担当している印象が強かったです。また、スポーツ社会学、メディア文化論専攻の大学講師もされています。

そんな斎藤さんはプロレス本も数多く執筆されています。「テイキング・バンプ」、「みんなのプロレス」、「レジェンド100」、「DECADE」といった斎藤さんの書籍は私の愛読書です。

私がプロレスの記事を書くとき、特にレスラー人生を考察するコラム(俺達のプロレスラーDXなど)とか書くときは斎藤さんの文章にはかなり影響を受けました。

斎藤さんの文章は、オシャレなんですよ。例えばかなりヘビィーな内容だったとしても斎藤さんのフィルターにかかると中和されるんです。金沢克彦さんや小佐野景浩さん、ターザン山本さん、鈴木健といったプロレスライターさんがAMラジオのDJならば、斎藤さんはFMラジオのDJなんですよ。それくらい既存のプロレスライターさんとは違う世界観を持っている方です。あと、斎藤さんはアメリカ留学経験もあり英語も流ちょうなんですが、日本語と英語を交えた文章が絶妙なんですよね。

そこに斎藤さんはプロレスの歴史も研究されています。独特の文章世界観に、プロレスへの歴史探求心。この二つの武器が最大限に活かされた作品がこちらの「プロレス入門」なのです。



★2.はじめに

まず斎藤さんはこの本を「プロレスを知るための入門書」と意味付けしています。そしてはじめにの中でも気になった素晴らしい文章があります。

「僕の中ではプロレスは観るものであると同時に読むものでもあった。観ると読むがずっと同時進行しつづけると、それは自然と考えることにつながってくる。プロレスについて観て考え、読んで考える。観ることだけではわからないときは読んで考え、読むことだけではわからないときは観て考える。プロレスと仲よくしていくというのは、そういうことではないだろうか」

活字とテレビとVHSビデオからプロレスに接してきた私にとってはこの文章はどストライクで、「そうだよな、そうだったよな」と頷いてしまいました。

会場という現場や映像でプロレスを観て、雑誌や本でプロレスを読んで、そこからプロレスについて考えることで、私は「withプロレス」という生活スタイルができましたから。

もちろんライトユーザーの方が読者の場合もあります。そこは斎藤さん、ここから分かりやすく深くプロレスを文章表現していくのです。


★3.序章 プロレスとは何か?

序章では斎藤さんはプロレスについての説明をされています。そして「プロレスとは何か?」というテーマは永遠のテーマであると論じています。ここが実に深いです。また、大まかなルール説明も序章ではされています。

そしてプロレスにつきまとう問題として、八百長や真剣勝負についても取り上げています。

ロラン・バルトの「レッスルする世界」をクローズアップしたり、プロレスはアマレスより古い事実、プロレスの隠語や業界用語について斎藤さんワールド全開です。  

ちなみにアメリカではフライング・ニールキックは、スピニング・ヒールキック(回転カカト蹴り)と呼ばれています。こういった日本でこの技はアメリカではこの名称で呼ばれていますというくだりは日本プロレス界では元々は斎藤さん発信が多かったように思います。

逆さ押さえ込みはアメリカではバックスライド、ブレーンバスターはアメリカでは高速の場合、スナップスープレックス、滞空時間が長い場合はバーディカルスープレックス、雪崩式ブレーンバスターはアメリカではスーパープレックス、ラリアットはアメリカではクローズライン…ここら辺りは斎藤さんの文章や解説から私は知りました。

だから斎藤さんが持つ説明力の凄まじさを感じました。

  
★4.第1章 日本人とプロレス

さて第1章のテーマは「日本人とプロレス」。日本人とプロレスとの関わりについて歴史的に掘り下げています。まず最古の日本人プロレスラーと言われているソラキチ・マツダが登場します。このソラキチ・マツダだけで10ページに渡り綴られています。

個人的にはアントニオ猪木さんと猪木チルドレンの断絶の歴史という回は印象に残っています。これ読むと多団体時代を生む大きなきっかけや要因はあらゆる時代においての新日本プロレスの分裂があったからだということが分かります。UWFも新日本プロレスから派生した団体ですからね。




★5.第2章 プロレスの神がみ

第2章では、ルー・テーズ、カール・ゴッチ、ビル・ロビンソン、ダニー・ホッジという四人のレジェンドレスラーをプロレスの神がみとして取り上げています。

これは伝記ものを読んでいる感覚になりました。特に印象に残ったのはダニー・ホッジ。やっぱりこんなプロレスラーは二度と現れないでしょうね。天才アスリートですよね。アマレスでオリンピックに出場経験があり、ボクシングでゴールデングラブ賞を獲得。アマチュアでの最強のエリートだったが彼はプロレス転向後に、NWA世界ジュニアヘビー級王者として長年防衛してきました。近年ではUWFインターナショナルがフィットネスとして招聘して、プロレスリング世界ヘビー級タイトルマッチとかで立会人を務めていましたね。聞くところによると82歳で来日した際に得意の握力でのリンゴ潰しをやったそうです(笑)いやはや凄いです!





★6.第3章 伝説の男たち

第3章は「伝説の男たち」。ここではスタン・ハンセン、ブルーザー・ブロディ、ザ・ファンクス、ザ・デストロイヤー、アブドーラ・ザ・ブッチャー、タイガー・ジェット・シン、ロード・ウォリアーズ、バーン・ガニアといった外国人レジェンドレスラーが登場します!

外国人レスラーをテーマにした記事を書かせると斎藤さんは今なお日本一だと思っています。この本を読んでも改めてそう思いました。本当にさすがです。
 
この章で印象に残ったのはテリー・ファンクの「社会が求めることがプロレスのなかにある」。テリーは本当にいいこと言いますよね。パンチラインメーカーですよ。



★7.第4章 プロレス世界史

ここから終盤になります。プロレス世界史という壮大なテーマ。読んでいてまるで、高校の世界史の授業を受けているかのような感覚になりました。  

プロレスの源流、プロフェッショナル・レスリング第一期黄金時代、第二次世界大戦後のレスリング・ビジネス、地方分権テリトリー時代、ローカル団体システムの終焉〜2大メジャーリーグ時代、WWEグローバリゼーションと大きく6節を分けて、あらゆる角度から斎藤さんが世界のプロレス(主にアメリカ)を論じています。

ちなみにプロレス最古のチャンピオンとしてカーネル・マクラフリンというレスラーを取り上げています。この本で初めて名前も知りました。どんなタイトルを獲得したのかというと、アメリカン・カラー・アンド・エルボー王座というそうです。カラー・アンド・エルボーはヨーロッパから持ち込まれたアメリカン・プロレスの原型ともいわれているスタイル。

カラー・アンド・エルボーは、ロックアップのような組み方だそうです。プロレスってどれだけ見てもまだまだ勉強することが多いことをこの本は教えてくれています。

ちなみに個人的にはニューヨークの帝王ブルーノ・サンマルチノが犬猿の仲だったビンス・マクマホン率いるWWEの殿堂入りする奇跡を取り上げたコラムはよかったです。もうね、トリプルHの執念を感じましたね。


この本は、19世紀中期から21世紀までの世界のプロレスが詳しく学べる教科書ですよ!

★8.おわりに

この本もラストとなるあとがき。
斎藤さんはまたも印象に残る言葉を残しています。  

「日本でもアメリカでもプロレスは現在進行形のスポーツ文化である。プロレスは戦後、アメリカから輸入されたエンターテイメントだが、プロレスというジャンルは日本と日本人のなかにしっかりと根をおろし、メディアとオーディエンスがいっしょにつくるメディアスポーツとして独自の発展をとげてきた

これなんて、プロレス総括に相応しい論評だと思いましたよ。さすがです!  



★9.人名索引(本文に登場した人物)

この本では各章各節で取り上げた人名索引というコーナーがあり、レスラーや関係者の人物名のオンパレードなんです。これ、めちゃくちゃ面白いんです。

個人的には気になった人名が見つかったから、その人が掲載されたページを読んでもらい、また気になったらネットとかで調べていただき、知識としてゲットしていただければこの項目のいい活用法になるのではないでしょうか。


★10.プロレスはつながっている

この本のラストでアット・ジ・エンド・オブ・ザ・デー(ようするに、結論として)やナンバーズ・ドント・クライ(数字はウソをつかない)といったアメリカにおける日常生活のトレンドフレーズもさり気なく紹介した上で、このような文章を書かれています。

「プロレスはやっぱり数字だけでは理解できない。プロレスの歴史をつくってきたのはプロレスの神がみであり、伝説の男たちである。プロレス史の点と点とが交差し合い、からまり合って、今のプロレスにちゃんとつながっている」

本当にその通りなんですよね。プロレスは点と点が線で繋がる星座みたいなもんなんですよね。過去の歴史が今のトレンドに繋がり、今のトレンドが未来に向けたヒントになるわけですよ。

そう考えるとプロレスは人生の縮図、社会をリングというフィールドにパッケージされて提供されているエンターテイメントなんですよね。

そんなプロレスという奥深きジャンルを文章表現で、教壇に立っていただき講義してくださったのが斎藤さんだったのかなと思います。プロレスファンからすると「世界一受けてみたいプロレス授業」なのかもしれません。好きな科目の授業って受けるのは皆さん、楽しかったと思うんです。そのワクワク感をこの「プロレス入門」では味わえます!


いやはや、この本は、プロレスマニアもプロレス初心者もチェックしておきましょう!


ちなみに斎藤さんは「プロレス入門Ⅱ」を出されていますが、こちらもいずれレビュー記事を書く予定です。お楽しみに!




そして、この記事を更新後に著者の斎藤文彦さんからこのような反応がありました。
  




本当に嬉しいです!憧れのライターさんから反応ですしね(笑)

プロレスブログ運営して、イベントやって、電子書籍や単行本を出して、自分なりのプロレス普及活動をやってきて本当に良かったです。少しだけかもしれませんが、報われたのかもしれません。そう感じました。

斎藤さん、本当にありがとうございました!





斎藤さんの文章や解説で育ったプロレスファンは本当に多いんです。私もそのひとりです!