何を見て、思い出したのか忘れてしまったけど、
たぶん、テレビか何かを見ていて、
あっ!と思った。
この名前、私が通っていた予備校で、
私を待ち伏せして声をかけてくれた男の子の下の名前だ。
上の名前は特徴的だったので忘れてなかったけど、下の名前は忘れていて、どうしているかなぁ…と思っていたのだ。
女子高育ちで、自分に自信の無かった私は、いきなりの高い壁(精神的にも、また物理的にも。(男の子達は皆背が高くなっていて、黒板が見えづらくなっていた。))に怖じ気づき、下を向いて隅っこを歩いていた。
そんな私に
こんにちは。
と、声をかけてきた。
◯◯クラスの△△と言います。
…いきなりで、頷く事しかできなかった。
戸惑う私を彼の友達達が、
こんな娘だったんだ~(笑)
と覗き込みながら通りすぎて行く。
俄には事態が飲み込めなかった。
次の日も彼は声をかけてきた。
…でも、私はどうして良いか解らなかった。
昨日まで、ずっと下を向いて隅っこを歩いていたのである。
そんな私にも彼は笑顔で、そっと離れて行ってくれたように記憶している。
嫌な思いは一つもしなかった。
ほどなくして、彼は別の女の子と付き合いだした。
彼は、理系のクラスでいつもトップで、名前が貼り出されていた。
頭が良くて、女の子ともスマートに付き合って、すごいなぁ…と思っていたっけ。
彼の名前を検索してみると、写真が出てきた。
彼はトップ私大の理工学部を出て、一部上場企業の専務になっていた。
細くて優しそうなタレ目は一層優しそうに下がり
スッと通った鼻筋と、ふっくらした唇はそのままだった。
髪の毛は黒々としていて、痩せた体型も変わらない。
今の私なら、あの時の彼と付き合えるのにな。
ベッドに横たわり、彼の顔を見上げ、
首に手を回してあのふっくらした唇と唇をあわせたなら
どんなだったろう。
彼は私の事など覚えてはいないだろうが
まさか昔声をかけた女が
今こんな事を考えているなんて
彼は知るよしも無いのだろう。